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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
~Second Dead~
20/46

風邪=窓影

放課後。俺はとある先生に呼び出しを受けて職員室までやって来ていた。ついでに当然の如く咲夜も俺の後ろに付いてきている。いつものことなので俺は全く気にする素振りは見せない。というか、慣れちゃいけないことだと分かっているのに慣れているので実際本当に気にしていない。一度こいつに殺されてるのに我ながら凄い度胸だと自惚れてしまうくらいだ。まぁ、相手が咲夜だからこうして平常心でいられるのだが。もし、咲夜以外の誰かなら俺はそいつを拒み続けることだろう。


俺に用件があるらしい先生の元までやって来る。最初は俺が何か知らない内に問題をやらかしてマンマミーヤな処罰を受けるのではないか? という風に考えていたのだが、幸い蓋を開けてみるとそんな複雑な事情ではなかった。


その用件の内容は至って単純だ。何でも、今日風邪で来ていないらしい雫の元にプリントを届けて欲しいということだった。小学生の頃を思い出してしまうのは俺だけだろうか?


俺があれこれ言う前に咲夜がその先生に不満げな反応で問いをしていた。何故俺が届けなければならないのかということと、プリントをわざわざ届けなくてはならない理由の二つだ。


しかし先生はいとも簡単に答えて見せた。一つ目は、クラスメイトが全員雫の家を知らないので、雫と仲が良いことを知っている知らない奴が俺の存在を指摘したから。二つ目は、何でも急ぎの書類とのことで早く書いてもらわないと困る物、だからだそうだ。


別に雫は咲夜のように友達がいないわけではないのに意外だなと思いつつ、特に断る理由もないので俺はその用件を引き受けた。もちろん咲夜は否定的なことをガンガンいこうぜ並みに言ってきたが、アイアンクローで無理矢理黙らせる形で場を納めた。


そして職員室を後にすると拗ねたように咲夜が「ふん! 良いよ良いよ! もう知らないもん! 白奈とはしばらく口を・・・は、半時くらい口を聞いてあげないんだからね!」と言って一人でとっとと帰ってしまった。むしろこれは好都合だ。あいつが一緒に来たら空気が悪くなりそうだからな。


俺は携帯電話を取り出すと月に向かってコールをかけた。友達と言っても雫は女の子。女の子の家に男一人で訪問するのは流石に気まずかったりするのだ。そしてワンコールもしない内に月は電話に出た。どんな反射神経だよ・・・・・


「――はーい! こちら白君専用H玩具でーす!――」


個人差があるだろうが、俺の立場でそれ言ったら凄い泣きたくなるな。玩具扱いで悲しくないのかこの馬鹿は。


「冗談言うなら切るぞ」


「――あわわわっ!? 嘘嘘冗談! こちら白君の・・・白君の・・・うーん良いフレーズが思い付かない・・・――」


「そ、そこは・・・うん・・・普通に恋人で良いんじゃねーのか?」


「――・・・白君可愛い♪――」


俺は無言で電源を切った。しかしすぐに月からコールが来て電話に出る。


「次言ったら別れ話を持ち掛けるからな」


まぁ冗談だが。


「――うぅ・・・だ、だってだって嬉しかったんだもん・・・白君が恋人って言ってくれたから・・・エヘヘ♪――」


俺はまた電源を切った。いや、不満があるからとかじゃない。何か想像以上に恥ずかしい気持ちが込み上げて来たからだ。でもまたすぐに月からコールがかかってきて俺は電話に出る。


「――酷いよじろぐん、私何も悪いこと言ってなかったのにぃ~――」


「い、いやすまん・・・その・・・何か恥ずかしくてなぁ?」


「――恥ずかしい? 何で?――」


それを言わせるか・・・ま、まぁ幸い周りに人っ子一人いないから良いか・・・うん・・・


「だ、だって・・・なぁ? 月みたいな可愛い娘に俺のことで喜ばれると・・・うん・・・」


何だコレまるでバカップルが言うような台詞じゃねーか。止めだ止め、こんなの俺らしくない。


「――・・・・・――」


そして本題に入ろうとまた携帯に耳を当ててみたのだが、電話は既に切られていた。もう一度掛けてみても電話に出ることはなかった。何だ? 俺何かを悪いことを言っただろうか?


すると、突然何処からか騒がしい声が聞こえてきた。それに何やら叫び声のようなものまで聞こえてくる。これは・・・中庭の方からだろうか? 俺は小走りで中庭が見える小窓を開いた。そして中庭の中心には先程まで探していた月の姿が一人。


「白君好き好き愛してるぅぅぅぅぅぅ!!!!! 何処何処何処にいるのぉぉぉぉぉぉ!?!? 会ってたくさんキスさせてぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


「・・・・・うわぁ」


俺だけではなく大勢の生徒達が窓から顔を出して月を見る。すると「白奈って誰だ!?」とか「俺達のツッキーさんにあんな事を言わせて!?」とか「見つけろぉ!! 見つけ次第ぶっ殺せぇ!!」といった風に最終的に物騒な言葉が連チャンして、今度は学校全体から殺されるフラグが立ってしまう。


良く良く思い出してみると、月は何も生徒会内だけでのマスコットキャラクターではなかった。普通に全校生徒からも人気を誇る人なのである。愛想が良くて見た目美人で、でもドジな所が多々見られる。それが多くの男子生徒達のツボを得てしまっているようだ。そんな彼女に恋人ができたなんて知られれば・・・俺は全校男子生徒達に二度目の死を与えられるだろう。普通に殺されるのも嫌だがこれはこれで嫌だ。


