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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
~First Dead~
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屋上=お誘い

実はパソコンではなく、スマホでこれを書いていたりします。ベッドに寝転がって小説書くのが日課になっていたりするんですね・・・・・

 一時限目、二時限目と、やたら長く感じた授業を淡々とこなしていき、ようやく六時限目が終了して帰りのHRとなった。しかし呼び出しの時間まで、大体一時間半くらいはまだ暇が開く。はてさてどのようにして過ごすべきか。


 いや、そんなことの前にだ。呼び出し先の場所に行く前に、やらなきゃいけないことが一つだけある。あの引っ付き虫の咲夜を引き離すことだ。


 いつものように帰りのHRが終わったら咲夜は教室にやってくるだろう。俺と一緒に帰るために。しかしながら今日はそうもいかないだろう。もしかしたら俺は告白されることになるかもしれない可能性があるのに、咲夜を一緒に連れていけばどうなるか……。暴走した勢いで相手を傷付ける可能性だってないこともない……と思う。


 まずはどうにかして咲夜を説得して先に帰らせなければ。でも説得なんてせずに、俺がHR終了後にマッハで教室から出ていけば済む話……じゃないか。逃げたところで結局は無駄になるだろう。犯罪の領域として、あいつは俺の体内に発信器を取り付けやがったのだから。無駄な知恵だけはある奴だ全く。


 先生の報告を適当に聞き流している内に帰りのHRが終了して、一応俺は早く席を立ち上がって教室から出て行こうとするが……案の定、教室のドアを開けた瞬間咲夜は既にスタンバイしていた。


「あっ、白奈。今日も一緒に帰ろ~」


 他の奴らには絶対に向けることはないニコニコ笑顔を浮かべる咲夜。さて、鉢合わせてしまったからには仕方無い。どうにか適当に誤魔化さないと。


「あぁ〜……咲夜? 実は今日は用事があって残んなきゃいけねーんだよ俺」


「そーなの? なら私待ってるよ」


 だろうな、そう来ると思った。でも悪いがご退場してくれないと都合が悪いんだよ咲夜さん。


「いや、夜遅くまできることだから今日は先に帰っててくれ」


「それって何時くらいになるの?」


「えーと……夜の7時くらい?」


「なら全然大丈夫だよ。適当に時間潰して待ってるよ」


 中々しぶといなこの女も。大人しく先に帰ってくれても良いじゃねーかもう。


「いやでも最近夜は物騒だって言うし、親御さんも心配するだろ」


「変質者なんて逆にぶっ殺せば良いし。私一人暮らしだし」



 あらまぁ頼もしい娘だこと……なんて言ってる場合じゃない。つーかぶっ殺すなんて言葉、女の子が使っちゃいけませんよ。一人暮らしのことに関しては何も言わんが。


 実は咲夜は、親とは離れて一人暮らしをしている。理由は、自宅からだと俺の家に行くのが大変だから。他人にとっては『そんな理由?』と呆れられる話である。


 最初は俺のアパートの一室に引っ越したいと思っていた咲夜だったが、生憎俺の住んでいるアパートは満室なのでそれは叶わなかった。それでも咲夜は一人暮らしすることを諦めようとせず、近くにあるもう一つのアパートに引っ越していた。いやはやわざわざご苦労なことだ。


