表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病んだ世界で俺は死ぬ  作者: 湯気狐
~Second Dead~
11/46

リトライ=罠発見

まずは俺が死んでしまったことの流れを整理してみよう。まず最初に俺は雫と月から手紙を受け取った。そして俺は雫の方の呼び出しを選んで、咲夜を説得した後に呼び出し場所の屋上に向かった。雫の用件はただのデートのお誘いだった。まぁ、“ただの”とは言うが俺に取っては重要なことなのだが。


それから他愛もない話を交わしつつ雫と共に帰宅して、我が家に着いたら裸エプロンで待ち受けていた咲夜が・・・ってこれはどうでも良いか。それで夕食を食べようとしたら箸を全て無き物にされてしまっていて咲夜が持っていた箸を取るため奮闘するが、結果は失敗に終わってしまった。そしてそのゴタゴタの最中に興奮し過ぎて暴走した咲夜が襲い掛かってきて、それをどうにか振り解いたら泣き出してしまってあやすハメに。最後に、あやす最中に咲夜が電子機器を取り出すと俺と雫との会話を録音していて、自分と雫の価値観を同じにされて狂気に呑み込まれて俺をこんな殺した・・・と。こんな感じか。我ながらなんて冷静に判断・・・


「うっ・・・おぇぇぇ・・・・・」


「わわわっ!? 白奈君深呼吸深呼吸!」


「ゲホッ・・・う、うるせぇ黙ってろ・・・」


包丁で滅多刺しにされて殺されたことを思い出すと、あの変な空間にいた時は何とも無かったのだが、いざはっきりと思い出してしまったと思いきや吐き気に襲われた。そりゃそうだこれが普通の反応だ。人に殺されたんだぞ? 本来なら簡単に素通りできる出来事じゃないのだ。トラウマになっても全くおかしくない。大丈夫なのか俺・・・咲夜と面と向かって普通に話をすることができるのだろうか?


バタンッ!


「おや? 流石咲夜さん。朝早く欠かさず来るんだね~。それじゃ僕は一応白奈君の部屋で待機してるから、用があったら遠慮なく言ってね~?」


呑気にニコニコ笑いながら雨瑠は俺の部屋の方に向かって行った。そしてリビングには当然俺一人が残される形になる。このシチュエーションは・・・同じじゃないけど、俺には死んだあの時と同じ光景に見えてしまう。


「白奈・・・むぅ・・・やっぱり起きてるんだね。これじゃ朝のセックスも仕掛けられないじゃん」


いつもの姿。いつもの口振り。いつもの調子。そこに殺意も狂気も感じない。至って普通の咲夜だ。冗談と見せ掛けて実は本気なところがある、そんなトラブルメーカーのいつもの咲夜だ。


「え? ど、どうしたの白奈!? 何か悲しいことでもあったの!? 大丈夫!?」


「あっ・・・いや別に・・・」


しまった、まさか涙が出てくるとは思ってなかった。良かった、俺は普通の咲夜のことを恐れていない。むしろ安心することができている。そのことが嬉しくて涙が出てしまっているのだろう。


咲夜は無意識に涙を流す俺に駆け寄って来ると、俺の身体をそっと抱き締めてくれた。柔らかい感触に包まれて良い匂いがしてくる。


「大丈夫だよ白奈、悲しくも寂しくもないからね。白奈の傍にはずっとアタシが付いてるんだから。ね?」


「・・・・・」


ずっと傍にいる・・・か。その気持ちがトリガーの引き金になって俺はお前に殺されたんだ・・・何てことを言えるはずも無かった。何も知らなくていい。ただこれからもいつもの咲夜で居て欲しいことを願うばかりだ。俺は咲夜に抱き締められつつ頭を撫でられて一時の心地好さに浸る。


「・・・悪いな咲夜、もう大丈夫だ」


大分落ち着くことができたので俺はそっと咲夜の身体を突き放した。でも咲夜は納得いってないようでぷくっと頬を膨らます。


「ぶぅ~、初めて甘えて貰えたのにもう終わり? このままHなことをしても良いんだよ? ほら、遠慮せずに――」


「咲夜、面倒だから朝飯作ってくんね?」


「五分待っててっ!!」


物凄い切り替えの早さで咲夜は台風の如く台所に向かって料理をし始めた。安心できるのが、制服の上からエプロンをちゃんと着てくれていることだ。裸エプロンは流石に刺激が強いから、こんなノーマルを見ているとのんびり心地良さを感じていられる。


にしても制服の上にエプロン姿か・・・うん・・・全然有・・・って俺も余裕になってきてるな。この後に咲夜の罠を発見しなくちゃいけないってのに。


「ん? 白奈もしかしてアタシのエプロン姿に惚れちゃったのかな~?」


「んなわけねーだろ、妄想は勝手に一人でしてろ」


「もう、白奈は正直じゃないな~。なら今度は裸エプロンしてあげるから期待しててね?」


「あぁそれはもう見た・・・・・」


やべっ!? 口滑った!


