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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
Fours Dead
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新たなメンバー集結=姦しい

夏休みの終了が近付いてきた頃のことだった。現在時刻は朝の九時。ピンポーンとインターホンを鳴らして来た者が現れていた。


「おや、朝からお客さんとは珍しいね」


「いや、珍しくも何ともないだろ・・・正直出たくない」


「駄目だよ居留守は。さっさと出る。僕は例の如く隅っこに引き篭もってるから」


何時からだっただろうか。とある人物達が頻繁に俺の家に訪れて来ていた。お隣に住んでいるナッちゃんと魔女・・・穂天だ。


どちらも俺以外に友達という者が存在しないのか、一日目にナッちゃんが強引に遊びに来て、そして次の日に穂天が来るという流れだった。暇潰しにはなるものの、どっちも個性的な性分を持ち合わせているため相手をするのに凄い体力を使うのだ。特に、穂天は俺を薬品の実験材料にしてこようとしてくる始末だ。


たまには休息を取りたい。しかし相手をしないしないで面倒なことになる。というのも、一度だけ一人一人に居留守を使ったことがあったのだが、そうするとナッちゃんは数えきれないメールを送って来た。「何処にいるのよ!」と居場所を突き止めてくる内容がメインとして。穂天の場合は、メールを送ってくることはなかったものの、突如壁から妙な物音が聞こえ出していた。何事かと思えば、その音が次第に大きくなっていったところで嫌な予感がし、実はバルコニーがある戸を開いて穂天を呼ぶと、ノコギリその他諸々を持った物騒な魔女が出てきていた。何でも、俺の家まで穴を開けて貫通させようとしていたらしい。流石魔女、やることが頭一つ飛び抜けていると思った。


ただ、密かに俺は思っていたことが一つだけ。何故ここまで俺に執着するのか、ということだ。束縛が強いというか、特殊な性分を出して来ているというか・・・ホントに多少だが・・・不気味だと思っていた。


最近は物騒なことが無くなったものの、つい前に起こっていた出来事の後遺症は残っている。死ぬか、死なないかという恐ろしき日々の記憶が。それがもしかしたらここでも起こるのではないか、という不安が少なからずあるわけで、些細なことでも深く考えすぎてしまうようになってしまった。まぁ、些細なことじゃないと思うが。


とにもかくにも、居留守を使えばまた面倒なことになる。俺は雨瑠が避けていくところを横目で確認すると、玄関に向かって行った。


まずは誰が来たのか確認だ。さて、今回は順番的に来るのは穂天のはずだが・・・・・


俺は玄関にある小さな穴の隙間から覗いた。


「う~ん・・・留守なんでしょうか? でも急に訪問したから仕方ないかもしれませんね」


「そんなー! 最近、お兄ちゃん全然神社に来てくれなかったから来たのにー!」


おっとこれは予想外。なんと訪問して来ていたのは如月姉妹だった。確かにこないだ住所を教えたから何時かは来ると思ってたけども、まさか行政来るとは。


若葉ちゃんの相手は疲れる・・・が、それは良い疲れというやつだ。どっかのツンツン女と魔女の相手とでは話が全く違う。


俺は迷うことなく扉を開いた。ガチャリと音が鳴ると、二人はハッとした表情をした後にすぐ笑顔になった。


「あっ、お兄ちゃん!」


「よっす若葉ちゃん。薺も」


「ど、どうも! ほ、本日はお日柄も良く、えーと・・・・・」


何処のお見合いだろうか。にしても、出掛ける時も巫女服とは恐れ入った。流石現役の巫女、かな? 様になってるから言うこと無しだ。


「ま、入ってよ。お茶でも用意するからさ」


「お邪魔しまーす!!」


「あっ、こらっ、若葉!」


家の中に手招きすると、若葉ちゃんは一人元気良く玄関の中に入っていき、草履を脱いでちゃんと揃えて玄関に置くと、スタタタタッと奥に向かって駆け抜けていった。その光景を見ていた薺は俺に向かって深く頭を下げていた。


「す、すみません! 妹が勝手にまた・・・」


「まぁまぁ、元気なのは良いことだってば。気を使わなくて良いから、薺も入りなさいよ」


「すみません・・・本当にすみません・・・この謝罪は身体で――」


「何もしなくていいから入れって!!」


仮にも巫女の立場なのに今なんて言おうとしたんだこの娘は。女の子って誰でもそういう部分は持ち合わせてる物なのだろうか? まぁ、咲夜みたいなオープンスケベは例外としても、まさか薺が? いや、深く考えないでおこう。


慣れている謝罪言葉を口にしながら薺も家の中に入っていき、二人を見送ったところで俺は玄関の鍵を閉めようと振り返――


「む~ふ~ふ~、お邪魔するよ~♪」


「は、入るわよシーナ!」


何か色々と手遅れなことになっていた。ていうかいつの間に現れやがった?


