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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
Fours Dead
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引っ越し完了=思わぬ再会

これから通うことになる学校から徒歩で二十分ほど離れたアパート。近くにスーパーや床屋といった施設も豊富で立地条件が非常に良い。良くここの一部屋を借りられたものだ。


大家さんの話だと、何でもタイミング良くここの一部屋を借りていた者が一軒家を立てて引っ越したらしい。奥さんに子供一人という家庭を築き上げて、ようやくそこまで資産を貯めることができたんだとか。立派な人なんだろうと感心した。


昨日はあの後、咲夜は大人しく家に帰ってくれた。様子も危うかったし、後味が悪い感覚もあったが、仕方のないことなのだからどうしようもない。恐らく、着信拒否にも既に気付いているだろう。


だからこそ、もし次に会った時に何を言われるか・・・いや、何を“されるのか”が正直怖い。それは咲夜に限ったことでない、雫や月も同じだろう。


でも引っ越し場所の情報一つ知らないでここを探し当てることは恐らく無理だろう。海外と比べると小さい国だと思う日本ではあるが、数人から逃げるには十分な広さと言えるだろう。だから追っ手の心配はしない。それよりも優先すべきことがあるのだから。


引っ越し業者が置いていってくれたダンボールの箱が山程あって、ところどころに設置するのが相当苦労したものの、夜になってようやく全て片付けることができた。ちなみに雨瑠は全く手伝っていない。楽したいがために後ろからロボットダンスを踊って応援してるだけだった。無駄にクオリティの高いカクカク具合だったのが、また苛立ちを刺激していた。我慢で手は出さなかったが。


そして今は雨瑠と共に夕飯を食べている真っ最中である。と言っても、料理する余裕が残っていなかったので、食べているのは近くのスーパーで買ってきた弁当なのだが。でもたまに食べてみるとこれまた美味しかったりする。


「白奈君、人参あげる」


「好き嫌いしないで食べなさい」


「好き嫌いじゃないよ。味、フォルム、形、色合い、産地、全てにおいて受け付けられないだけだよ」


「それを世では好き嫌いっつーんだよ。具体的に表そうが関係ない。ちゃんと食べなさい」


「そう・・・そうやって白奈君は僕に枷を付けるんだね・・・どんな性癖なんだろうね? 束縛好き? 縛り上手?」


「何故食い物注意しただけでそこまで言われにゃならねーんだよ! お前のためを思って言ってんだろーが!」


「僕のことを思っての言葉なら、食べてくれた方が好感度UPだよ?」


「その分、我が儘度もUPだろうが。鰻登りだろーが」


「我が儘な幼女体型でそこそこ胸のある女の子・・・萌えるっしょ?」


「萌えるっつーか萎えるわ。しなっしなだわ」


「しなしななの? ホントに?」


そう言う雨瑠の視線の先は俺の下半身に。お行儀悪いの自覚して身を乗りだし、目潰し指銃を放つ。


「ギャッフッ!? 失明したこれ失明したっ!! 育ち盛りなのにっ!! 沢山食べて健康体にならないといけないのにっ!?」


「あーもう、うっせぇ!! 飯は黙って食ってろ!!」


「食事のコミュニケーション無しで何が団らんと言えようか!! 寡黙食事場お断り!! shut out!!」


「なら黙って全部食え。じゃねーと背丈大きくならねぇぞ」


「なら人参食べてよ」


「このタイミングで振り出しに戻すのかよ!? 飯抜くぞテメェ!!」


「わ~、男の虐待だ~。ドメスティックバイオレンスだ~。野蛮だ野蛮だ~(棒読み)」


「ええぃやかましい!! あー言えばこう言いやがって、今度という今度はもう許さ――」


ピンポーン・・・


会話・・・というより軽い説教をしようとした最中、インターホンの音により、言葉が打ち消されて沈黙が訪れる。まさか咲夜が嗅ぎ付けてきたとかそんなオチは・・・いや、それはまずないだろう。居場所も何も分からないまま行方を眩ませたのだから。それよりも、俺が思い付いた可能性は一つだ。気が付けばギャーギャー騒いでいた、それはつまり・・・・・


「あぁ・・・引っ越し早々何してんだ俺は・・・」


「ホントだよ全く白奈君は・・・もっと大人になりなよ? 高校二年生にもなって恥ずかしいよ? そのまま社会に出たら尚更恥ずかしいよ?」


「お前いつか絶対ブッ飛ばすからな。ぜってー覚えてろよ?」


「そんな・・・ブッ刺すだなんて、白奈君ったら大胆・・・」


「頬染めんじゃねぇっ!! イチイチ咲夜の真似事してんじゃねぇ腹立つっ!!」


ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン・・・・・


「うっせぇなさっきからっ!! 近所迷惑だろーがっ!!」


「うわ、逆ギレだよ・・・」


頭に血が登った状態でズンズン足音をたてながら玄関へと向かい扉を開く。その先には腕を組んで明らかに機嫌を悪くしているご立腹な女の子がいた。パッと見、俺と同じくらいだろうか。


黒髪の後ろ髪を縛ってツインテにつり目のその見た目はまさに性格が悪そうな雰囲気だ。「アンタホント馬っ鹿じゃないの? 頭沸いてんじゃない?」みたいなことをいかにも言い出しそうだ。


