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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
Third Dead
23/46

一つの疑問=二度発見

いつネタが尽きる頃やら・・・そんなこんなでThird Deadの開始です。

「・・・・・」


「ヤハロ~白奈君。どうだった二度目の死亡体験は?」


「あぁ・・・一言で言うなら“最悪”だな」


「ありゃりゃ・・・顔色からして相当応えているみたいだね。熱冷シートを張り付けて体調だけでも整えようか」


朝。俺は前と同じようにベッドに寝た状態で目を覚ました。咲夜がまだ来ていないところを見るとまだ朝になったばかりのようだ。目を覚ました瞬間に、眼前に雨瑠の顔がどアップで入り込んできて少々身体を跳ねさせて驚いたが、不思議とすぐに冷静になることができた。恐らく、死ぬ間際の出来事で知りたくもなかった真実を知ってしまったことによるショックが残っているんだろう。


雨瑠が何処からか熱冷まシートを取り出すと俺の額に張り付けてくる。ひんやりと気持ち良い涼しさが感じられて心なしか気持ちが楽になった。


「お前のせいでこうなってんのに、何でか憎めない奴だよなお前って」


「僕は皆から愛されてる賢者であり、アイドルだからね」


「観客は俺しかいねーけどな」


「アハハッ、確かにそうだね・・・っと、軽口を話せるってことは大分楽になったのかな? 流石僕だね。人一人の心を癒すことなど造作もないよ」


「うっせぇよ」


そう言って額にデコピンで突き放してやる。にしてもこいつは俺にとっての何なのだろうか? 監視者と言っても特に邪魔をしてくるわけもなく、逆にこういった看病をしてくれる始末だ。一体何者なのだろう。そして何を考えているのだろう?


「・・・そういや今日は何時なんだ? 確か誰かと恋人になった前の日に戻るっつールールだったよな?」


「今日は雫さんと三日月さんのどっちかの呼び出しに行くかの選択の日だね」


「いや・・・それ、月と恋人になった前日じゃなくね? 更に前の日に戻ってんじゃねーか」


「あぁ~、実はあれどさくさ紛れに吹いた僕の適当な嘘なんだよね~♪」


頬に一発だけビンタを打ち込む。ルールの説明くらいちゃんとしろよこの野郎・・・・・


「い、痛いッスよ白奈の旦那~」


「いいから本当のルールを教えろ。次は回し蹴り行くぞ」


「わわわ分かったよ分かったよ! 改めて言うから堪忍してよとっつぁ~ん! ぷっ・・・」


またビンタを打ち込みたくなったが我慢だ。ここで堂々巡りしていたら話が一向に進まないからな。雨瑠はコホンと咳をたてると、何処からかホワイトボードを持ってきてだて眼鏡を掛けると、オリエンテーションを行う際に使う長棒を伸ばして使いながら説明を始めた。


「では説明するぜよ。良いかい白奈君、君はこのゲームが始まってから君の日常に分岐点というものが存在してるんだよ。ほら、ギャルゲーとかにもあるでしょ? 『1、お風呂』『2、ご飯』『3、ビリーズ○ートキャンプ』みたいな選択肢ってやつがさ」


「それどんな状況での選択肢? まぁ言いたいことは分かるが・・・」


「分かってくれたならそれで良いよ。つまり、白奈君は常に正しい選択肢を見つけて進行して行かなくちゃいけないんだよ。その選択肢によって白奈君の生き死にが大きく揺れて、もし間違ったルートを選べば・・・・・分かるよね? もう二度もその身体で体験してるんだから」


なるほど・・・様は今の俺はギャルゲーの主人公のような立場にあるってわけか。と言っても全く羨ましくも何ともないギャルゲー主人公なんだが。にしても間違えれば死に繋がるなんて酷い話だ。咲夜には殺され、雫にも・・・殺されて・・・・・


「・・・・・」


「白奈君?」


そうだ・・・俺は雫に殺されたんだ・・・あんなに大人しそうで物腰柔らかい娘だと思っていたのに、本当はそうじゃなかったんだあいつは。雫は“元”からイカれてしまっている人物だった。それはきっと俺のせいでああなってしまったんだと思う。昔、あいつに“自ら関わりに行った”俺のせいで。


でもまさかあんなことになっているだなんて想像だにしていなかった。日常では控えめにしているが、それはストレスを溜めるキッカケになっていたんだ。そしてその鬱憤を晴らすための方法が、あのマネキンだったということだ。正直あの瞬間は気持ち悪くて思わず叫んで拒んでしまったが、今は恐ろしくもあるが・・・悲しくもある。


