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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
Third Dead
27/46

二日目休日=近頃の若者

二日目の休日の日曜日。今日は雨瑠に付きまとわれることはなかった。昨日、良いだけ遊んでくれたことに満足してくれたのか、今はリビングのソファーの上に横になってスヤスヤ寝ている。幸せそうにニコニコしながら涎を垂らしてお腹も出して。仕方のない奴だ。


出ている腹を元に戻してやり、ティッシュで涎を拭いてやった後に毛布をかけ直してやる。何かもうお母さんになった気分だマジで。でも放っておけないからしょうがない、これは俺の性分だ。


現在午後一時。外は晴れ晴れとした快晴でさんさんと太陽が青空の元で輝いている。まさにお出掛け日和というやつだ。午前中は良いだけ休ませてもらって肉体的な身体はもう回復してくれている。後は精神面の方を癒せば完璧だ。


天気の良い日は散歩やウィンドウショッピングに限る。というわけで、俺は一人で外出することにした。念のため出掛けてくることを書き置きで残しておく。それから外に出掛ける様の私服に着替えて、俺は玄関の鍵を閉めて街へと向かった。




~※~




「あっ、し、白奈じゃ~ん。ぐ、偶然だね~?」


「さよなら」


「ままま待って待って!! ごめんなさい嘘です発信器使ってストーキングしてきました!!」


「そうか。さよなら」


街に来てからキッチン用品売り場にてウロウロすること二十分。そこで会いたくない馬鹿と出会した。嫌だ、日曜日にまで体力使いたくない。そしてそんな正直なことを言っても犯罪は犯罪だ。関わりたくないという気持ちを一心に俺は早歩きで逃亡を図る。


「待って待って待ってよぉ!! どうせなら一緒にショッピングしよう!? その方が楽しいでしょ!? ねぇ!? ねぇ!?」


「知らん」


「知ってよぉ!?」


「忘却」


「記憶の抹消!? 駄目だよ白奈、大切な思い出を消しちゃ!! アタシとベッドの上で過ごしたあの夜――」


「うるせぇ」


スパーンッ! と一発頬にビンタを放つ。情けない声と共に咲夜は倒れようとするが、寸前のところで耐え抜いて俺の胴体にしがみついた。絶対逃がさんと言わんばかりに。


「おーねーがーいー!! デートしようよデートォォ!!! デートデートデートォォ!!!」


「帰れ」


やはり俺は素っ気なく一言で済ませて歩いていく。そしてついに途中で咲夜が引き離れた・・・と、喜べるのはほんの一瞬だけ。


「グスッ・・・白奈アタシのこと嫌いになったんだぁ・・・グスッ・・・エグッ・・・」


「いやなんでそうな――」


いつものように泣き出してしまう咲夜。しかもキッチン用品売り場という場所が更に状況を悪くさせる。冷たく、軽蔑が込められた視線があちらこちらからびんびん伝わってくる。


「女の子泣かしてるわ・・・これだから最近の若い男はねぇ・・・」


「あんな可愛い娘を泣かすなんてクズよクズ・・・」


「あの子将来必ず就職に失敗するわね・・・女のカンが働いてるわ・・・」


「こうしてやれDVだ、やれチャラ男が増えていくのね・・・嫌な世の中になったわよねぇ・・・」


「・・・・・」


何も言えなかった。そんな俺の心は既にボロボロだ。女の子一人泣かした罪が、オバチャン主婦達からのボロクソ罵倒。初めての体験だがこれは辛い。今にも涙が滝のように流れ出てきそうだ。何もここまで言わなくて良くない? しかも俺悪くないのにこの失態? マジで泣き叫ぶぞこの野郎。


屈強な理性と自制心でどうにか泣き叫ぶことには耐えて、俺は何も言わずに咲夜に手を差し出した。そんな俺の行動で泣きべそ掻いていたはずなのに一変し、御機嫌顔で手を掴んで起き上がると、その腕に抱き付いてきた。


