初めての死=監視人と再会
19時間から0時に投降時間を変更致しました。
真っ暗闇だ。見渡す限りに真っ暗闇が見える。きっとここは死後の世界か何かなんだろう。俺は殺された。幼馴染の咲夜に突然殺された。たった一本の刃物で呆気なくだ。人間はなんて脆い生き物なんだと実感できた瞬間だった。それと、死ぬってこんなにもあっさりしているんだってことを。
あの時の咲夜はイカれていた。まるで、ネジが一本外れて支障をきたしてしまった機械のように。何故? 何故咲夜はあんなことになってしまったんだ?
あいつは人を殺すような残忍な奴じゃないことを俺が一番良く知っている。そりゃぁ俺以外の他人を嫌っているが・・・そこには大きな“理由”があることを俺は知っているが、少なくとも殺すなんて考えはしていなかったはずだ。
でも、現に咲夜は人を殺してしまった。しかも、唯一信用してくれていると思っていた俺がだ。心を開いてくれている俺が殺されてしまった。
駄目だ・・・そんなの駄目だ・・・あいつを一人ぼっちさせちゃ駄目なんだ・・・そしたらあいつはまた“昔のように”自分の殻に閉じ籠もってしまう。それだけは絶対に駄目だ。俺はあいつに自由に生きてほしいんだ。平凡な人達が日頃感じている幸せを咲夜にも感じて欲しいんだ。だから・・・だから俺はまだ・・・・・
「死ぬわけにはいかねぇんだよ!!」
「そうなの? でも今は何度でも生き返れるから大丈夫でしょ、何言ってるの白奈君? 面白いね君、アッハッハッ!」
「・・・・・はぃ?」
すぐ隣から呑気な笑い声が聞こえて俺は咄嗟に首を振り向かせた。するとそこには見覚えのある少女が何故かホットドッグを食べながら笑っていた。真っ白なセーラー服と真っ白な腰まで伸びた長髪。その少女の名前は確か・・・・・
「・・・苗木雨瑠」
「おろ? 名前覚えててくれたんだ。嬉しいな~、この喜びを分けたいがために、これ食べて良いよ~白奈君♪」
俺は大いに呆れて目の下にクマをつくりながらホットドッグを受けとる。一口食べてみると、ケチャップとマスタードの味が絶妙にミックスされていてとってもデリシャス。
「・・・ってそうじゃねぇだろ俺ぇぇぇ!? 何順応してんだ馬鹿かっ!?」
「アハハハハッ!! 白奈君君最高!! アハハハハッ!!」
「うるせぇよやかましいわっ!!」
色々とどういうことだ? 確かに俺は咲夜に刺されて死んだはずなのにどうして生きて・・・いやそもそも俺は今生きているのか? まぁ、包丁一本でズタズタにされた身体は何事もなかったかのように無傷になっているし、こうして物を考えることもできているし・・・ホットドッグの味美味しく感じて取れたし。
というか、苗木雨瑠がいるということは、ここはあの時と同じ訳の分からない空間だってことだ。つまり、あれは夢じゃなかったと? もう何が何やらさっぱりで付いていけないぞ・・・・・
「大丈夫白奈君? お腹減ってるならおかわり出そうか? もう豚串しか残ってないけど」
いつの間にか苗木は皿に何本かの焼肉を乗せてパクパクとフォークを使って食べていた。つーかどっから持ち出してんだその食い物は。
「いらねぇよもう。どういうことだ? 何で俺はまだ俺でいられている?」
「ん? 前に僕が言ったでしょ? 失敗しても何度も生き返ってリトライできるって」
「・・・これは夢じゃなかったのか」
「そりゃそうだよ。殺されたはずの白奈君が生きてるのが良い証拠でしょ?」
「生きてんのか俺は?」
「ご覧の通り、ピンピンしてるよ。ついでにあそこもピンピンしてるとか言ってみたり」
「・・・いやしてねぇよ?」
「言ってみただけだよアッハッハッハッ!!」
何か無償に腹が立ったので頬に一発だけビンタを食らわしてやった。相変わらず透けているが、触れることはできるようで「ぶふっ!?」と微量の唾を噴き出して少しだけ吹き飛ばされた。
「酷いなぁ~、ほんのホットドッグジョークなのに」
「どんなジョークだよ意味わかんねーよ。それよりもだ・・・俺はこれからどうなるんだ?」
「どうなるって・・・生き返ってリトライだけど?」
「いやまぁそうだけどよ・・・何時の時間に俺は戻されるんだ?」
