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今夜すべてがどうってことない!

朝になった。チーコの容態は何とか安定し、寝息を立てていた。俺は飯も食わずに家を出て、始発のバスに乗り込んだ。もう日が昇り始めているのを見て、夏がきたんだなと思った。徹夜だったので頭が痛い。あと口の周りがちょっと荒れている。当然だろう。バスを降りて、朝露に濡れる山道を通り抜ける。まだ眠ったままの学校を起こすためだ。

校門につくとすぐに食堂横の売店へ向かった。すでに野球部のノックの音が響いていた。もちろんまだ食堂も売店も開いてはいない。学校の決まりでは、売店が開くのは九時以降だ。だがこの売店は、朝練習でおなかをすかせた部活生のために、内緒で五分ほど店を開けてくれる時がある。そこでクロ子を見つける。頼れるのは彼女しかいない。

俺は食堂の入口を監視できる非常階段に陣取り、その時を待った。食堂の中にある売店にターゲットはいるはずだ。本当はパンを運んでくる車を駐車場で待っていたいが、無理に売ってくれるわけがない。

駐輪場にバラバラと自転車の量が増える。校庭の砂の色が青から赤へと変わる。そしてついにその時が来た。食堂におばちゃんが入っていく。彼女は部活生からはグレートマザーと呼ばれている。マザーの登場と同時に、朝練習を終えた生徒が来た。走って部室へ向かう生徒たちは、俺と同じ獲物を狙っている。

俺は食堂のドアの前に移動した。俺の周りにはケモノの目をした連中がわんさかいる。食堂のドアが開いた瞬間が勝負だ。速攻で食堂の中にある売店にダッシュしなければならない。シャッターの奥でガサゴソと音がする。俺はドアの一番前を占拠している。普通に行けば間違いなく最前列は確保できる。しかしクロ子がいなかったらどうする?いや、今は考えるな。目の前のことに集中しろ。奥からもう一人おばちゃんが一人出てきた。このおばちゃんが目の前のドアを開けてくれる。俺たちはスタート前の陸上選手のように静かな闘志を燃え上がらせている。

「今村、ちょっといいかな」

今か今かと待っていたその時、突然俺は強い力で腕を掴まれた。振り返ると青白い顔と時代遅れのメガネ。風呂井だった。鳥類の爪のような筋張った手が俺の椀部に食い込む。なんだよ、と口を開こうとした時、どっと地面が揺れた。生徒が食堂になだれ込む。体が弾き飛ばされた。完全に出遅れた。

「離せ!後にしてくれ!」

 俺は風呂井の手を振り払った。なんでこのタイミングで!風呂井の野郎!心の中で悪態をつきながら既にできている針山のごとき人だかりにダイブする。

「押すな、馬鹿!」

「おばちゃん、それちょうだい!それ!」

「え、いくら?あ、金がねえ!」

「誰だケツさわってるやつは!」

「おい!さっさとしろ!」

「どけ!どけよコラ!」

 汗とよだれと怒号の中を行軍してく。足は踏まれ、絶えず誰かにひじ打ちを食らいながら、何とか並べられたパンが見える位置までたどり着いた。

「クロ!クロ子!返事をくれ」

隣にいたやつが、なんだこいつは、という目をする。もちろん無視だ。クリームパン、アンパン、サンドイッチと、ちゃんと種類別に並んでいるのになぜかハンバーグバーガーだけが、戦場にヘリでばらまかれた兵士ように点々と別々の場所にある。

「はーい、もう閉めるよー」

五分前のチャイムが鳴ったら販売終了である。俺はまだ目標を確認できないでいた。タイムリミットが来た瞬間パンが並べられたケースはさっと奥にしまわれる。おばちゃんも、買えなかった生徒に慈悲はかけない。

どれだ!一体どれなんだ。俺の声が聞こえてないのか。そもそも今日、クロ子はいるのか!

「クロ子おおおおおおおお!」

「ん?誰か呼んだか?」

かすかに聞こえた。目の前のやつの体を押しのける。誰かに後頭部を殴られた。右奥のケースにクロ子らしきバーガー確認。と同時に、また誰かに服を引っ張られる。

「今村、ちょっといいかな?」

 風呂井だった。思いっきり周りのやつに頭を殴られながらも平然とそこに立っている。むしろ妙な威圧感すら感じる。川の流れを邪魔する障害物だ。

「またお前か!話なら後で聞く!」

三年生と思われる背の高い男が俺の前に来た。ケースに手を伸ばしている。このままではクロ子を取られる。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

汗まみれの背中にべっとり顔を押しつけながら手を伸ばし、やみくもにパンを掴みにかかる。

「ぎゃっ」っという悲鳴。クロ子を掴んだ!

