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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
~Second Dead~
17/46

デート=慌しい一日

ヤンデレパートは雰囲気を出すためにレイアウトを変えてみました。『恐ろしき罠=初めての・・・』を見てもらえば分かりますので、改めて暇があったら確認してみてください。

現在午前九時三十分。俺は私服姿で既に待ち合わせ場所で待機していた。デートは三十分前行動と何処かで聞いたことがあり、それに忠実になってみた結果である。当然早まったので雫の姿はまだない。


月との一件後、二人でまたベッドに戻って寝直したのだが、俺はぐっすり眠れたものの月は妙に高ぶってしまって眠れなかったらしい。恐らく今は自分の家でグッスリ眠っていることだろう。


今日の雫とのデートの話は既に許可をもらってある。「先に約束したのは雫ちゃんだから仕方ないよね。でも白君、浮気は厳禁だからね?」と、人差し指を口に添えられて注意を受けてある。勿論、咲夜がまだ寝ている最中にだから問題はない。


咲夜には恋人同士になったことを話さないでいて欲しいと月には頼んでおいた。俺はただ咲夜がパニックになる可能性があると言っただけで、本当はどんなことになるのかを月には話していない。殺しにかかるだなんて信じられない話だろうし、何より月に危害を加えたくなかったからだ。これに関しても月は快くOKサインをくれた。馬鹿なのにそういうところは理解力があるらしい。これ言ったら絶対に怒られるだろうが。


月は大人しく家に帰ったのだが、咲夜は恐らくまだ俺の家にいるだろう。あいつは休日だと何故か朝に物凄く弱いのだ。そのため、この時間でも咲夜はお眠の世界に溶け込んでいることだろう。まぁ戸締まりの方はしてくれるだろうし大丈夫だろう。また盗聴機とか仕掛けられる可能性があるかもしれないが・・・帰ったら辺りを完璧に大掃除しておこう。最近掃除をサボっていたからなぁ。


一応書き置きを残さないのは心配をかけたり不安要素を残すかもしれないので、ちゃんと書き残しておいた。『旅に出ます、探さないで下さい(笑)』と。茶目っ気を出してみたが、まぁ・・・最後の文字で冗談だと受け取ってくれるだろう。


そんなこんなで残り時間が十五分になった頃、真っ白なワンピース姿に向日葵のついた帽子を被った女の子が近付いて来ていた。あれは恐らく雫だろう。あっ、一瞬転けかけた・・・いちいち仕草が可愛いな全く・・・・・おっとイカンイカン、こんな気持ちでいたら月にまた怒られ・・・というか拗ねられてしまう。


「す、スミマセンスミマセン! お待たせしてしまいました! 私のような低能で無力でちっぽけな人間のために本当にスミマ――」


「待て待て! 出会って早々にネガティブは禁止だっつの! 大丈夫だから十五分くらいしか待ってないから!」


「十五分も・・・それはつまりカップラーメンを五つも作れる時間まで白奈さんを待たせてしまっただなんて・・・ごめんなさいごめんなさい、どう変わろうとしても私はやっぱり人間のクズ埃――」


「だから気にすんなってばっ! ほら! 今日は天気の良い日の中でのデート日和だぞ? 明るく行こうぜ明るく! な?」


「デ、デート・・・私が白奈さんとデート・・・ふわぁぁぁ・・・・・」


単純に純粋に嬉しそうな表情を浮かべる雫。そんな楽しみにしててくれたのかい。別に俺は大したことできないってのに。今日は雫にあれこれ振り回されるために来たのだ。今回ばかりはのんびりと楽させてもらおう。


「そんで? 行く場所は決まってるんだよな?」


「は、はい! 調度良く、あるものを持っていたので、今日はそこに行こうかと!」


「ほぅ・・・それは一体何処かね?」


「それはですね・・・・・」


駅の方に一足先に進んでいくと、くるっと見向きを俺の方に変えてニッコリ笑いながら自分の口に人差し指を立てて付けた。


「着いてからのお楽しみです♪」


「・・・・・んんゴホンッ」


ごめんなさい月。今一瞬だけ他の女の子に意識を奪われてました。帰ったらそれなりにできる限りのことはするので許してください。俺は顔に熱を感じて額に手を当てながら雫の後に付いていった。




~※~




電車で大体三十分。それからバスに乗って二十分。合計五十分使って俺と雫は今日一日中過ごすことになる場所に到着していた。なるほど、確かにここならデートに最適だろうな。女の子らしい雫が選んでもおかしくはない。