「さっきから隣でギャーギャーギャーギャー喧しいのよ!! 馬っ鹿じゃないの!? 頭沸いてんじゃないの!?」


本当に言われた。しかも初対面なのに。でも怒られた影響で暖まっていた頭が冷えてしまった。自然と肩が下がってシュンとなり、謝り体勢へと成り下がってしまう。何か既視感を感じてしまうな・・・・・


「いやホントスイマセン、あれなんですそういう年頃なんです。騒いでなんぼの若々しき学生の身分なので、寡黙に日常送っても味気も何もあったもんじゃないみたいな感じなんですハイ」


テンパるとロクな謝り言葉が出てこない。なんだこれ、何を言ってんだろーか俺は。むしろ、逆に刺激与えてるもんじゃねーかこれじゃ。


「ハァ? 何言ってんのアンタ? 訳わかんないんだけど? 病院行ったら? 頭の」


「何もそこまで言わなくてもいいだろーがこのアマ・・・・・」


「誰がアマですって誰が!?」


あぁもう、口が滑っちゃうし、胸ぐら掴み上げられるし、ホント引っ越し早々何やってんだ俺・・・どれもこれも雨瑠のせいだ! 畜生、あの天の邪鬼がっ!


「失礼な奴ね、アンタなんて名前よ!! まぁ、どうせ太郎とか次郎とか単純で平凡な名前なんでしょうけどね?」


「んだとコノヤロー!? 太郎さんと次郎さんに失礼だろーがっ!! 謝れっ!! 世界中の太郎さんと次郎さんに謝れっ!!」


「知ったことじゃないわよ!! いいからとっとと名乗りなさいよ!! 一生私のブラックリストに載せてやるわよ!!」


「ハッ! 上等だコノヤロー!! ならしっかりとその腹黒表に載せておけ!! 俺は結城白奈だ!! 太郎でも次郎でもねぇ!!」


「結城白奈ね!? ふんっ!! 絶対一生最低男子の欄に・・・・・んん?」


何か勢いで止まれないところまで来てしまった・・・本当は同じアパートで暮らす同士、仲良くしたいというのに、俺も意地っ張りな人間なんだものね・・・・・


にしても何でこいつは急に押し黙って目を丸くさせているのだろうか? デメキンみたいな表情で反応してんぞ。少し笑える。


「え? 何? 何て言った今? 白子?」


「誰が白子ゼンザイだコノヤロー。白奈だ白奈。結城白奈。Understand?」


「・・・・・」


今度は眉間を指で摘まんで苦笑いしながら俯いてしまう。ホントに何なんだこいつは? 怒ったり笑ったり忙しい奴だ。


「最っ低・・・何でこんなタイミングで・・・あぁもう何なのよ・・・」


「誰が最低だ。人に失礼言っておいて、お前も十分失礼じゃねーかコラ」


「いや違う“シーナ”に言ったわけじゃなくて・・・あっ・・・・・」


「あぁ? シーナ? シナモンの略語か?」


「何で四文字で十分短い果物を更に短縮しなきゃいけないのよっ!! てゆーかシーナもシーナよっ!! いや私も私だけども・・・いやでもそれでも・・・いやでも昔と違うわけだし無理もない・・・いやでも――」


「用件が済んだなら飯食べたいから戻りたいんですけど? 良いッスかね?」


「あぁそうだったの、それは悪・・・じゃなくてぇ!! ほら、シーナ覚えてないの!? 私の顔覚えてないの!?」


急に何を言い出すのか。色々突然過ぎて俺でもついていけない。それでも取り敢えずは言われた通り彼女の顔を見てみる。


「・・・・・ハッ!」


「思い出した!?」


「お前・・・・・唇にゴマ付いてんぞ」


頬を一発殴られる。まぁ、お決まりの流れだと思っちゃうよなこういうのは。さて、冗談はここまでにしてだ。結論を言うと・・・・・


「スマン、全然何も分からない。何? 実は俺の知り合いだとか?」


「やっぱりそうよね・・・猫被ってたんだから気付かなくて当然よね・・・」


「猫被ってた? どーいうことだ?」


「ハァ・・・藤堂凛菜とうどうりんなよ・・・・・」


「何? 何て?」


「藤堂凛菜よ藤堂凛菜!! 覚えてない!? 覚えてないの!?」


「藤堂凛菜・・・・・」


はてさて、ようやく彼女の名前が発覚したが、とにかく俺が今まで出会ってきた人達の記憶を辿ることとしよう。といっても、印象に残ってる人なんて数人しかいないのだが。


藤堂凛菜ね・・・藤堂凛菜・・・藤堂・・・凛・・・菜・・・・・凛菜?・・・・・




~~~~~~~~~~


「シーナ君、それ何食べてるの?」


「これ? チータラ」


「ちーたら? ちんこタラリの略語?」


「ナッちゃん? 女の子がちんこ何て卑猥な言葉使っちゃいけないよ?」


「そーなの? でもお母さんが読んでるご本に沢山書いてあったよ?」


「あぁ・・・うん・・・知りたくもない事実をありがとう・・・でも今後ちんこはNGワードだからね?」


「うん、分かった。なら今度からおちんこって言うね」


「丁寧語にしても駄目っ!!」


~~~~~~~~




「・・・いやいや嘘だろ・・・ナッちゃんはこんな見た目でも雰囲気でも無かったぞ・・・」


「そのナッちゃんよ・・・」


「・・・・・マジすか」


藤堂凛菜。真の結論は、甦った記憶からやっと思い出した。幼稚園から一緒で、しかし小学二年生の頃に引っ越して離れ離れとなった、俺の最後の幼馴染だった。

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