「おばちゃん、ハンバーグバーガー一つだ!」

他の生徒にパンを渡していたおばちゃんの手に無理やり三百円を握らせ、戦線を離脱する。勝利のチャイムが鳴った。

「はあい、ホームルーム終わってからまた来てねー」

ビシャッと断頭台のごとくシャッターが下りた。残った生徒がぶつぶつ文句をいいながら帰っていく。俺はそのまま人ごみにまぎれて体育館の裏へ向かった。

「クロ子!聞きたいことがある」

「落ち着け。まずは挨拶。それからアチキは人の部屋にノックなしではいる奴が嫌いだ」

 クロ子は寝起きなのか少し不機嫌だ。低血圧なのだろうか。だが今は気にしている場合ではない。

「すまん、おはようございます。今日もいい朝ですね。それでだな」

俺はクロ子が着ているラップを強引にはがしにかかる。

「そうがっつくな。いくらアチキの魅力に気付いたとはいえ、まさかこんな早朝からアタックをかけてくるとは。若さというものには恐れいるな。経験豊かなアチキだから相手してやるが、普通の女だったら完全に引いてるぞ」

「とにかく聞いてくれ」

「普段から女に慣れていないやつほど、こういうときのエネルギーはすごいな」

「勝手に変態扱いするな」

「でなんだ?映画ならアチキはフランス映画が好きだぞ。コンサートならオペラ。芝居は十九世紀以前のロマン派のやつでたのむな。現代のやつはよくわからんからな。あと勘違いしてアチキになれなれしく触るなよ。アチキの貞操観念は意外に……」

「頼むから俺の話を聞いてくれ!」

「何を焦っているんだ。これが今どきの若者か。アチキはもっとこう徐々に距離を詰めてもらわないと気分が乗らないな。それでなくても、アチキの中でお前への評価は、相当低いというのに」

「チーコが大変なんだ」

「ん?ああ、お前んとこのハンバーグか」

やっと話が進展した。コンクリートが太陽によって暖められる。近くにだれもいないことを確認し、俺はクロ子に事情を話した。

「ああ、ほっとけ」

「ふざけんな!言っただろ。相当苦しそうなんだよ」

「なんだお前、この前は迷惑がってなかったか?」

「事情が変わったんだ」

「ご都合主義者め。よっぽど他人とかかわりたくてしょうがなかったんだな」

「そういうわけじゃないが……」

 クロ子は、こいつどうしようもねえ、という感じのやさぐれたため息を吐く。校舎から予鈴が聞こえる。授業がもうすぐ始まる。今の俺には関係のないことだが。

「ハンバーグは痛みも苦しみも感じないはずだがな」

「でも実際痛がっている」

「お前を振り向かせたいだけだったりしてな。女は平気でそういうことするからな」

今すぐこいつを壁に叩きつけてやりたいが。ここで俺が怒ってしまっては全てが終わってしまう。落ち着け。感情を抑えろ。なんでクロ子はこんなに不機嫌なんだ。いや、それはどうでもいい。大事なのは家で苦しんでいるチーコだ。

「クロ子、頼む。お前しかいない」

俺は頭を下げた。なんだか変な感じがする。あまりに久しぶりに真剣に頼みごとをしたから混乱しているのかもしれない。流惣に対しては、頼むというより甘えるという感じだったんだなと、この時初めてわかった。

クロ子は黙った。シャーマンの言葉を待つように俺も正座してクロ子の言葉を待つ

「仕方のないやつだ。ただしアチキの頼みも聞いてもらう」

「頼み?」

「学校で食べ物をばらまいているふとどきな奴がいるだろ。あれなんとかしちくれ」

「捕まえろってことか?」

「捕まえなくていいから止めさせろ。アチキだって仲間が地面にたたきつけられるのを見るのは不愉快だからな。本当はアチキが直接なんとかしたいが、アチキはどうやら見てることしかできないらしい。お前と違ってな」

「俺に出来るかわからない」

「じゃあ知らん。帰れ」

「冗談はやめろよ」

「冗談じゃない。お前はいつもそうやってできないかもしれない無理かもしれないと言って逃げるな。見ていて腹が立つ。今までそれが許されてきたのが驚きだ。今回もその甘えさせてくれる相手に頼めばいい」

「いや、待ってくれ、今のはちょっと口に出ただけで」

「そういう癖がついてるんだよ。勝手に何とかしろ」

「なんだよお前」

「頼みに来て、断ったら逆切れか。いい世界に住んでるな」

「すまなかった。悪かった。申し訳ない」俺は地面に頭をつけた。

「知らんといってるだろ。ものの頼み方というのを知らんな」

「これが終わったら絶対解決する」

「友情や愛があれば無償で何か頼んでもいいなんて思うなよ」

「今週中になんとかする」

「できなかったら?」

「なんでもする。全てを捨ててお前のいう通り動く」

「じゃあ、そうだな、よし。アチキを食え」

「?」

「お前の体にアチキの意識の断片を打ち込む。楔みたいなもんだな。いつでもお前の体内に戻ってこられるようにな。今週中にばらまき事件をなんとかできなければお前の体を乗っ取る」