今、俺の目の前に広がる光景はというと。多くの絶叫マシーンや超巨大な観覧車。パレードのような行進にマスコットキャラクターが子供に風船を上げている。そう、今日俺は遊園地に連れてこられたのである。


何でも、お母さんの友人がくれたものらしくて、雫マザーも特に使い道がなかったために雫は無料で遊園地のチケットを二枚貰ったんだとか。それもあって雫は俺に手紙を出してデートに誘ってくれたらしい。全く嬉しいことじゃねぇか。別に女友達と二人で来ても充分楽しめるだろうに、俺をわざわざ誘ってくれたのだから。


「うーん・・・どれから乗ろうか迷うな・・・少なくとも絶叫系は制覇しておきたいところだな・・・」


「うっ・・・・・」


やっぱりそうか・・・予想通りの反応だった。遊園地を選んだところまでは良かったが、そこから生まれる問題は何が大丈夫で何が苦手かということだ。取り合えず定番の絶叫物をさりげなくプッシュしてみたのだが、見た目通り雫は絶叫系が苦手のようだ。まぁだからこそ無理矢理にでも乗せてやるのが悪戯心というものですよねー? 俺はニヤリと悪人顔になる。


「し、白奈さん私はっ!? ししし白奈さん顔が怖いです!」


「雫ちゃん」


「は、はい?」


「ジェットコースターはお嫌い?」


「そ、それはその・・・絶叫物は私苦手でして・・・」


「そうかそうか・・・なら・・・」


俺は悪人顔からニッコリスマイルに切り替えて雫の手首を掴み取った。雫は目を丸くしてキョトンとした表情で掴まれた手首と俺の顔を交互に見つめる。


「雫ちゃん。苦手な物は克服しないといつまで経っても大人になれないんだよ?」


「・・・・・し、白奈さん待っ――」


「んじゃまずはジェットコースターからで。さぁ行くぞ無限の彼方へ~♪」


「わ、私は別に大人になれなくてもいいですぅぅぅ・・・・・」


涙目になりつつ俺の拘束から逃れようとするも、雫の力で俺の手を解けるわけもない。為す術無く雫はズリズリと床を引きずりながら、俺に引っ張られていくのだった。


それから俺は雫を良いだけ苦手なものであろうものに強引に同席させた。


カタンカタンカタンカタンッ・・・・・


「駄目です駄目です駄目駄目駄目駄目ァァァアアァォォァァァ・・・・・」


最初にジェットコースターに乗せて普段小声で喋っている雫の大声を初めて聞き。


ゴゴゴゴゴゴゴッ・・・・・


「高いです高過ぎです高過ぎ高過ぎ高過ぎひぃぃぃぃぃぃ・・・・・」


スペースシャトルという上にゆっくり上がって一気に下に落ちるアレを二三度体験してチンサムを経験させたり。


くるくるくるくるくる・・・・・


「早いです早いです目が回ります目が・・・ぅぅぅ・・・・・」


「おぶろろろろろ・・・・・」


「えぇ!? 白奈さんが先でぶろろろろ・・・・・」


嵌めたと見せ掛けて実は回転酔いに弱い俺と共に一つのコーヒーカップをゲロまみれにしてしまったりと、ハチャメチャな遊園地を味わっていた。まぁ、最後の方は管理人さんにまで迷惑を掛けてしまって申し訳ない気持ちになって雫がネガティブに陥るというちょっとしたアクシデントがあったが、それも醍醐味としよう。


そんなこんなで時刻は昼時間となり、俺達はランチエリアにて一息を付いていた。雫がゲッソリと見るからに痩せこけてテーブルに俯いてダウンしているので、俺が代わりに雫の分も昼飯代を奢る形で焼きそば等々買って来た。ここは紳士的に行くべきところだということを俺は心得ているのさ・・・どうよこの完璧な配慮・・・え? 女の子相手になら普通? そうですか・・・・・


「ずみまざんじろなざん・・・おでずうおがげじでじまっで・・・・・」


「い、いやいや、俺が無理に引き摺り回したからなぁ・・・何か色々とすまん。焼きそばはお詫びねこれ」


「あ゛ぃ・・・いだだぎまず・・・」


まるで生きた屍のように焼きそばを吸い込んでいく。もはやこれはゾンビだゾンビ。大丈夫なのか雫・・・ランチ終わったらまさにそのゾンビ等々が潜んでいるあの場所へと行くつもりなのによぉ・・・・・


「ふっ・・・・・」


「?」


俺は、また面白い反応が見られるであろう雫の顔を思い浮かべて一人ほくそ笑むのだった。

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