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病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
~Second Dead~
14/46

訪問=二人の修羅場

現在の時刻は夜の八時。日取りは雫とのお出掛けを控えた前日だ。俺はありとあらゆる準備を既に済ませて就寝準備に取り掛かっていた。不覚にも、俺は遠足前に寝られなくなるような体質なので、早めにベッドに横になって寝ないと次の日に魂が抜けた脱け殻のような感じになってしまうのである。我ながら情けない話だ。


お出掛けする日取りは土曜日ということになり、待ち合わせ場所はここから一番近い駅のところに噴水広場があるのだが、そこで午前十時に待ち合わせということになった。


「ど、土曜日は白奈さんを楽しませられるように頑張ります!」と意気込んでいたところを見ると、行くところも全て決めてあるようだ。本来ならば男の俺がエスコートするべきなんだろうが、今回は全て雫に任せてみよう。その方が面白そうだし、何より頑張る姿の雫を見れる可能性が高いという高メリットがあるのだから。


そんなこんなで俺はとっとと寝てしまおうと、全身灰色姿の寝巻きに着替えて寝ようとした。


――ピンポーン――


しかし、こんな夜中にインターホンの音がなった。当然、誰かが訪問してきたということだ。こんな夜中に一体誰だろうか? 押し売り? 通信販売? 宗教の勧誘? どれだとしても俺ははっきり物を話すことができる人間なので、すぐにご退場願おう。


訪問者を確認するために玄関まで足を運ぶ。そして玄関扉の真ん中の上部分にある小さな穴から向こう側を覗いてみた。


「し~ろ~く~ん。あ~そ~ぼ~♪」


その正体は何かしらの勧誘なんかではない。ドジっ子ツッキーちゃんだった。俺は鍵が掛かっていることを確かに確認した後にもう一つのドアロックも確かに掛けると玄関から退場した。


しかし・・・退場するのはもう一人の幼馴染の登場によって引き留められてしまうことになる。玄関扉の向こう側から咲夜の声が聞こえてきたのだ。


「アンタ・・・何やってんの?」


「あっ、咲夜ちゃん。何って勿論白君の家に遊びに来たのよ~♪」


「帰れ。こんな時間に何が遊びに来たよ。“そういう”目的で来たとしか思えないわよ。アタシの白奈が迷惑しないうちにとっととここから消え失せろ尻軽女」


おいおいこれって修羅場ってやつなんじゃねーの? 止めてくんない? 人の玄関先で揉めるの止めてくんない? そして他の住民の人達にも迷惑掛かるんですけど?


「そ、そんなぁ・・・私は尻軽女なんかじゃないよ? 白君に一筋の今だ処女の女の子だよ?」


「そんなことどうだっていい。いいから失せろ。邪魔なのよ」


そしてガチャガチャと玄関の鍵に手を掛けられる音が聞こえた。恐らく、咲夜が合い鍵を使って中に入ろうとしているのだろう。だがそんな簡単に家に入れないようにするのが第二のドアロックという物だ。


ガチャリと鍵が開かれる音がなってドアが開けられる・・・と本人は思ったのだろうが、開いたのはほんの少しだけだった。勿論第二のドアロックのお陰である。


「あれ? 開かない!? あっ、白奈! 今日も泊まりに来たよ! 入れて~!」


「駄目」


俺はニッコリと微笑んでそう言ってやった。しかし咲夜は諦めずに第二のドアロックも外すために小さな隙間から手を伸ばしてきた。しかし、その手が絶対に届くことはない。何で今までこれを使わなかったんだろう俺は・・・・・


「白君私も私も~! 私も今日は泊まりに来たよ~! 入れて~!」


「無理」


咲夜の頭の上から月のニッコリ笑顔もひょっこり出てきて咲夜と同じことを言うものの、俺は全く同じ表情を見せてやるだけで開けてやろうとはしなかった。そして月までもがドアロックを外そうと手を伸ばして来た。


「むぅぅぅ~!」


「ちょっとアンタは黙って帰ってよ! 邪魔って言ったでしょ!」


「でもでも私も白君の家に泊まりたい~! あっ、咲夜ちゃんそういえばその合鍵どうしたの!?」


「白奈が許可してくれた鍵よ! つまりもうアタシと白奈は夫婦も同然なのよ! 分かったらとっとと諦めて黙って惨めに一人帰れ!」


「うーん・・・私もロウで形を取って作ってみようかなぁ・・・・・」


誰も許可した覚えなんてねーよ、お前が勝手に作って来たからどうしようもないだけだろーが。後、月は何恐ろしいことを考えてやがんだ。これ以上合鍵訪問者が増えるならば通報すんぞコラ。


「開けて~!」


「開けてよ~!」


「白奈~!」


「白君~!」


「今日も大人しくするから入れてよ~!」


「私も白君の言うことちゃんと聞くから入れてよ~!」


「白奈ぁぁぁ~!!」


「白君んんん~!!」


「白奈ぁぁぁぁぁ~!!!」


「白君んんんんん~!!!」


「ええいやかましいわっ!! 騒音罪で110番通報されてーのか!?」


「あの~・・・ちょっと正直うるさいのですが~・・・」


すると、玄関先の隣から住民の一人がとうとう来てしまった。用件は無論この騒ぎへのクレーム一件だろう。大学生くらいの眼鏡をかけた男の人はダラダラ涙を流して訴えてくる。


