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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
Third Dead
25/46

目覚め=ゴタゴタ乱闘

月と再び恋人同士になり、その日の夜に行われる咲夜裸エプロン事件も乗り越えた。しかし、次の日の朝。つまりは今の状況は前の時と完全に変わっていた。


本来ならばいつものように咲夜が俺を起こしに来て朝食を食べるという流れだ。だが、この日の朝は起床からもう既に違っていた。


現在は午前四時。本来ならば俺もまだ眠っている時間帯だ。しかし、俺は目覚めてしまった。隣から突如聞こえてきた寝息によって。その寝息の正体は、熊の着ぐるみパジャマを着て幸せそうな表情をしている月だった。俺は躊躇せず月をひっぱたいて強制的に目覚めさせる。


「んん・・・漬け物はたくあんが最強・・・」


「寝惚けてんじゃねぇコラ。何でいる? どうやって入りやがった?」


「ふにゃ?・・・・・あっ、おはよう白君~♪」


目を覚ましたものの、まだ眠そうに目をとろんとさせたまま俺にべっとりと抱き付いてくる。仕方なく好きなようにはさせる。


「質問に答えなさい。どうやって入ったここに」


「そうそう聞いてよ白君。Goo○leで調べればピッキングの方法も良く分かるんだよ。私にも簡単にできちゃった」


ここにまた犯罪者のお仲間になってしまった人が一人。なんちゅーことだ。合鍵の咲夜だけでなく、ピッキングのツッキーまで指名手配リストに載ることになるなんて。


「とりあえず、110番で刑務所ぶちこんでやるから退けろ」


「えぇ!? 何で!?」


「ここに不法侵入罪を犯した犯罪者がいるから」


そう言って俺は月に指を差す。


「だ、だってインターフォン押しても白君出てくれなかったんだもん・・・」


「ちなみにここに来た時刻は?」


「深夜二時!」


俺はまた月の頭をひっぱたく。そんな時間帯に訪問してくるやつがあるか馬鹿。いや馬鹿かこいつは、そうだった忘れていた。


「ハァ・・・とにかくだ。今後、ピッキングしたら離縁を考えるからなマジで」


「むぅ・・・なら咲夜ちゃんの合鍵も同じこと言ってよぉ~」


当然言ったに決まってんだろ。でも駄目だったんですよ。あいつは一度決めたら絶対曲げない信念の持ち主だから「合鍵禁止」と言っても「これは合鍵じゃなくて愛鍵だから」と屁理屈でうやむやにされてしまうのだ。無理に取り上げようとしたら泣き出しそうになるし、俺にはどうしようもないのである。


「言っても無駄なんだよ。何を仕掛けても俺にはあいつの行動力に勝てる気がしないからな。なんなら月がどうにかしてくれよ」


「わ、私も咲夜ちゃんには勝てる気がしない・・・・・」


「なら諦めるこったな。実際、朝飯作ってもらったりする時もあって助かってるし」


「むぅぅ~! 納得いかない! 本来それは恋人の私がすることなのにぃ! 毎朝白君に会えるなんてズルい!」


「でも土日は来ないぞ。休みだから」


「それでもズルい! 私も白君と長く一緒にいたい! あっ・・・ならいっそのことこの家に住み着いて・・・・・」


「いいから寝るぞ」


「あっ・・・エヘヘ♪」


とんでもない悪巧みを忘れさせるために、俺は月を抱く形で布団の中に強引に倒れさせて二度寝をする。月は月で俺に抱かれたことに満足そうにニヤニヤしながら眠りにつくのだった。


だが、更なる問題が起こるのはこれよりすぐ後の話だ。




~※~




現在朝の六時。いつもならば起床する時間だが、二度寝の影響により俺は目を覚ますことができていなかった。今だ意識は闇の中だ。そんな状況で、毎日のように現れる彼女はやってくる。


ガチャリと玄関のドアを開けて中に強引に入り、迷うことなく俺の部屋へと向かっていく。そして彼女は俺の部屋へと続く扉を開いた。


「・・・・・は?」


一瞬沈黙したが、すぐに第一声が口から思わず漏れていた。現在俺は一人で寝ているわけではない。抱き締める形で添い寝をしている月がいるのだ。その事実が咲夜の怒りを有頂天へと引き上げる。


咲夜は利き脚である右足の爪先をトントンと床に二度付けて軽い柔軟運動をする。そして次の瞬間、上空に天高く舞い上がって身体を丸めると、縦に高速回転をして右足を伸ばす。そのまま重力によって咲夜の身体は落下していき・・・・・