でもだからって立ち止まってはいられない。このゲームに失敗したら俺は・・・・・いや考えたくもない。何事も前向きに考えて行動しろ。今までもそうやってきただろう? 理不尽な理由でゲームに巻き込まれたことにはまだ納得していないし、したくないと思っている。でももう始まってしまっているのだ。なら目を背けるわけにはいかない。


とりあえず、今日のことを考えてみよう。確か今日は雫と月のどちらかの呼び出しに行くかという流れだったはずだ。ついでに咲夜が俺の身体に盗聴機を仕掛ける日でもある。それはまぁ良いとしてだ・・・前は雫の方に赴いてデートの約束を取り付けた後に月と恋人になった。でもそのことを何故か雫に知られていて――


「そういえばあいつ・・・」


そこである疑問を一つ思い出した。何で雫はあの時に俺が月と恋人になっていたことを知っていたのだろうか? カマを掛けられたというわけでもなく、確信を持って言っていたようだった。


何故? 何故知っていた? それとも月が教えたのか?まぁ有り得ると言えば有り得る話だが、何処かピンとこない。恋人同士になったことは隠してくれと言い聞かせたんだし、月がいとも簡単に約束を破るとは考えにくい。証拠に咲夜は何も知らなかったようだし。なら考えられる可能性はあと一つだ。信じたくもないし、馬鹿馬鹿しいとも思うが、咲夜の盗聴機の件でその確率は絶対にないとは言えなくなってしまっている。


実のところ雫は知り合った頃から俺の家に来ることが少なくなかった。だからその可能性は十分に有り得る。普通なら「本当に馬鹿じゃねーのか?」と思う。でも俺はその可能性を明らかにするために立ち上がった。


「おろろ? 何処行くの白奈君?」


「トイレだ」


と言っても用を足しに行くわけではない。そこにあるかもしれない物を確認し、もし当たっていればそれを取り除くためだ。


「大きい方? 小さい方?」


「そういう目的で行くわけじゃねーよ。別件だ」


「・・・・・ダすの?(笑)」


「ぶっ殺されたくなかったらそれ以上口を開くなよ?」


「冗談なのに~」


ニヤニヤ笑う雨瑠を残して部屋から出ていき、トイレの前までやって来てドアを開ける。そして中に入って俺は天井の物置き場を確認してみた。見るだけだと洗剤やら消臭剤やらしか置いていないように見える。でももしかしたら・・・・・


「・・・クソッ・・・マジかよ・・・冗談であってくれて良かったのによ・・・何でだよ雫・・・っ!!」


普段はそんな場所を良く確認なんてしないから気付くはずもなかった。でもいざ確認してみるとそこには予想通り、あるかもしれない物が設置されていた。親指くらいの小さな小型のカメラのような機械。つまりは“盗撮機”だ。


俺はこのトイレで月と二人きりになって告白し、恋人となった。その時に言葉を交わしてキスを何度もし合ったことはちゃんと覚えている。そして雫はその光景を直に見ていたんだ。盗撮機でずっとその光景を。それで雫の大人しくなっていた自制心にトリガーが引かれて暴走を起こした。そしてあの殺人だ。


「なるほどな・・・大きなキッカケはここにあったんだな・・・」


雫とデートの約束を取り付け、デートの最後の方で何となく不穏な空気を感じていたが・・・あの時既に雫は知っていたんだ。でも俺に気を使って知らないフリをしてくれたが・・・我慢できなかったんだろう。


なら俺は雫と・・・いや・・・それは無理だ。あの映像を見なくても雫は既に俺に対してイカれてしまっている。そんな彼女と付き合うということは・・・勝手ながらに最低だと思うが俺には何もできない。元凶は自分だというのに・・・最低な男だ俺は。


「だからこそこのゲームを終わらせなくちゃならねぇ・・・そのためには・・・・・」


俺は目を瞑って一人の女の子を想像する。腰まで伸びたサラサラした綺麗な栗色の長髪。背が高くとも中身はお惚けで愛着が湧く生徒会のマスコット。小学生からの見た目だけお姉さんの幼馴染。


『――柱三日月――』


「頼む月・・・俺に力を貸してくれ・・・・・」


いつも皆に向けている笑顔の月を想像し、俺はトイレから出ていつものように朝早くから支度を始めた。


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