「明日は超重要のテストがあるんですよぉ・・・勘弁してくださいよぉ・・・」


「すすすすみません!! ホンットすみません!!」


俺はドアロックを開けてその人の前に出て何度も頭を下げる。何で俺が謝らないといけないんだ・・・主犯達はここぞとばかりに家の中に駆け込んで行くし・・・散々だ。


テストのために徹夜するらしいとことで、俺はお詫びと励まし等々含めてコーヒーセットを上げた。眼鏡のお隣さん(神戸さん)はお礼を言うと、ガッツポーズをして家の中に戻っていった。何か物腰柔らかい良い人だったな・・・今度結果を聞きに行っておこうかな。


俺はため息を吐いて玄関扉を閉めて鍵をまた掛けると自部屋の方に戻っていく。そしてそこにはもうパジャマ姿になって争っている咲夜と月がいた。といっても、咲夜が一方的にプロレス技をかけているだけなのだが。やっぱ仲良いじゃんお前ら・・・・・


「かぁ~えぇ~れぇ~・・・・・」


「あばばばば・・・折れる折れる折れるぅぅ~!!」


しかし、こんな騒いでいたらまた神戸さんに迷惑を掛けてしまう。さっきお詫びを渡して応援したばかりなのにだ。


「おい、二人共」


「あっ、白奈!」


「あふっ・・・し、白君~」


二人はじゃれつくのを止めて俺の前に駆け寄ってくる。俺はその二人の顔を無表情で掴み取ってキリキリ音をたてながら徐々に力を込めてアイアンクローを仕掛けていく。


「静かにしろ。次クレーム届いたらシバき倒すぞ」


「ごごごごごめんなさいぃぃ・・・・・」


「もうしませんもうしませんもうしませんんんん・・・・・」


素直に反省したので離してやることにする。ったく、何でデート前日にこいつらの相手をせにゃならねぇんだ・・・・・


「うぅん・・・でも最近はこれも白奈の愛と受け取れるようになってきたかも・・・」


「ハァハァ・・・白君もっと・・・もっと私を苛めても良いよ? やっぱりおっぱいとお尻を重点的に・・・」


バタンッ


今日はリビングのソファーで寝よう。幸い最近は温かいので風邪を引くこともないだろうしな。だが、ドアを閉めた瞬間に二人が勢いよく駆け出てきた。


「嘘嘘嘘!! まともにしてるから行かないでぇ!!」


「大人しくしてるからぁ!! だから一緒に寝ようよ白君~!!」


「あぁもう大人しく帰ってくれよ頼むから・・・・・」


しかしそれは叶わない願いであろう。それを言ったところで「やだ」の一言で済まされてしまうだろうし、何より夜道に一人女の子を帰すというのも気が引けるのもまた事実なのである。


俺は仕方なく部屋に戻っていくと、歯も既に磨いてある後なのでそのまま寝られる状態ということで、すぐにベッドに横になった。


「よいしょっと」


「うんしょ・・・うんしょ・・・」


「・・・・・」


部屋には二人が敷いたであろう一枚の布団がある。だが、二人は布団に入ろうとせずに俺のベッドに潜り込んで来やがった。左に咲夜、右に月という位置付けだ。このベッドは一人用なので、二人ならともかく三人となるとギッシリ店員オーバーになってしまうので、嫌でも二人の身体が俺に密着されてしまう。具体的にいうなら二人が俺の腕に抱き付いて来ているので、二人の大きくて柔らかいそれがモロに当たってくるわけだ。


「すいません、二人はおとなしく大人しく布団で寝てください」


「・・・アンタ布団で眠りなさいよ。私は白奈と愛を育まなくちゃいけないんだから」


「ごめんね~咲夜ちゃん。私は白君と二人で良いことするから・・・咲夜ちゃんは布団で寝てね?」


何やらバチバチと二人の目線から電流が迸っている。何これまた修羅場? つーか愛を育む気も良いことする気も何もねーよ。


「・・・素直に言うこと聞いた者には俺からご褒美一つ」


「アタシ、布団で寝るからアンタはそこで寝ていいわ」


「うん分かったよ~♪」


罠にはまったのは咲夜だった。やんねーよ褒美の一つもな。大人しくそこで寝てろ馬鹿めが。しかし、俺の顔に企みが出てしまっていたのか、咲夜は一瞬ハッとなっていた。


「や、やっぱりアタシもベッド――」


「寝ろ」


「で、でもその泥棒猫が――」


「寝ろ」


「・・・グスンッ・・・分かったよぉ・・・・・」


咲夜はいじけながらベッドに横になっ大人しくて眠りに付いた。まぁ・・・大人しくしてくれんならご褒美の一つくらいならやるとするか。


「エヘヘ~♪ 白君白君♪」


「くっつくな、黙って寝ろ」


「ん~、私の口を塞ぐなら白君の口で塞ぐしか手はな・・・嘘ですごめんなさいすぐに寝ますハイ」


殺気を込めた目で睨むのではなく笑顔を向けてやると、月は一瞬で青ざめた顔になって大人しく目を積むって寝始めた。それでも、俺の身体には触れていたいのか、腕じゃないが俺の右手を両手で握って寝ている。まぁ“それ”が当たらないならこれくらい造作もないか。咲夜に明かりを消して欲しいと頼むと、すぐに消してもらって俺も就寝するため目を積むって睡眠の世界にいざなっていった。



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