「エヘヘ~♪ 白奈だ~い好き♪」


咲夜自信は御機嫌になってくれたようだ。しかし、周りの主婦達はそういかなかったようだ。


「都合が悪くなるとああやって優しくするって、都合の良い男ねぇ・・・」


「見るからに釣り合ってないカップルね~・・・あの娘にふさわしい人は他にいるだろうに・・・」


「・・・・・あぁ?」


そしてそのひそひそ話は咲夜の地獄耳に確かに筒抜けてしまったようだ。その瞬間、ニコニコ顔だった咲夜が豹変し、殺気が込められた目付きで周囲を睨み付けた。その変わりようを直に見て悪寒に襲われたのは気のせいじゃないだろう。


「誰だ白奈の悪口ほざいたババァは? 殺すぞ」


「ひいっ!?」


「い、行きましょ行きましょ!」


主婦達も咲夜の豹変ぶりに恐れを抱いたのだろう。顔に青筋を立てて数秒後に周りには誰もいなくなっていた。


「白奈大丈夫?」


「え? あっ・・・お、おぉ、特に異常はねーけど・・・」


眉を伏せて心配の眼差しを向けてくる咲夜。そこには今さっき放ったばかりの殺気は微塵も感じられない。まるで二重人格を使い分けているかのようだ。慣れたと言えば慣れたが、でもやはり激怒した咲夜は何度目の当たりにしても素直に怖い。


「気にすることなんてないよ白奈。他のクソババァ共が何を言おうと、アタシは白奈の良いところを一番理解してるからね! 格好良いところとか、料理が上手なところとか、不器用に見えて女の子に優しいところとか、実は寝顔が可愛いところとか、他にも――」


「あー、はいはいはい! もういいから分かったから! 褒め殺しはそれはそれで恥ずいから止めろ!」


「ほら、そういうところとか可愛い~♪ ん~、やっぱり白奈はいつ見ても可愛ぶふぉ・・・」


「女に可愛い可愛い連呼されても嬉しかねーよ。んじゃ俺は行くんで」


「うぐっ・・・ま、待ちぃよぉ~・・・お腹には白奈の結晶を身籠るための袋が備えられてるのに・・・ムフフ・・・思わず想像妊娠しちゃいそう・・・ムフッ、ムフフ・・・・・」


最近は制裁をしても全部快楽に変えてしまうからホントどうしようもない。ある意味ドMって、どんな頑丈な鎧を着込んだ兵士よりも無敵な耐久力を持ち合わせているのかもしれない。


俺は一人腹を抱えて涎を垂らしながら興奮する咲夜を目尻にキッチン用品売り場を後にした。




~※~




ウィンドウショッピングに飽き、ぽかぽかした陽気の元、俺は家の近くにある公園にやって来た。そこには、わいわいはしゃいでいる子供達の姿があった。その光景を目尻に見ながら俺は空いているベンチに腰を下ろし、後ろから付いてきていた咲夜も、俺にピッタリくっつく形で隣に座った。


