帰宅=雨模様
「はふぅ・・・今日は今までで一番叫んだ日になったと思いますぅ・・・」
「確かに叫びまくってたな、これ以上にないくらい。全く誰のせいなんだか?」
「・・・私の不甲斐なさのせいですよねそうですよね・・・気持ち悪いくらい叫びまくってて白奈さんヒきましたよね・・・いえ良いんですどうせ私は周りに迷惑しかかけない疫病神なんです・・・」
「雫さん、そこは俺のせいにする流れなんですけども?」
「そ、そんな! 白奈さんに汚点などというものはないです! あり得ませんよ! それに比べて私は白奈さんに反比例するが如く汚点しか存在しない、もはや汚物と言える存在云々かんぬん・・・・・」
すっかり外は星がキラキラと輝く夜空に変わってしまっていた。遊園地の最後のパレードを見ていたために夜になってしまっていたのだ。今はバスから電車に乗ってカタンコトンと揺らり揺られながら向い合わせの椅子に座って話をしている状態だ。
にしても、久し振りに一日中遊び尽くした時間だった。有意義な時間を過ごせたとも言えよう。まぁ、一つだけ気掛かりな出来事があったのだが・・・
お化け屋敷の騒動は素直に従業員の人に報告した。でも俺も雫もお咎め無しという結果に落ち着いてくれた。何故なら、あのお化け屋敷は怖すぎて人気が出なかったために近々取り壊すようなのだ。だからむしろお化けの処理の手間が省けたと笑って許してくれていた。ならさっさと取り壊してくれてれば良かったのにと、逆にこちらが不満タラタラになっていたのは紛れもない事実だったりする。
「でも良く壊せたねぇ? 結構頑丈な作りのはずなんだけどねぇ?」と言っていたが、どのようにして壊したのかはうやむやににて誤魔化した。まさかこんな大人しそうな女の子が激昂して金槌を振り回してぶっ壊しただなんて思いもしないことだろう。俺だって本来無くしたいと思う出来事だ。だからこそ本当のことを話す必要はないだろうと俺一人の判断である。
雫はそのことに関して何も口出しはしなかった。もっと詳しく言えば全くの無関心だった。まるで自分は何もしていないと、そのように振る舞ってるようだった。それがまた気味が悪く見えたことは忘れようとしていることだ。今はこうして普通のネガティブ雫に戻っているのだから気にする必要はない。まぁ、ネガティブになったらなったでまた面倒臭いのだが。
「おーい、今日の閉めくらいはポジティブでいてくれー」
「それで私は傘地蔵の一つ取り残された・・・あっ・・・そ、そうですね・・・アハハッ・・・」
ネガティブが止まってくれたものの、今度は表情が暗くなってしまう。俺何か傷付けるようなこと言った? 罪悪感に押し潰されそうになるからやだなぁもう・・・
そうこうしているうちに電車が目的地に到着して、電車から降りて駅を出る。何となく空を見上げてみると、あれほど天気が良かったのに月明かりが見えなくなるほどの曇り空が広がっていた。
「こりゃ早くしないと一雨来るかもしれねーな。急ぐぞ雫」
「・・・・・」
しかし俺が小走りしようとした瞬間、雫は俺の服の背中を握って引き止めた。何事かと振り返って見てみると、雫は暗い表情のまま少し頬を赤くしていた。
「あ、あの・・・白奈さん」
「なんだ?」
「その・・・よ、良かったら今日私の家に泊まりに来ませんか? お、お父さんもお母さんも今日は仕事で家に帰ってこないので・・・・・」
突然そんなことを言われて俺は内心心踊る・・・などということにはならなかった。親がいない家に招待する・・・そこから何が発展するのか見て取れる。
だからこそ、俺の答えは言われた瞬間から決まっている。
「わりぃ雫、それは遠慮しとくよ」
「え・・・」
「色々訳もあってな。女の子一人しかいない家に行くのはその・・・抵抗があるんだよ。折角誘ってくれたのにわりぃ」
「・・・・・」
一瞬、辺りから物音が聞こえなくなったかのような沈黙に襲われる。そして先程の予想通り空からポツポツと水滴が落ちてきてザァザァと降り注ぐ雨模様に切り替わってしまった。
「やっぱ降ってきやがったよ畜生。雫、風邪ひかない内に早く帰――」
「やっぱり“あの映像”は嘘幻じゃなかったんだ・・・・・」
「え?」
映像? 何の話だろうか?
