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異界の森の王  作者: 唯愛
旅立ち~思わぬ障害~
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第七話

主人公が知らない状態で話を進めていますので、あえて詳しく説明していない部分があります。物語の世界観や人物の背景の説明不足に読みにくさがありましたら、申し訳ありません。




 はい、街にご到着ぅ~


 この世界、初の人の街です。若干興奮しております。

 フードつきのマントみたいな上着を被せられて、御者台に座るフェーレとリッツの間に座らせてもらった。

 窮屈だけど、今は街の風景を見るのに忙しいので後回し。


 ちなみに入口は城壁のようなものが街を囲っていて、そこを通る時に何か確認作業をしていた。

 身元確認かな?

 その時はまだ荷台のほうにいたからよくわからない。


 そこは問題なく通過し、大通りをがたごと通っているところ。


 入口のすぐくらいのところに露天商みたいなのがずらーっと並んでいたけど、歩行者専用みたいでそこはスルーして大きな道に出た。

 それはともかく、人がたくさんいる。

 うっはぁーですよ、テンション向上ですよ!!


 いいないいな、こういう賑やかなの久々だ。

 活気があるっていうのかな?

 この大きな道は露天商のようなものはほとんどないけど、店が多いみたい。

 建物の外に看板がいろいろ並んでいる。


 通行人の数もそこそこ。


 共通しているのが、褐色の肌だ。

 この世界の人はみんなこの肌の色なんだなぁ~……あれ? それでいくと、俺ってちょっと異質?

 もしかして、だから肌の色を隠すようにフードつきの上着だった?


 おぉう、ならこれから気をつけなきゃな。


 それにしても、やっぱりこの世界の文明はそこそこ進んでいるようだ。

 区画整理がちゃんとされていて、道も舗装されてる。

 電光掲示板ではないだろうけど、似たようなものまであるしね。

 そうそう、電話みたいなものもあるんだよね。どういう原理かはわからないけど、パソコンに似た器具もある。電気ではなさそう。


 しばらく進んでいくと、住宅街に入った。

 しかも、なんかでかい家ばっかりのところだ。


 ……そういえばフェーレってお金持ちっぽいんだよね。


 しばらくぼけーっといろんな家を見ていたら、馬車がとある屋敷の中にそのまま突入した。

 いや、いきなり家の中に入ったわけじゃなくて、明らかに敷地内と思われるところに入っていっただけだけど。


「シン、着いたぞ」


 聞き間違いでなければそう言った。

 目の前の屋敷を見る。


 ……でかい。

 庭が広い。馬小屋みたいなのとか別棟みたいなのもある。


 え、ここ?


 屋敷の入口扉前にわらわらと人が集まってきてるよ?

 似たような服を着てるけど?

 男の人は黒いズボンに青いTシャツっぽい服の人と、黒いズボンに白いシャツと黒いベストの二種類。

 女の人は、青い裾の長いワンピースみたいなのに黒いエプロンドレス?っていうのかな。そんな服を着てる。

 あれっていわゆる執事とかメイドとかいうやつに該当する?


 思った以上の金持ち具合にたじろいでいると、怖がっていると勘違いしたのかフェーレが頭を撫でてくれた。リッツは背中をさすってくれた。

 いや、別に怖がっているわけじゃなくてね?


「「「「おかえりなさいませ」」」」


 なんか、たくさんの人が一斉に言った。


 しかも見事に九十度のお辞儀。

 世界が変わってもお辞儀は変わらないなんて驚きだよっ!


 悠々と御者台から先に降りたのはリッツだ。

 で、ぐるっと回ってフェーレが降りるのを頭を下げて待つ。え、俺も同じようにしたほうがいい?


 どうしたものかと迷っていたが、すぐにフェーレが動いたので俺ひとり御者台に取り残された形になった。

 慌てて降りようとしたけど、フェーレに制される。


 フェーレのそばに年配の執事さんと若いメイドさんが近づき、少し言葉を交わしたあとまたリッツが御者台に登ってきた。

 おぉ、心細かったよぅ~

 目が合うと、リッツが苦笑した。ぽんぽんっと頭を軽く叩かれる。


 フェーレはそのまま屋敷の中に入っていく。ぞろぞろとたくさんの人も後に続いた。


 それを見送り、リッツはゆっくりと馬車を動かす。

 向かうのは向こうの馬小屋?