「おいコラ、誰も許可してねーだろーが。勝手に入んな」


靴を脱いで上がろうとする二人の首根っこを掴んで持ち上げる。


「な、何よ! せっかく私が来てあげたのよ! 感謝しても良いくらいでしょ!」


「いや、そういう気遣いいらないから。今日は他にお客来てんだから、お前ら今日は帰れ」


「それは大丈夫さ~白吉~。お巫女ちゃんは知り合いだからにゃ~」


「何よ、さっきの薺だったの? なら私も問題ないわよ、友達だから」


世間って想像以上に狭いものなんだな・・・でも駄目だ。今日は如月姉妹に癒して貰う日にするんだ! お前らはぶっちゃけ邪魔だ!


「飽きずに毎回俺の家に来るんじゃねぇよ。今日くらい自分の家にいろ」


「な、何よ! 私より薺の方が優先だって言うの!? もしかして薺のことが好きなんじゃないの!?」


「なら今日は穴開け作業に体力を使うことにするさ~」


「・・・・・分かった、とっとと入ってろ」


やはりこいつらを退けるのは無駄のようだ。もういっそお前らだけでガールズトークを繰り広げてくれ。俺は台所でボッチでも決め込むとしよう。そんでこっそり雨瑠と今後の方針の相談でもするとしよう。女ってのは話に夢中になりさえすれば、一人くらいいなくなっても気付かないもんだろ。多分。


二人の後ろ姿を見送ると、今度こそ玄関の鍵を閉める。それから盛大な溜め息を吐き出して頭を抱えると、そのまま歩いてリビングに向かった。


「薺~、久し振り~」


「あれ!? 凛菜さん!?」


「若葉っぱ~♪」


「へ!? 師匠!? 師匠だ!」


本当だ、完全に知り合いの口調だ。でも異質な発言が一つだけあったな・・・魔女の野郎に師匠とか言ってなかったか? 駄目だよ若葉ちゃん、そんな奴を師匠にしたら。絶対歪んだ性格になるぞ将来。


「白吉~? 私は別に歪んではないのさ~。失礼なこと思っとるのは感心しないのさ~」


「心を読むんじゃねぇ!!」


やっぱ魔女だ。そう思いながら俺は四人分のお茶を用意するためキッチンにてテキパキと作業を始めた。




~※~




「それでね? 最後には何だかんだでフッてたのよね。良いだけお金を払わさせてたのに、都合の良い女よね」


「そ、それは怖いですね・・・確かそういう人を女狐・・・でしたっけ? 酷い人ですね・・・」


「まぁ、世の中には色んな人がいるからね。ここにも魔女が一人いるんだしさ」


「凛の字~、私は別に人を騙したりはしてないのさ~」


「師匠、それは嘘だと思うよ?」


はっきりと言おう。完全に俺の必要性が無くなっている。そして俺の家に集まること自体、既に意味が無くなっている。


作戦通り、俺は今キッチンにて体育座りしながら姿を隠すことに成功し、奴らに気付かれないまま待機しているのだが、繰り広げられるのはガールズトークという名の、女の世界のドロドロした内容の話だった。聞いてて不愉快というか、何か・・・ストレートに嫌な気持ちになっていく一方だ。知りたくもない女の性分まで聞かされて、女という存在が信用できなくなって来ているくらいだ。


「白奈君、もしかして放置プレイが好きな感じ?」


「お前は座敷わらしの如く壁の隅っこに溶け込んでろ雪ん子」


「いやさぁ・・・明らかに今の白奈君って取り残されてるでしょ? 不憫でさ」


こんな奴に同情される日が来てしまうなんて、今日はとんだ厄日だ。本当なら如月姉妹だけと話し込んでのんびりスローライフできるはずだったのに、あの「何よ!」と「む~ふ~ふ~♪」のせいで俺の計画はパーだ。どうしてくれようかこの失態。どう責任とって貰おうかこの現状。


