休日=居候の世話
月と恋人同士になって三日目。本日は貴重なお休みの土曜日だ。朝に咲夜が来ることがない、俺が唯一気を緩くさせて寛げる日にちだ。それは俺にとってのオアシスとか楽園とかユートピアと言っても過言ではない。
ちなみに、明日も特に用事はない。つまり、俺は二日間自由時間を過ごすことができるのだ。普通の人であれば「当たり前だろ馬鹿かプークックッ」みたいなことをほざきやがるだろうが、俺にとってそれは普通ではないのだ。
誰にも振り回されないで時を過ごす時間と言うのは、俺にとっては金庫の中にまた金庫を入れて、更に暗証番号で二重ロックしておくだけの価値があるお宝と同じ価値観を持っているのだ。もう大秘宝だ。ワン○ースだ。大袈裟なら大袈裟と思ってくれても構わない。俺は別に誰に何を言われようとも否定しないから。
ともかくだ。今日は自由時間の一日目。本来なら一体何をして過ごそうか、と考えるだろうが、そこからまず俺は違ってくる。俺は何かをしたいんじゃない。何もしたくないのだ。つまり、結論を言うと俺は今、何もせずにスヤスヤ眠っているということだ。
寝てる時というのは実に良い。自分だけの世界に入り浸って、何を妄想しても文句を言われない。食べたい物やエロいことや理想の自分の形、といったことを好き勝手に想像しても良いのだ。あぁ最高。睡眠最高。睡眠万歳。
だが、俺はある一つのこと・・・いや、一人の存在を忘れていた。そう、今までの俺ならば好き勝手に休日を過ごせたであろう。だがしかしだ。俺は現在一人で暮らしていないのだ。この家には、奴がいる。突如、俺を理不尽なゲームに巻き込みやがった張本人。見た目印象真っ白雪ん子の彼女。苗木雨瑠が。
「白奈君ひ~ま~。ねぇ遊ぼ~よ~、ねぇねぇねぇってば~」
ゆさゆさゆさりと、これでもか! というくらいに雨瑠が寝ている俺の身体を揺すってきている。現在の時刻は午前十時。とっくに起きても良い時間帯だが、俺はまだ眠たいのだ。起きたくない。朝日を拝みたくないという気持ちが俺を再起不能にしているのである。だからこそ、放っておいて欲しいのに、この疫病神は放置してくれないのである。逆に構え構えと甘えてくるばかりだ。
「ひ・ま! ひ・ま! ひ・ま! ひ・ま! あそぼ! あそぼ! あそぼ! あそぼ!」
布団の中に丸くなっている俺の上に覆い被さって、ピョンピョン上に跳ねながら何度ものしかかりを与えてくる。軽いとはいえ、勢いを付けられると結構痛い。でもそれ以前にウザい。そして殴りたい。
「あ~そ~ん~で~よぉ~! 白奈君、いっつも学校行ってて、僕一人で留守番してるんだからさ~! ご褒美に遊んでくれたっていいじゃんか~! むしろそれが事の流れじゃんか~! 暗黙の了解で即OKと心得ても良いくらいじゃんか~!」
確かに俺がいない間は雨瑠一人が俺の家で待つことになるが、だからなんだ。頼んだ覚えも褒美を与える道理も何もないわボケ。俺はまだ眠たいんだ。日頃の疲れを、ここぞというところで摂取したいんだ。でもその気持ちを雨瑠が暗黙の了解で理解してくれることもなく、ついにはベッドに置いてある枕で俺をポフポフ叩き始めた。力無いなこいつ。
「白奈く~ん・・・グスッ・・・遊んでよ~・・・グスッ・・・今日くらい・・・ズズッ・・・良いじゃんか~・・・グスッ・・・」
「ええい!! そんなことで泣くんじゃねぇ!! さっきからやかましいわ!!」
この野郎、俺が女の子の涙に弱いことを分かっててやってんのか? どーして俺の周りは泣き虫ばかりなんだ畜生が。無視できねーだろが、そんな対応されたら。
「白奈君あそぼ・・・あとお腹減った・・・グスッ・・・」
「あーはいはい、分かったから涙拭け馬鹿。とりあえず簡単な朝食作るから待ってろ」
「ママ優しぃ~♪」
「誰がシングルマザーだっ!!」
いや本当は分かってますよ。自分が何処ぞの母親のような体質になってきていることに。でもしょーがないじゃんかよ。泣いてる子を放っておいたら胸糞悪くなって胸の中がムカムカしてくんだから。そんなこんなで俺はスクランブルエッグを筆頭に簡単な朝食を作り、雨瑠のおねだりで食べさせてやりながら朝食を済ませた。
てなわけで、俺は寝る――
「何しよっかな~♪」
わけもなく、今日一日はこいつに潰されてしまうようだ。俺の平穏が・・・・・
「遊べ遊べ言うけどな。特に遊べるものなんて家にはねーぞ」
「ないなら作れば良いんだよ。道具を使わなくても遊べる遊びもあるんだし」
「例えば?」
「そうだね・・・例えば・・・・・」
すると雨瑠は突然床にうつ伏せになって背筋を伸ばして固まってしまう。
「・・・何してんの?」
「身も心も蛹になれるかという遊び」
もはや遊びじゃなかった。
「悪い、お前の変人っぷりに付いていけないわ。何考えてんの? 馬鹿なの? それとも空っぽなの?」
「まぁまぁこれは軽いジョークだよ。嫌味と書いてジョークだよ」
とりあえず一発だけゲンコツを脳天に叩き込んでおく。
「俺いなくても一人で充分楽しめてんじゃねーか」
「なーに言ってんの白奈君。今のはいわゆるショートコントというやつだよ。何事もウォーミングアップは必要でしょ?」
「ショートコントっつーか、ただお前の頭ん中がショートしてただけだがな」
「おっ、今の例えツッコミ良いねー。チ○ルチョコをあげましょう」
「子供扱いしてんじゃねぇ!」
でもちゃっかり貰う俺。だって美味しいんだものチ○ルチョコ。
「さてと、ここからが本番。そうだね~・・・なーにしよっかなー」
「なぁもう寝ていいッスか俺?」
「しょーがないなー。なら白奈君が興味湧くであろうなぞなぞを出すかな」
興味を湧くなぞなぞなんてこの世にゃ存在しないと思うんだが、とりあえず俺は問題に答える時に使うピロリンボタンを用意して座った。あれ? 俺もしかして実は楽しんでるこれ?
