引き離し=激昂
毎日から二日更新に変更致しましたことを慎んでお詫び申し上げます。やっぱ毎日は予約が追い付きません・・・最近はvitaとバイトで時間を潰してるものですから・・・・・
本物ではない不気味な鳥の鳴き声が辺り一面から聞こえる。まるでこの場所だけ曇り空がかかっていて、本当に何かが出てきそうな雰囲気だ。もしかしたら既に何かに取り付かれてるかもしれないなんて? いや、俺の場合は取り付かれているか・・・あの真っ白疫病神に。訳のわからないゲームに巻き込みやがったあの監視者に。
「ししし白奈さん? 嘘ですよね? 見に来ただけですよね?」
雫は俺の裾を握り締めながら青い顔になってガクブルに震えている。やっぱりお化け屋敷も苦手なんだなこの娘は。というか、この脅え様からして絶叫系より苦手と見える。
しかしだからこそ、そういう人物が入ってこそのお化け屋敷というものだ。中に入って色んなお化けに襲われてキャーキャー喚くのが醍醐味というやつだろう。俺の勝手な想像世界での理だが。
俺は何も答えずに雫の手首を引っ張って歩いていく。その先にあるのは勿論、館式のお化け屋敷だ。和風ではなく洋風のお化け屋敷だ。普通にこっちの方が怖いだろう。だって俺も若干ビクついてきてるもの。実を言うと俺も怖いのはあまり得意じゃなかったりする。なら来んなって話だよな。俺もそう思う。
「10分コース、30分コース、1時間コース・・・ここはやっぱり――」
「10分です!! 行きますよ白奈さん!!」
「あ、はい・・・・・」
半ばヤケクソになっているのか、それとも怒っているためにその感情の高ぶりが恐怖を少しでも打ち消してくれたのか。雫はムスッとした顔で涙目になりながら逆に俺の手を引いて10分コースと書かれてある入口の中へと入って行く。
中に入るとわぁ凄い。お先の通路が真っ暗闇で何にも見えやしない。いつ何がどんなタイミングで奇襲を掛けて来ても俺達は嵌められるだろう。何と恐ろしきダークロード・・・いやこの表現は中二臭ぇから止めておこう・・・・・
入口付近に立て札が置いてあったのだが、そこには館内の説明が一通り書かれてあった。何何? お化けは全て機械仕掛けなので、何かトラブルがあった際には悪しからず・・・って無責任だなおい!? それと何何? たまに別のコースに引き摺り込んで来るお化けもいますが悪しからず・・・っておいおい大丈夫なのかここ? まずお子様絶対に入れないぞ? しかも最後の最後にR18って書いてあったし。何で係員いないお化け屋敷が十八禁なんだよ?
雫は立て札すら読む余裕が無かったのか、とにかく俺の手を引いて奥へ奥へと進んで行く。マズいぞ・・・この分だと雫も俺も気絶しかねないかもしれない・・・・・
「・・・・・あ゛っ」
「んん?」
ピタッと急に雫が一時停止する。一体どうした・・・あぁなるほど分かれ道か、さてどっちに――
トントンッ
「はぃ?」
突然後ろから小突かれて俺は咄嗟に返事を返して振り向いた。するとそこには顔が原形留めていないくらいにグロッキーなことになっているゾンビ達が三人程・・・って!?
「うぎゃぉぉぉ!? 確かにこれは十八禁っ!!」
「し、白奈さん!? きゃっ!?」
「えぇ!? ちょちょちょちょっと君達!?」
ゾンビ達は三人係で雫の手から離して俺を上に持ち上げると右の方に駆け出して行く。そして乱暴に舞絵に放り投げられて俺は「ぴぎゃん!?」と情けない声を出して倒れてしまった。
そして更に状況は悪化していく。後ろに突如大きな機械仕掛けの壁が出現して雫と遮断されてしまったのである。急いでその壁を越えようと叩いてみるが・・・鉄でできているようで戻ることは許されなくなってしまった。多分雫が俺を呼び掛けているかもしれないが、少なくとも俺の方は何も聞こえない。
「ウソダロWhy?」
仕方なく俺は前に歩き出したのだが、また少し進んだ先に立て札が立てられていて、そこにはこう書かれてあった。『ここより先は30分コースとなります』と。どうやらあの分かれ道はコース分岐の分かれ道だったらしい。なら最初にコース選んでも意味なくね?
でも幸い、元に戻りたくとも先に進むべしと書かれてあったし? 行くしかないなとにかく。気が進まないまま俺は雫の無事を願って先に進んで行った。
~※~
「ゼェ・・・ゼェ・・・し、心臓が持たない・・・」
ギャキキキキッ!!
