散歩=探索
時刻は朝の六時くらい。健康的なじーちゃんやばーちゃんなら小さな公園にでも集まってラジオ体操を行ってるだろう。というか、その光景が今まさに俺の視界に入っている。俺も休日にだけ顔出そうかなとさえ思ってしまう。
年寄り臭いと思われるだろうが、俺はこんな朝早くから宛もなく散歩をしていた。いつもの平日の癖か、目覚ましも無しに早く目覚めてしまったのだ。
本当なら家でのんびりするところだが、俺はまだここに来てから全然日が浅い。何処に何があるだとか全く状況把握出来ていない。
なら散歩でもして色々見てくるか、ということで俺は財布と携帯とお一つ飴ちゃんと共に外出した。凛菜に朝のご挨拶でも、と思ったものの、こんな朝早くから訪問なんかしたら「今何時だと思ってるのよ!? 馬っ鹿じゃないの!? じじ臭いのよ!!」と一喝されてしまいそうだから止めた。触らぬ神に祟り無しである。いや相手神様じゃないけども。
だから安心できる神様に会いに行こうというわけではないけど、歩いているうちに俺にとっては珍しい場所を見付けた。気付けば人気の少ない場所に来ていたせいだろう。
道路道の右側を歩いていた中、石造りの長い階段を見付けた。周りが林になっていて、いくつもの鳥居が立っている。きっと、この先に祠か神社があるという証拠だろう。
先が見えないくらい長い階段だが、俺は好奇心を胸にその階段を登ることにした。タッタッタッタッと昔の陸上時代の練習を思い出しつつ、一定の速度を保ちながらリズム良く登っていく。うんうん、これですぐに息切れが発生しないところ、まだ体力は衰えていないようだ。自惚れみたいだが感心してしまう。
そして数分後、ようやく頂上が見えてくると、俺はラストスパートとして段飛ばしで一気に掛け上がった。頂上到着である。
うん、やっぱ朝から運動ってのは良いもんだな。これからジョギングでもしようかな。三日坊主で終わることは無いんだろうけど、はてさてどうしようか。
なんて些細なことを考えていると、視界には中々広い神社地帯が広がっていた。おみくじ売り場から神秘的な小さな水の滝まである。結構有名な神社なのかもしれない。
「きゃはははっ!」
「コラー! 待ちなさーい!」
「やーだよー!」
「ん・・・?」
人気が全くないと思いきや、突如、神社本殿の扉が開いて中から二人の人物が出てきた。お互い赤い袴を身に纏った・・・多分あれは姉妹だろうか。幼稚園児くらいの小さな女の子が手に何かを持っていて、後ろから俺と同じ年頃くらいであろう女の子が多少涙目になって小さな女の子を追い掛けている。
手に持っているのはアルミホイルに包まれた球体状の物・・・多分あれ、おにぎりだろう。そこから考えられる俺の推測は、あのおにぎりはお姉さんであろう彼女の物で、それを妹に捕られてしまってあんなことになっている、と言ったところだろう。多分ね。
走るのには最適ではない格好をしているからか、姉の方は何処かとろく見える。逆に、同じ格好をしているのに妹の方はすばしっこい。悪戯でもされたのだろうが、こちらとしては姉妹仲良さそうに見えて微笑ましい光景だ。しばらくこんな暖かい日常を見ていなかったからだろう。凄く安心してしまう。
「待ちなさーい! 待ってくださーい!」
「アハハッ! お姉ちゃん遅っ、あっ・・・」
油断してしまったのか、妹の方が足を変に絡ませて転んでしまった。膝を擦りむいてしまったのか、膝を抑えて妹はみるみる内に涙目になっていき、最終的に泣いてしまった。
「うわぁぁぁん・・・痛いよー! 痛いよー!」
「悪いことするからですよもう・・・ほら、立てますか?」
「やだー! やだー! やだー! うわぁぁぁん・・・・・」
姉が手を差し伸べても乱暴に振り払ってしまい、わんわん泣き続けてしまう妹。近くには困った顔をして迷っているご様子の姉。さて、ここでそろそろ助っ人として子供好きの俺が助け船を出すとしよう。ロリコンとか思った奴はとりあえず死んどけ。
「はいはい、絆創膏貼りますよ~」
「え? だ、誰ですか貴方?」
