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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
~Second Dead~
22/46

本性=拘束

「うっ・・・・・」


モヤが掛かった視界が徐々に見えるようになっていく。寝起きだからかまだ頭がボーっとしている。多少の頭痛を抑えながら最初に入ってきた視界は天井だった。何の変哲もないただの白い天井。背中からの感触からして俺はベッドか何かに寝かされているようだ。


「・・・っ!?」


起き上がろうとした時、そこで俺は初めて自分の状態に気付いた。手首足首がベッドに繋がれている鎖で拘束されていることに。大の字になるように拘束されているためどれだけ力を込めても脱出できる様子は微塵も無かった。


「あっ、やっと気が付いてくれましたね」


「お前・・・」


俺が身動きを取ったので気付かれたのだろう。すぐ近くにベッドに腰を掛けているバスローブ姿の女の子がいた。他でもない雫である。見たところ雫は“普通”に見える。あくまで外見だけの話だ。少なくとも中身は既に・・・・・


「何のつもりだお前・・・どういうことだよこれは」


「? どういうことと言いますと?」


「惚けるんじゃねぇ!! 何でこんなことしてんだお前!? 正気の沙汰と思えねぇぞ!!」


「そうですよね・・・所詮私は元から正気の沙汰と思えない性格の持ち主で誰からも優しくも愛されもしない低能な女の子なんです・・・・・」


「・・・・・」


「・・・白奈さん?」


「何――」


すると突然血相を変えた雫が俺に馬乗りをして股がって来ると、両手で首を絞めてきた。非力だと思っていたがそうではない。十分に相手を窒息死させるのにことたりる力だった。


「がっ!?・・・かっ・・・」


「いつもの白奈さん“一番”なら『そんなことないって』みたいに優しい言葉を掛けてくれるのに、何で何も言ってくれないんですか? 白奈さん“一番”は優しい人なんです。聞いて無視するだなんてありえませんよね?」


「やめっ・・・しず・・・」


そしてそろそろ限界というところで首から手が離された。何度も咳き込んで荒くなる息を深呼吸することで整えていき、何とか正常に戻った。だとしても、この最悪の状況が覆ることなどないのだが。


「言ってください白奈さん“一番”。そんなことないよ・・・って」


言うか言わないか迷うものの、ここで何も言わなかったらそれこそ最悪の未来が待っているかもしれない。ヘドが出そうだが言わざるを得ないのだ。


「そんなこと・・・ない・・・ぞ・・・」


「エヘヘ・・・やっぱりです。白奈さん“一番”は誰よりも優しいです。“オリジナル”なだけあります」


ニッコリと笑って俺に抱き付いてくる。いつもの日常生活でだったらどれだけ嬉しい行為だろうか。今は悪寒と恐怖しか感じられない。何でだよ雫・・・何でお前がこんなことを・・・


そこで俺は自分よりも優先して助けなければならない人物像を脳裏に浮かべる。眠らされていたのは俺だけじゃない。月は? 月は何処にいる!?


目の前の雫から視線を逸らして俺はここで初めて部屋を見回した。


「な・・・んだよ・・・これ・・・」


見回した瞬間に視界に入ってきたのは人の形をした何かだった。カーテンが閉められていて暗いために良く見えないが、暗闇で目が慣れてきたのかその正体を突き止めることができた。


黒髪のカツラを被っている人形の人形。つまりはマネキンがいたるところに立っているし、座っていた。気のせいだと信じたいが、そのカツラの髪形が全部俺に似通っている。それに額のところに書いてある五番とか八番という数字はなんだ?