「・・・・・帰――」


「いたぞー! あの小窓から顔を出してる奴がそうだー!」


「あっ! ホントだ! 白君今行くね~!!」


どいつもこいつもどんな動体視力してんだ!? 少なくともこの場所は中庭エリアから離れた場所にある小窓なんだぞ!? なのにいとも容易く見つけるって・・・・・


「なんて言ってる場合じゃねぇよなっ!?」


月と共に雫の家に行こうとしたのだが、こうなってしまっては月をここで待つ余裕など何処にも存在しないだろう。俺は得意の陸上術を使って生徒玄関へと一直線に向かった。




~※~




「し、死ぬかと思った・・・」


「ご、ごめんなさい白君、私のせいで・・・」


俺の想像以上に奴らの手引きは早かった。誰よりも早く生徒玄関に行ったつもりだったのに、既に何人かの男子生徒達が待ち伏せていて楽に帰ることができずに校内を走り回る羽目になっていた。


時に尻を蹴られ。時に落とし穴に填められ。時にタイ○ーシュートを後頭部に叩き込まれ、といった具合に散々な目に遭った。最後の最後で月と生徒会の人達が助けに来てくれなかったら俺はリアルに殺されていたかもしれない。そんなこんなで、今は月に雫の事情を話して同行してもらいつつ、俺の頭から生えている小さな枝や制服に付いている土埃を取ってもらっている最中だ。


「ホントだせ全く。どう責任とってくれようか?」


「や、やだよぅ・・・白君と別れるのはやだよぅ・・・」


「いやあれは冗談だから」


「ならなんでも良い!! どんなHでも私は受け止める!!」


「良し分かった、一週間口聞かない形で」


「ままま待ってぇ!そんなことされたら私死んじゃう・・・あっ、リアルに具合悪くなって来た・・・・・」


本当に気にして顔を出してる青ざめて月はその場に塞ぎ混んでしまう。なんで俺の周りには冗談を冗談と受け止めてくれない人ばかりなんだ?


俺は辺りを見回す。誰もいない。かといって恥ずかしい・・・けど俺は自由にさせてもらうぞ。ここには咲夜も男子達も誰もいないのだから。


「月」


「何白君?」


塞ぎ混む月の傍で片膝を付くと、俺は月の左頬に触れてそっとキスをした。それから少しして離すと苦笑しながら何度なアタマを撫でてやる。


「冗談を本気にするなって、基本これからは月には優しく接するつもりなんだからよ。でもそうだな・・・言うことを一つ聞くってんならあれだ。不倫浮気厳禁ってことで。な?」


「・・・・・白君」


「ん?」


月の顔が焼きたての餅のように膨れ上がる勢いで赤くなっていく。口角が上がってどんどんだらしないニヘラ顔に切り替わっていく。目が桃色のハートになり、しかし興奮し過ぎてハートの桃色が焦げて真っ黒になってしまう。


「そんな格好良すぎること言っちゃ私壊れ・・・・・」


「お、おい月!? スゲェ面白い顔になってんぞ!?」


やがて月はオーバヒートを起こした電子機器のように湯煙をたててショートしてしまい、雫の家まで俺が背負っていく形となった。全く世話のかかる奴だ。俺は背負われてニヤけている月を横目で見つめて微笑むのだった。




~※~




「・・・やっぱりそうなんだ・・・見間違えじゃなかったんだ・・・・・」


少女はカーテンの隙間の窓越しに俺と月を見つめる。その目にはまだ光が灯っている。


「何で・・・なら何であんなに私に優しくしてくれたの? 私のことを好きになってくれていたからじゃないんですか?」


そして彼女は部屋の中にある“それ”の一つを見つめて話す。


「ねぇ違いますよね? 貴方は私だけを見てくれますよね?」


“それ”は何も言わない。それなのに彼女はうんうんと一人で頷いて、あたかも誰かと会話している素振りをする。そしてニヤリと不気味な笑みを浮かべてクスクスと笑う。


「ですよねそうですよね・・・貴方が私以外の人に優しくするわけないですから。きっとあれはあの人に脅されて仕方無くしたこと・・・そしてしてることなんですよね・・・」


彼女はまた外に見える俺達・・・いや。月一人だけを見つめる。その目には既に光ではなく闇が取り憑いていた。


「酷い人ですね・・・愛想を振り撒いて美味しいところは一人で頂こうとするなんて・・・でも・・・」


彼女は着ている衣服を全て脱ぎ捨てて裸になると、ベッドの上に置いてある鈍器を手に取り、そして“それ”と共にベットに上がって横になる。そして“それ”とまるで“スる”かのような退勢になって、彼女は一人頬を赤く染めてビクンビクンと身体を跳ねさせながら息を荒立てていく。


「あんっ・・・あの人はっ・・・んんっ・・・残念ですがっ・・・ん・・・んぁあぁ・・・もっと“シたい”けど・・・ハァ・・・ハァ ・・・」


彼女は“それ”を自分のとある身体の部分から抜くと、妖艶な闇の込められた目で手に持つ鈍器をペロリと舐める。そして“それ”に舌を突きだして舐めるようにキスをした。


「それは・・・あの人をこの世から消して・・・それから本物の“一番”と直にスるまで待ちましょう・・・」


そして彼女はまた衣服を全て着込むと、手に持っていた鈍器をベットに置いて不気味にクスクスとまた笑いながら部屋を出て行った。その後、家内にインターホンの音が鳴り響き、彼女は鏡を見ていつもの可愛い笑顔を浮かべて玄関に向かうのだった。


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