「乗っ取るって、ずっとか?」

「そうだ。どうした?やめるか?そりゃそうだ。知りあって少しの肉塊なんぞのためにそこまでできんわなあ」

「やるよ。やってやる。当然だ」

「ほう。いっておくが一切の慈悲はかけない」

「上等だくっそたれ」


のろのろと足取り遅く家へ帰っていた。バスはなかなか進まない。いらいらしながら足をゆする。信号がなかなか青にならない。クロ子とヤバい契約を交わしてしまった。俺の体は、どうなるんだ。前に座っていた若者がチッっと舌打ちした。ぐっと体に力を入れて足を止めようとするが小さな震えがおさまらない。体の中に誰かがいるような気がしてきて背筋が寒くなる。

クロ子が言っていたことは簡単だった。チーコの実体、つまりチーズハンバーグが腐りかけているのだそうだ。普通は腐りかけた時点で他のハンバーグに移るのだそうだが、チーコはなぜかそれを拒否しているらしい。その代償で苦しみが出てきているんだろうと言っていた。だから新しいハンバーグを作って、チーコとその体を分離してやればいいということだった。

朝の町は不思議だ。コンビニの前では何の仕事をしているのかわからない男がコーヒーを飲んでいる。ボロボロの服を着た初老の男が虚ろな目でベンチに座っている。走っている車も少ない。ここではないどこかで祭りがおこなわれていて、俺たちだけが取り残されてしまったようだ。そんなことをおもいながらハンバーグの材料を買いにスーパーに入る。店の中にはちらほらと女性の姿。ほとんどが主婦のようだ。みんな学生服の俺を見て「どうしたんだろうこの子」という表情をしている。

肉売り場につく。赤い物体が大量に並べられている。しかしどの肉を買えばいいのかわからない。というより俺はハンバーグの作り方を分からないんだった。きょろきょろしながら他の材料から先に買おうとしていると、俺の後ろをつけてくる女に気付いた。ぱっと後ろを振り向くと籠に商品を入れるふりをするが明らかに動きがおかしい。世界は俺をそんな目で見ているのか。怒りがわいてくる。やる気もないのにこの店の商品を盗んでやりたくなってきた。

俺は惣菜売り場のほうへ行き、美味しそうな「手ごねハンバーグ」を見つけ出した。わざわざ調理しなくてもいいだろう。それを服の中にそっと忍ばせた。そして女の横を通り出口へ向かう。すれ違う時に顔を見ると、女の目はぎらぎら光っていてとても楽しそうだった。蛇に例えると舌をチロチロ出している状態だ。レジを無視してドアの前まで行く。自動ドアが開く。女の視線を全身に浴びながらそのドアをくぐろうとする。と、あと一歩のところでクルリと回れ右をしてごく自然にハンバーグを出し会計を済ませる。

「ありがとうございましたー」と店員の声。出口の直前でもう一度女のほうを振り向き、ナメクジのようにねっとりした笑顔を見せてやった。四十代後半ぐらいのその女は一瞬びっくりした顔をして、その後怒りのこもった動きでこっちに向かって中指を突き立てた。その怒りの表情にすっかり満足して店を出た。


「チーコ、帰ったぞ!」

当然だが家の中はひっそりとしている。静かな午前。風邪をひいて学校を休んだ日のことを思い出す。興味がないNHKの子供向け番組をただ見ていたあの時の倦怠感。噛み終わったガムのような時間。

「新しいハンバーグを買ってきたんだ。こっちに移れ」

急いで袋からさっき買ったハンバーグを出した。え?とぼんやりした返事。意識がはっきりしてないようだ。

「体を移動させるんだ。ほら早く。自力じゃ移れないのか?」

 返事無し。しょうがない。俺はチーコを、腐ったハンバーグを口に入れた。口の中が酸っぱい液体で満たされる。ゴミ捨て場の味だ。中身はぐちゅぐちゅになっていてひどい触感。吐き出しそうになるが何とか押しこむ。