「疲れたでしょ? ご飯にしようね」


「うん」


 フェーレが屋敷に入っていくとき、後に続いて屋敷に戻っていったメイドさん達。

 俺の方を不思議そうに見る人もいれば、無関心の人もいた。

 けど、中にはちょっと嫌な視線もあった。値踏みするかのような、不快な感じ。軽視するような、侮蔑の目。邪魔者を見るような、濁った視線。


 どこの世界にも、そういうものはあるんだなぁ。


 馬小屋のような場所について馬車を降りたあと、俺たちに案内されたのはフェーレが入った屋敷とは別の場所。

 別棟というか、離れっていうのかな?


 ロウも中に入らせてくれたけど……大丈夫なのかな?

 怒られない?


「おいで」


 けれど、リッツは気にせずにずんずん進んでいく。

 俺とロウを挟んで後ろにはクィーツ。あ、スイは俺の肩に乗ってる。


 二階の一室を開けたリッツに手招きされる。入ると、簡素ながらもベッドやらタンスやらが置かれた部屋だ。

 窓は開けられていて、空気の濁りもない。


「ここ、シンの部屋」


「え?」


「好きに使って」


 えっと?

 俺の部屋? ここを使わせてくれるってこと、でいいのかな?


「スイ、ロウ。入る、大丈夫?」


「うん、いいよ。大丈夫」


 おぉ、ロウも入っていいって。お許しが出たよ。

 いいのかな?

 思っていると、リッツがクローゼットやタンスを開ける。

 そこには服が何着か入っていた。


「これ、シンの服。わかる?」


「俺の? 使って大丈夫?」


「うん。大丈夫。これも、全部。使って大丈夫」


 結構な量だよ?

 服もそうだけど、タオルや靴…それに身だしなみを整える小物もある。

 しかも、この部屋にお風呂が完備。これらも使っていいらしい。


 ロウとスイのためにか、ベットの近くに大きなかごみたいなのに毛布が詰められていた。

 あ、机もある。この世界、本は紙のものが多いけど勉強で使うのは主に石版のようなパソコンのような不思議なアイテムなんだよね。

 

 指で文字を書くと、そのまま反映される。消そうと思えば消せるし、保存して後日見ることもできる優れ物。

 

 そのあと、この離れをぐるっと案内された。

 一通りは揃っていて、厨房もばっちり。十分にひとつの家でしたよ。


 俺の部屋の隣がリッツ、一階にクィーツの部屋がある。

 フェーレは本宅ってところだ。


 う~ん……改めて思うけど、俺ってここでお世話になっていいのかなぁ?

 いや、お世話にならなければどうしようもないのが現実なんだけどね。甘えていいのかどうかって話で。

 いい人に拾われてラッキー、だなんて簡単に思うには、少し都合が良すぎる気がする。これは早いこと言葉を覚えて状況をちゃんと把握しないと、とんでもない面倒に巻き込まれるかもしれない。


 フェーレというよりも、フェーレを取り巻く環境が……どこか、あの世界を思い出させる。




 そういえば、人間って難儀な生き物だったなぁ、なんて。

 今更思い出すなんてねぇ。

 いくらもともとのんびりした性格だったのが、さらに気が長くなってのんびりになっちゃったからといって……ちょっとこれは迂闊かな。


 でも、フェーレとかいい人だったからなぁ。

 ついうっかり忘れてしまうじゃないか。


「いじめ、決定かなぁ?」


 今後、我が身に降りかかる災難を想像する。


 学校のいじめとかの定番は確か、仲間はずれと、悪口、教科書を隠される……とか?

 それをここで置き換えるとー……


 仲間はずれ。もとから仲間はずれだからダメージゼロ。


 悪口。言葉が通じないからさほど困らない。


 教科書……は、ないなぁ。あ、でもモノを隠されたりするのは困るかな。




 うーん?

