膝枕=思わぬ事態
徐々にお気に入り読者様が増えている模様。こんなドロドロした作品を登録してくれてありがとうございます、いやホントに。書いてる自分は書いてる自分にヒいているというのに・・・・・
「なら遠慮する必要なんて何もないよね! はい、寝て良いですよ~」
「いやでも俺にも抵抗というものが・・・」
「ええぃ問答無用! 日頃お世話になってお礼くらいさせてよ!」
「お、おいコラ咲夜」
「良いからほら、大人しくしててよ」
「ぐっ・・・ホントにお前は・・・」
愛想笑いで誤魔化そうとしても無駄だったようで、珍しく強引に咲夜が俺の頭を掴んで膝に乗せた。身動きを取ろうとするが、体勢が体勢だけに思ったように力が出てくれず、結局黙って膝枕をされる羽目となった。
仮に月に見つかった時が怖いが・・・まぁ、そんな都合悪くこの場面に遭遇してくることもないだろう。それでも素直に心の中では謝っておく。すまん月。幼馴染の関係性として大目に見てくれると助かる・・・・・
不覚だと充分自覚はしているものの、女の子の人肌というのはどうしてこうも良い感触がするのだろうか。柔らかくて暖かい感覚が後頭部に伝わってくる。いつも使っている枕よりも断然居心地が良い。
「エヘヘ・・・・・」
「なんだよ急に笑って」
「ん? 何かこうして白奈と二人きりで過ごすのって久し振りな気がしてさ」
「そうか? 基本お前はベタベタくっついてくるからなぁ・・・」
「・・・迷惑かな」
急にシュンとなり肩を落としてしまう。らしくもない反応だな全く。辛気臭い顔を晴らすために隙だらけの額にデコピンを放つ。「あぅっ」と少々間抜けな声が漏れた。
「んな気遣い今更されても手遅れだっつの。確かにお前は行きすぎた行動取ってる時が多々あって、それに巻き込まれる俺は毎回疲れてるけどよ・・・でもまぁ・・・ストレートに嫌だと思ったことなんてねーよ」
「本当?」
「さっきお前が長い付き合いっていったばかりだろーが。嫌だったら最初から全力で否定してるっての」
「白奈・・・」
「疲れても楽しくやれてっから良いんだよ。だから、んなことイチイチ思い詰めるレベルで気にすんな。少しは自重はして欲しいけどな」
そして最後にニッと不適に笑って見せる。一応これは俺の本心だ。いいだけ咲夜に振り回される日常はかなり疲れる。多分、そこそこ距離のあるマラソンをするよりかは疲れる。でも、それを絶対的に否定したことは一度もない。
いつかに言ったことがあるかもしれないが、一人ぼっちの俺と常に一緒にいてくれる咲夜には感謝しているのである。だが、それは咲夜も同じ境遇だから俺と一緒にいたいと思っているのかもしれない。俺と同じく、咲夜にも両親という存在は既にないのだから。と言っても、俺の両親のように事故で他界したわけではない。咲夜の場合は月と同じように“見捨てられた”のである。だから咲夜は一人暮らしをしているのだ。
俺は俺で、咲夜は咲夜で抱えがたい現実を背負っている。だからこそ、そんな辛い現実を背負う者同士だからこそ、俺達は普通の友達という関係性を越えた繋がりを繋げているのかもしれない。幼馴染という関係性も大きく関係しているのだろうが。
咲夜は普段見せたこともない柔らかい微笑みを浮かべると、左手で俺の頭をゆっくりと撫で出した。
「お、おい咲夜」
「何?」
「撫でるのはちょっと・・・・・」
「気持ち良いでしょ?」
「そ、それは・・・まぁ・・・」
「白奈は頭を撫でられるのが好きだってこと、ちゃんと知ってるんだからね~アタシ」
その事実を理解されていることが素直に悔しく思うも、いざされてしまうと抜け出す抵抗が薄れてしまう。俺は両親に甘える前に失って天涯孤独となった身。だから母性を感じられる行為には弱いのかもしれない。今でも思わず涙が出そうになってしまうくらいだから。
咲夜は目を細めて俺の頭を撫で続ける。その姿はさながら女神のように見えているようだ。こうして落ち着いていれば美人の類いに数えられるだろうに、やっぱり残念・・・って、今は失礼なことを考える時でもないか。
