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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
~Second Dead~
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慰める=着替え

「動くなよ? 絶対に動くなよ? 何がなんでも変な反応とか起こすなよ? 駄目だぞ絶対? 絶対だかんな?」


「う、うん・・・私頑張る」


泣き止ますのにどれだけ時間を掛けたのか覚えてはいない。でも恐らく今の時間帯は深夜の二時か三時くらいだろう。勘弁してくれよ、朝早く起きて準備したかったのにこれじゃ全然眠れないじゃねーか。夜更かしは美容の大敵とか何とか言うけど、そこんとこ大丈夫なんですかねツッキーちゃん?


まぁ? 泣いて泣いて涙で顔がボロボロになっているから美容云々の問題はどうでも良くなっているようにしか到底見えないんだが。それよりも今は着替えだ。


今、月には便座から立ってもらって両腕を横にピンと伸ばしてもらっている。下を脱がしやすくするためだ。にしても目のやり場に困るものだ。上を向けばブラジャー一枚だけでしか隠されていない巨乳があるわ、下を向けばいずれは裸となるお漏らし状態の下半身はあるわでもう散々だ。


咲夜と月が泊まりに来なかったら今頃俺はぐっすり眠っていたというのに・・・この無駄な時間をどうしてくれようか? いっそ揉み解してやろうかその胸を。いやしないけど絶対に。


「まずはパジャマ・・・っと。これはまぁ楽勝だな。月、少し足上げろ」


「ん」


こういうのはスピード勝負だ。ゆっくりゆっくり下に下げたところで妙にくすぐったさが発生し、月が「うぅん・・・」とか「やぁん・・・」とか色気強い反応を起こしかねない。俺はそんな声など聞きたくない。俺だって男の子なんだ。我慢の限度というものも存在しているのだ。


股間部分が湿ったパジャマを無事脱がすと、一応綺麗に畳んでおく。後で洗濯機に放り込む予定だが、これは単純に俺の癖だ。


さて、ここからが本番だ。今の月は完全に下着状態になっている。このほぼ全裸状態の彼女のパンツを脱がさなくてはならない。しかも次にこの薄い布のパンツを履かせなくてはならないし・・・一部の男達なら泣いて喜ぶだろうが、俺の場合は純粋に泣き叫びたい気持ちでいっぱいです。


「お、下ろすからな? 一気に行くぞ?」


「う、うん・・・お願・・・っ!!」


そして俺は勢いよくパンツを下に一気に下ろした。だが、やり遂げたと思った瞬間事件は起こった。


「きゃぁぁぁ!! 蜘蛛ぉ!! 白君蜘蛛ぉ!!」


「ごぁっ!? つつつ月ぃ!?」


どうやら俺の後ろ辺りに・・・ということはドアの方に蜘蛛が現れているらしく、月は立った状態から下に落下する勢いで俺に抱き付いて来た。ただでさえ露出度が高い格好になっているのに、これはキツい。もうぶっ倒れそうだ色んな意味で。


ほぼ生の大きな胸が俺の顔を包み込むように当たってくる。熱が込もっていて月の早くなっている心臓の音が聞こえて来る。多分俺の鼓動の音も早くなっていることだろう。


何とか足だけで踏ん張って月を受け止めて見せて、両腕は月に触れてはいない。身体には絶対触れるなよ俺、気分を害されるに決まっているから――


「いやぁ!! 白君助けてぇ!!」


「おぶっ・・・」


いや、俺が誰かに助けて欲しいんだが。相当慌てているのか月が更に押し倒すように抱き締めて来るので、倒れないために月の身体を支える形になってしまった。柔らかいスベスベ柔肌の背中に触れてしまいどうにかなりそうだ。


蜘蛛を探すために後ろを向いてみるとすぐに奴を発見できた。確かにドアの真ん中辺りにスパ○ダーマンのように張り付いているのが見える。お前のせいで状況が更に悪化したよコンチクショウ、どうしてくれんだ全く。


昼は駄目でも夜の蜘蛛は子供でも殺してしまえとどっかで聞いたことがあったか。ならトイレにでも流してしまおうか。動かなくなっている蜘蛛に右手を伸ばしていく。月を抱えながら、しかも後ろなので体勢がしんどい。だが上手い具合にキャッチして便座の方に見事なコントロールで投げ込んだ。後は水に流しておしまいだ。


「月、水流すから離れろって。動けないんだって」


「うぅぅ・・・・・」


蜘蛛がいなくなったからだろう、月が少しだけ冷静さを取り戻してくれていた。それでようやく月の拘束から離れられた俺はすぐに大の方に捻って水を流した。プカプカと水に浮かんでいた蜘蛛が流れていくのが見える。恨むなよ、こっちも必死なのだからな。


