恨み辛み=お門違い
人がここから増えていく予定。ちなみにもう三人はどんな人物かを検討済みだったりする。そんなわけでFours Dead開始です。
「・・・・・」
いつもと同じ天井が目に写る。何の言葉も出ず、俺はただベッドに横に仰向けになったまま動かなくなっていた。
何もかもが嫌になるほど疲れ切っていた。登校拒否になってしまうくらいに俺は身も心もボロボロになっていた。
恐らく、今日の日付は前と同じ、雫と月、どちらかの方へと赴くことを決める日だろう。何故なら、俺は月の方へと行った時点で選択肢を誤ってしまっていたのだから。この結果がそれを物語っている。
叫びたくなるほど嫌気がさすのに、叫び声すら上げられない。何も考えたくない。何も感じたくない。いつもの変わらない日常に戻りたい。だが、その気持ちとは裏腹にそいつはまたピョコんと身を乗り出して現れる。
「どもども白奈君。どうやら今回もまた失敗しちゃったみたいだね」
「・・・・・」
ニヤニヤと笑う雨瑠。いつもならさらりと流せていただろう。しかし、今の俺は前とは違う。この理不尽ゲームに巻き込んだ者達に憎しみを抱いているのだ。
その憎しみが身体を動かす糧となり、俺は勢い良く起き上がって雨瑠の胸ぐらを掴み上げていた。いっそ殺してもやりたい衝動に突き動かされながらも、その感情をどうにか自制心で押さえ付ける。
「ハァ・・・ハァ・・・」
「・・・・・良いよ? 殺しても」
「っ・・・」
思わぬ一言と“その表情”を見て俺は冷静になり、雨瑠の胸ぐらを放してベッドに腰を下ろす。こいつはゲームの支配者の関係者なのに、何故そんな顔をするのか意味不明だ。何も理解できなかった。いや、でも一つだけ分かったことがあるかもしれない。雨瑠が感じている一つの想いを。
「お前・・・本当は“乗り気じゃないだろ”」
「ハハッ、僕がマッドサイエンティストみたいに歪んだ性格している奴だと思ってた?」
「・・・・・いや、そんなクソ野郎なら、俺の味方だなんて言わねぇはずだ」
「そっか・・・白奈君はホントにお人好しだなぁ~」
「お前に言われても嬉しかねーよ」
雨瑠は今・・・苦笑して今にも涙を流しそうな顔をしているのだ。それが一体何を表すのか、大体の想像が付いた。
先にも言った通り、雨瑠はこのゲームに関しては乗り気じゃない。つまり、好きで自分から俺をゲームに巻き込んだわけではないということだ。巻き込んだ張本人が雨瑠とは限らないが、少なくとも雨瑠は恨むべき相手ではない。雨瑠は言っていたのだ。基本的には俺の味方だと。もし、俺の考えとは全く裏の者ならば、疲労しきっている俺を否定的に嘲笑うかするだろう。
あくまでこれは俺の憶測だ。しかし、多分当たっていると思う。雨瑠は“俺に言えない何か”がある。その内容自体は検討も付かないが、きっとまだ何か秘密があるはずだ。でも、それを直接雨瑠には聞こうと思わなかった。きっと誤魔化されて終わりだろうと思ったから。
「なぁ雨瑠、一つ良いか?」
「何かな? スリーサイズ? いやー実は最近胸が少し大きくなってくれてねぇ~、そんな僕は上から――」
「違ぇ!! んなくだらねぇこと聞く雰囲気じゃねぇだろ今っ!!」
「ちぇー、ほんのジョークなのにさー。それで何?」
「お前はさ・・・このゲームをクリアしてほしいと思ってるか?」
「・・・・・」
呑気に口笛を吹いてマイペースだった雨瑠の表情が下に伏せられ、曇る。
「・・・・・これくらいなら言っても“違反”じゃないよね・・・・・」
消え入りそうな小さな声で呟いていた。俺に聞こえないように言ったのだろうが、聴覚は良い方なのだ。にしても、今のは一体どういうことだ?