「おいお前・・・」


「・・・名前で呼んでくれないんですか?」


その声質を聞くだけでぞわりと背筋が凍り付いてしまうようだ。今は些細な反応で何をされてもおかしくないんだ。伸長にいかなければならない。俺は今一度息を整えて頭を冷やす。


「雫、このマネキン達はなんだ? それと月を何処にやった?」


「そうですね・・・なら二つ目の問いから答えますね。簡単なので」


そう言って雫はまたニッコリと笑うと、とあるほうがくに向けて指を差した。それは部屋の隅っこの方だった。もしかしてまだ月は眠らされているのかもしれな・・・・・い?・・・・・


「・・・・・は?」


雫が俺に抱き付いて来ているためによく見えない。どうにか雫の顔を、首を動かして避けて見る。そしてそこでやっとその姿を見付けることができた。でも、本当は見付けない方が良かったのかもしれない。


「ぁ・・・ぁぁ・・・うあぁああぁぁあぁ!?」


部屋の隅っこには確かに月がいた。しかし、その姿は完全に変わり果てていた。壁に寄り掛かって尻餅をついて頭を下に垂れている。そしてその頭は真っ赤に染まっていた。尋常じゃない量の真っ赤な液体が壁や床に飛び散って水溜まりのようになっている。顔が髪の毛で見えなくなっているが、もう既に月はこの世に存在しない者になっているだろう。何故だ。何故月が殺されなければならない!?


「雫テメエェェェェ!!! 何で・・・何で月を殺しやがったァ!!!」


「何でって・・・そんなの決まってるじゃないですか」


いつの間にか雫は“普通”では無くなっていた。今のこの場にいるその女の子は雫であって雫じゃない。


「私だけの優しい白奈さん“一番”を騙そうとしたからです」


ただの狂った人殺しだ。欲望に忠実になった人の形をした形をした化物だ。


「可愛くて性格もよい三日月さん。学校の人達からも支持を受けていましたね。そしてその魅了で白奈さんを誘惑して恋人同士に到るまでに発展させた・・・忌々しい・・・どれだけ私が飢えに飢えたことか・・・ここにいる白奈さん“達”がいなければ私はもっと早くにおかしくなっていたかもしれません」


「達ってなんだ・・・俺は一人しかいねぇぞ」


「何言ってるんですか? ここに大勢の白奈さんがいるじゃないですか?」


彼女は俺から離れて立ち上がると両手を広げてマネキン達を俺に見せ付けた。まさかとは思ったが、あの額に書かれてある番号は俺の分身を示す証だとでも言うのか? どこまで狂ってんだこいつ・・・・・


「白奈さんは優しいんですよ? 二番も三番も四番も皆皆私を元気付けてくれるんです。そうですよね白奈さん?」


当然マネキンは何も答えない。でも雫は耳を澄ませて勝手に一人で頷いている。その姿が気持ち悪くて吐き気がした。


しかし、すぐに雫の表情が険しいものに変わった。そして見つめる先にあるのは五番と書かれたマネキンだ。


「白奈さん? 何で何も言わないんですか? 貴方は私を無視するんですか? 見放すんですか?」


だがやはりマネキンは物を使ってるか話さない。しかし雫はひとりで納得したかと思いきや、机の上に置いてあった見覚えのある鈍器・・・血で染まっている真っ赤な血で金槌を手にし、そして・・・・・


バギャッ!!


そのマネキンの頭に金槌を降り下ろした。立って置いてあったそのマネキンは今の衝撃で床に倒れてしまい、そして雫は何度もそのマネキンに金槌を降り下ろして破壊する。


「さっきは私の相手をしてくれたくせに見放すんですか!? あれは全て嘘だったと言うんですか!? 許せない許せない許せない!! 私に優しくしない白奈さんなどもはや白奈さんじゃない!!」


そしてマネキンは完全に粉々に打ち砕かれてしまい、マネキンからただの破片と化した。雫は具合が悪そうに口を抑えて吐き気を訴えながら立ち上がる。そして我を失っている目で辺りをキョロキョロと見回す。


「うぅ・・・駄目・・・白奈さんを感じないと・・・白奈さんと一つにならないと・・・裏切られたらすぐこれだ・・・白奈さん白奈さん白奈さん・・・」


まるで麻薬に取り憑かれた者のようだ。恐らく雫にはこのマネキン達が全て俺そのものに見えているんだろう。そして、今度は三番と書かれてあるマネキンに抱き付いた。


「白奈さん・・・シてくれますか?」


『――あぁ良いよ、おいで雫――』


「あぁ白奈さん・・・できるだけ痛くしないように優しくしてくださいね?」


すると突然雫はバスローブを脱いで裸になった。一体何をするつもりなのだろうか? だが、それはすぐに分かることになる。雫はそのマネキンを押し倒して仰向けに寝かせると、そこで俺はマネキンの股間部分に“それ”の形をした物を見付けた。雫はそれに向かって自分の“それ”を近付けていき、そして・・・・・