ああ、ダメですっ、とチーコが妙な声を出しているのもそっちのけで俺は何とか腐った体の半分を消化した。

「いけたか?」

 半分ほど食べられたハンバーグはもうしゃべらない。中から緑がかった液体がだらだら漏れ出しているだけだ。

「あ、あ。ここはどこ?わたしは誰。あ、体が変わってる!」

新品ハンバーグから声が聞こえてきた。思わずガッツポーズ。よかった。本当によかった。馬鹿野郎。心配させやがって。俺をこんなに動かしやがったやつは初めてだ。

「まったく、大変だったんだぞ」

安心感に身を任せて床に倒れた。長かった。実に長い一日だった。

「ノリさん、もう苦しくないです!苦しくないですよ!ありがとうございます!うう、なんて感謝したらいいかぁ。うわぁぁぁ」

 チーコがきゃっきゃとはしゃぐのを聞いて自然に笑みがこぼれた。午前十時の光が眼に痛い。

「なんで腐り始めた時に言わなかったんだ。それが原因なんだぞ。気付かなかったのか?」

「ご、ごめんなさい……」

「まったく、もう昨日の夜みたいなのはごめんだぞ」

「え……?……あ!は、はひ!ごめんなさいごめんなさいわすれてくださいすいませんでした!そうですよね嫌ですよね私とその……き……キスしたなんて……ははっ!なにを言ってるんでしょうか私は。あれはそんなんじゃないですよね!すいませんなんかすいません」

 チーコは昨日の夜のことを思い出したらしい。お互いに気まずい沈黙が流れる。まあ、あれは医療行為的ななにかと考えよう。と思いつつあの時お互いに妙な雰囲気だったのは確かだ。思い出したら心拍数が上がってきた。あれはなんだったのだろうか。俺はチーコを見る。チーコも俺を見ているような気がしてなぜだか視線をそらしてしまう。

「いや、別に嫌とかじゃないけどさ……」

 緊張して意味が分からない台詞が出てくる。頭が回ってない。またもや妙な空気が漂う。しっかりしろ!相手はハンバーグだぞ?何を焦っているんだ。そうハンバーグだ。ただの肉だ。だが中身は少女だ。いや、昔からいるらしいから熟女かもしれない。でも精神年齢的には少女だ。じゃあ目の前にいるこいつはなんだ?熟女か、ハンバーグか!それが問題だ。

「ぐおおおおおお!」

そして俺は突然の腹の痛みに背を曲げた。ぶちゅぎゅうぃぃぃーん、というエレクトロニカな音が腹部から聞こえてくる。腐った肉という毒物以外の何物でもないものを摂取した報いだ。身体の武装蜂起か。

「っくは!うぐ!」

「どうしたんですか!大丈夫ですか!」

 体内で鍬や鋤を持った農民どもが暴れている。俺はよろめきながらトイレへ駆け込んだ。一つのことを解決したと思ったらまた別の問題が出てくる。俺は腹に力を入れた。何も出ない。うんざりした。だが妙な充足感もあった。この感覚は久しぶりだった。俺はできるだけ波風を立てない人生を歩もうとしていたが、こういうのもたまにはいいのかもしれない。こう着状態に陥った農民どもと一進一退の攻防を繰り広げている間にそんなことを思った。


 結局、奴らを城内から追い出すのに丸一時間かかった。城門はめちゃくちゃに荒らされてしまったが、もう奴らが来ることはないだろう。出て行った時と同じくふらふらした足取りで部屋に戻る。チーコがすぐさま心配そうな声をかけてくれる。俺はベッドに倒れこんだ。

「ノリさん……あたしのせいで……申し訳ないです……」

「別にいいっすよ。ははは」

「あたしが……早くここを出て行かないから……」

「別にお前のせいじゃねえ。それよりちょっと寝かせてくれ。寝てないから頭が痛い」

「……あたし、もっとノリ君と一緒にいたいと思ったんです。だから腐り始めていることに気づいていたのに何もしなくて……もしかするとこれでお別れなのかなって思うと怖くて…………」

「お前はここから離れられなくなっているんじゃないのか?」

「……いえ……最近その感覚がどんどん弱くなっているんです……だから……」

「いていいよ」

「……え?」

「まだしばらくいろ。暇だから。ハンバーグも毎日作ってやる」

「でも迷惑が……」

「俺は嫌いじゃない。以上。お前が嫌なら勝手に出ていいけど」

 チーコが鼻をひくひくさせて、また泣き声を上げ始めた。

「ふうえええええん。ノリ君ありがとうございますうう。ひっく。うう、ひっく」

「泣くなよ」

「……嬉しいんです」

「あっそう」

「ノリ君に、大事なことをいわなければなりません」

「…………ああ、話なら……後で……聞く……から……」

既に睡魔に負けていた俺はチーコの言葉を上手く聞き取れないまま闇の中に落ちていった。。 


翌朝、憂鬱な気持ちで学校に向かっていた。昨日何の連絡も入れずに学校を休んでしまったので、着いたら担任になにかいわれるだろう。犯人探しの目途も立ってない。まったく全てから逃げ出したい気分だ。誰かに協力をしてもらうべきだろうか。バス内に葵はいない。代わりに髪の薄い初老の小柄な男がいた。彼は喉に何か違和感があるらしくけぇーく!けぇーく、いう音を鳴らし続けていた。

