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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
Fours Dead
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害虫駆除=お仕置き

久し振りに更新しました。その久し振りの更新が章の最後だったとは……少し読み返して内容を思い出して何とか書きました。

何故なんだろう? どうしてここに俺がいることが分かったのだろう? 痕跡なんて残していないし、引っ越し屋の人達に聞いたら、誰が何処に引っ越したということは言わないようにしていると言っていた。


前の高校の先生にも実は引っ越す場所をうやむやにしてここへやって来たのだ。何一つ、俺がここにいる等という証拠はないはずだ。


それなのにどうして……どうしてあいつがここにいるんだ?


「やっと見つけた……会いたかったよ、白奈」


リュックサックを背負い、藍色の短パンに半袖の白いパーカーを着たポニーテールの少女。階段下から俺を見上げてニッコリと微笑んだ。


ただ、瞳に光は見えなかった。暗く、負の感情が渦巻いているように濁っていた。


はっきりと分かる。今のコイツは正気じゃない。


「咲夜……なんでお前がここにいる?」


「勿論、白奈に会うためだよ? だって、それが白奈の愛情表現だったんだから」


「愛情表現だと?」


一体咲夜が何を言っているのかさっぱり理解できない。俺がいつ、そんな表現をして見せた? 何かを示す前に、俺はあの場所から消えたのに。


咲夜は気分が高揚しているのか、頬を赤くして片手で擦りながらニコニコと笑っていた。


「白奈は私のことが大好き過ぎて、でも照れ臭くて正直になれなくてあの場所から何も言わずにいなくなったんでしょ? そして、何の手掛かりも無しで自分を見付けてくれたら、今度こそ私を愛そうって思っていたんでしょ? ううん、何も言わなくても分かる、分かるよ私は」


咲夜が階段の一段目に足を乗っける。まだ殺意が感じられないが……だとしても、今の咲夜は狂ってることに変わりはない。


まさかこんなことになっているだなんて……それも手掛かり無しで俺を見付けただと? 偶然とかそんな言葉で片付けることなんて出来ないくらい、恐ろしい運の持ち主ってことなのか?


何にせよ、やはり咲夜は他の皆と違ってレベルが違い過ぎる。


後退りたいが……駄目だ。下手に動けば、咲夜がどう反応してくるか分からない。


どうする……この場をどう凌ぐ?


「私、白奈が願っていた通り見付けたよ。ずっとずっと白奈と会いたかったから、私は寝る間も惜しんで動いてたんだよ? 凄いでしょ? 頑張ったでしょ?ねぇ白奈? 何か言ってよ?」


着実にゆっくりと一段一段上がって来る。頭では逃げないと駄目だと分かっているのに、金縛りにでもあったかのように何故か身体が動いてくれない。


「……そうだな」


素っ気ない一言だったが、咲夜は少しでも褒められたことが嬉しかったようで、少し涙目になりながらも笑い続け、一気に階段を上がってきて俺の身体に飛び込んで抱き締めて来た。


「あぁ白奈!! 私の白奈!! 私だけの白奈!! もう会えないと思った時もあったけど、やっぱり私達はムスバレル運命なんだね!! だって、私達は誰よりも強く強く愛し合っているんだから!!」


背後にあった壁にまで押されてしまい、壁に背が付いたところで咲夜が俺の唇に自分の唇を重ねてきた。


「ん……白奈……好き……んん……はむっ……んぁ……大好き……ぁん……ぁぁ……愛してる……」


すぐに舌を俺の口内に侵入させてきて、ぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てて俺の口内の中で舌を上下左右に巡らせてくる。


「あん……好きぃ……白奈ぁ……んん……ぁん……んん……ぅぁ……もっと欲しい……白奈のもっと……んん……」


「止めっ……咲……っ!」


やっと身体が動いてくれるようになると、俺は咲夜の両肩を掴んで、強引に押し出して離れさせた。


口元に付いた唾液を手の甲で拭い、対する咲夜は舌で唇を舐め回して妖艶に笑っていた。


「はぁぅ……やっぱり白奈のって美味しい……もっと沢山味わいたいけど、ここって一応デパートの中だもんね。だから続きは白奈の家でね? そしたらいっぱいシよ?」


懲りずに咲夜が俺の腕に抱き付いてきて俺を連れたまま階段を降りていこうとする。突然のことに足を踏み外して転びそうになったが、咲夜が俺の腕を引っ張って体勢を立て直すことができた。


「ごめんね白奈、転びそうになったよね。危なくなったら私に任せて。夫の補佐をするのが妻の役目だからね」


どうする……いや、もう駄目なのか? 咲夜に見付かった時点で、もう俺の運命は定められてしまったのか?


また……死ぬのか? またあの尋常じゃない痛みを味わうことになるのか。


嫌だ……もう嫌だ……あんなの何度やったって慣れるはずがない。


「だ、誰か助――」


「サーヤ!?」


「お兄ちゃん!!」


その時だった。階段を上がって来る足音と共に、一階で水着を選んでいるはずの二人が現れたのは。


ナッちゃんと若葉ちゃん……なんでだ。黙って水着選んでろって言っただろ!