 と言っても、咲夜が親と離れて一人暮らしをしている理由は、別に咲夜の我が儘ではないのだが……。


 さて、ここまで言っても駄目なら、使いたくない奥の手を使わないといけないのだろう。正直凄い嫌だ。もう滅茶苦茶なくらいに嫌だ。でも今回ばかりは止むを得ない。


「んん……そうだ咲夜。今晩良かったら夕食作ってくんねーかな?」


 瞳の奥をキラリンと輝かせて反応する。分かりやすい奴だ。


「何だか今日は飯を作るの面倒でな。だから先に俺の家に帰って準備していてくれねーかな……なんて? 理不尽にも合鍵持ってるしなお前」


「お……お……」


 何を言うつもりだ? まぁ大体どういった系統の言語かは想像付くが。


「俺の嫁宣言来たぁ!! 白奈から俺の嫁宣言頂いちゃったぁ!! は、早く市役所行って婚姻届け貰って来ないと駄目だね!!」


「話を飛躍すんじゃねぇ。でも今日の夕食は頼む」


「分かった任せてよ! メニューは刺身の女体盛りにデザートの私で良いよね?」


「デザートにナイフとフォークは使って良いんだよなそれ?」


「ナイフとフォーク……ハァハァ……白奈私をそれでどんな風に私を食べるつもりなのかな? ハァハァ……まだ実食前なのに感じちゃうよ……」


 物凄く殴りたいが我慢だ。脳天に一発叩き込みたいが我慢だ。


「頼むから普通のメニューにして欲しいんだが」


「しょうがないなぁ~。なら白飯と味噌汁の女体盛りにするね」


「女体盛りを止めろっつってんだよ! 何だよ味噌汁の女体盛りって!? 火傷するだろ!」


「え~、私の中じゃ普通のメニューなのに。ドリンク飲み放題なんだよ? 母にゅ……ミルク限定だけど」


「大概にしないと一週間口聞かねーぞ」


「わわわっ!? 分かった分かったよ! なら適当にバランス考えたメニュー作っておくからね! それじゃ先に帰ってるから早く帰ってきてね!」


 ようやく説得に成功し、慌てながらも見るからにご機嫌な様子で俺の肩を何度か叩いて去っていった。こんな時がたまにあるから冷蔵庫には大体食材を常時揃えてあるため、料理云々前の心配をする必要はない。


 とにかくこれで咲夜の件は片付いただろう。後は十七時になるまで適当に時間を過ごすだけ。とりあえず購買部にカフェオレでも買いに行こう。


 そうして俺は、またもや背中にクラス連中からの視線(嫉妬込)を受けつつ、教室を出て購買部に向かった。




~※~




 現在十六時五十分。外はすっかり夕日空に変わってしまっている。にしても、時間というのは案外早く過ぎるものなんだなと実感した。購買部にコーヒーを買いに行った際に、十円で知恵の輪を限定販売していてくれたのが項を成し遂げてくれたのだ。


 ちなみに、全部買って全部解いてやった。陸上だけでなく、IQも以外と優秀だったりする俺である。


 そして俺は今、学校の屋上へと足を運ぶために階段を登っている最中だ。つまり、手紙で待ってますと送ってきた二人の内、雫の方を選んだというわけだ。正直、月の待ち合わせ場所が体育倉庫というのが怪しすぎて、行くのが躊躇われたのである。


 だって体育倉庫で待ち合わせって……何をされるか大体検討が付くだろう? 漫画とかでもよく見るし。こんなさりげない一日に、颯爽と貞操を奪われてたまるか。と言っても、そういうことになる保証は何処にも無いのだが。


 一応後で月には謝っておこう。そして待ち合わせ場所を今度からは考えなさいと追求もしておこう。


 少しして階段を登り切ると、屋上の扉の前までやって来た。幸い、この学校は屋上に来るの禁止という校則がないので、安心してここに来ることができる。まだ少し時間があるが、一足先に待たせて貰おう。


 俺は目の前の扉を開いて、屋上に足を運んだ。


 扉を開けた瞬間、高いところだからか少し強めの風が頬を撫でる。空に少しは近いということもあって、景色が中々どうして良いものか。


「あっ……」


 俺が先だと思っていたのだが、もう既に雫が待機していた。棒立ちしてネット越しにグラウンドを眺めているようだ。


 ……いや違った。見ているわけじゃない。何かごにょごにょと独り言を呟いているようだ。何だかお経のようにも聞こえて結構シュールだ。思わず頬が綻んでしまう。


「雫」


「ひゃいっ!? え!? え!? 白奈さん!?」


 当然俺の存在に気付いていない状態だったから、予想通り面白い反応をして身体をビクンッと跳ねさせていた。仕草から何からまでホント可愛いな。


「そ、そのー……えーと……あぅぅ……」


 両手をバタバタと動かして何か言いたげな素振りを見せる雫。黙って見ているのもまた一興だが、意地悪していたらネガティブモードに成りかねないので、取り敢えずまずは落ち着かせることにする。