 学校に着き、席に座っているとなにやら視線を感じた。男子のグループがずっとこっちを見ていて、その中にいるお調子者キャラのやつが俺のほうへやってきた。

「おい今村、どうなってんだよ、あいつ。お前ももしかして昨日警察に呼ばれてたりした?」

「あ?何の話だ?」

「流惣院だよ!あいつ今どうなってんの!」

 教室にいる生徒の注目が一気にこちらに集まった。流惣に何か起きたのか。だが他のことにはまるで身に覚えがない。

 何も知らない、とだけ伝えた。彼はしばらく俺の言葉を疑っていたが、やがて諦めた。落胆の色が彼の顔を覆う。

「流惣院に何があったんだ?」

「逮捕されたかもしれないんだよ」

「はあ!なんであいつが!」

「あいつの親父さ」

 彼は目を爛々と輝かせている。他のみんなも同じだ。そりゃ、普段何もない学校生活にこんなことが起こればそうもなるか。蟻の巣に極上の角砂糖が落とされたのだ。

「ウソだろ……?」

「マジだって。これ見てみ」

 彼は携帯電話を開いて俺に見せてくれた。それは流惣家で家宅捜索が行われたというニュースだった。警察と思われる人々が見慣れた家に入っている。右上には夏目グループ金融商品取引法違反か、とテロップがうたれていた。夏目グループとは流惣の父親の会社だ。

「何かの間違いなんじゃ……」

「今からテレビとかくるんじゃね?やべー!誰かワックス貸してくれ!」

 言いながら彼はパチンと携帯電話を閉じてしまう。

「ちょっと、もう少し見せてくれ」

「後は自分でみろよ」

 彼はグループのところへ帰って行った。話声は聞こえてくる。

「なんもしらねってさ」

「だろうとおもった」

「あー、つまんね」

「懲役何年だろうな」

「金とかどうなるの?自己破産?」

「うわー、落ちぶれたねぇ、流惣君も」

「ま、面白いからいいけどね」

「推薦とかに影響したりしないよな?したらマジ殺」

 俺は奴らに蹴りでも食らわせてやりたかったが、学校中がおそらく同じ状態になっているのだろうなと思いやめた。代わりに俺は自分の携帯電話を開いた。ニュースはトピック一覧のトップに上がっていた。俺は時間を忘れてあらゆるサイトの、今回の事件に関する事件を読んでいく。


 担任が教壇に立つ。委員長の号令を合図に朝のホームルーム。俺は携帯電話をバッグに入れる。流惣の様子は不明だ。公正取引委員会、偽計取引、よく分からない専門用語が多くて苛々した。所詮は中学二年生の知識だ。唯一わかったのは、流惣の父親は現在は取り調べが行われている最中で、近く逮捕されるのではないかということだけだった。当然だが流惣自身のことは書いてなかった。あいつはまだ中学生だ。何か見つかってもそんなにひどいことにはならないと思う。しかし心配なのはその後だ。これがきっかけで今まで押し殺していたタガが外れるかもしれない。

「昨日、学校の近くでうちの生徒が記者と名乗る男にこの学校の生徒のことについて聞かれたそうですが、もしあなたたちが記者の人に何か聞かれても絶対に何も答えないように」

 教室が騒がしくなる。誰かの笑い声、糾弾、囁き。

「あ、それから、今村、終わったらちょっと来てくれ」

 担任はそういってホームルームを締めた。

「体調は大丈夫なのか」

 廊下は次の授業教室へ行く人やトイレへ走る生徒たちでいっぱいだ。多くの人間が俺を横目でチラチラ見ながら歩いていく。彼らは俺と流惣がよく一緒にいることを知っている。あわよくば俺も逮捕されればいいと思っているのだろうか。彼らは退屈な日常に咲かせる花を求めている。全てが燃料として消費される世界で燃え尽きるのは誰だ。

「すいません。昨日は頭痛と腹痛がひどくて、連絡できなかったんです」

 申し訳ない、という表情を作り担任に嘘をつく。

「それはもう聞いてる。母親に連絡させるなんて小学生までだぞ。次からなるべく自分で連絡を入れろ」

「母」というフレーズにはっとする。言葉が居場所を求めて頭の中を彷徨う。

「母が……いや、母はいつごろ連絡してきましたか?」

「昼にお前の家に電話をかけた後だ」

「そうですか」

 あの時、母さんは家にいたというのか。物音ひとつ立てずに?

