お姉さん系女子=色気&ドジっ子
「ねぇ白奈、なんでその子も一緒に登校してるの?」
少し早い朝の登校中。相も変わらず咲夜は雫に敵対心を向けていて、雫は何も言わずに若干震えながら涙目になっている。
「俺が誘ったんだ。何でもクソもねーよ」
「別にその子いなくてもいいじゃん白奈~。白奈には白奈の大好きな私がいるんだからさ? 二人きりで登校しようよ~」
「お前ってホント性格悪いよな。そんなんだから一人も女友達できないんだぞ」
「ふんっ、友達なんていらないもん」
拗ねるように頬を膨らましてそっぽ向く咲夜。
そう、咲夜には友達と呼べる存在が誰一人として存在しないのだ。男(俺を除いて)は皆同じ姿をした害虫としか見ていないし、女は自分の敵だと思い込んでいるのである。駄目な意味で極端な奴だ。
『友達になったら白奈と関わることがあるだろう。そうなってもし白奈に惚れられてしまったら許せない』と、そんなイき過ぎた考えが咲夜を駆り立ててしまっている。いくらなんでも考え過ぎだと思うのは俺だけじゃないはず。
一度だけ友達作れと真剣に話をしようとしたことがあったが、咲夜は当然のように「私には白奈がいればそれでいいの!」と、頑なに自分の意思を貫き通して聞きゃしなかった。それからはもう何も言わないことにしている。
「あ、あの……咲夜さん。私も友達は作った方が良いと思――」
「気安く名前呼びして話し掛けないでよ鬱陶しい。失せろ泥棒ねくぉ!?」
とまぁ、平気で悪口も吐くような奴という理由でも友達できないんじゃないかと思う。ちなみに、俺の友人に悪口を言った場合は俺もただ黙ってるわけじゃなくて、こうして制裁を加えている。
「悪いな雫、毎度のこと気を使わせて……」
「いえいえ良いんです! 一緒に登校させてもらってるだけでも嬉しいことなのに、むしろ私って図々しいですよね……。だから私はこんなにも小さくて脆いんですよきっと……。私なんて折れた木の枝に付いている枯れた葉と同じ価値の乏しい人間なんです……」
こっちはこっちで面倒臭い! 見た目可愛いのにどうしてこうもネガティブなのだろうか?
「俺から一緒に行こうって誘ったんだから雫は悪くねーって! 悪いのは全部コイツだコイツ!」
そう言い効かせて、うつ伏せになって倒れている咲夜に指を差す。何故か俺に指を差された瞬間、咲夜は快楽を味わうが如く、自分の身体を抱き締めてクネクネと動き出した。
「そ、そんな……白奈の責任転嫁なんて……あぁまた乳首が……ハァハァ……ゲヘヘッ……」
キモいを通り越して怖い。そして二度と関わりたくないと思えてしまう。現に雫も驚きを隠せずに青ざめた表情で必死に愛想笑いをしてくれている。こんな後輩の姿見てらんないよ。
「ハァ……いっそゴミ収集車にでも放り込んでやりたい……」
「そ、そんなプレイもまた一興……ハァハァ……あぁもう駄目……白奈、路上で良いからHしよう?」
「行こうか雫」
「は、はい……」
今日はもう口を聞かないことにしよう。そう心に固く誓い、俺は雫の背を押して早歩きで進み出し、未だ路上で悶えている咲夜を置いていった。
~※~
現在午前七時五十分。少し早めに俺と雫は一足先に学校に到着した。
しかし上には上がいるもので、校門前には何人かの生徒が既に棒立ちしてした。腕章を付けているところを見ると、どうやら生徒会の人達のようだ。朝の挨拶運動とかそういう感じだろう。忙しそうでご苦労なことだ。
「あっ! おはよう白君~!」
生徒会の内の一人が俺達に向かって駆け寄ってきた。誰なのかは一目瞭然。だとするとあと少しのところで――
「痛いっ!?」
案の定予想通りに転んだ。しかも躓くものがないコンクリートの地面でだ。
「全く……何してんだ。自分の駄目さをいい加減理解しなさい」
「うぅ……ありがとう白君……」
若干涙目になっているドジな彼女に手を差し出すと、お礼を言うのと同時に俺の手を引いて起き上がった。そして、身だしなみを整えて手を離すと思いきや、
「えいっ」
「ぐむっ!?」
油断を突かれて今度は逆に俺が引き寄せられる形となり、引かれた身体は彼女の身体に収まってしまう。しかも顔は咲夜以上の巨乳と言える場所に挟まれてしまう形で。
「ゴフッ……柔……」
「ん~、土日挟んじゃったから白君エネルギーの補給をしないと~」
朝っぱらからこんな刺激的なことを仕出かしてくる彼女の名前を柱三日月(通称&自称ツッキー)。俺には及ばないものの、女性にしては背が高いスレンダーなお姉さん系統の人である。腕章には生徒会長――などというトップの証ではなく、一番下の位の庶務の証を付けている。
見た目通りなのかは知らんが、一応俺の一つ上の先輩に当たる人……なのだが、敬語は特に使ったりしていない。長さは咲夜に劣るものの、彼女とは小学生からの付き合いなので親密深いのだ。
今の転び方を見ての通り、何処か抜けているドジっ子なので、何かと合っては俺が面倒を見ている。そういうこともあって、どちらかというと周りからは俺の方が年上に見られているらしい。
