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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
Fours Dead
33/46

離脱=舞台変更

手紙の選択肢の日から一ヶ月が経過し、季節は夏真っ盛りとなっていた。結局、あの呼び出しにはどちらにも応じず、そのまま咲夜と共に家に帰っていた。幸い、その後にこれといった問題事が起こらずに済んでいて、まさに平和そのものだった。


俺は俺で特にこれといった行動を起こすことはなかった。咲夜、雫、月の全員からアプローチを受けていたものの、全て温厚に流してみせ、殺しの被害が起こることもなかった。


実際、本当ならば今すぐにでも告白して恋人となり、ゲームをクリアできるかもしれないパートナーが一人だけいる。赤月咲夜。もっとも俺と深い繋がりがある幼馴染だ。


でも、結果的に俺は何もしなかった。理由は単純明快だ。仮に、俺が選択肢を誤って失敗し、殺されることになると仮説をたてる。そうすれば、俺はまた生き返ることにはなるし、元通りになる。例え、俺と共に誰かが殺されたとしてもだ。前回、月に殺された咲夜のように。


何事もなく元通りにはなるにはなる。だが、そのことに対して抵抗が出来てしまったのだ。一度でも誰にも死んでほしくないと。だから俺は三人の中から選ぶことを止めた。つまり、咲夜、雫、月は俺の選択肢から外すことにしたということだ。


そんな勝手なことが出来るものなのか。いや、出来るのだ。だが、それには“時期”を考えなくてはいけないのだが。そのために俺はその時期を待つために何も行動を起こさなかったのである。


そして、やっと夏になり、俺が首を長くして待っていたその時はきた。どんな学校にも訪れる夏休みである。


学校のある期間は咲夜が毎朝家に来るため、下手に動くことができなかったが、夏休みになれば毎朝来るということはなくなる。それでも、たまに勝手に訪れては来るのだが、通常期間よりはよっぽど自由安全に行動できる。


夏休みに入る事前の休日から俺は行動を開始していた。そして今日、ようやくその時がやって来た。家の中を全て片付け、学校にも既に連絡済みだ。


「まさか、こんな行動を起こすとは全く思ってなかったよ。流石にこれは予想外だよ」


「選択肢云々通り越すくらいにイレギュラーな事態ってことか?」


「そーだね。この感じだと、僕にもこの先どうなるのか検討も付かないよ。咲夜さんか雫さんか三日月さんの三人しか選択肢に絞らないと思ってたから」


「・・・もう俺の勝手なトラブルに巻き込みたくねぇんだよあいつらを。それに、雫と月は既に手遅れなことになってるしな・・・あの二人と恋人になれる気はしねーよ」


「なら咲夜さんは?」


「確かに咲夜なら可能性が完全にないとは言い切れないけど・・・でも駄目だ。咲夜だけはもう巻き込みたくない。あいつが傷付くところを見るのは真っ平御免だ」


「そっか・・・だからここから離れるんだね」


「そういうことだ。皆には悪いが、全て終わるまで俺はもうここには帰ってこないつもりだ」


話の内容からしてもうお分かりだろう。そう、俺はこの場所から引っ越すことにしたのである。皆を巻き込まないために、他の誰かと恋人になって一週間を過ごし、全てを終わらせるために。名残惜しい気はあるが、もうつべこべ言ってられないのだ。それだけ、今の俺には余裕がない。


当然、このことは誰にも知らせていない。もし、誰かがこのことを知ってしまえば、最悪の事態を招きかねないからだ。悪い気持ちはあるが、全て終わるまで俺は三人全員とコンタクトを取らないつもりだ。連絡手段を経つために、既に携帯は着信拒否にもしてある。後は遠くの地域に引っ越すためにこの場所を去るだけだ。


万が一のためにここから遠く離れた地域にアパートを借り、通う学校ももう決まっている。何もかも、準備は万全だ。


「それじゃ、誰かが来ないうちに行こっか」


「そうだな・・・そうするか・・・」


引っ越しトラックで荷物はもう運んだ。俺達もとっとと駅に向かってしまおう。そうして、俺と雨瑠は玄関を出て歩き出そうとした。


しかし、ここぞという時に彼女は現れてしまう。私服姿で駆け寄ってくる見慣れた姿が。


「しぃぃぃろぉぉぉなぁぁぁ!!! 夜這いならぬ昼這いしに来たよぉぉぉ!!!」


「まずいな・・・・・」


現れたのは咲夜だった。よりにもよって一番知られたくない人物か・・・さて、普通なら非常に危険な事態だと思うだろうが、冷静に考えて対処すれば大丈夫・・・なはずだ。


後ろに手を回して咲夜に見えない位置で雨瑠にサインを送り、黙って見てろと留めておく。


とりあえずは、いつの間にかダイビングしてきている咲夜の対処だ。


ハイ、ここからはスローモーションだ。


歩幅三歩の距離で咲夜が飛び跳ね、中で大の字に広がる。その間に俺は右足首を二三度回して・・・


ズキッ


予想外の事態が再び発生。変に回してしまったために少し捻ってしまい、痛みが生じた影響で、構えようとした身体のバランスが崩れて傾いてしまう。大振りの蹴りを放つイメージが台無しだ。


好機と見たのか、咲夜の瞳が金色にギラついてベロリンと舌を伸ばしてニタァ~と笑う。そして距離がついに至近距離まで詰められてしまい、咲夜の身体が覆い被さるように上から降ってきて、俺は抱き止めるものの姿勢のバランスが悪い影響で背中から後ろに倒れていく。


そして四十五度辺りの角度の時に咲夜が顔を近付けてきて思いきりキスをされる。更に最後に後頭部からコンクリートの地面に激突。何処ぞの猫鼠アニメーションのようなタンコブが膨れ上がった。


ここでスローモーション終了である。


「んんっ・・・・はむっ・・・・・クチャッ・・・ピチャッ・・・んっ・・・・」


「~~~っ!! ~~~っ!!」


「おぉ・・・凄い写メりたい光景ですな・・・うぷぷっ・・・」


ニヤニヤ笑いながら見てねーで助けろあの雪ん子!! こんな時だけ楽しみやがって!!


