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異界の森の王  作者: 唯愛
旅立ち~思わぬ障害~
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第九話




 わざと時間をかけてお茶を淹れた。

 俺がいるとしにくい話もあるだろうと思ったからだ。


 フェーレ達は俺のことを純粋で素直だと言う。

 確かに、あの世界は平和で餓えもなく、親に守られてぬくぬくと育った甘ちゃんだった。

 そこから森で生活はしたけど、人の世界のような駆け引きといったものはなかった。


 甘さは多分にしてあると思う。


 けれど、無垢ではない。

 あの世界も、決して優しいだけではなかった。

 理不尽なことも、謂れ無き悪意も。様々な負の感情が渦巻き、心を侵食する。そのことを知っている。





 お茶を持っていくと、二人共すでに落ち着いていた。


「ありがとう」


「うん」


 二人共座ると、リディはお茶を飲む。

 メリサはリディの様子を伺っている感じ。


「……美味しいわ」


 カップをテーブルに戻すと、そう言った。


「リッツ、教えてもらった」


 リッツの淹れるお茶は美味しいので、どうやったら美味しく淹れれるのか聞いたのだ。

 はじめは中々美味しく出来ずにいたが、最近まぁまぁ合格点までになってきた。


 メリサもおずおずと口を付ける。

 

「シン。メリサとはどういうお話をしていたの?」


 どうやらメリサの話と俺の話で食い違いがないか確認するようだ。

 リディは俺のことを疎ましがったり蔑みのような目で見たりはしない。むしろ、俺を心配している感じだ。


 けれど、俺を信用しきっていない。


 それはフェーレのメイドとして必要なことであり、メリサと俺とを秤にかけるならメリサの方に傾くというだけだから嫌な感じはない。

 ま、疚しい事があったわけでもないしここは素直に答える。


「話? ロウ、いい子。怖くない。慣れたら撫でる、約束した。あとは……俺、人、聞かれた……から、うん、言った。どこから旅、聞かれたから、森から。どろいど……てろいど? の街、来た。森、助けるため、方法探すため」


「…………」


 リディはメリサを見ると、メリサは頷いた。

 合ってる、という意味かな。


「そう……シンは森から来たのね。だから言葉を知らなかった?」


「うん」


「森ではシンみたいな人たちが暮らしているの?」


「……違う。いない。森、人いない」


 俺はゆるく首を振る。

 この辺は説明が難しいな。説明しなければ、俺は森に捨てられた子のような扱いになりそうだけど、実際は少し違うし。


「シン以外、人はいないの……?」


 言葉はメリサの方から漏れた。

 困ったなぁ。そんなことないとも言えないし、でも単純に頷くと変な誤解が……


 いや。うーん、誤解なんて今更か。


「今はいない」


 こう答えておけば、俺が違う文化を持っていたとしてもまぁそれほど怪しまれないかな。

 けど、メリサが手を伸ばしてきたので驚いて固まってしまった。


 そっと指が頬をかすめる。


「? メリサ?」


「ひとり、さみしい?」


 少しだけ潤んだ瞳。

 俺が一人ぼっちでさみしいんじゃないかと、同情したのかな?


「……」


 一人は、さみしい。

 俺は孤独で生きられるほど強くはない。けれど。


「森はたくさん、生き物、いる。ロウ、スイ。他にも、一緒。人はいない、けど、ひとりだけ、違う。大丈夫」


 ずっとリョクが話し相手になってくれてた。

 スイや他の動物達はそばにいてくれた。ロウが来てからは、ほとんどずっと一緒だった。

 あの世界を思い、さみしいと……家族に恋焦がれたこともある。

 友達と馬鹿やって騒いだ日が懐かしいと泣いたこともある。

 けど、あの森では孤独じゃなかった。あの世界の方がずっと、孤独を感じることが多かった。


「そっか。うん……そっか。よかった」


 ほっとして息を吐き出すメリサ。

 初めて、穏やかに笑った。


「メリサ、俺、心配? ありがとう。嬉しい」


「え、あ……その、うん。どういたしまして」


 慌てて座り直し、お茶を飲む。

 その慌てざまが可愛くて思わず声を上げて笑ってしまった。


「うぅ~……」


 不貞腐れたような唸り声も、笑いのツボを押すだけだ。


「あらあら、すっかり仲良しになったのね。私はお邪魔だったのかしら?」


 同じように笑うリディ。

 縮こまるメリサ。


「がうがうっ!」


 俺たちの笑い声に、ロウが仲間に入れろと要請してくる。

 俺がおいでと手で示すと、喜び勇んで走ってくる。相変わらずなかなかの勢いだ。

 これは座ったままだと椅子ごと倒れかねないな……椅子から降りて待ち構えることにしよう。


「がうっ」


「ぐっ……日に日に重く感じる……」


 もしかしてまだ成長しているのか?