確か、前にこいつが言っていたことによると、俺が生き返る時間は“恋人になった人と恋人になる前の時間”だったはずだ。でも、今回は誰とも恋人にならずに俺は死んでしまったのだ。つまりはその条件を満たしていない俺は何時の時間に戻るのか分からないのだ。
だが、分かっていないのは俺だけだったようで、苗木は容易にかつ軽い感じで答えてみせた。
「そうだねぇ~、あの二人から手紙を貰ってどっちの方に行くか決めなきゃいけない当日の朝からかな。そこが白奈君にとって大きな選択肢の分かれ目だからね~。あぁこの松阪牛最高・・・」
なるほど、確かにそこが俺にとっての選択肢の分かれ目だろう。取り敢えず殺される前の時間とかじゃなくて良かった。つーかさりげなく高級肉食ってんじゃねぇよ、俺にも食わせろそれ。
「ん? 食べたいの? はいあーん・・・」
フォークで差し出された松阪牛に食らい付く。濃い味に柔らかい肉・・・肉汁が口の中に広がって何て格別な・・・
「って違う違う違う!! しっかりしろ俺!! この雪女にペースを巻き込まれるんじゃない!!」
「美味しかった?」
「あぁ美味しかったよそれだけはありがとよっ!!」
「それは良かったね~♪」
悪い奴なのか良い奴なのか分かったもんじゃないなこいつ・・・一体何を考えて俺をこんな目に合わせてんのか全く分かりゃしねぇ。
「さてと、そろそろ戻らないとね。それじゃ白奈君、もういちいちここに呼ぶの面倒臭いからこれから宜しくね?」
「はぃ? 何言って――」
しかし、何も言わせてくれないまま、前と同じように暗闇に光が包み込んで行き、俺の視界は真っ白に染まって何も見えなくなってしまった。一体今の言葉はどういうことなのか・・・・・
~※~
「・・・・・っ!」
目が覚めて俺は咄嗟に起き上がった。時計を見てみると・・・まだ朝の5時だった。どうやら、俺は本当に生き返ってしまったらしい。信じがたい話だが、現実に起こればもう信じるしか選択肢はないだろう。
まだ朝早いため咲夜の姿はない。まだ家でぐっすりすやすや眠っている頃だろう。今日は取り敢えず早めに起きて身支度をしてしまおう。俺はベッドから立ち上がると部屋を出て行く・・・という流れになると思っていたのだが、それはいつの間にかベッドで横になって隣に寝ている人物のせいで些細な未来が書き換えられた。
「うぅん・・・スパゲッティはカルボナーラでしょ・・・」
「何でいんだよお前!?」
「んん? あぁおはよう白奈君、良い朝だね」
「そうだね朝日がカーテンの隙間から入ってくるくらい良い天気・・・ってそうじゃねぇ! 何でここにいるのか聞いてんだよっ!」
「だーかーらー、言ったでしょ? これから宜しくねって。あっ、僕は基本何でも食べるから夕食のメニューは自由にしていいからね~♪」
「ま、まさかとは思うがここに居座るつもりってか?」
「他に何があるの?」
「あぁもう何なのお前・・・・・」
もう展開が色々と急過ぎて滅茶苦茶だ。咲夜に殺されて、そんでもって生き返って、最後に目を覚ましたら同居するねと押し掛けてくる年頃の女の子。俺は何処ぞの漫画の主人公なのか?
「ちなみに、僕は白奈君以外に姿形を捕らえることができないようになってるから安心してね。それと、僕が干渉できるのは白奈君が触れたものだけだから、そこのところも宜しくね? それじゃ、今日から張り切っていこー! おー!」
「あぁもうここまで来るともうヤケクソだな。上等だやってやるよ。もう俺は死なねーからな。見てろよお前!」
「白奈君、僕の名前は雨瑠だよ」
「見てろよ雨瑠! 俺はお前の訳の分からないゲームに振り回されないで生きてやっからな! 俺は俺の人生を歩んでやらぁ!」
「そっかそっか、楽しみに見物させてもらうね~♪」
この日、俺は改めて自分らしくこの世を生き抜いてやることを決意し直すと共に、いつの間にか透けてない姿に変わっている雨瑠と共に暮らすことになるのだった。
これでとりあえずFirst Deadは終了です。つまりはこういう流れが基本です。最初はコメディ空気で、後々暗い内容へと切り替わっていくという感じみたいなものです。勢いで書いておきながら結構捗っているので、もし宜しければこれからもご愛読していただけたら幸いです。