「そういえば、そろそろ夏休みも終わりですね~。皆さんは今年、何処かにお出かけとかしたんですか?」


「うん、ほぼ毎日出掛けてたわよ」


「私も同じさ~」


「へぇ~、良いですね充実していて。ちなみにどういう所に行ってたんですか?」


「「ここ」」


隠れているから向こうの様子が見えないものの、恐らくあの二人は真下に向かって指を指しているんだろう。それできっと薺は反応に困って苦笑してるんだろう。


「え、えーと・・・他には何処に?」


「「ここ」」


「い、いやだから他に―――」


「「ここ」」


「それお出掛けと言えないと思うんですが!?」


うん、やっぱそう思うよね。ていうか、それが常識的に考えて出される反応だよね。そいつら、マジで俺の家以外に訪れてないっぽいからな。たまに魔女が公園に行ってテント建ててるらしいけど、それくらいそいつらの日常は幅狭いらしい。暇人だ暇人。人のこと言えないけどさ。


「お姉ちゃんお姉ちゃん、そういえば今年ってまだ海に行ってなかったよね?」


「え? あ、あぁ、そういえばそうでしたね。でも姉妹だけで海に行くと・・・たまに泣きたくなる時があるから、今年はもう良いんじゃないですか?」


「駄目駄目今年も行くのー! あ、なら今年はお兄ちゃんも連れて行こうよ! ねぇお兄ちゃ・・・あれ?」


若葉ちゃーん? 気付いてくれたことには正直嬉しいけど、そのタイミングで気付いて欲しくなかったかな~? 確かに夏の定番は海だけども・・・ここにはメンバーが勢揃いしているわけであって、そんな火種を蒔いてしまったら・・・


「良いわね海! 私も行きたいわ!」


「たまには日光浴も良いかもしれんね~」


ほらね。絶対食いついて来るんだよ。フラグだよこれ、俺が何やかんやで巻き込まれるハメになるという最低のパターンだよ。


「なら、今年は皆さんで一緒に行きましょうか。夏休みの最後に良い思い出が作れそうですね」


「なら決まりさね~。白吉~、いつまでもそこに隠れてないでこっちに加わりにゃ~」


「あっ、そういえばシーナいないじゃない!」


完全に感付かれたか。もはや逃げ場は無しってか? それでも諦めずにもがき続けるのが俺だ。俺は体育座り状態から立ち上がると、演技として腹痛を起こすという動作を見せ付ける。


「わ、悪いな皆・・・実は俺、海に入ったら蕁麻疹的なものが発症しちゃうからさ・・・だから今年は女組だけで――」


「お姉ちゃん、日にちはどうするのー?」


「次の日曜日で良いんじゃないですか? 皆さんもそれで良いですよね?」


「異議無しよ」


「でもその前に~、水着を買わないといけないのさ~。というわけで~・・・・・」


穂天がニヤニヤ顔を崩さないまま俺の方に振り向く。まずい、これは更なる波乱の予感がする。つーか俺の話誰も聞いてねぇし? 問答無用ってか?


「白吉~、明日、買い物に付き合――」


「断る」


あれだろ? ランジェリーショップにでも行くつもりなんだろ? 昔、咲夜に騙されて行ったことあるけど、あそこにいるのがどれだけ俺の精神を削り取っていったことか・・・少なくとも死にたくなってたことだけ覚えてる。


だが、こんな時に穂天は奥の手を使ってきた。そう・・・一度だけ俺に対して使うことができる奥の手を。


「む~ふ~ふ~・・・前に熱を出した時に看病してあげたのは誰だったかにゃ~?」


借一つ。どうやらこいつはこんな時に使用して来たのだ。正しく魔女。もしくは悪魔のような女だ。


「・・・お前、実は性格悪いだろ?」


「む~ふ~ふ~♪」


「え? 何? どういうことよそれって?」


「ま~、とにかく明日は皆でお買い物ってことさ~♪」


海に行く前に波乱の幕開けとなった。なんか、最近は物騒な出来事から離れてるけど、これはこれで嫌な予感しかしなかった。





―――ただ、平和ボケしていられたのはこの時だけの話となることを、俺はまだ知らない。

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