「ほらもういなくなったぞ。立てって」


「うぅ・・・腰が抜けて立てないよぉ・・・」


「ぐっ・・・な、なら真っ直ぐに足を伸ばせ。後は履かせて終わりなんだからすぐだすぐ」


「うん・・・」


月は言う通りに尻餅を付いた状態で足を真っ直ぐに伸ばした。格好が格好だけに物凄くエロいがそこは我慢だ。月の股間部分を見ないようにして俺は足先に布薄めのパンツを通していく。後はもう目を瞑って・・・太股まで一気に動かして股間にフィットさせれば・・・・・


「よ、よっしゃぁ乗り切った・・・良くやった俺、努力賞だなこれは」


ようやくミッションコンプリート。俺は自画自賛して余韻に浸る。今回くらいは別に良いよね、だって煩悩に振り回されずに頑張ったんだもの。


少なくとも今の月は立ち上がることができなくなっているが、少し経てば立ち上がるようになれるだろう。それまで待つこととし、一応下着姿なので目を逸らして座った。


「ごめんね白君・・・また迷惑掛けちゃって・・・私、嫌な女だよね・・・」


「嫌な女っつーか馬鹿な女ではあるな。嫌じゃないけど馬鹿だ馬鹿。馬鹿馬鹿大馬鹿」


「うぅ・・・嬉しいようで実は悲しいよぉ・・・六回も言わなくても良いよぉ・・・」


「だって事実だろ」


「白君の意地悪ぅ~・・・・・」


涙目になりながらぽかぽかと力のない拳で何度も殴って来る。これでも俺より一つ歳上だというのにこいつは・・・これじゃ立場逆転だ。


「悪かった悪かったって。まぁ次からは気を付けろよ。今回は俺がいたから良かったものの、親御さんだったら確実にヒかれるか笑われるかされてんぞ」


「・・・あの人達は私に関心すらしてないから」


「あっ・・・・・」


月の家庭の仲の良さは良いか悪いかで言うと後者に当たる。DVとか物理的な仲の悪さではない。仕事を第一に考えて家庭に関心を示していないのだ。父親も母親も取り憑かれたように仕事をしていて、ほとんど家に帰ってきてないようなのだ。それでもたまに家に帰ってくることがあるにはあるのだが、月が何かコミュニケーションを取ろうとしても「仕事でつかれているから休ませてくれ」の一言で突き放されてしまうのだ。過去にお母さんのネタを挟んでボケていたのは、甘えたいと言う月の願望なんだろう。


家庭に月の居場所はない。だから月は学校に居場所を作るために生徒会に入ったりと積極的なことをしているのである。その結果、月は居場所ができて生徒会ではマスコットキャラのように思われている。


家以外では月は幸せそうだ・・・が。それでもやはり最終的に帰るのは自分の家なのだ。そのため、月は小学生の頃から良く俺の家に泊まりに来るのである。一人は嫌だ。家にも自分の居場所が欲しいと。


「わ、悪い・・・嫌なこと言った・・・」


「ううん、大丈夫よ。今の私は寂しい気持ちなんて何処にもないから」


すると月は俺の隣にピッタリとくっついて寄り添ってきた。直接抱き締められるのは刺激が強いが、これはこれでドキドキしてしまう。俺の左肩に顔を預ける形で目を瞑っている。


「駄目って言っても最後に白君は私の我が儘を聞いてくれるから・・・白君には悪いかもしれないけど、それでもやっぱり甘えたくなっちゃうよ」


「・・・本来なら俺が甘える立場なんだろうがな」


「ん? 白君甘えたいの? 良いよぉ~?」


「い、いや物の例えだっつの」


「むぅ~、残念。ふふっ♪」


すっかり月は調子が元通りになっていた。これならもう立ち上がって戻ることができるだろう。


「そろそろ良いだろ。ほら戻るぞ月」


「・・・・・嫌」


「嫌ってお前なぁ・・・」


しかし月は一向に立とうとはせずに、逆に俺の左手を両手で握りしめてきた。チラッと横目で見てみると、熱の込められた目で俺を真っ直ぐに伸ばした見つめて来ていた。それが正直・・・綺麗に見えた。


「・・・・・白君」


「・・・ん?」


「・・・・・」


月はそこで一度口篭もってしまう。何か言いたげだがまた口を閉じてしまう。しかし、思い詰めるように目を瞑った後に頬を紅葉色に染めてニッコリと笑った。


「私は・・・私はね?・・・白君が好きです・・・大好きです・・・もし良かったら・・・私とお付き合いしてください・・・」


「お、お前・・・・・」


「本当は体育倉庫に来たときに伝えようと思ったんだけど、白君、雫ちゃんの方に行っちゃったから・・・白君は今日雫ちゃんとデートするの知ってるけど・・・でもやっぱり先に私の気持ちを伝えたくて・・・」


