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異界の森の王  作者: 唯愛
旅立ち~思わぬ障害~
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第六話





 フェーレに拾われて、多分一ヶ月くらいは過ぎた。

 親切な彼は、俺たちの面倒を見てくれている。衣食住に加え、俺にはこの世界の言葉を教えてくれている状況。


 この場所に到着したときはフェーレ一人しかいなかったんだけど、三日後に男の人が二人来た。

 その二人の所作を見ている限り、フェーレの部下か使用人ってところ。やっぱり二人共、フェーレと同じ褐色の肌だ。


 一人はナイスミドル。名前は多分、クィーツ。

 基本無表情で、体格がごっついのではじめ見たときはちょっと怖いおじさんだなって思った。ごめんなさい。

 見た目は怖いけど、何事も丁寧で親切だ。ロウとスイにも変わらず接してくれてる。


 もう一人はフェーレと同じくらいの歳の人。名前はリッツ。

 いつもにこにこしてて、物腰が柔らかい。でも、意外と厳しい。有無を言わせない感じで怖い。

 多分、アメとムチの使い分けが上手い人だと思う。勉強はフェーレよりもリッツの方が教え上手。


 と、まぁ、こんな感じの近況。


 言葉は文章になるとまだよくわからないんだけど、単語はわかってきた。

 ゆっくり言ってくれなきゃ聞き取れないんだけどね。


「シン。ご飯出来た?」


 何もせずにお世話になるのもどうかと思ったので、ちょこちょこと仕事をもらってる。

 とはいえ、ほんとにささやかな仕事内容だけど。

 今はご飯を作ってます。


 そう。

 久々の調理。焼くだけとか煮るだけじゃない、調味料を使った料理。


 食材も調味料も全然違うんだけど、基本は同じ。

 俺の両親は共働きでほとんど家にいなかったので、家事は出来る方だったんだよね。


 …………父さんも母さんも、元気かな?

 俺ってどうなってるんだろう? 失踪扱いになってたらへこんでるだろうなぁ。


 家にほとんどいなかったけど、家族仲は悪くなかったし。

 友達とかもさ、迷惑かけてなければいいけど……今や知るすべなんてないしね。はぁ~……


「シン?」


 おっと。そうだった。

 リッツさんがご飯出来たか聞きに来たんだった。


「うん。大丈夫」


 出来上がった料理を見せながら言うと、にこにこした顔を一層ににっこりさせて頷いた。

 本日の料理は、野菜炒めと肉団子汁でございます。

 テーブルに人数分並べる。ちなみに、ロウとスイには調味料は少なめにしてある。実際のところ健康にはどう響くのかわからないからね。

 並べているうちにフェーレもクィーツもやって来て席に着く。リッツは飲み物の準備をしてくれた。

 

「いただきまーっす」


 ぱんっと両手を合わせて挨拶。

 あ、これをするのは俺だけ。ちなみに、俺がこれをしないとロウもスイもご飯を食べ始めません。変な習慣がついちゃったなぁ。


 さて。お味のほどは?


 まずは肉団子汁。味見した時と同様の味。うむ、合格点。

 野菜炒めもちゃんと出来てる。野菜が生だよなんて面白いこと出来ませんからね。

 でもそれは俺の感想。

 みんなは大丈夫かなっと見てみると、目が合ったフェーレが気づいて言葉にしてくれる。

 

「美味い」


 よしっ!

 見るとリッツもクィーツもうんうんと頷いた。合格点、ゲット。


 しばらく黙々と食べ続ける。

 ちなみにお箸じゃなくて、俺が持っているのはフォークスプーン。

 明らかに野生児だったので、もっとも食べやすいものを渡されたようだ。みんなはナイフとフォーク……じゃなくて、ナイフとスプーンで食べる。

 違和感がハンパねぇ。

 向こうの世界じゃマナー違反だっただろうけど、ナイフで肉を切り、肉を突き刺し食べる。これが普通みたいだ。

 俺がフォークスプーンなのはナイフをそのまま口に含むと怪我をする恐れがあるからじゃないかと思う。あと、肉を上手く切り分けられないと思ったのかもしれない。

 実際、ステーキのようなご飯が出たときは、俺だけ切り分けられていたから。

 ちなみに、ご飯を食べるときはスプーン使用。

 