「ん~、子供は悩みとか無さそうで羨ましいよね~」


「え? 何? お前にも悩みとかあんの?」


「えぇ・・・アタシってそんなマイペースな人に見えてるの?」


「マイペースっつーか、毎日ムラムラしてる痴女にしか見えねぇ」


「くっ・・・本当のことだからこそ否定できないのが悔しい・・・夜の妄想性行為だけはどうしても止められないし・・・」


知りたくもない日課をボソッと呟かないで欲しい・・・聞いてて悲しくなるから。


「普通そういうのは男がすることだと思うがな・・・」


「え? まさか白奈も妄想性行為を――」


「してません」


「ホントに?」


「ホントに」


「少しも?」


「少しも」


「微塵も?」


「微塵も」


「何フェチ?」


「胸フェチ・・・・・って何言わせんだっ!!」


首の横に垂直チョップを叩き込むが、何処からか取り出したメモ帳に食らい付くようにメモを書き込み、とうとうダメージを無効化されるにまで至ってしまった。


「うんうん・・・これはクリアしてるからOKアタシ・・・幼稚園から牛乳飲み続けてきたのが項を成してくれたね・・・ムフフ、ムフッ・・・・・」


まさかこいつのペースに釣られて暴言吐いてしまうなんて・・・そうですよ胸フェチなんだよ。揉みたいとか、そこまで欲求を求めるレベルじゃないからまだマシだと思うが・・・うん・・・しょうがないだろ。だって俺も男の子だもの。下心が無いわけじゃない。


「あぁ・・・また精神が疲労していく・・・」


「疲労? 何か疲れることでもあったの白奈?」


「自分の胸に手を当てて考えてみやがれコノヤロー」


「そ、そんな・・・胸に手を当てさせてくれだなんて・・・子供達がいるところで白奈大胆・・・」


「んなこと一言も言ってねぇっ!!」


「当てるどころか揉んで良いよ!! ていうか揉んで!! 滅茶苦茶にして!! さぁ来いCome on!!」


来いと言われたので望み通り行ってやった。ただし、顔面に張り手を突っ込むという意味でだが。


「うぶっ・・・鼻血出てきちゃったよ・・・白奈ティッシュ・・・」


「知らん」


「・・・・・グスッ」


すかさず携帯していたポケットティッシュを差し出した。何でも泣けば許されるという女の思惑はヘドが出るほど嫌いだ。でもそれは自覚していればの話だ。咲夜の場合自覚せずに泣いてしまうので、どうしようもないという事実があるのである。タチが悪いと言うかなんと言うか・・・・・


「あ゛ぁ・・・マジで疲れてきた・・・いっそ眠ってしまいたい・・・」


「うーん・・・じゃあアタシが見ててあげるから寝て良いよ。ほら、私の膝を枕にしていいから」


そう言ってポンポンと自分の膝を叩く。


「お気遣いなく、寝てる間に何かされちゃたまらないんでな」


それにもし月に見られたり知られたりしたらヤバいかもしれないからな。少しでも引き金が引かれる可能性は減らす行為は損することはないだろう。


「ま、まぁ朝起こしに行く時は下心が少なからずあるけれども、こんなところで寝込みを襲うようなことはしないよ」


「いや、だとしてもだなぁ・・・」


「ほらほら良いから遠慮しないでよ。長い付き合いじゃんアタシ達」


「だ、だから俺は・・・」


「・・・それとも何かな・・・こういうことをしちゃいけない理由とか・・・あるのかな? そういえば最近白奈、桂と前よりも仲良くなってる気がするしね」


微笑んでいた咲夜の顔が急に無表情に切り替わる。声質も何処か冷徹さを感じさせられ、自然と額から冷や汗が流れ出てきていた。


「ありえない話だけど・・・まさかあのクソ女と“そういう関係”になってたりしないよね?」


ここまでカンが鋭いと相手の思考を読めるのか? と思えてしまう。今の咲夜の様子と過去の経験上からして俺は察することができた。もし、ここで正直に話すか、または何も言わずに無反応を見せれば、何らかの手段で殺されるかもしれないということを。


「・・・・・んなことあるわけねーだろ」


嘘を付くのはいくつになっても心苦しいと思うが、今の状況だと仕方ないことだ。嘘も方便とは良く言ったものだ。


「だよねだよね! そんなことありえないよね!」


「あ、当たり前だろ。あの月だぞ? あるわけねーだろそんな・・・」


「・・・? どうしたの白奈?」


「・・・いや、何でもない」


過去にも同じようなことは何度もあった。でもきっと気のせいか何かだろう。俺はたった今、一瞬だけ感じた“一点に俺を見ている視線”を無視して忘れ、誤魔化すように咲夜と笑い合っていた。


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