体育倉庫という場所だから怪しい雰囲気しかなかったのだが、どうやらそれは俺の思い過ごしだったようだ。月は最初から真剣だった。真剣に俺に告白するつもりだったんだ。自分の想いを正直に伝えるために。


「私は白君が大好き。小学生の頃からずっとずっと・・・いつも泣いてる私を慰めてくれて・・・優しくしてくれて・・・一人ぼっちだった私に勇気をくれて私にも居場所を作ることができた・・・生徒会に入ったのも白君が勇気を分けてくれたからなんだよ?」


「別に俺は大したことをした覚えはないっての。月の行動力があって成せたことなんだろ」


「ううん、そんなことないよ。私が変わることができたのは全部白君のお陰。白君は私にとっての恩人でもあるの。最初はただの恩人だと思ってた・・・でもすぐに気付いた。そうなんだ・・・私はこの人が好きなんだ・・・って」


~~~~~~~~~~

「えーと、そこでルールの説明ね。まずクリア条件は『本命の恋人を一人決めて作って一週間生き延びることができたらクリア。』でももし、誰かに殺されるか事故死しちゃった場合は失敗。恋人になった人と恋人になる前の時間に戻ってまた何度でも再チャレンジになるから頑張ってね~」

~~~~~~~~~~


こんな時に雨瑠が言っていたことを思い出した。本命の恋人を作って一週間無事に過ごせたらクリア・・・と。でも良いのか? これじゃまるで月を利用するみたいだ。そんなの月に悪過ぎる。月は真剣に想いを打ち明けてぶつかってきてくれているのだ。だったら俺も・・・正直にぶつかるべきだ。


「月」


「は、はい」


「正直に言うとだな、俺はお前のことが好きちゃ好きだが、それはあくまでも幼馴染止まりの好きなんだよ」


「・・・・・そうだよね――」


「でもなぁ・・・やっぱ男女の幼馴染関係ってのは不安定というか何というか・・・その・・・つまりだな・・・」


うわこれ直接言うのはスゲェ恥ずかしい・・・でも月は黙って俺のことを見て聞いてくれている。背けるな。逸らすな。俺も前を見て打ち明けろ。


「その・・・これから好きになれるように努力してもいいかな・・・ってよ・・・好きになるために付き合う奴らも少なくはないんだから・・・な」


「し、白君・・・それって・・・」


「あぁうん・・・まぁ俺で良かったらだが・・・」


「白君!!」


月は涙をぽろぽろ溢しながらも満面の笑みを浮かべて俺に抱き付いて来た。余程嬉しかったんだろう。俺も思わず笑みが溢れてしまう。


「嬉しい・・・嬉しいよ白君・・・本当に・・・」


「そりゃ良かったな」


「うん!」


月とならきっと上手く行く。ドジなところはあるけど、それでも月は頑張り屋で努力家で“普通”の可愛い女の子なんだ。咲夜には悪い気持ちを感じるところが少なからずある。別に一度咲夜に殺されたから怖くて咲夜を選ばなかったからというわけではない。ただ・・・そうだな・・・俺が咲夜よりも先に月の想いに負けてしまった・・・と言ったところか。脆いもんだ俺も。


「ね、ねぇ白君」


「ん?」


「これで私達って晴れて恋人同士なんだよね?」


「そ、そうだな」


そういうことをいきなり言わないでくれ。まともに顔をまた見れなくなる。何だか妙に顔が火照ってきたし。


「だ、だったらその・・・さっきは私からその・・・したから・・・」


そう言うと月は俺に向かって顔を近付けてくる。つまりはそういうことなんだろう。さっきは自分からしたから、今度は俺からしてくれと。戸惑いや躊躇する必要はない。月は俺の恋人になったのだから。


俺は月の背中に手を回して月を自分側に引き寄せてそっとキスをした。さっきされていたものの、やはり舌を絡める勇気はまだ俺にはないので触れるだけのキスだ。それでも少し欲張って長めのキスだ。


そして時間が経過してまたそっと口を離すと、月が俺の胸に顔を預けて抱き付いてくる。俺も同じように月の身体を強く抱き締めた。


「大好き・・・白君」


「・・・・・ん」


ニッコリ微笑む月に素っ気なく頷き返す。それを見られて苦笑されるとまた月が求めてきて、俺達は後少しの間だけそこに残って何度もキスを交わしていた。

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