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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
Fours Dead
43/46

体調崩=魔女の看病

ピピピピピッ・・・


「38度・・・完全に興奮してるね。凄い発情期の現れのようだよ白奈君」


「いや違ぇだろ!! 夏風邪だろどう考えても・・・ぐっ・・・」


大声を出したせいでただでさえ頭痛がする頭が更に刺激される。自業自得と言えば自業自得なのだが、色々積み重なって俺は見事に風邪をひいてしまった。


夏休みだからと調子に乗ってしまい、夜更かししてあんなことやこんなことに勤しみ、暑いからといってアイスを頬張り続け、寝るときは窓を全開にして扇風機にタイマーセットもせずにかけ続けてお腹丸出しで爆睡する。


それがこの結果だ。何で夏休みというのはこうも人を駄目にしてしまうのだろう。ずっと働かずに休んでいると「何かもう・・・働くの面倒臭ぇな・・・」みたいなことを思えて来てしまうみたいな、そんな感じなのだろうか? 自分で言ってて意味が分からないが。


とにもかくにも、見事に夏風邪をひいたせいで、身体中が燃えるように暑く、何よりズキズキズッキーニと訴えてくる頭痛が半端ない。コーラに牛乳混ぜて美味しいと言っていた何時ぞやの老人達くらいに半端ない。何もする気力が起きず、今はベッドに横になって雨瑠に冷えピタを貼ってもらっている。何だかんだで良い奴だ。


「クソッ・・・もう夏休みも終わってそろそろ気合を入れなきゃいけない頃合いなのに・・・」


「というかさ白奈君、夏休みだからこそ彼女を作る切っ掛けが大きいんじゃないの? ほら、夏休み前と夏休み後で別人のようになって帰ってくる人とかいるでしょ? それと同じだよ」


「あのな雨瑠・・・俺だって一応は色々と考えてたんだよ・・・そろそろ手を打とうと思って、策の一つくらい考えてんだよ・・・」


「ふーん・・・ちなみに今の候補は誰なのかな?」


「そうだな・・・」


この事実を教えて味方につける者はまだ決めてはいないが、今のところ恋人にする候補はざっと三人だ。知り合った者達を当て嵌めてるだけだがら、普通に考えればタラシ男のようでかなり期がひけるが、それは今後猛反省して謝罪することにしているので深く気にしないでおく。


まず一人目は当然ナッちゃんこと藤堂凛菜だ。何故かツンツンしていて愛想が悪いことが多々見えるようになってしまっているが、最低限会話することは出来ているのでまだマシだ。


二人目は如月薺だ。妹の若葉ちゃんと共に仲良くなることができ、妹想いの良い姉だ。言葉使いが丁寧で、おっちょこちょいで抜けているところはあるが、話しやすい人なので一緒にいて気軽に入られる。


そして三人目だが・・・いや、やっぱり三人ではなく二人に焦点を当てた方が良いのかもしれな――


「三人目は須藤穂天。名前、雰囲気、日頃していること全て怪しすぎるミステリーガール。間延びしてゆっくりした喋り方が印象的で見た目は可愛いものの、疑いの部分が多すぎてまだ様子見した方が良い人物」


「そうそう・・・そんな感じだなあの魔女は・・・」


―――――ん?


「いや何でいんだお前!? ぐっ・・・・・」


「む~ふ~ふ~♪ 無用心だね~白吉~。鍵がかかってなかったよ~?」


嘘だ。折れば戸締りだけはちゃんとしっかりしているように常日頃から心掛けているんだ。そんなミスなんて絶対に・・・


「・・・・・ペロリんちょ♪」


穂天の思わぬ登場と共に、雨瑠はキッチンの方に移動してひょこっと顔だけ出して、悪戯っ子の如くウインクに舌をペロリと出していた。あいつのせいかコノヤロー、後でシバき倒したる。


「で・・・何しに来たんだよ・・・」


「ん~? ちょっち看病しに来たのさ~」


「間に合ってるんで結構です」


「ちょいと失礼~♪」


「うん、もう諦めるわ俺」


こいつにもう侵入された時点で諦めるべきだったのだが、でもやっぱり諦めたくないという感情が残っていたわけだ。今それが潰えてしまったところだった。


何をするかと思えば、ただ単に首元に手を当てて熱の具合を見るだけだった。こいつのことだから妙な薬物でも投入して来るのかと思った。


「ふ~む・・・38度ってところかね~」


「何お前? エスパーなの?」


「む~ふ~ふ~♪ さ~てどうだろうね~?」


ニヤニヤと笑う姿はやはり何か只者ではないと示しているかのようだ。やっぱりこいつ何か怖い。いつか何かの実験材料にされそうで嫌だ。少なくともそんな死に方だけはしたくない。いやまぁ、包丁でグサリとか、金槌でグシャとか、長い串でグサグサグサで死ぬのも勘弁なのだが。