「お、おい雫・・・?」
「すみません白奈さん、この後用事があったことを思い出しました。今日は失礼しますね。私なんかのために本日はお付き合いしてもらいありがとうごさいました」
お化け屋敷の時と同じ、光が失われた吸い込まれそうな黒い目で俺を見つめながらペコリとお辞儀をする。そして踵を返すとそのまま俺に背を向けて歩いて行ってしまった。
コンビニにでもよって傘を買った方が良いと忠告するために引き留めようとした。でも、それは雫のとある言葉によって俺は制止する羽目になった。その言葉を言った雫が・・・俺には怖く見えてしまったから。
「今日は・・・たくさん――――してもらいましょう・・・・・」
言葉のある一部分。確かに俺は聞き取ることが出来ていた。だから俺は動けなかった。雫がそんなことを言うなんて信じられなかったから。その場に一人取り残された俺は身体に冷たい雨を浴びながらしばらく動けないで、雫の姿が見えなくなってもその方角を見つめたまま棒立ちしていた。
~※~
学校始まりの月曜日。幸い、雫とのデート帰りの雨に風邪をひかなかった俺はいつものように登校した。いや、珍しくいつも起きる時間より寝過ごしてしまったので咲夜に起こされる羽目になっていたのだが。当然咲夜は俺の貞操を奪おうとして来たが、頬に強めの平手打ちをすることで“はらっていた”。
そして登校している五分後に月がニッコリ笑顔で待ち伏せていた。俺は思わず頬が綻んでしまって慌てて顔を隠してみたが、二人には既に見えていたようで月はニヤニヤと悪戯っ子の笑みを浮かべて見つめて来て、咲夜は不満満開のジト目を俺に向けた後に月を見つめて大いに気に食わなそうに唾を吐き捨てていた。どちらも分かりやすい性格をしているものだ。
咲夜が納得いかないまま三人で学校に登校して辿り着き、学年が違う月とはここで一旦お別れとなる。上靴に履き替えてさっさと咲夜と共にクラスに行こうと思いきや、後ろから不意打ちで月に抱き付かれた。
「待って白君、今日を乗り切るために白君エネルギーをエネルギッシュしないと」
「おまっ! 周りに人いるっての! つーか咲――」
しかし俺の判断の行動が及ぶ前に咲夜が動いてしまって間に合わなかった。ぐるりと勢い良く回って月の背中に回し蹴りを一発叩き込んでしまったのだ。凄まじいその衝撃は月を一発フィニッシュK.O.させるのには十分過ぎる威力だった。月は真上を向いて唾を吹いた後によろよろと地面に萎びた海藻の如く倒れてしまう。そして俺から離れた月の代わりに咲夜が思いきり抱き付いてくる。それはもう二度と離さないわよと伝えてくるほどに強く。
「何勝手に私の白奈に抱き付いてんのよ? あぁ、白奈が少し汚れちゃったよ。私の身体で綺麗にしないと。さぁ白奈、二人でシャワールームに行ってにゃんにゃん――」
「するわけねーだろっ!!」
咲夜と同じ動きを真似て俺は咲夜の背中に回し蹴りを叩き込む。するとこれまた月と同じように真上を向いて唾を吹き出すと、ゆらゆら青空に揺れる鯉のぼりのように倒れてピクピクと微かに痙攣して・・・ハァハァと息を荒くさせて頬を桜色に染めて笑っていた。付き合っていられないので俺は二人をその場に放置して、何故か男子達から嫉妬と怨念が込められた視線で背中に突き刺さる感覚を受けながら教室に向かった。
何がそんなに羨ましいのか? 立場を代わってほしいならどうぞ代わってくれ。俺は喜んで差し出してやろう。しかしそれが不可能なことだと理解して泣きそうになりながら一日を過ごしていた。