「え!? 何時!? ま、まさか白奈・・・アタシが部屋で一人Hしてる時に窓の外から覗いて・・・」


「違う違う誤解だ誤解!! 今のは言葉のノリ的な流れでだな・・・」


「一人Hを白奈に覗かれる・・・良い! 凄く良い! あぁ興奮してきた・・・白奈今日こそHしよう?」


「その前に味噌汁鍋がH(沸騰)してるぞ」


「え? あわわわわっ!? 火消し火消し・・・って熱ぅ!?」


「相変わらず騒がしい奴だな」


この後、どうにか朝の料理は完成された。でも、味噌汁が熱過ぎて飲むのに時間が掛かってしまったのは言うまでもない。




~※~




今日の授業は過去に・・・正しく言うなら死んだ時の過去にやったことだから聞く気力が起きずに惚けていた。いや、ただ惚けていたわけじゃない。ある一つのことをずっと考えていた。咲夜がいつ俺に罠を仕掛けたということをだ。


咲夜が持っていたあの電子機器・・・あれは所謂いわゆる、盗聴機という奴なんだろう。一体どこでそんなものを見付けてきたのかあいつも。つまり、俺と雫のあの会話は咲夜に盗聴されて録音されたものだったということになる。


なら何時? 何時咲夜は俺に盗聴機を仕掛けた?最初は朝の内に制服やリュックサックの何処かに取り付けられたと思っていたのだが、満遍なく調べた結果まだ俺に盗聴機は付けられていなかった。ということは、盗聴機を付けられるのは学校でということになる。そうなると、いつ付けられたのか俺には容易に想像できる。あんなさりげない動作に取り付けやがったとは、末恐ろしい奴だ・・・・・


六時限目の授業。そして帰りのHRが終了して俺は席を立った。あの時と同じなら教室のドアを開けた瞬間に・・・


「あっ、白奈。今日も一緒に帰ろ~♪」


スタンバっているはずだ。というか現にスタンバっていた。これで原点回避することができる。さて、話を逸らさずとっとと説得してしまおう。


「あー悪いな咲夜。俺この後用事あるから先帰っててくれ」


「そーなの? ならアタシ待ってるよ」


全く前と同じ台詞だ。そりゃそうだろうな。でも、前のように焦らしたりはしない。最初から奥の手を使っていこう。


「あっ、そうだ咲夜。今日夕食も作っておいてくんねーか? お前合鍵持ってるし勝手に家の中に入れんだろ? 先帰って準備しといてくんねーか?」


「お・・・お・・・」


同じとはいえ面倒臭いなこの処理は・・・


「俺の嫁宣言!! 白奈から俺の嫁宣言頂いちゃったぁ!! は、早く市役所行って婚姻届け貰って来ないと駄目だね!!」


「話を飛躍しない。いいからとっとと帰れ」


「分かった任せてよ! メニューは刺身の女体盛りにデザートのアタシで良いよね?」


「全然良くないから。普通の食い物食わせろ」


「しょうがないなぁ~、なら白飯と味噌汁の女体盛りにするね」


「女体盛りを一番に抜け馬鹿」


「え~、アタシの中じゃ普通のメニューなのに。ドリンク飲み放題なんだよ? 母にゅ・・・ミルク限定だけど」


「大概にしないと一週間口聞かねーぞ」


「わわわっ!? 分かった分かったよ! なら適当にバランス考えたメニュー作っておくからね! それじゃ先に帰ってるから早く帰ってきてね!」


そうして咲夜は“俺の肩を何度か叩いて”去っていった。恐らく、この時に俺は盗聴機を仕掛けられたんだろう。俺の用事が何なのかを確認するために。咲夜が校門からダッシュで出て行くのを確かに確認すると、俺は咲夜にさりげなく叩かれていた肩を擦ってみた。


「・・・・・やっぱりか」


そして案の定の結果だった。良く凝視しないと見えないくらいの小さな黒い機械。これが盗聴機なんだろう。こりゃ気付かないわけだな俺も。恐ろしいもんだな盗聴機。俺はその小型盗聴機を指で摘まんで外すと、窓の外に向かってデコピンで弾き飛ばして対処した。これで咲夜が暴走を起こすことはないだろう。さて、また時間を潰すことにしよう。前は購買部で知恵の輪を買い占めたから良かったが、今回はそうもいかないからな・・・面倒なことだ。


でもとりあえず前と同じくコーヒーを飲むために俺は購買部へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