「とりあえず汗は拭いた方が良いのさ~。洗面所にタオルあるかい~?」


「あるけども・・・そこまでしなくても自分でするって・・・」


頭痛を抑えながらベッドから立ち上がるも、足に上手く力が入らずにフラフラしてしまい、バランスを崩してベッドに尻餅をついてしまった。どうやら熱はまだまだ上がっているらしい。


「それ見たことか~。今は人に甘えた方が懸命な判断さ~」


「い、いやしかしな・・・」


「白吉~、君は人に頼るということを覚えた方が良いと思うよ~。素直になっちゃいにゃ~」


ポンポンと頭に手を置かれた後に須藤は洗面所に向かって一枚のタオルを探して取ってきた。畳んであったそれを広げてクイッ、クイッと俺に向けて指でサインを送ってくる。


「まずは背中から出すのさ~」


「それくらい自分で・・・いや、分かったよもう・・・」


「うんうん、素直な子は好感が持てるのさ~♪」


「・・・・・」


おちょくられてるとしか思えないが、俺は素直に後ろを振り向いて上着を脱いだ。すると、汗でびちょびちょだったため、上着は水をぶっかられた後のようになっていた。意識してなかったからあれだが、今思うと気持ち悪いな。


「そいじゃ失礼するよ~」


「ん」


背中にタオルを当てられ、上に下にとゆっくり撫でられるように拭かれる。速度が速度だけに何だかこそばゆい。


「な、なぁ、もう少し早くしてくんね? お前の手使い遅すぎるんだよ」


「そう焦らな~い焦らな~い。ほら~、次は前向いて~」


「はぁ・・・調子狂うな・・・」


クルリと身を翻して前を向く。すると当然目の前には須藤がいるわけで、俺は気まずさを紛らわすように視線を横に逸らした。


ニヤニヤと笑みを浮かべながら胸板にタオルを当てて、またゆっくりとした手付きで撫でるように拭いていく。やばい、これは気まず過ぎる。


「意外と逞しい身体つきだね~」


「そりゃ陸上やってたからな・・・」


「今はやってないのかい~?」


「まあな。別に理由はないけど、高校はゆっくり過ごしたくてな」


まぁ・・・今はゆっくり過ごせない状況なんだがな。


「・・・白吉~、一つ聞いてもいいかにゃ~?」


「なんだよ唐突に?」


「君は・・・・・いや、やっぱり止めとくのさ~」


ホント何なんだこいつは。急に深刻な顔をしたと思いきや、また怪しげな笑みの顔付きに戻ってい――


「そりゃ♪」


――プニッ


「~~~っ!!」


完全に油断しきっていた。タオルで拭き終えられたと思いきや乳首の先を指先で突っつかれ、俺の身体は弾丸の如く飛んで背後の壁に思いきり衝突していた。頭痛の上に背中もズキズキと痛みが走り散々だ。


「いきなり何すんだテメェ!?」


「ぶくっ・・・ぶぷっ・・・お腹痛っ・・・ニャハハッ!」


口を塞いで腹を抱え爆笑していた。おっとりとした見た目が涙目の笑い顔になっていて新鮮だが、俺はそれを殴りたいと思えていた。ついでい言うなら、キッチンで『10点』と書かれた看板を手に密かに爆笑してるあの雪ん子も殴りたいとも思っていた。


「いや~久し振りに爆笑したのさ~。白吉は個性に溢れているにゃ~」


「もう帰れお前!!」


「はい~、次は下の方を拭き――」


「自分でやるわ!! あっち向いてろ馬鹿!!」


強引にタオルを奪って後ろを振り向かせると、俺は下着を脱いで下半身全体を拭いた。幸い、須藤は言うことを聞いて後ろを振り向き続けていたし、雨瑠は写真を撮ろうとしてたが、殺気を一直線に飛ばして黙らせたので問題はなかった。それから一旦また下着を履いてベッドから何とか這い上がり、フラフラしながらも何とかタンスから着替えを取り出して洗面所に向かい着替えを済ませると、少しサッパリとした状態になって再びベッドに横になった。