~※~




「ハァ・・・ハァ・・・ありがとうございます白奈さん・・・大分楽になりました・・・」


『――そうか、良かったな雫――』


「はい。でも何でいつまで経っても私には白奈さんの子供ができないんでしょうか・・・こんなに頻繁にシているのに・・・」


最悪だ。俺は限界が来て途中で口から体液を吐いてしまっていた。最初は冗談だと思った。でも雫は本気でマネキン相手にシていた。身体を何度も跳ねさせて一人で頬を真っ赤に染めてイっていたのである。気持ち悪い。この女が気持ち悪くて、もう二度と関わりたくないとさえ思ってしまうほどに。


「そうだ・・・そういえば今日は“一番”の白奈さんが来ているんでした・・・もしかしたらオリジナルじゃないからいつまで経っても子供ができなかったのかもしれない・・・なら“一番”の白奈さんならきっと・・・フフッ、フフフフフッ・・・」


そしてとうとう雫は本物の俺がいたことを思い出す。瞳が真っ黒だ。亡霊か何かに意識を支配されているかのように真っ黒だ。怖い。こんなに他人を怖いと思ったことは一度だってなかった。こいつはもう人ですらない。性欲に飢えた狂犬だ。


「白奈さん・・・私だけの優しい白奈さん・・・どうか貴方の子供を産ませてください・・・私は貴方のことが好きです。大好きです。他の誰でもない、私だけを見てください。私だけを愛してください。私は白奈さんのためなら何だってできます。どんなことでも受け止めます。だからお願いです。どうか・・・どうか貴方の生涯には私を隣に置いて――」


「来るなァァァァァァ!!!!!」


「・・・え?」


「来るなァァァ!! 俺に近寄るなァァァ!! 気持ち悪いんだよお前!! 二度と俺に関わるな!! 二度と俺に近寄るなァァァァァァ!!!!!」


「・・・な・・・んで?」


雫は呆気に取られて身体を震わせる。ポロポロと大粒の涙を流し初めて頭を抱える。そして俺じゃない偽物の俺達を見つめる。


『――寄るな気持ち悪い――』

『――汚臭がすんだよ――』

『――いちいち泣いてんじゃねーよ――』

『――気安く触らないでくれない?――』

『――誰が貴女と友達になるもんですか――』

『――一生お前は一人だよ――』


「イヤアァアァアアアァアアァアアア!!!!!」


すると突然雫は金槌を手に暴れ出した。周りのマネキンに向かって金槌を振り回し、一体、また一体と破壊されていく。


「止めてよぉ!!! 私を否定しないでよぉ!!! 来るななんて言わないでぇ!!! 私を見捨てないでぇぇぇ!!!!!」


そして一通り雫が周りのマネキンを全て破壊し終えた時、雫の標的は一人に絞られる。充血して透明の涙が真っ赤に染まっている狂気の目で睨まれ、俺は固まってしまった。


その時、突如部屋のドアが勢い良く開けられた。そこから人影が一人現れた。包丁を手にした咲夜だ。でも・・・・・一足助けに来るのは遅かったらしい。


「やっと心許せる人が現れたと思ったのに・・・さようなら・・・私の初恋の人・・・・・」


「白奈!! 助けに――」


ゴシャッ・・・ブシャァァァァッッ・・・・・


雫が降り下ろした金槌が俺の脳天を捉えると、卵の殻が割れたかのように俺の頭がパッカリと割れて、噴水のように真っ赤な液体が吹き出るのだった。俺は痛みも何も感じることなく意識を再び暗闇に捕らわれていった。


というわけでSecond Dead終了です。最後の最後で結構際どい描写を書いてあったと自分で思っていますが、Rに引っ掛からないように肝心な描写は※で簿かしたのでセーフ・・・なんでしょうか? 正直不安です。これからどんな風に展開が進んでいくのか自分でも分かっておりませんが、これからもご愛読していただけたら幸いです。

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