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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
~First Dead~
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大人しい子=小動物系少女

 休日終わって学校の日。今は遅刻するという愚行を犯さず、朝六時に起床してあれやこれやと登校前の準備を行っている真っ最中である。


 朝の食事はバランス良く食べ、食後には必ず腕立て伏せを何度か行う。真人間かと思われてもしょうがない。だって癖というか、習慣になっているのだから。


「ぶぅ……一度くらい寝坊してもいいのに」


 腕立て伏せをしている最中で、すぐ傍には咲夜の姿があった。既に身支度を整えて、制服姿になっている。


 何故こんな朝から俺の家(と言ってもアパートだが)にいるのか。理由は簡単だ。


 ピッキングならまだマシだろう。いや、咲夜もピッキング程度で済んでいたのだ。しかし、あろうことかこいつは高校一年の時にどうやってか、俺の部屋の合鍵を作成していたのだ。つまり、何時でも俺の家に入り放題ということである。


 無論、見過ごすようなことはせずに取り上げようとした。だが、いざ取り上げると阿鼻叫喚して近所の人達から「うわ、女の子泣かすとかクソがいるクソが」みたいなことを目で訴えられてしまったというトラウマがあり、もうどうにでもなれと諦めてしまったのである。


 そんなわけで、毎朝欠かさず咲夜は俺の家にやって来ているのである。当然登校も一緒だ。断っても無駄なことは明白である。


「俺は朝に強い人間なんでね。寝坊で遅刻するという愚行は犯さないのだよ」


「そ、そんな、朝に強いだなんて……じゃ、じゃあ白奈とHする時は朝の方がいいんだね」


「やっぱキメェなお前」


「キメェだなんて……ハァハァ……白奈朝からそんな罵倒プレイしてくるなんて……あぁまた乳首が……」


 咲夜は自分の身体を抱き締めてクネクネ動きながら、頬の色を紅葉色に変化させる。


 一般の人がみたらエロく見えるだろうが、俺は違う。キモいというか普通に引く。言うこと全てピンク一色にしてしまうこいつの脳内思考が普通に怖い。何時この痴女に貞操を奪われてもおかしくはないだろうし、用心しなければ。


「うし、ノルマ終わりっと。んじゃシャワー浴びてくる」


 腕立て伏せを終えると、汗を流してサッパリするために風呂場へと向かう。これも朝の習慣だ。


「シャワーを浴びてくるって……ま、待ってよ白奈。私少し身体汚い部分があるかもしれないのに……。で、でもそれで白奈が良いって言うなら私は――あれ?」


 そのネタはもう嫌と言うほど聞き飽きた。俺は微動だにせず、風呂場に侵入される前にとっとと済ませてしまおうと、そそくさと着替えて風呂場に入った。


 十分程度で全て洗い終えて風呂場を出る。洗濯機の上に置いてある制服セットに着替えて、最後に歯を磨いて終了だ。


 現在の時刻は七時きっかり。完璧過ぎて自分に酔ってしまいそうだ。


 学校は自転車で十分で着くところにあったりする。つまり、後一時間はフリータイムがあるということだ。この短いフリータイムだからこそ、何も考えずにゆっくりできるというものだ。咲夜がいなければもっとゆっくりゆったりできるのだが……。


 とりあえずテレビでも見て惚けるか。うん、今日はそれで良い。


 他にも有意義に時間を過ごす方法はあるが、たまには何もしないでだらけるのも良いだろう。規則正しい生活を毎日送っているのだから、これくらいは大目に見てくださいな。誰に言ってんのか知らないけど。


 洗面所から出てリビングのドアを開く。そこには当然咲夜の姿が。


 しかし、ずっと黙って待っていたわけではない。テレビ台の下にある入れ物スペース。見事にそこを荒らされていた。ちなみにそこにはゲーム機類が入っているだけのはずだが、別にゲーム好きでもないのに、何が彼女を駆り立てたのか? その答えはすぐに出た。


「白奈……これ何?」


 明らかに分かりやすく不機嫌になっている咲夜が一つのゲームパッケージを持って、表紙を俺に突き付ける形で見せてきた。それは正しく、俺が友人から借りていたあの悍ましい泥沼ゲームだった。


「何って……ゲームパッケージ?」


「あぁそう、そうやって誤魔化すんだね。私には分かる。これはテレビ画面の奥の女の子とイチャイチャするゲームだよね? 確かその名はギャグゲー……」


「ギャルゲーな。そこに求める笑い要素はないからな?」


「そうそうギャルゲーだよギャルゲー、何言ってんだろうアタシ……ってそんなことはどーだっていい! どういうこと!? 浮気だよコレ!」


「いや浮気ってなんだ。俺は誰とも付き合ってる覚えなんてねぇよ」


「欲求不満なの!? アタシ白奈のためなら何でもするよ!? というか何で黙ってたの!? 何で何も言ってくれないの!? 彼女ならここにいるでしょ!? ほら、絶賛おっぱい揉み放題だよ!」


 自分の胸を鷲掴みして揉み解しながら近寄って来る。俺の視線は自然と豊満なそれに……って待て待て落ち着け俺。姿形だけで女を判断するなと何度も心に固く誓っただろう? こいつは見た目だけ良いだけの残念系の美少女なんだ。意識してはいけない。えぇ、いけませんともよ。


「やかましいわ。ただの薄い興味本意でやってみたものだから、そういう思い入れなんてありゃしねーっつの。しかもそれ、全然イチャイチャするようなギャルゲーじゃなかったしな。どちらかというと殺人ゲーだ」