「白吉~、冷蔵庫に入ってたから取ってきたのさ~」


「ん」


ペットボトルに入ったスポーツドリンクを取ってきてくれていたようで、軽く頷いて礼を言った後に勢い良く水分を補給した。それにより口の中もサッパリして大分具合が回復した。


「ふぅ・・・何だかんだで良い奴なんだなお前。ちょっと誤解してたわ」


「・・・・・」


「おい?」


急に俺を見てキョトンとした顔になるから驚いた。すぐに呼び掛けると、須藤は珍しくも少し頬を赤くさせて後ろに腕を組みながら笑っていた。


「いや~、素直にそう言われると照れるのさ~」


「うっ・・・」


「白吉~?」


「い、いや何でもない」


不覚にも今の瞬間だけ須藤が可愛いと思えてしまった。何を馬鹿なことをかんがえてんだ俺。こいつは魔女だぞ。いや、魔女だからってそういう感情を抱いてはいけないとは決められてはいないけども。


「大分顔色が良くなったね~、んじゃぁ最後にこれを飲むと良いのにゃ~」


そう言って須藤がポケットから小さなガラス瓶を取り出した。中には深い緑色の錠剤のようなものが大量に入っていた。しかも何故かドクロマークのシールまで貼られてある。


「俺を殺したいと!?」


「あっ、違った。これ催眠薬だったのさ~」


「それはそれで怖いわ!! なんつーもん作ってんだ!!」


流石は魔女。日頃こいつが何をしているのか凄い気になってしまう。今度家に上がらせてもらおうか悩むところだ。きっとマッドサイエンティストみたいに怪しげな生き物が入った瓶とかあるんだろうと勝手に想像してしまう。


そして、今度はちゃんとした物が出てきたようで、同じく小さなガラス瓶に白い錠剤が入った薬瓶を取り出していた。


「私が調合した特別製の即効薬さ~。これを飲めば明日には健康体になってると保証するにゃ~」


「・・・・・はっきり言って信用できないんだが」


「まぁまぁ~良いから騙されたと思って飲んでみると良いさ~」


「・・・じゃあ一つだけ」


キッチンに向かって水を取り出すと、覚悟を決めてそれを一気に飲み込んだ。錠剤と同じなので多少の苦味が感じられたが、効果のほどは後々聞いてくる――


「・・・・・なぁ、何か眠くなってきたんだけど」


「少しだけ睡眠薬も混ざってるからね~。次に目を覚ました時はもう大事ないのさ~」


「そっすか・・・」


もはや疑う気力も沸かずに俺はまたベッドに横になって目を瞑った。すると、モゾモゾと横から音が聞こえてきたと思い片目だけ目を開くと、すぐ真横に頬杖をついて横になっている須藤の姿があった。


「・・・何してんの」


「む~ふ~ふ~♪ 添い寝さ~」


「警戒心無さすぎと思わないのかよ・・・」


出会って日が浅いのに信用し過ぎじゃないのかと思えてしまう。まぁ、別に何もしないし、する気力も起きないし、信頼してくれてるならどちらかというと嬉しいのだが。


「私も眠くなってきたから少し寝るよ~。ふぁぁぁ・・・・・」


「自分の家に帰って寝ろよ・・・」


「Zzzzz・・・・・」


「いや早ぇよ!! 何処の0点少年だお前!!」


睡眠薬入りの薬を飲んだ俺よりも先に熟睡してしまい、無防備にもすぐ隣で眠ってしまった。制服姿でスースーと幸せそうな笑顔を浮かべて寝息をたてている。それを見ていると、何だか自然と笑みが溢れてしまう。


「やれやれ・・・今度はお前が風邪引くぞっての」


タオルケットをお腹にかけて身体を冷やさないようにする。すると、須藤はムニャムニャと口を動かしてニヘラっと少し歪んだ笑みを浮かべていた。


「む~ふ~ふ~・・・催眠成功~・・・」


「あぁ・・・夢の中で犠牲者が生まれてるし・・・」


俺は夢の中で催眠薬の犠牲者となってしまった名も知らない人物に同情した後、睡眠薬の効果によって打ち負け睡魔に意識を奪われていった。



そして次の日、俺の身体は本当に健康体になっていた。魔女に借りが一つ出来たな。

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