「それより、流惣院のことでちょっと聞きたいことがある」

 きたな、と思った。さっきのやつらと大して変わらない。

何か知らないか、おかしなところはなかったか、危ないことをやっていなかったか。

俺はすべての質問に知らない、と答えた。二百万円くらい渡されれば何か教えたかもしれない。そんなことより、いつのまにかあいてしまった俺と母親の絶望的な距離に驚いている。

「そうか、わかった。何かあったら連絡しろ」

「先生、あいつは今どうしてるんです?家族にも取り調べとかやっぱりあるんですか?学校にはいつから来られるんです?」

「俺も知らん!」

 子供っぽくぶっきらぼうに会話を切断し、担任は去っていった。肝心な時だけ教師面をしても全く意味がないということに彼は早く気付くべきだ。


 昼休みになった。混乱した頭を抱えたまま売店へ向かう。流惣、食材落としの犯人。クロ子との約束。間違いなく非日常的な何かが起きている。

 クロ子はパンがたくさん入ったケースの隅に堂々と居座っていた。下手をすればあと五日後に俺の体は彼女に乗っ取られるのだ。少しばかりの敵意を感じずにはいられない。

「よう」

「おう、アチキの新しい肉体。どうだハンバーグはよくなったのか」

「おかげさまで」

 売店のおばちゃんに金を渡す。ちなみにクロ子からの呼び出しは腹の激痛によってもたらされる。

「お前売れ残ってるな。実はそんなに人気ないんじゃいの?」

「子供にはアチキの大人の雰囲気がまだ分からないのさ」

 軽口をたたき合いながら売店を後にする。

「で、俺に何をさせるつもりだ?あまり無茶は頼んでほしくないが」

「心配すンナ。今日は張り込みだ」

「探偵かよ」

「犯人は現場に戻るっていうだろ。屋上だ。屋上で待つ」

わがままな姫に付き合わされる執事のような気分で階段を上っていく。屋上は無人。それもそのはずだ。夏はすぐそこまで来ている。今年は異常気象でやたら暑いうえに、屋上の白いタイルは紫外線を乱反射させ灼熱地獄と化している。ベーコンが綺麗に焼けそうなほど。わざわざこんなところで汗をかきながら飯を食う馬鹿はいない。

 とりあえず給水塔の裏に身を隠した。俺一人が何とか入れるだけの日影があったからだ。黒と白の境界線が足元にはっきりと表れる。この日陰の外はすべて地雷原で、一歩でも出たら死ぬ。

「こら!こんなところに隠れていたら全体がみえないだろ!ちゃんとみはれ!」

「太陽がきつすぎるんだよ」

「もやしめ!まあみつからなかったらお前が損するだけだが」

「ドアがあけば音でわかるだろ!後はお前が見ろ!」

 俺はクロ子を地雷原の中にほうりだした。

「ああ!焼けちゃう焼けちゃう!キューティクルがぁ!もどせ~!」

 胸ポケットからグレープジュースを出しちびちび飲みながらその時を待つ。タイルの隙間の埃、一カ所だけ歪んだフェンス、校庭で遊ぶ生徒の声、時間は平等に俺たちの上を通り過ぎていく。ニコニコと手を振りながら。

「どうした?顔が辛気臭いぞ。面白い話の一つや二つしろ」

「流惣が、あの俺と一緒にいたやつ、あいつの親父が逮捕されたらし」

「はっはははは。それは面白いな」

「まあな」

 俺はクロ子に事の次第を話した。孤独感のためか、不安のためか、言わなくていいことまでも話してしまう。

「一年先生の時、新入生歓迎のパーティーというか会食会みたいなものがあってさ。三年生が毎年開催している。男は普段つけないようなワックスなんかつけて、女子は化粧しててさ。三年の先輩が目をつけた新入生に自慢話とかしてて。普通のホールみたいなところを貸し切ってやってたんだが、俺はうんざりして。帰ろうと思って駅へ向かってたらあいつがいたんだ。一人だった。で、俺はなんとなく、どっかに飯でも食いに行かないかって聞いてみたんだ。なんであの時自分があんなに積極的だったのかは謎だ、俺もはしゃいでたのかね。それで二人でラーメン屋に入ったらクソまずくて、でももう周りの店は閉まってて、焼き鳥だけ買って公園で食ったなあ。それで夜中までしゃべった。不思議なことにその時何を話したか全く覚えてないけど。四月だけどめちゃくちゃ寒かったことしか覚えてないな」

 まさかあの時からすでに、流惣がある種の厳しい世界に片足を突っ込んでいたなんて知らなかった。金持ちだということはその後すぐ知ったが、その時も、金持ちの息子でも結構変わったやつがいるんだな、と思った程度だった。

「親父が逮捕されたのも、流惣がなにかやったからじゃねえかな。これは俺の勝手な予想だけど」

 クロ子はほう、とか、ふうんと相槌を打つだけだった。俺はクロ子にもっと何か言ってほしかった。俺はクロ子に甘えているのだろうか。流惣にも甘えていたのだろうか?