「がう?」


「メリサ、俺のこと心配。俺、嬉しい。ロウも嬉しい?」


 よしよし、と撫でながら問うと、意味がわかってるのかどうかわからないが嬉しそうに頷いた。


「がう」


 く……この、可愛いやつめ。


 ロウにぎゅ~っと抱きついてやる。

 このもふもふが気持ちいいんだよな。ぬいぐるみを思い出す……いや、ぬいぐるみに抱きついた記憶はないけどな。

 ロウの毛は普段はもふもふ。敵を威嚇したりと毛を逆立てると、何故か強度が増す不思議仕様だ。


 余談だが、もふもふの状態で抱きついている時にいらぬことをすると、微妙に毛が痛くなるので気をつける必要がある。


「ふふ、シンとロウも仲良しさんね」


「うん」

「がう」


「ふふふ。さて、と。そろそろお仕事に戻らないとね。シン、お茶ごちそうさま」


「うん。仕事、頑張る」


 リディとメリサはカップを片付けてから離れを出ていく。

 そういえば二人は仕事中なんだった。俺みたいに気楽な立場じゃないんだったな。

 引き止めて悪いことしたかも。


 いってらっしゃいと手を振ると、二人共小さく振り返してくれた。 







◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇




 しばらく仕事で王都ミルドへ出向いていたため、シンのことを聞くのは久方ぶりだった。

 後で顔を出すつもりだが、かいつまんでどんな様子かをリッツとリディから聞く。


「森から来た、か」


 リディから話を聞き、私は地理を思い出していた。

 この街から西南に行けばかろうじて森はある。小さな森だ。その場所のことだろうか?


 このシーディア大陸は、南のクロイドルス大陸に比べて魔素が濃く魔物も強い。

 あの森も小さいが、強力な魔物が住み着いていたはずだ。

 昔と違い、わざわざ危険な森に出向かずとも畑で必要なものは用意できる。だから近年はほとんど人は入っていなかったから、あの場所で誰かが暮らしていたとしても分からない可能性はあるにはあるが。


「リッツ。実際のところ、シンの実力はどう見る?」


 砂漠の別荘地にいるときから、運動不足解消の名目でシンには多少の組手はした。

 だが、動きは全くの素人でよく無事にあの別荘地にたどり着けたものだと思ったものだ。


「その事もフェーレに報告しようと思ってたんだ。シンの動きは素人そのものだ。今は稽古をつけた分、大分ぎこちなさがなくなってきたけど。けど、森で生活をしてたというのなら本当かもね。嘘と断言できないくらいに勘がいいし、足腰もしっかりしてる」


 対人戦には慣れていないだけで、基礎体力はあるか。

 その上、森で生きていくことにおいて勘がいいのは重要だ。それだけで生存率が全然変わってくるだろう。


「森で生き抜けるだけの実力はある、か」


「そうだね……普通で考えたら無理だと思うよ。数日ならともかく、ずっとはやはり無理だ。でも、ロウが側にいるなら不可能ではない。それでも難しいものはあると思うけど……それよりも気になることがある」


「気になること?」


「あぁ、覚えてる? 砂漠でほとんど魔物に会わなかっただろ?」


 砂漠の別荘地からの帰りか。

 そういえばそうだったな……


「シンを連れて街に出たとき、たまたま魔物市が開かれていてね。側を通ったんだ。普段は暴れまわっているのに、その時は随分大人しくなってたらしくて商人は困惑していたよ。翌日、用事で一人で側を通った時はいつもどおり、暴れまわってた」


「……シンが魔物に何かをしていると?」


「何かをしている素振りはなかったし、そうするメリットも見当たらない。だけど、何か関係があるような気がしてね。推測だけど、シンは魔物を大人しくさせるような魔具を所持しているか、シン自身に何らかの術が掛かっているか……と思うんだけど」


 魔物を大人しくさせる、か。

 そういう魔具がないわけではない。だが、既存の魔具は魔物自身に装着するタイプのものだったと記憶している。

 レア物であれば私たちが見落としていても不思議はない、か?


 後者の、魔物を大人しくさせる術など聞いたこともない。

 何かの術の副作用という可能性もあるが……ふむ。


「それともう一つ」


「ん?」


「多分、シンは魔術を使えるよ」


 魔術の行使……やはり可能か。

 ロウもスイも魔術を使用している以上、シンも可能性があった。

 しかし、本来、人である以上は詠唱が必要である。


「独自の魔術形式を持っている、と?」


「おそらくね。ロウやスイと同じように、詠唱せずに何らかの段階を踏んで魔術を発動させるんじゃないかな? 今のところ不自然に風が巻き起こったりしたことがある程度で断定じゃないが、この機会に聞いておいたほうがいいと思うよ」


 攻撃魔術は使えない?

 いや、使う必要がなければ使わないか。現状、それは今のシンに必要がない。


 なるほど。

 リッツが森で生活は本当かもしれないといった理由がわかった。

 シンの基礎体力、勘の良さ、ロウの助力、魔物を大人しくさせるすべ、魔術の使用。全て揃っていたなら問題なく森での生活も可能だ。


 それにしても……


「森を助ける方法を探すために、か」


 そんな目的があったとは。

 森で一体、何が起こっているというのだろうか……?




後半はフェーレ視点。

残念ながら、フェーレの思うシンが来たと思われる西南の森は全くの見当違い。書く事があるか疑問だけど、設定としてはフェーレ達のいる街から北東にシンがいた最果ての森があるんだよー


ちらっと書いたけど、ドラ●エ的RPGゲームで言うならば、ゲーム序盤がクロイドルス大陸。魔物が弱い。ゲーム後半がシーディア大陸。シン達のいる大陸です。心配なさらずとも、そのあたりの説明はそのうち本編に出てくる、はず。




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