「モガガッ……は、離れろこの!」
「あぁん、まだ動いちゃ駄目ぇ! 後二十パーセントで充電満タンになるからぁ!」
「あわわっ……朝から大胆です……白奈さん」
「俺なのそこ!? どう見ても大胆なのこの人だよな!?」
「はぅ、すみませんすみませんそうですよね私の勘違いですよね……。勝手な想像で白奈さんにご迷惑を……。白奈さんに嫌われちゃいましたよね私……。それならもういっそのこと白奈さんと共に心中して……」
「おーい物騒な思考におちついてるよー!? つーかいい加減にしろ月!」
「あっ! だ、駄目ぇ白君! まだ満タンになってないのにぃ~!」
「知ったことか!」
何で今日に限ってこんな周りに振り回されなきゃならんのだ。まだ始まりの月曜日だぞ? 週の初めからこんな毎日が続いたら身体が全然持たねぇよ。何で女子というのはバーゲンセールで何度も荒ぶれるくらいにタフな生き物なんだ? 分けてほしいわその有り余った体力。
「あぁぁ……まぁいっか。今日、白君の家に泊まりに行けば良いんだしね!」
「良いんだしね! じゃねーよ。普通に門前払い扱いするわ!」
「そう……なら私はいくらでも玄関の外で待つわ……。雨が降っても、台風が来ても、ずっとずっと待ち続けるわ……。そのせいで重い病気に掛かって死に目な状態になったとしてもずっとずっと……」
「何それ新手の脅し!?」
「でも私は信じてる! 白君が快くそのドアを開いて『おかえりハニー』と愛の口付けをしてくれることを! あ~ん白君~!」
また俺に飛び付いて抱き締めに掛かろうとする三日月。唇をタコのように付き出しているところを見ると、さりげなくチューまで狙ってきている。
だが俺は同じ過ちを犯さない人間。容易にステップ移動でその特攻を華麗に避けると、俺のすぐ背後にあった電柱に顔面から激突した。
「ふぇぇん……」
「だ、大丈夫ですか月さん?」
「うぅ……ありがとう雫ちゃん」
顔を物理的な意味で赤くして涙目になっている三日月に、然りげ無く助け船を出す雫。
咲夜と違って月はフレンドリーな人なので、雫とはとても愛称が良い。こうしてお互いに信頼し合っている光景は実に微笑ましい。咲夜もこういうところだけは月を見習ってほしいものだ。
まぁ……残念ながら見習われているのは、この大胆さだけなのだが。自然と溜め息が漏れてしまう。
「つーかとっとと仕事戻れよ。仮にも生徒会だろーが」
「周りに縛られずに生きる、それが私よ! 格好良いでしょ!? 惚れた!? 惚れちゃったかしら!? もう白君ったら~!」
「もう辞任しろお前」
ルールの一つも守れない人がどうして生徒会のメンバーになることができようか? それは生徒会の人達がお人好しだからだ。今だって月が自由奔放に俺にじゃれ付いてきているのに、苦笑いだけで済ませてあげている。見た目がお姉さんでもこの子供っぽさが微笑ましく見えているのだろうか? いわゆる母性愛的な?
「…………チッ」
だが、のんびり穏やかな空間は、奴の登場によってぶち壊されることとなる。咲夜様のご登場だ。
「何してんのアンタ? 私の白奈に気安く触らないでくれない?」
路上で身動きをとっていたせいか、制服が土埃で汚れてしまっている。そして表情は極めて険しい。ギラついた瞳を鋭くさせて月を一点に睨み付けている。咲夜の中で月はもっとも嫌っている相手なので、雫に向ける態度とは比べ物にならないほど怖い。俺でも思わずゾッとしてしまうくらいだ。
しかし、月には咲夜が怖い人物と見えていないようだ。ついでに嫌われていることも分かっていないようで、
「おはよう咲夜ちゃ~ん! 今日もポニーテールが可愛いね~!」
「うわっ、気安く触らないでよ!」
睨まれたところで臆することもなく、逆に咲夜に飛び付いて身体中を撫で回すくらいだ。でも身体的コミュニケーションにしてはやり過ぎで、咲夜のスカートの中に手を突っ込んでいる。
この様に、さりげなく月にも変態部分があったりする。そう考えるとまともなのは雫だけか……。
「ほぇ!? し、白奈さん!?」
「ん? あぁスマン。無意識だったわ」
「い、いえ、私は別に……エヘヘ……」
まともな雫だけが可愛く見えて、思わず頭を撫でてしまっていた。雫も嫌がることはなく、逆に頬を綻ばせて照れ臭そうに笑っていた。あぁもう可愛いなこの小動物は。いっそ抱き締めてやりたい。
「あー! ズルいズルい雫ちゃん! 白君私も撫でて~!」
「白奈が……白奈が私以外の女の頭を撫でて……撫でて……最低! 白奈浮気とか最低! 白奈なんて……大……大……大好きなんだからね!!」
ギャーギャー喚きながら駆け寄ってくる二人を目尻に、俺はとっとと雫と共に校内へと入っていく。後に続いて咲夜も校内に入って来て、月は生徒会の仕事があるのでメンバーの一人に引き留められていた。
それでも喚きながらこちらに来ようとする月に、咲夜は中指を立ててベロベロと舌をだらしなく見せ付けていた。
……何だかんだで仲良いんじゃねこの二人?