「殺人……白奈、人を殺したいの? いつからそんな猟奇的な人に……」


「何でなんでもかんでもそういう思考に落ち着くんだよ!」


「こ、殺されるのは流石に嫌だけど……アッチの意味でなら私を殺しても良いよ! さぁ、自分を曝け出して白奈!」


 咲夜は床にダイブする形で倒れ込むと、仰向けになって両手両足を大きく広げて、性的な意味を込めて俺を見つめてくる。


 そんな彼女に対し、軽蔑心全開の冷えきった眼差しを送って、顔面に荷物のリュックサックを叩き落とした。ズガッと鈍い音が鳴り、咲夜の顔は違う意味で紅葉色に染まる。


「筆箱痛っ! 筆箱部分痛っ! しかも凄い固っ!」


 リュックサックの角の部分を使って叩き落としたのだが、どうやら角には筆箱が収まっていたらしい。まぁ、それでも俺には何も関係ない……。


 痛みに悶える咲夜を置いて家を出る。まだ時間に余裕があるが、適当に寄り道でもして行こう。戸締まりは不服にも咲夜が合鍵持っているから心配無しだ。




~※~



 家を出て数分後。俺は近くのコンビニで立ち読みをしていた。月曜日=ジ○ンプの発売日ということで、丁度良い暇潰し道具を見付けたわけだ。どうやらまたハ○ター×ハ○ターが帰ってくるらしい。まぁどうせすぐにいなくなると思うのだが。


「白奈さん。おはようございます」


「ん?」


 不意に後ろから、か弱そうな声が聞こえた。読み終えたジ○ンプを棚に戻してから後ろを振り返ると、そこには見知った女の子が立っていた。


 小柄でいかにも大人しい印象を放つ女の子。名前を潤戸雫うるおとしずくと言う。彼女とは中学二年の時に部活で知り合い、今は同じ高校に通っている関係だ。ちなみに一つ年下なので、先輩後輩関係であったりもする。


「珍しいな雫。まだ学校に行くまでに時間あるのに」


「あっ……そ、その~……そう! 家の飲料が切れてしまったんです! スポーツドリンクがないと私ってやっぱり駄目みたいで!」


 何故か急に慌て出す彼女が持っているビニール袋の中には、スポーツドリンク――ではなく、たくさんの干物がたんまりと。


「うん……干物好きなことは知ってるから」


「あぅぅ……」


 憐れむ視線を送りながら肩に手を置いてやると、目尻に涙粒を浮かべてしょぼーんと落ち込んでしまう。


 これが雫クオリティー。うん、やっぱ女の子らしくて可愛いな……どっかの馬鹿と違って。何故俺は彼女ではなく、あの馬鹿と幼馴染なのだろうか。納得がいかない現実がそこにある。


「そうですよね……干物好きな女の子なんて気持ち悪いですよね……いえいいんです、どうせ私はこのまま白奈さんに愛想を尽かされてまた一人孤独に寂しく虚しい学園生活を送ることにな――」


「ストップストップ! 大丈夫だって! 嫌いになんかならねぇし、むしろ……」


「…………?」


 あ、危ねぇ、思わず墓穴掘るところだった。こんな平凡な日に女の子に告白とか萎えるだろ。


 正直に言うと、あの馬鹿に振り回されてるせいで、こういう女の子らしい女の子と関わっていると、滅茶苦茶安心すると共に……付き合ってみたい、みたいな浅はかな思考を持ってしまうのである。「あっ、あの娘可愛い」とか「あの人綺麗だな~」とかそういう軽い気持ちだ。勿論、そんな軽い気持ちで「君が好きだ!」なんて言うつもりは微塵もない。せめて三日は使って真剣に考える。


「白奈さん……その……むしろ……なんですか?」


 どうやらスルーしてくれなかったようだ。恥じらうように顔をほんのり赤くしてモジモジ手を動かしながら、チラチラ俺を見つめてくる。なんだこの可愛い生き物は。くそっ、いっそのこと抱き締めてやりたい!


「んん、ゴホンッ。ま、まぁそんなことより? もうすることもないし、どうせなら一緒に学校行こうか」


「え? そ、そうですね! あはっ、あははは……ハァ……」


 何故か最後に思いきり溜め息を吐かれた。何? 何か言って欲しかったの? 駄目だ雫、可愛らしい君はもっと格好良い男性と親しくしないと。俺のような性格歪んだらムッツリスケベなど眼中から外してしまえ。自分で言ってて涙が出そうだが……。


 特に買うものもないので、雫と共にコンビニを出た。


 そのまま平和に学校に行けたら、どんなに幸せだったことか。すっかりジ○ンプと雫のお陰で忘れてしまっていた。ストーカー馬鹿という存在を。


「おはよー雫ちゃーん?」


「ひっ!?」


 慎むことなく雫に敵意を剥き出しにしながら、俺の右腕に抱き付いてくる咲夜。その牽制にビビって雫は身体を跳ねさせて、一歩退いてしまう。


 俺の幼馴染ということで、咲夜も俺と同じ頃に雫と知り合いになっているのだが、咲夜自身は雫のことを良く思っていないようなのだ。そして雫も雫で咲夜と会う度に牽制をかけられているので、“怖い人”と認識してしまっている。まぁ、確かにこいつは色んな意味で怖いから、大いに同情する。でも俺としては二人に仲良くなってもらいたいのだが……。


「おいコラ、出会って早々睨み効かせてんじゃねぇよ。仲良くしろって仲良く」


「無理。だってこの子、私から白奈を奪おうとしてるんだもん。何で敵と仲良くしなくちゃいけないのかな?」


「うぅ……」


 この通りだ。何を言っても無理の一点張り。しかも理由は俺にとって不合理かつどうでも良いことなのである。


 変なところに頑固な咲夜は、雫を睨むことを止めることはなく、雫はビクビクしながら俺の左隣に並んで歩いていくのだった。


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