だが、その疑問を解消する前に雨瑠は俺に背を向けて言う。それは俺にとって、前進の一歩を踏み出させてくれる言葉だった。
「少なくとも・・・少なくとも僕は・・・ゲームに巻き込まれてる白奈君本人よりも・・・このゲームをクリアしてほしいと思ってるよ」
「お前・・・やっぱり何か隠し――」
「ごめんね白奈君・・・僕の口からは何も言えないんだ・・・でもこれだけは言える・・・これだけは伝えたい・・・」
へたりと床に落ちて女の子座りになりながら、今にも出てきそうな涙を堪えるかのように、必死に作り笑いを浮かべて俺を見つめる。
「お願いだから・・・クリアして見せて・・・何度も殺されても、何度も死にたくなる思いになっても、何度も大切な繋がりを傷付けられようとも、早くこのゲームを・・・最低だし勝手なことばかり言ってるのは十分に理解してる・・・でもそれでも僕は!!」
「もう良い、分かったよ雨瑠。だからそれ以上何も言うな」
俺はベッドから立ち上がると、雨瑠の方に近付いて行き、そっと身体を引き寄せて優しく抱き締めた。
「駄目だよ白奈君・・・そんなことされたら僕・・・」
「何となく分かる。お前は言いたくても言えない事情をもってるんだろーな。でもそれが言えなくて苦しんでる。自暴自棄に陥ってるってところか」
「・・・・・」
「どんな事情があるのかなんて俺には分からねぇ。でも、良いんだ。今は何も言わなくて言い。だから強がってねぇで弱味の一つも見せてみろ。否定も何もしねぇからよ。な?」
「・・・・・ホントッ・・・・・白奈君ってさぁ・・・・・」
俺の胸に顔を埋めてくる。誰かにすがり付くように。誰かに目一杯甘えるように。
「お人好し過ぎて・・・・・気持ち悪いよ・・・・・ぅぅ・・・・・ぅぁ・・・・・」
腰に手を回してきて力を入れてくる。俺は慰めるように雨瑠の頭に手を置いてそっと撫でる。そこで、雨瑠の我慢が切れた。
「うあぁぁぁぁぁぁ・・・・・あぁぁぁぁぁぁ・・・・・ぁぁぁぁん・・・・・」
ポロポロと大粒の涙を流して大声を上げて泣き出した。鼻水を出したまま、目を拭かずに何度も何度も。
雨瑠は俺には想像付かない何かを背負っている。この涙の量がそれを物語っている。原因は分からないが、俺だけじゃなく、雨瑠も同じように苦しんでるんだろう。その気持ちは痛いほどに伝わってきた。
今はまだ良い。でももし、このゲームが全て終わった時。その時には聞かせてもらおう。雨瑠が何を抱え、苦しんでいたのかということを。そのためにも俺は進まなければ。何度挫けようとも、何度心を折られようとも。
このゲームにだけは絶対に負けたくない。誰の思惑か知らねぇが、もう二度と何もかもどうでも良くなるほどに衰弱してたまるか。どれだけ選択肢を誤ろうと、どこまでも突き進んでやる。
改めて引き締まれた固い決心を胸に秘めて、今は泣き続ける雨瑠のためにこのままでいてあげよう。そして、しばらくの間、雨瑠は俺の胸の中で泣き続けた。
~※~
「あーあー・・・だらしないところ見せちゃったな~・・・」
あれから二十分程雨瑠は泣き続け、そして泣き疲れた果てに眠ってしまった。そして更に二時間後、目を覚ました雨瑠は俺の膝を枕にしたまま苦笑しながら溜め息を吐いた。
「別にだらしなくねーよ。誰にでも弱味っつーのはあるんだよ。気にすることじゃねぇ」
「それでも男の子の前で号泣するのは、僕でも抵抗があるんだよぉ~!」
「確かに、これでもかってくらいに泣いてたな。意外だったわ~、プッ・・・あっ、すまんすまん、思わず吹いてしまった」
「うぐぐぐぐ・・・やはりさっきの優しい白奈君は偽者だったのかぁ・・・そうやって私を騙したのね!? 貴方の目的は私の身体目当てだったのね!? 不潔!! 最低だわ!!」
「止めてくんないその演技? 何その無駄に高クオリティの演技力?」
「不潔!! 淫乱!! スケベ!! ヤりまん!! 童貞!! たらし!!」
「何もそこまで言わなくても良いだろ!?」
「うるさいうるさい!! 白奈君なんて嫌いだー!!」
「いだだだだっ!! 乳首を引っ張るな乳首を!!」
「アハハハハッ!! タったタった!! 咲夜さんの二の舞!!」
「やかましいわっ!!」
やっぱりこいつはこの方が性に合っている。女の子泣きっ面は似合わないだろう。やかましく騒ぎ立てる雨瑠に振り回されながら、俺は玄関から咲夜が訪れる足音を聞くのだった。
作品同時進行しているため四日に一度更新に致しますことをご報告いたします、申し訳ありません・・・・・