「サーヤ! サーヤよね!? 何でこんなところに……というか、何してるのよこんなところで!?」


「……お前……誰だよ」


「ハァ? アンタも私のこと忘れてるわけなの? ほら私よ私。藤堂凛菜。幼稚園の頃の――」


「知らねーよ。というかお前、白奈を誑かそうとしてたクソアマだな? さっき見てたし、それは覚えてるわ」


「誰がクソアマよ!! どんだけ口悪くなってんのよアンタ!?」


「……うるっせぇなクソアマの分際で」


咲夜の瞳孔が見開かれた。そして右手はゆっくりと背中に背負っているリュックの中へと――出てきのは、一本の包丁だった。


殺意。目覚めてはいけないものが目覚めた瞬間を、俺は黙って見ているわけにはいかなかった。


「害虫はとっとと失せ――」


「許せよ咲夜ぁ!!」


ナッちゃんと若葉ちゃんが、咲夜が取り出した包丁を見て固まっていた。俺は見過ごさずに咲夜を階段から突き落とし、咲夜が包丁を手から離したところを確認し、俺は咲夜の頭と腕を掴んで拘束した。


「な……んで……白奈……?」


「え……な、何がどうなってるのよ?」


「逃げろ二人共!! 何も考えずにとっとと走って逃げろ!!」


俺はもう誰かが死ぬ姿なんて見たくないし、死にたくもない。もう冷静に考えてる暇なんてない。ここは一旦、皆を逃がしておいて、その後に俺が全力で逃げればどうにかなるはずだ。


「に、逃げろってどういう意味よ!? 一体何がどうなってるのよ!? 説明しなさいよ!!」


「説明してる暇なんてない!! 良いからとっとと失せろ!! 早く!!」


何時にもない俺の気迫に打たれたナッちゃんが肩を跳ねさせると、素直に言うことを聞いて若葉ちゃんの手を――引こうとした。


「若葉ちゃん!! ここは大人しくシーナの言うことを――」


「そっか、その人がお兄ちゃんを困らせてたんだね。お兄ちゃん、ちょっとそのままその人を押さえ付けたままにしておいてね?」


「え?」


ナッちゃんが若葉ちゃんの手首を取ろうとしたが、若葉ちゃんが手を動かしてナッちゃんの手から離れた。そして、いつもの人懐っこい笑顔を浮かべたまま俺達の方に寄ってくると――


――ドスッ


「かっ…………はっ…………」


服の袖から懐剣を取り出し、鞘を抜いて躊躇なしに咲夜の胸を突き刺した。


「……………………は?」


俺の思考回路が硬直した。なんだこれ? 今、俺の目の前で何が起こってるんだ?


「お前……チビガキ……がっ……」


「まだ生きてるのー? 喋らなくて良いから、早く死んでよお姉ちゃん」


咲夜の胸から懐剣を抜き取り……今度は腹部を貫いた。


それから何度も咲夜の身体を刺しては抜いてを繰り返していく。


胸、腹、手、腕、足、太もも、踵、首、頬、脇、爪。確実に懐剣の刃を突き刺していき、それでも致命傷は避けられていて咲夜は上げられない悲鳴を上げようと口をパクパクさせて藻掻き苦しんでいた。


既に咲夜を押さえ付けている俺の腕に力は入っていない。俺は身体中に飛び散ってくる返り血を浴びながら、何も考えられないまま若葉ちゃんのことを見つめ続けていた。


「止めっ……止め……て……」


「苦しいかな? そうだよね、だってそういう風にしてるんだもん。お姉ちゃんがお兄ちゃんを困らせるからいけないんだよ? だから私がお仕置きしてあげてるの。でももう後一回で許してあげるね?」


俺よりも全身を真っ赤にした若葉ちゃんがニッコリと笑うと――最後に咲夜の額に刃の刃先を向け――突き刺した。


そして、痙攣を起こしていた咲夜の身体がピタリと静止……絶命した。


「あっ……あぁっ……」


ナッちゃんは涙を流しながら尻餅を付いて身体を震えさせ、気を動転させていた。


「ふぅ……お仕置き完了っと♪」


刀身が真っ赤になってしまっている懐剣を鞘に戻して袖の中にしまうと、若葉ちゃんはすぐ近くで座り込んで固まっている俺を見てまた笑った。


「大丈夫お兄ちゃん? もう大丈夫だよ、私がちゃんとお仕置きしてあげたから」


俺は返事を返せず、吐き気を覚えながら放心状態になっていた。もう、何が起こっているのかまるで理解ができなかった。


「ねぇ大丈夫お兄ちゃん? もうお兄ちゃんを困らせる人はいないんだよ? ねぇお兄ちゃんってばー!」


少し不機嫌になった若葉ちゃんが俺の身体を揺すってくる。それでも俺は固まったまま動かないでいた。


「……お兄ちゃん、もしかしてもう壊れちゃったの?」


あぁ……もう分かる……俺が今回、一体誰に殺されてしまうのか……。


「折角、良いお兄ちゃんだと思ったのに……壊れちゃったならもう良いや……いらない」


再び垣間見る懐剣の刀身。しかし、若葉ちゃんは笑ってはいなかった。


咲夜と同じような、闇を写した瞳の色をしていた。


「バイバイお兄ちゃん。遊んでくれてありがとう」


――ドスッ


尋常じゃない激痛は一瞬のこと。額に刃物が突き刺されたのが一瞬だけ見え、俺は意識を手放していった。

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