 更に補足。ケーキも食べたが、その時は俺の今使っているフォークスプーンを使用していた。

 フォークはないのかもしれない。


 食べ終わると、クィーツが食器を下げ、リッツがお茶を入れてくれる。

 緑茶じゃなくて、紅茶っぽい。

 レモンみたいな柑橘系の味がちょこっと混じってる。


 この間、会話がないわけじゃないけど俺はあんまり聞き取れない。

 単語はところどころわかるんだけどなー


 のんびりお茶を飲んでいると、フェーレに名前を呼ばれたので顔を上げる。


「なに?」


「明日 ここ 出る。一緒 来い。いいか?」


 俺に分かるように単語単語で話してくれるフェーレ。

 ぎこちないけど、実際こっちのほうが俺としてはまだわかりやすいんだよな。


「うん。行く」


 今の状況で置いていかれても困る。

 素直に頷くとほっとしたような顔をした。俺が嫌がったら置いていくつもりだったのかな。


「どこ 行く?」


「……私の家。人、たくさん、だ」


 人がたくさんでフェーレの家。

 街ってことかな。ここ、かなり辺鄙な場所だし……フェーレってお金持ちっぽいから別荘みたいなものなのかも。


「スイ、ロウ 一緒? リッツ、クィーツ、一緒?」


「あぁ。みんな一緒」


「みんな一緒、行く。楽しい」


 本当は楽しみ、と言いたかったけどそこまで細かい言葉は覚えていないんだよね。

 意味は通じたと思うけど。

 フェーレはにこにこしているし、多分通じてる、はず。


「シン、馬車、平気?」


 すると、話を聞いていたリッツが聞いてきた。

 そっか、馬車移動になるのか。乗ったことないから平気ともダメだとも言えないな……けど、乗れなかったら迷惑かけるよなぁ。


「馬車、知らない。わからない。でも、大丈夫」


 返事を聞いてうーんと悩むリッツ。

 何かをフェーレと話し出す。フェーレの方はあっけらかんとしていたからまぁ、大丈夫だろう。


 そうやっているとクィーツが戻ってきてお風呂に入れって言われた。

 頷いてロウとスイを連れて風呂場に向かう。

 スイは楽しそうに風呂に入るけど、ロウはあまり好きじゃないみたいだ。石鹸みたいなので体を洗うのは許してくれるけど、風呂に浸からせようとすると逃げる。

 まぁ、それは仕方ないと思うから無理に入らせるようなことはしないけどね。








 翌日、朝から出発の模様。

 いつも通り朝起きて、身支度。ご飯食べて、そしたら出発だった。


 外に出ると馬車がすでに準備万端だ。

 馬車と解釈しているけど、実際は馬ではないと思う。足が太い。しっぽがライオンみたい。

 まぁ、パッと見は馬なので馬車でいいだろう。うん。


 クィーツとリッツはこれに食料積んでやって来たんだよね。

 荷馬車を改造したような馬車で、左右に三人づつくらい座れるベンチのように椅子が付けられている。

 荷物はほとんど無い状態なので、ロウとスイも中に入っても窮屈じゃなかった。

 

「家に着く 二日かかる」


 馬車で二日の距離に町があるらしい。

 この世界の町かぁ~、楽しみだ。


 御者台にフェーレとリッツが座り、俺の正面にクィーツが座る。

 本来は荷馬車だったのか、窓がないから景色を楽しむことはできない。残念だ。


 しばらくして動き出した。

 ことことと揺られる。ロウが不安そうだ、落ち着きがない。

 