「それじゃ第一問!」
バババン! と、何処からか効果音が聞こえてきたが、気にしないようにしておく。
「僕は今、ノーパンでしょーか? はい、シンキングタイ――」
「ちょっと待てぇぇぇ!!」
「待ちません。ほらほら考えて考えてー」
「ざっけんなっ!! なぞなぞでも何でもねーよ!! 何で俺がお前の性癖を暴くような謎解きをせにゃならねぇんだ!! 咲夜か!? 咲夜の変態が移ったのか!?」
「僕は元から下ネタ大好きな女の子だよ? 放送コードに引っ掛かるか、引っ掛からないか辺りの際どいエロスがドンピシャだね。でもセックスとかそういうストレートなエロスは駄目だね。もっとこう、遠回しに言わないと。そうだねー、例えば『ヌルリクチャクチャとスライムが絡み合うように抱き合う♂と♀』みたいな? 『貴女のUSBコードを私の端子に突き刺して』みたいな? 付け加えるなら今の後に『そして貴女のデータと私のデータを合成して』みたいな? いやでもそれじゃちょっとエロスが足りないから、今の例えは没かな・・・どう思う白奈君?」
川の流れを通り越して、濁流の流れるようなトークだった。俺は付いていけずに頭を抱えて何故か口元だけ笑ってしまう。
「どーしたの白奈君? あっ、もしかして白奈君は間接的より直接的なエロスの方がお好みだった? 男の子だもんね。そりゃ仕方ない」
「勝手に解釈すんじゃねぇ!! エロス自体に興味ねーよ!!」
「ふーんそーなんだ。あっ、ちなみにさっきのなぞなぞの答えはノーパンだから。ほら」
素っ気なく返事を返したと思いきや、モロに俺に見えるようにスカートを上げて見せ付けてきた。その瞬間、ベタに俺の鼻から赤い液体が吹き出る・・・のではなく、リアルにドロドロと流れ出た。
「おまっ!! 怖っ!! なんなのマジで!?」
「ありゃ? もしかして女の子の股間を見るのは初めてだった? メンゴメンゴ白奈君。そーだよねー、男の子が女の子の股間を初めて見る時は、性行為をする時だもんね。白奈君にとって重要なことだったかー」
「そういう問題じゃねぇよっ!! 何で平気で相手にそんなことできんのお前っ!? 何!? 露出好きなの!? リアルな変態なの!?」
「だって~、ノーパンの方がスースーして気持ち良いんだもん。あっ、ちなみにノーパンだけじゃなくノーブラな僕でもあるよ。Cカップだけど――」
「だあぁぁぁ!! だから脱ごうとするんじゃねぇ!! つーか幼児体系のくせして地味に胸はデカイんですね!!」
「ん~、確かに背丈は小さいけど、僕は別にこれくらいでも良いけどね。でも胸はもう少し欲張りたいかな? ほら、ロリ巨乳って男のツボを突いた存在なんでしょ? というわけで白奈君。僕の胸を大きくするために揉んで良いよ。というか揉んで」
「うん、お前と面と向かって話をする機会がなかったからあれだったけど、今日で大体理解したわ」
こいつは変態や変人という肩書きで収まるような奴じゃない。しいて言うなら宇宙人、または異星人と言ったところだろう。咲夜や月も充分その素質を持ち合わせてはいるが、こいつはその二人すら遥かに凌駕した生き物だ。
「ねぇ揉んでよ白奈君。それか胸を大きくするバストアップ道具を提供するでも良いよ」
「・・・いいか雨瑠、よーく俺の話を聞けよ」
「んにゃ?」
「胸を揉んでもらうと大きくなるというそれはな。確かに大きくはなるらしいが、それは一時的な状態だけなんだよ。後、俺はこの世に生まれてこの方、バストアップ道具で胸を大きく大きくした人物を見たことも聞いたこともない。つまりは・・・・・」
「な、なるほど・・・つまりこういうことだね・・・道具に頼らず、ちゃんと食べ物で栄養を取って生活しなさいと」
「そうだ・・・その方がきっと願いが叶う可能性が上がるだろうよ・・・」
「わ、分かったよ白奈君! 僕、今日から朝、昼、夜のご飯は大事にするよ!」
「そうか・・・良い心掛けだ・・・・・」
何か妙な空気に取り憑かれてる気がするが・・・まぁ良い。というか雨瑠ちゃん、案外素直で良い娘だったのね・・・・・
俺は良いことをした子供を褒める形で雨瑠の頭を良し良しと撫で、雨瑠は雨瑠で目を細めて気持ち良さそうにしながら俺の膝を枕に寝転がって甘えてくる。こうして、俺と雨瑠は地味に少しだけ仲良くなった。