 あとは、殴られる? 呼び出されてバケツの水がザバー? あ、上靴に画鋲……もないな。ふぅむ?


 だめだ。

 さっぱり分かんない。その程度、森での生活がなくても問題ないしな。

 


 ま、なるようになる、かな?

 人への嫌がらせって根気が必要だからね、長続きしないだろうし。

 あ、でも世界が違うから向こうの世界よりも命の重みはないかもしれない。嫌がらせの規模が違うかも……


 これは覚悟しないと痛い目に合うかな……

 

 






◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇





 屋敷に戻るとすぐにハンスに執務室へ詰め込まれた。

 机の上には書類が山積みされていて……見ただけでやる気がなくなるな。まぁ、仕方がない。


「フェーレ様、失礼します」


「何だ?」


「お茶をお持ちいたしました」


 急ぎの案件に目を通しているとリディがお茶を持ってきたので書類を机に置く。

 本当はソファに座ってゆったりと休みたいところだが、ここひと月ほどのんびりと過ごした手前我慢だな。


 音も立てずに執務机に置かれたお茶を口に含む。

 格段に美味しいお茶を淹れるわけではないが、長年私のメイドを務める彼女のお茶を飲むと気が緩んだ。

 ふぅっと息を吐く。


「リディ。先日に言った通り、シンの面倒は当面リッツとクィーツに任せる。こちら側の負担はお前とハンスに掛かるかもしれんが頼む。それと、当分女は近づけるな。まぁ……大丈夫だとは思うが、言葉が通じない以上万が一ということもある。お前も一人では絶対に近づくな」


「わかりました……やはり、何者かは分からず、ですか?」


「あぁ。街を見せたが、随分興味深そうにしてはいたが怯えはなかった。街を全く知らないという雰囲気ではなかったな」


「……ますます分かりませんね……」


 リディは眉根を寄せてため息をつく。

 もっとも彼女の場合は、警戒が半分、もう半分はシンが不遇な状況に追いやられていたのではないかという懸念だろうが。


「屋敷の者達の反応はどうだ?」


「正直に申し上げれば……芳しくありませんね。まだ、どこかの街でクロイドの子供を拾ってきたと言われた方が皆も納得するところでしょうが……砂漠の別荘地となれば訝しむのも致し方ありません。その上、言葉が通じないなど魔物の類ではないかと疑うのも分からぬでは……」


「そうか」


 もう一口、お茶を飲む。

 この場所がシンにとってあまりいい場所ではないことは分かりきっている。

 それでもまだマシだと思ったからこそ連れてきた。


 おそらくあの別荘地に置いてきても、シンはどうにかしただろう。

 それでも結局、あの場所からではデロイドの街に赴くことになると踏んだからだ。


「今の段階では私が何か言っても状況は変わらんだろう。無責任だが、シン自身がどうにかするしかあるまい。幸い、シンはそれなりに言葉を覚えつつある。目処が立てばここを出て行くか、どうするかは自分で決めるであろうよ……」


「……見返りは、お求めにならないのですね?」


「そうでもない。シンは私の知らぬ何かを知っている……連れてきたのは、それを知るための手段の一つでもあるだけだ」


「…………では、そういうことにしておきます」


 リディはそう言って微笑むと、一礼して退室した。

 まるでこの私の心の内を分かっているとでもいうような言い回し。

 長年の私のメイドでもあり、かつて彼女が貴族の一員であった頃は幼馴染の友人であり婚約者という間柄でもあった故の言葉だ。


「…………」


 もう一口、お茶を口に含む。

 ほんのり苦いその味に、いつまでも美味しく淹れられない彼女の不器用さに、なんとも言えず密かに嘆息した。


 

リディさんは元貴族。一見優秀なメイドさんだけど、さりげなく不器用。

シンとスムーズな会話が不可能なせいで未だに出せない年齢は以下のとおり。

フェーレ26歳、リッツ27歳、リディ24歳。シンは18歳になってます。

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