「細かいことは気にしたら駄目だ。今は傷を癒すことが最優先だろ? 無理して立ち上がらせようとしちゃ駄目だ」
「あっ・・・・・」
理解してくれたのだろう、自分の行いの過ちに気付いてシュンとなってしまう姉。反省できるなら上等だ。今度から気を付けてくれればそれで良いだろう。
「ちょっと袴捲るけど良いかな?」
「やだー! やだー! やだー!」
しかし話を聞こうとせずに駄々を捏ねてしまう妹。こんな時こそあれを解放する時なり。
「ほらほら、お兄ちゃんの言うこと聞いてくれたら濃厚みかんの飴ちゃんあげるよ?」
「あっ・・・た、食べたい食べたい!」
「そうか食べたいか。ならお兄ちゃんの言うことも聞いてくれるかな?」
「うん!」
「うんうん、良い子良い子」
飴ちゃん一つで簡単に素直になるとは、良い子だとは思うけど、逆に危なっかしいとも思えてしまう。相手が俺だから良いものの、この子には不審者という名のロリコンに気を付けることを進めた方が良いのかもしれない。
飴ちゃん一つ渡して妹はすっかり泣き止んでご機嫌になると、俺は袴を捲って膝を見てみる。やはり擦り剥いてしまったのだろう、少し赤くなって血が出てしまっていた。でもこういう時のために俺は常時財布の中に絆創膏を入れておいているのだ。用意周到とはこのことであろう。
「ん、こんなもんかな。今度からは転ばないように気を付けないと駄目だよ?」
「ありがとうお兄ちゃん!」
ひしっと抱き付かれてしまう。うん、やっぱ小さい子供は純粋で可愛いもんだな・・・いや何度も言うが俺にそういう性癖はないから。至ってノーマルだからそこんところ誤解しないように・・・って、俺はさっきから誰に言い訳してるのだろうか?
「す、すみません! 助かりました! 本当にありがとうございます!」
「いやいや礼には及ばんよ。ほら、早くお姉ちゃんに返してあげな?」
「うん。ごめんねお姉ちゃん?」
そう言って妹は素直におにぎりを返した。それから姉の横に寄り添うようにしがみついて甘え出す。何だかんだで仲の良い姉妹じゃんか。
「申し遅れました。私、この神社で巫女をさせてもらっている如月薺と申します」
如月薺。それが彼女の名前らしい。腰まで伸びた黒髪を後ろ首の辺りで一本に結んでまとめていて、顔付きも何処か神々しさを感じさせる清純的な女性のイメージは、まさに巫女だろう。さっきの慌てぶりを見たところ雰囲気が少し月に似てるかもしれない。
「私は如月若葉って言うの! お姉ちゃんと二人で一緒にここに住んでるの!」
妹の方は若葉と言うようだ。いかにもおてんば娘な雰囲気で、しかしやはり姉妹だからか顔付きもそっくりで、髪の毛も縛ってないとはいえ、長い黒髪ストレートだ。何処からどう見ても姉の妹にしか見えない。事実姉妹なのだから当たり前なのだろうが。
「結城白奈だ。白奈と呼んでくれればそれで良いよ」
「でしたら私もなず――」
「私のことは若葉って呼んでねお兄ちゃん!」
「あぅ・・・」
姉よりも積極的な若葉ちゃんが姉から離れて俺にしがみつくと、ニッコリと人懐っこい笑みを浮かべてくる。良いな妹・・・羨ましい・・・いやだからそういう意味でなくね?
「そ、そういえば白――」
「お兄ちゃんって何処から来たの? 見ない顔だと思うんだけど?」
「うぅぅ・・・・・」
「ま、まぁまぁ、とりあえずゆっくり話でもするか? 俺、どうせ暇だから時間あるし?」
「すいません・・・気を使わせてしまってすいません・・・駄目な姉ですいません・・・いやホントマジですいません・・・神に誓って謝罪致します・・・」
「いやいやそこまで悲観的にならなくても・・・」
「お兄ちゃんこっちこっちー!」
「は、はいはい今行くよ~」
まるで正反対の姉妹のようだ。そして、薺は見た目が月寄りでも、中身が雫寄りだということが分かった。また俺は個性的な奴と知り合いになってしまったようだ。
いつの間にか神社の本殿の方に移動していた若葉ちゃんを見つめつつ、項垂れる薺を手招きして俺は苦笑するのだった。