「死ねぁぁぁぁ!!!」


「っっっばぅ!?」


月の脇腹に相当な威力を誇っているであろう、かかと落としが炸裂し、月の口から多量の体液が吹き出た。そんな騒ぎが起これば嫌でも目が一瞬で覚めてしまうわけだ。


「おぉう!? 何何何事!?」


「ちょっと面貸せやクソ女ゴラァ!!」


「さ、咲夜ちゃ、いだだだだ!!」


見るからに激怒状態になっている咲夜が月の足首を持ち上げて引き摺って行こうとする。強引に引き摺ったためにベッドから床に頭を叩きつけたあれは中々に痛いだろう。俺は慌てて起き上がって咲夜を宥めようと、前に回り込んで引き止めた。


「落ち着け咲夜。そんな眉間にしわを寄せていたら、将来小じわが増えちまうよ?」


「うっさい! 白奈は引っ込んでて! こいつ原型なくなるくらいにしばき倒す! いやもうぶっ殺す!」


リアルな殺気じゃないだけまだマシなものの、それでも今の咲夜の背中には、鎌を持って黒いローブを纏ったドクロ顔のおじさんがオーラとして浮き出ている。何か見えてはいけないものが見えてしまっている。


「いや違うんだって咲夜。これはあれだって。不慮の事故的な?」


「事故で白奈の添い寝ができると!? それはもはや事故とは言わない!! ボーナスタイムと言う!! 白奈と添い寝なんて・・・ぐわぁぁ・・・子作りできる隙が見え見えじゃんかぁぁぁ・・・・・」


「目の付け所がやらしいんだよお前は!!」


月にしたように、咲夜の頭をひっぱたいて月をどうにか解放した。それでもさっきの一撃が重かったのか、床にうつ伏せでぐったり倒れてしまっているのだが。


とりあえず、俺はことの流れを説明した。と言っても、流れは単純なので数分も掛からないうちに終わった。


「犯罪者じゃんこいつ!!」


「お前もだろーがっ!!」


「いやアタシは近い未来に白奈の妻になるわけだから、これはその証みたいな?」


「随分とメタリックな証だねぇ? 砕き割んぞその合鍵」


「合鍵じゃない!! 愛鍵!!」


「知ったことか!! 価値観の相違だ!!」


「え!? なら白奈はこの鍵を愛鍵ではなく、溺愛鍵とでも言うと!? そんな・・・愛してくれてることはアタシが一番分かってるよ・・・」


「頬を染めんな!! マジではっ倒したくなる!!」


「押し倒したくなる!? むしろ、押し倒して!!」


「あ゛ぁぁぁぁ・・・・・うぜぇぇぇ・・・・・」


何を言っても都合の良い解釈をされて興奮されるのがスゲェ苛つく。これじゃ何時まで経っても堂々巡りをするだけだ。


「白・・・君・・・脇腹が・・・スクランブルエッグに・・・」


「うっせぇ! 黙って倒れ・・・いや嘘嘘間違った! いやそんな泣きそうな顔しないで割とマジでウン」


恋人の女の子には基本優しくするべしというのが俺のモットーだったりする。今までの関係性なら余裕でほったらかしにしてるところだが、仮にも(失礼)月は恋人なので手を差し出して紳士の精神を見せる。だが、相反するように咲夜がまた不機嫌な様子に豹変する。


「おいコラ、自分で立てるくせに白奈の手を借りてんじゃないわよ。白奈はぶりっ子が、それはもうヘドが出るくらいに嫌いなんだから」


そう言って咲夜はヘドを吐く。そして俺はその頭をひっぱたく。ここ室内ってことをさりげなく無視してんじゃねーぞこの野郎?


「・・・何で白奈、その女にだけ優しいの? そうですか・・・所詮私は白奈にとってのお荷物ですもんね・・・えぇすいませんすいませんでしたよハハハ・・・・・」


「めんどくせぇ!!」と叫び倒してやりたい。しかし、それをすれば更に事態がややこしくなるのは必定だろう。心底萎えきった溜め息を吐き出すと、仕方なく咲夜の頭を撫でてあやしてやる。


「はいはい、たまにご飯作ってもらったりして感謝してますからね。そう拗ねるなっての」


「そ、そう? へ、へへへ・・・グヘヘヘ・・・・・」


キモ・・・いやいや、仮にも(無礼)女の子であるのに、そんな感情を持つのは良くない良くない。さっき紳士の精神云々言ったばかりだろ。


「・・・・・フン」


あぁ、今度はこっちかよ・・・月がこちらをチラチラみながら構ってオーラを浮かべてきている。これまた仕方なく俺は月を手招くと、月が近付いてきて同じく頭を撫でてあやす。


「エヘ、エヘヘ・・・へへへへへ・・・・・」


「グヘ、グヘヘ、グヘヘヘへへ・・・・・」


素直に可愛いと思える生き物と、素直にキモ・・・うん・・・気持ち悪いと思える生き物が一人ずつ。一体この状況はなんなのだろうか・・・・・


この後も、俺は学校に向かうまで二人の世話を見ることとなるのであった。



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