「もう一人の女はいいのか」

「葵のことか。あいつは別に大丈夫だと思うけど」

 もしかしたら一人でご飯を食べているかもしれない。が、俺と一緒に食うよりいいような気がする。どっかの女子と普通に楽しくやってるかもしれない。これを機にもっと交流を深めればいい。俺といたってどうしようもない。

「なあ、チーコのことなんだが俺はこれから……」

「しっ。誰か来た」

その時ギギギとドアの軋む音が聞こえた。俺は陰からそっと顔を出す。ドアから出てきたのは男子生徒。風呂井だった。

「知り合いか?」

「ああ」

 風呂井は落としたコンタクトでも探すように足元を見ながら屋上を歩き回り、次にフェンスから下の風景をずっと見ていた。ジェット機の音が頭上をかすめ、時間が水あめのように引き伸ばされて感じられた。風呂井の動きに緊張感はない。ただ見に来ただけ、という感じだ。やがて風呂井はドアを開け帰ってしまった。風呂井が屋上にいたのは五分もない。

むむむ、あの男怪しい、とクロ子は熟練の刑事のような反応。

「でも前に屋上にいたやつって女だったよな?」

「犯人が一人とは限らんぞ」

「あいつ俺を探してたのか?そういえば昨日の朝もなんか聞いてきてたな。すっかり忘れてた」

「お前のこと好きなんじゃないか?」

「気持ち悪い発想はやめてくれ」

「アチキがお前の体をもらったら……フフフ」

「……」

 結局その後昼休みが終わるまで誰一人屋上には現れなかった。俺はクロ子と共に教室へ戻り、なんとなく風呂井の前を通ったりしてみたが、風呂井は何の反応も示さなかったのでもう用はないのだと判断した。

 放課後も俺はクロ子と屋上で待機していた。流惣のことをちゃんと調べたいので家に帰りたかったが、なにしろ犯人を捕まえるチャンスは今週だけだ。時間を惜しんではいられない。

カップルが一組きていちゃついて帰り、その後ゲーム機を持った下級生四人がしばらく盛り上がりやがて帰っていった。どれも犯人ではなさそうだ。そして辺りは暗くなり、屋上の鍵を閉められる前に俺たちも校舎に戻る。

「なあ、犯人は馬鹿らしくなってもうやめちまったんじゃないか?」

 夕闇せまる校舎に人影は少ない。もうほとんど教室も閉められている。

「おい、聞いてるか?もしやめてたとしたらその時は……」

「おぉぉぉい!いまむらあああああああ」

 その時校舎の向こう側から女子が走ってきた。素足で廊下をぺたぺたいわせながら、髪を振り乱している。

「キン、そんなに急いでどうしたんだ」

「火事だー。消火器持ってこーい」

「マジかよ」

 俺は廊下の隅へ走り、赤い消火器を抱えた。キンのほうへ行くと彼女が安全ピンを外しホースを構えた。

「よしくるぞ!」

「くるって?炎がか?」

 キンは消火器の取っ手をがっちりと握っている。俺は本体を支えているだけだ。

「きたな」というキンの声と共に階段を駆け上がってくる音が聞こえ、数人の男子生徒が我々の前に姿を現した。見ると制服が少し違う。高等部の生徒じゃないか。この校舎から少し離れたところにある高等部の生徒だ。普通、高等部の生徒は中等部の校舎にきてはいけないはずだが。

「おい、バイクの鍵かえせ」

 一番体格のいい、見るからに不良の生徒がキンにそういった。赤い髪で制服のボタンは三つ開いている。その後ろも同じようなもの。高等部は中等部より少々荒れた生徒が多いのだ。

「お前まさか、盗んだのか?」

 明らかにヤバいことに巻き込まれたことだけを確信しながらキンに尋ねる。キンは笑って、「これでも食らえ!」と消火器の取っ手を握った。

 ガギン!という音と共に白い消火剤がすごい勢いで放出される。「うぎゃあああ」という短い悲鳴。フロア中が真っ白になる。俺の目にも口にももちろんそれは入ってくる。

「うげぇ、げっほげっふ、キンお前、ごっふごっふぉ、何やらかしてんだ」

「よし、逃げろーーー!」

 キンが俺の手を引いて廊下を駆ける駆ける。俺は涙目になりながらキンについていく。後ろから「まてやああああ」とか「ぶっころすからなああ」という声が響く。終わった。俺の平和な学校生活が。

「何やってんだお前!」

 走りながらキンにマジギレ。彼女は全く気にしてない様子で時計をチラチラ見ている。階段を下りる。下からも足音がしたので別の階段のほうへ向かう。足音はまだ近い。追手はすぐそこだ。いろいろとキンに提案したいが全力で走っているので喋れない。