「フォッフォーウッ!?」
雫と離れてからどれくらい時間が経過しただろうか? 腕時計も何も付けてきてないので時間すら分からない。そして何度グロッキーなお化けに襲われたのかすら分からない。
説明してあげたいのは山々なのだが、何分グロッキー過ぎて一体一体説明するのは時間がかかるので以下省略だ。まぁ、今現れた奴だけ説明しておくと、小さなただのコウモリ・・・と見せ掛けて実は羽が人間のボロボロに腐敗した二本の手が生えていて、顔面がこれまた血でぐちょぐちょになっている人面形だ。つまりは人面グロッキーコウモリと言ったところか。聞くだけだとヘンテコに聞こえるが、実物を見ると普通にトラウマ物である。
こんな体験をもう10分以上は滝が降り注ぐ如く経験しているのだ。もう恐怖とか云々の前に神経が麻痺して恐怖という感情そのものが一周回って無くなってしまっていたりする。それでも驚いてしまうことに代わり無いのだが。
そしてしばらくまた進むとそれは唐突にやって来た。何故か行き止まりという。
「何で!? 出口無いってか!?」
いやいやおかしいだろ? まさかそんなオチがあるわけないだろう。きっとこの壁が隠し扉か何かになってて繋がってんだよ。俺はコンコンと壁を叩いてみる・・・と、案の定予想通りに壁は忍者屋敷風の隠し扉だった。だが・・・・・
「あり? ここって・・・・・」
出た場所は見覚えのある場所だった。そこは、雫と分かれた分岐点だった。証拠にも、俺が放り投げられたであろう鉄の壁が残ったままになっている。つまりはぐるっと館内を回って戻ってきてしまったんだろう。
だ、だがまぁこれで雫とは合流できる可能性が高くなっただろう。俺は少し急ぎ足で雫が進んで行ったであろう左の道に進んで行く。
そして50m程進んだ所で俺はとある異変が起きていることに気付いた。お化けが一体も出てこないのだ。
「あれ? どうなって・・・」
そしてまた一歩進んだところで俺は何かを踏んだ。足を避けてその物体を確認すると・・・
「ど、どうなってんだこれ?」
それは先程と同じグロッキーコウモリ・・・のはずだと思う。何故言い悩んだと言えば、一言で言うと壊されてしまっているからだ。人面顔の眉間辺りに何かを思いきりたたき込まれたような亀裂が生じているのである。
何だろうか・・・何やら嫌な予感がする。俺は壊れているそれを床に置いて走り出した。
「・・・・・を・・・・・せぇ!!」
「っ!?」
少し走った先から、何やら叫び声のような声が聞こえた。怖がっている悲鳴などではない。まるで怒りの余りに暴れているかのような、そんな声だ。
走って進んで行く度に破壊されている機械仕掛けのお化け達がゴロゴロ転がっている。いよいよ何かが起こっているんだろうと発覚して止まることなく進んで行く。
そして俺はその人物を発見した。他でもない、雫本人だった。
「白奈さんを・・・返せぇぇぇ!!」
バキィッ!!
最初は見間違えと思った。その少女が余りにも暴力的になっていたから。右手に少し大きめの金槌を持ち、正気を失ったかのような瞳を浮かべて歯を剥き出しにしながら機械仕掛けのお化けにそれを降り下ろしている。今は人形のゾンビが対象だ。
ゾンビの頭にそれが降り下ろされると、鈍い音と甲高い音が混じり合ったかのような音が鳴り響いて、たった一撃で粉々に頭が砕け散った。相当威力があるんだと見て良いだろう。
「返せぇぇ!! 私に白奈さんを返せぇぇぇ!!!」
我を失ったかのような雫の叫び声が館内に響き渡ってお化けが更に肉塊へと姿形を変えていく。ゴシャッゴシャッと何度も何度も金槌を降り下ろし、やがてゾンビはただの機械の塊と化した。
「ハァ・・・ハァ・・・白奈さんを・・・白奈さんをぉぉぉ!!!」
「お、おい! 落ち着けって雫!」
これ以上はマズい。これ以上放っておいたら何を仕出かすか分かったものじゃない。俺はすぐに雫に駆け寄って肩に手を置いて引き止めた。
「私に触るなぁぁ!!!」
「うわっ!?」
すると雫はこちらを振り向いたと思いきや、瞳孔が開かれて殺意に満ちたその目を俺に向けて金槌を横に振り払って来た。俺は反射神経でどうにか回避できたものの、尻餅を付いて転んでしまう。
「白奈さん以外が私に触るなぁぁ!!! 白奈さんを返せぇぇ!!!」
「落ち着け雫!! 俺だ!! 白奈だ!!」
尻餅を付いて座り込んでいる俺にまで金槌を降り下ろそうとする雫。だが俺は必死に呼び掛けて止まってくれるよう右手を突き付けた。
「返・・・・・白奈・・・さん?」
「そうだ俺だって。ったく・・・」
「白奈・・・さん・・・白奈さん・・・白奈さん!!」
殺意が込められていた目に光が宿り、やっと正気に戻った雫は突如涙目になって俺に抱き付いてきた。小さな身体なので倒されないでどうにか受け止めることができた。
「白奈さぁん白奈さぁん・・・私を置いて何処に行ってたんですか?・・・心配したんですよ?」
「悪い悪い。予想以上に館内が広くて手間取っちまった」
「グスッ・・・もう何処にも行かないでくださいね?」
「わ、分かってるってもう大丈夫だ
「うぅ・・・良かったですぅ・・・」
良かった・・・か。何だろうかこの違和感は。本当にこれ全部雫がやったというのだろうか。いや、やったんだろう。形跡が全部雫が今だ右手に持っている金槌の跡に似ていたのだから。まさか雫にこんな一面があるだなんて思いもしなかった。
雫も咲夜と同じだ。目を離すと危なっかしくなり、何かを平気で傷付けてしまう娘。というか、何故金槌なんていう危険極まりない物を持参しているんだ? 正当防衛のために持ち歩いていると言われてもしっくりこないくらい物騒だ。
俺は先程の雫の目の色を思い出して、今抱き付いて来ている雫に若干畏れを抱きながらも泣き止ますために無意識に頭を撫でてやっていた。そして雫は雫で気持ち良さそうに目を細めて幸せそうな笑みを浮かべながら目を閉じてした。まるで、今さっき暴れていたことが無かったかのように。