「・・・アタシもね白奈」
「ん?」
「アタシも・・・白奈と一緒にいられて楽しいよ。白奈と出会えて本当に良かった。白奈のことを好きになれて本当に良かったよ」
「・・・・・」
調子が狂う。いつもの変態じみた咲夜が全くおらず、ここにいるのは普通に可愛い女の子・・・
「んんっ!」
急に照れ臭くなり俺は咲夜の膝枕から起き上がった。これ以上この状態でいたら毒されそうだったから。
「むっ、そのまま寝ても良かったのに」
「その言動からしてやっぱ何か企んでたんじゃねーかコラ?」
「ぺ、別にぃ~? 白奈が寝ている内に唇を奪おうとだなんて考えてないしぃ~?」
あぁ、いつものバカ面に戻ってしまった・・・でもこれがやっぱ咲夜らしい。思わず頬が緩んでしまった。
「やっぱ馬鹿なお前」
子供をあやすように頭を撫でる。
「そ、そんな子供扱いされてもアタシの機嫌は――」
「ありがとな咲夜」
「・・・えぇ!?」
何故かお礼を言ってしまった。口が滑ったとはこのことかもしれんな。ここぞと言わんばかりに咲夜が食い付いて来てしまった。
「あの白奈が・・・常日頃罵倒か制裁しか与えてこないあの白奈が感謝の言葉を・・・フラグッ!! これは白奈と色んな意味で繋がるフラグッ!!」
「深い意味はねーから深追いすんじゃねぇ」
「こ、この勢いがあれば今夜にでも白奈に夜這いをかければ・・・おぉぉぉぉ・・・し、失禁しそう・・・乳首はタつを通り越して逆立ちしそう・・・というかもうしてる・・・ム、ムフフフフフフッ・・・・・」
ここが公園だとしても気にかけることなく、咲夜は砂の地面をゴロゴロと転がり回る。そんな彼女を見つめる子供達の視線は、透き通った綺麗な目でも冷たくなっていた。出来ればあんな目、見たくなかっ――
「っ!? 咲夜っ!!」
「ムフフ・・・むぉっ!?」
突如視界に入ってきた物を咄嗟に気付くことができたのは奇跡かもしれない。咲夜目掛けて飛んできていたそれをいち早く確認した俺は、身を乗り出して咲夜の上に覆い被さる形で四つん這いになった。
そしてその後の刹那に俺の背中にズシュズシュッと生々しい音と共に“それ”は突き刺さった。そこからすぐに痛みが生じる。
「し、白奈・・・そんな・・・こんな場所で大胆・・・でもやっぱりさっきのはフラグだった――」
「ぐぅ・・・くっ・・・・・」
「白奈? どうし・・・っ!? 白奈!?」
痛みに耐えられずに俺は咲夜の上に被さる形で倒れてしまった。流石に俺の異変に気付いた咲夜が身体を起こすと、俺の“背中”に刺さっているそれを見てすぐに顔色を変えた。
咲夜に飛んできていたのは二本の鋭いピックだった。それも針先が通常よりも大きめにできている物だ。俺の背中に突き刺さったピックの傷口からドロドロと血が流れているのが感じられる。
「ぐぅっ・・・誰だ・・・」
公園にいた子供達の親が悲鳴を上げる中、俺と咲夜は犯人であろう姿を発見した。しかしその素性は分からない。顔を真っ黒なマスクで隠し、前身を真っ黒なジャケットとズボンで覆い隠しているからだ。
咲夜に襲撃した犯人は悲鳴を上げられた瞬間に公園の出口から走り去って行った。そしてそれを見ていた咲夜の顔付きが豹変する。
「あいつ・・・殺す!!!」
「ま、待て咲夜・・・追うな」
「よくも白奈をあのクソ野郎!!! 原形分からなくなるくらいに切り刻んでぶっ殺す!!!」
「咲夜!!」
溢れんばかりの殺意を醸し出す咲夜を見て、俺は倒れたままの状態で咄嗟に咲夜の手首を掴んだ。それでも追おうとする咲夜だったが、何度目かの俺の呼び掛けで冷静になってくれた。
「わりぃ咲夜、救急車呼んでくれると助かる・・・・・」
「わ、分かっ――」
でも咲夜に伝える前にサイレンの音が聞こえてきた。どうやら、子供達の親御さんが既に呼んでくれていたらしい。俺は電話をかけてくれたおばさんにお礼を言うと、病院に搬送されて行った。動揺して涙をポロポロ流して何度も呼び掛けてくる咲夜を目尻に移して。