「大丈夫大丈夫、怖くないよ」


 思ったほど揺れないので立ち上がってロウの下に行き撫でると「がぅぅぅ~」と情けない鳴き声を上げた。

 お風呂といい馬車といい、苦手そうだな。ロウにはちょっと人の街は住みにくいかも。


「ごめんな、ロウ。でも、やっぱり俺……人に会いたい。たくさんの人のいる場所に行きたいんだ……」


「がう」


 ペロリと。

 俺の顔を舐めてくるロウ。


 わかってるよ、って言われたようで少し嬉しくなる。

 俺はしばらく馬車の中だということを忘れてロウをがしがし撫で回し、テンションの上がったロウにじゃれつかれ倒され舐めまくられ、くすぐったさに暴れ転げまわり……怒られた。








◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇




「妙ですね……魔物がほとんどいない?」


 先程から感じていた違和感を口にする。

 フェーレが隣で首を横に振る。


「いや、魔物がいないわけではない。こちらに近づいてこないだけだ」


「どういうことです?」


「この馬車をあえて避けている……ように思うな。理由はわからん」


 探知能力に優れるフェーレが言うのならばそうなのだろう。

 しかし、魔物が避ける?

 そんなことがあるのか?


 疑問が表情に現れていたのか当然の心理だろうと推測したのか、フェーレはふぅとため息をこぼすと荷台へと目線をやる。


「シンが関係あるのかもしれないな……もう少し言葉が分かるようになれば、いろいろ聞けるんだが……」


 フェーレの拾った不思議な青年、シン。

 ふらりと旅に出て、久々に連絡があったかと思えば、すぐにこの辺境の別荘地に食料を持って来い、だ。

 自由気ままな主の多少の我侭は今更であるが、今回のことは参った。


 言葉も通じない子供だというから警戒していれば、実に素直で賢い子だった。

 たった一人で(動物二匹はいたけど)あるにも関わらず、人を怖がる様子もなかった。大体のことはすぐに理解し、言葉が分からずともさほどの苦労はしていない。

 人の世に慣れていないわけではなさそうだった。


 その割に素直すぎるのが気になる。

 

 不自然な素直さではない、自然な素直さだ。

 人に捨てられたとかで恨むようなことはなかったということだろうか?

 ならば何故たったひとり、こんな生きにくい場所にいたのだろうか?


 疑問は尽きないが、答えを返してくれる本人はまだ言葉を分かっていない故に口を閉じるしかない。


「それにしても意外だったな。リッツは子供嫌いなのに」


「その言葉、そのままお返ししますよ。それにシンは子供という年齢ではないでしょう?」


 おそらく二十はいっていないだろうが、十五は過ぎているというのが俺の推測だ。


「私は子供嫌いではないよ。シンは年齢では子供ではないだろうけど、大人でもないだろう?」


 よく言う。

 今まで子供を構ったことなどないくせに。


 もっとも、確かに嫌いではないのだろう。

 リディが拾ってきたメリサの面倒を見ているあたりシンを拾ったのも意外というほどのことでもないかもしれない。

 そもそも路頭に迷っていた自分を筆頭執事に取り立てるような奴だ。困った人を放っておけない損な性分であるところは昔からだろう。


「屋敷に連れ戻ったらどうなさるおつもりで?」


 シンの見た目はクロイドだ。

 フェーレの手前、わかりやすい態度に出る奴は屋敷にはいないであろうが……快く思わないやつもいるだろう。

 シンのことを思うならもう少しあの別荘地にいる方がよかったのだが、これでフェーレもいつまでもふらふらしておけない立場だ。


「……離れを使えるようにしている。しばらくはリディとお前に任せることになるだろう。今までどおり言葉と文字を教えてやってくれ」


 離れ、か。お母上が亡くなられてからずっと手付かずだったのに、使えるように命じたのか。

 本当に随分とお気に入りになったものだね。


「…………」


 言葉と文字だけでなく、自衛手段も教えたほうがいいかもしれないね。

 最悪、屋敷の人間があの子を追い出すことも考えうる。クロイドの見た目でデロイドの町をうろつくのは危険だ。

 あの子に武器も見繕っておいたほうがいいかなぁ。


 ロウとスイが付いているから、最悪の事態は免れてくれると思うけれど。





シン視点での会話。

フェーレやリッツの言葉は文章であっても、聞き取れるのが単語なのであのような表記。早くスムーズに会話が出来るといいね!

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