「雫。一旦深呼吸しようか」


「え!? は、はい! はぁ~……すぅ~……ゴホゴホッ!?」


「順序逆だってば」


「うぅ……すみませんすみません……。地球の酸素を無駄遣いしてすみません……?これからはご迷惑掛けないように二酸化炭素のみで呼吸する方法を身に付けます……」


「しなくていいからね? そこまでしてエコに尽くす必要はないからね?」


「そんな……ならもういっそのこと死んでお詫びを……」


「だからネガティブ止めなさいって! 別に俺怒ってないし、気にしてないから落ち着こうね?」


「は、はい……。ふわぁぁ……白奈さんはやっぱり優しいです」


 ようやく我に返ってくれたようで、ふんわりした笑顔を浮かべてくれる。滅茶苦茶抱き締めたい今ここで。いっそ食べちゃいたいくらいだ。いや性癖的な意味ではなく。


「そんで? 手紙読んでここに来て見たんだが……」


「あっ……こ、この度は私なんかのために時間を割いて来てくれてありがとうございます! ご迷惑……でしたよね。やっぱりそうで――」


「ストップストップ。迷惑じゃないし大丈夫だから。少しは俺を信用してくれ」


「も、勿論白奈さんのことは誰よりも信用してます!」


「あ、あぁそうなの? なら良いんだけど……」


何だか一向に話が進む様子がない。それに話が途切れて沈黙になってしまったし。雫は何か言いたそうにしているのだが・・・まぁここは気長に待つことにしよう。雫が自ら進んで申し込んできたことなのだ。事の成り行きも雫に委ねるべきだろう。


「・・・」


「・・・」


「・・・・・」


「・・・・・」


「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・」


「「・・・・・・・・・・」」


何これしんどいっ!! 何これ何の時間これ!? 俺呼び出されてここに来たんだよね? 頑張ってくれよ雫、勇気を出してさぁ!


「・・・・・あ・・・あの!・・・白奈さん!」


「な、何だ?」


良し良いぞ雫ちゃん! そのままそのまま! そのままの勢いで言うべきことを言ってしまえ! 何か親の心境になってきているが今は気にしない!


「そ、その! 次の休日の日に何か予定は入ってますか?」


「んや、全然フリーな俺ですが?」


「そ、そうですか・・・ぅぅ・・・・・」


いけ! 押せ! そして羽ばたけ雫ちゃん!


「そ、その・・・白奈さんが良かったらなんですけど!」


「うん」


告白じゃなかったことに関してはちょっぴり残念だけど、その後に続く言葉は想像できる。大丈夫だ、俺が断るという選択肢はないぞ!


「わ、わわっ私とお出掛けに行きませんがっ!?」


顔面真っ赤っ赤の雫が更に真っ赤っ赤になってしまう。最後に思いっきり噛んでしまったからに他ならない。でも良く頑張ったぞ雫。


「うん良いぞ」


「やっぱりそうですよね私なんかと・・・・・えぇ!? ホントですか!?」


想定外だったのか身を乗り出して仰天する雫。何もそこまで驚かなくても・・・


「ホントですよ」


「そ、そんな・・・こ、これはきっと夢です・・・夢見てないで早く目を覚まさないと・・・で、でも欲を言えばもう少し見ていたいです・・・」


「いや現実だから好きなだけ見れば良いって」


そう言って雫の両頬を軽く摘まんで引っ張ってやる。「ほんほでふ!(ホントです!)」と、夢じゃないことに気付いてくれると、何故か俺に背を向け自分の両頬に触れる。



「や、やったぁ・・・ちゃんと言えたし良いって言って貰っちゃった私・・・エヘヘ・・・・・」


小声で言っているつもりなのだろうが、全部はっきりと丸聞こえだ。うんうん良く頑張った。あれ? 何か涙出てきたよ? 何これ、子供出産後のお母さんか俺は?


「あっ、じゃ、じゃあ日取りは後日またメールでお知らせするので良いですか?」


「りょーかい。楽しみにしてるぞ」


「た、楽しみに・・・でもそれでもし、つまらない休日を白奈さんに過ごさせてしまったら私は・・・白奈さんに嫌われた挙げ句に唾を吐き捨てられてごみ捨て場に捨てられ――」


「リラックスッ!! 雫リラックスという言葉を辞書で調べて赤線引いておきなさいっ!!」


「は、はい! 分かりました!」


こうして、最後の最後まで慌ただしくも俺は次の休日に雫とお出掛け・・・デートをすることになったのだった。はてさて、どんな楽しい休日になることやら・・・今から真面目に楽しみだ。






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