「まわりこまれたぞ!」

 向こう側の階段から二人の上級生が来ているのが見えた。

「塞がれた」

「出口ならいくらでもある!」

 キンが窓を開けて身を乗り出す。

「馬鹿やめろ。ここ二階だぞ」

「駐輪場の屋根にジャンプだ」

 一メートル強の隙間を挟んで駐輪場の屋根がある。しかし助走なしでジャンプできか微妙な距離だ。落ちればコンクリートの床。ただでは済まないだろう。

「普通にあやまればいいだろ!なにやってんだよ!」

「楽勝だって」

 彼女の笑顔が俺には恐ろしい。なにか今にも壊れそうな危うさを感じる。

「俺も一緒に謝ってやるから!そうすればあいつらだって」

「はやくこっちきなよ」

「無理だって!」

 俺は焦り苛立っているがキンはそんなことお構いなく、窓の向こう側へ移りピョーンと軽くその溝を飛び越えてしまった。

彼女は軽やかに飛んだ。スカートをはためかせ、すっと着地する。ほとんど音もない。まるで烏のようだ。立ちあがった彼女の姿は凛凛しい。赤い髪が勝利の旗のようになびく。

「ほら、楽勝」

「俺には無理だ」

「大丈夫だって。ほらおいでよ。そっちいたら何されるかわかんないよ」

 足音が近くなる。もうだめだ。謝ろう。それしかない。事情をちゃんと説明しよう、そうすれば俺が関係ないことくらいわかるはずだ。最悪でも何発か殴られて終わりだろう。まあそれぐらいで済むならいいじゃないか。そうだ。俺はそもそも巻き込まれただけだ。完全に被害者だ。全部キンのせいにすればいい。

 頭の中ではそう思っているのに俺の体は窓をくぐり、すっかり外の空気にさらされる場所に立っていた。

「くそったれが、超こえーじゃねえかぁぁぁ!」

「こらビビるなー。ほら、あたしに抱きつく権利をあげよう!」

 キンが両腕を広げて向こう側に立っている。

「邪魔だバカ!」

 後ろに奴らの制服姿が見えた。ここはもう行くしかない。馬鹿だな俺は、一体何をやっているんだろう。自分にむかついてくる。ちょっとこの状況を楽しいと思っている自分にだ。

「マジ死んだら呪ってやるからなあぁぁ!」

 上級生が窓を開け俺の制服を掴もうと手を伸ばす。俺は慌てながら身をかわす。次の手が来る!もうこれ以上は無理だ。俺は息を止める。くそう。一か八かだ。神よ、我を祝福せよ。いや、神なんて信じるか!ふざけやがって!いつか殴りに、ジャンプだ!

 ぶわっと一瞬の浮遊感。緊張、死の衝動。風、闇。そしてやわらかな体に包まれる。

「おい、飛んだぞあいつら」

「どうする」

「……っく、下にまわれ!」

 俺たちは錆びたパイプを伝って猿のように地面へ降りた。足を引っ掛けるネジがたくさんあったのは幸運だ。キンが先に降り、俺が後に続く。地に足がついた。安心感に胸をなでおろす。

「ヤバい時間が。早くいかないと」

 キンがまた走りだす。彼女が躍動している姿はなんというか、すごく様になっている。

「なかなかいい顔で跳んでたよ。先輩」

「ははははは」

 今頃追いついてきた恐怖感に俺は笑いしか出ない。足を動かしてはいるが、実際まだ震えている。

「はあはあ。息がきついな。まだ走るのか?校門は通り過ぎてるが」

「あ、いたいたた、おーいくそ親父ぃぃ」

 駐車場に人影が一つ。今まさに車に乗り込もうとしている。近づいていくと誰かわかった。さっきとは別の冷や汗が出る。

「ストップ!」

 俺は前にいるキンの腹に飛び付き無理やりその動きを止めた。

「きゃあ!なになに?離してよ、先輩の痴漢――!」

「校長だけはだめだ!もう何もやらせんぞ!絶対に離さん」

 さすがに校長はヤバいだろ、と判断し俺は無理やりキンを抑えつける。

「あれはあたしの親父だ!」

「ウソつけ!んなわけあるか」

「ほんとだよ。おーいバカ親父いいいいいい」

「やめろ」

 キンの口を無理やり塞ぐ。しかし校長はこちらに気付いたらしくこっちに歩いてくる。何かあったら今度こそキンのせいにしよう。

「こんばんは」

 校長は六十歳くらい。上品なスーツにステッキ。優しそうな皺が入った顔をニッコリと崩して挨拶をしてくる。なんでも受け入れてくれそうな大きな背中をしている。

「見つけたぞコラあ。キン、鍵返しやがれ」

 後ろからドスの利いた声。さっきの不良が立っていた。

「へっ」とキンが言って鍵を校長に投げる。校長は「?」という顔でキャッチ。

「なんだい、これは」

「親父、それ返せよ」

 三人が顔を見合わせる。気まずい雰囲気。

「あれ、もしかして俺、帰ったほうがいい?」


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