「~~~っぉおおおぅらぁぁ!!!」


腰に手を回して舌を侵入させて来ていたが、そのホールドを上回る力で咲夜を持ち上げ、洗礼された見事なともえ投げで背後にぶん投げた。呆気なく投げ飛ばされた咲夜は脳天からしたに落下し、俺と同じようなタンコブが膨れ上がった。しかし、どんな理屈かハートマークのが。


「んの野郎・・・とうとう強行手段に出やがって・・・」


「・・・・・ついに・・・ついにこの時が・・・ムフッ、ムフフフフッ・・・」


相も変わらず咲夜はダメージを負っても、それを糧としエネルギーとし、接種して、横に寝転んだまま気持ち悪く笑い出す。


「これが白奈の液・・・体液・・・あぁ・・・アタシの全身に白奈の液体が回っていくのを感じる・・・イける・・・これならきっとお腹に白奈の結晶をっぶぅぁ!?」


「妙な言い方をして既成事実を生み出そうとしてんじゃねぇ。一生そこで倒れ込んでろ強性癖女」


「そんなわけにはいかない・・・しばらく白奈に会ってなかったから、その分だけ今日は搾り取るよ!! 何から何まで愛で尽くす!! だから白奈、これから白奈の家でセックスしよう?」


「・・・・・」


「白奈?」


「ん・・・いや、何でもねぇ」


俺はここを去る。咲夜と離れ離れになる。つまり、しばらくはこいつとこんな風にいつものコントを繰り広げるのもなくなるということだ。これが当たり前のようになっていたから、いざそれが無くなるのだと思うと・・・少し寂しく感じる。そのせいで少し物思いに耽ってしまった。今は少しでも異変を悟られてはいけないというのに全く・・・・・


「ほらほら早く白奈!! 久し振りに白奈の家で遊ぼうよ!! 性的な意味で!!」


「・・・・・悪ぃ咲夜。今日はこれから行くところがあるから駄目だ」


後ろめたい気持ちが無いと言ったら嘘になるだろう。でも俺は行かなければ。普通の日常に戻るために。


「えぇ~そんな~・・・だったらアタシも白奈に付いてく!!」


「それも駄目だ。今日は大人しく帰ってくれ」


「なんでなんで~!? 何か事情でもあるの!? 大丈夫だよ!! アタシ、迷惑も掛けないし邪魔もしないよ!?」


「そういう問題じゃねぇんだよ」


「ならどういう問題なの!? ちゃんと説明してよ!! 意地悪ばかり言う白奈は嫌だよアタシ!!」


今にも泣きそうな顔をしてすがり付いて来る。マジで今はそれだけは止めて欲しい。じゃないと、ここから去る気持ちが折れてしまいそうになるから。


でも、これは他でもない、一番にお前のことを想って行動してんだ咲夜・・・ごめんよ・・・


「とにかくだ。今日は大人しく帰ってくれ。今度近い内に遊んでやっから。な?」


「・・・・・ねぇ白奈」


「ん?」


「その問題ってさ・・・・・“女”じゃないよねぇ?」


「っ・・・」


泣きそうになっていた表情が突如一変した。顔を下に俯けたと思いきや、すぐに顔は俺に向かって上げられた。光が失われ虚ろになった暗い瞳だ。今にも闇に吸い込まれてしまいそうな目。思わず面食らってしまったが、俺は冷静さを取り繕って咲夜の頭の上に手を置く。


「仮に彼女が出来たとしても、その時は真っ先にお前に連絡す――」


「彼女が出来たら連絡する? 白奈、それは止めた方が良いと思うよ」


だろうな、そう言うと思ったよ。そして、その先に何を言うかも大体想像がつく。だからこそ、俺は最後までしらを切る。


「な、何でだよ」


「だって白奈はアタシのことが大好きなんだもん。そしてアタシは白奈のことが大好きなんだもん。それなのに、何処ぞの知らないクソビッチと付き合うだなんて・・・アタシ、堪えられなくて殺しちゃいそうだよ、白奈とそのクソビッチを。でも仕方ないよね? 浮気した白奈が悪いんだもん。白奈をタブらかしたクソビッチが悪いんだもん」


「・・・・・咲夜。仮の話だとしても、殺すだなんて言葉を使うな」


「っ・・・ご、ごめんなさい・・・でもアタシは本当に・・・」


「妙な例えして悪かったな。そんじゃ、俺は行くからな」


「あっ・・・ま、待ってよ白奈!! ち、違うよね!? “女”じゃないよね!?」


はっきりと“違う”と言えないのがもどかしい。嘘も方便という言葉があるが、それはこんな時のために存在する諺なんだろう。でも、はっきりと否定せずに、ただ手を軽く平つかせてにげるように去っていくのが俺の今の姿だった。



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