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異界の森の王  作者: 唯愛
旅立ち~思わぬ障害~
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第五話

別視点(フェーレ視点)です





 防壁の中に何かが紛れ込んだと感知したときは、何が起こったのか一瞬思考が停止した。


 少し様子を見るが、害意はない。

 入口からところどころ寄り道をしつつもまっすぐ進んでいる。明らかな意志を持った存在だ。


 有り得ない、と思った。


 ここは辺境の砂漠。

 たまに気を休めるのに自分が訪れるだけで、ここには何もない。

 それでも一応、建物内を荒らされてはたまらないので自分が認めたもの以外は侵入を拒む防壁を張っていた。


 デロイドの中では自分の地位は相当に上だ。

 自分の防壁を突破出来るものとなれば限られている。


 そして、突破できる存在がこんなところに来るはずもない。


 では、一体どうしてこの場所に生物が入り込んでいる?


 少しの緊張を纏わせて移動を開始する。

 このまま進めば、この存在はこの部屋に来るはずだ。中に入られれば面倒かと思い、廊下へと出て待ち伏せする。


 息を潜めて待っていると、のんびりと人が一人と犬のようなものが一匹向かってくるのが見えた。

 人は……デロイドじゃなさそうだな。

 珍妙な格好をしているようだが、肌の色からするとクロイドか?


 不可思議な存在だ。

 こいつ、どうやって防壁を突破した……?


 奴らの意識は目の前の扉に集中している。

 何者でも構わない、捕らえて吐かせればいい……死んだとしても、まぁ、困りはせんが出来れば話を聞きたい。殺さぬ程度に感電でもさせればいいか。


 私はそっと人に狙いをつけて、雷撃を放つ。


 無防備に雷撃をくらう……かと思った。

 まさかあのタイミングで避けるだとっ!?


「げっ!?」


 歴戦の戦士にしては簡略魔法に驚いていた。

 なんだ、何か違和感がある。


 もう一度攻撃をしようと思ったが、傍にいた犬のような奴が動いたかと思えば魔法で攻撃をしてきた。氷の槍……!?

 

「っ!? 炎弾!」


 咄嗟に炎の簡略魔法を唱えて相殺する。

 やはりただの犬じゃない。魔法の使用速度が自分と大差ないなど信じられない速さだ。


「WO DUFUN! DSPJ WD`&DFUEOFP+LDUNI!!」


 珍妙な格好の人が叫ぶ。

 聞いたことのない言語だ、まさかデロイドでもクロイドでもないのか?


 人の言葉に偽犬が動きを止めた。

 警戒は解かずに威嚇しては来るが、攻撃はしてくる様子はない。

 動物を操っているのか?


「お前は何者だ!?」


 こちらも警戒を解かずに問う。

 だが、奴はやはり聞き覚えのない単語を口にした。


「何だって?」


 何かを命令する言葉か、魔法を発動させる言葉なのか。

 得体の知れない存在に久々に背筋が冷える。


 しかし、しばし対峙した目の前の奴は途端に困った顔をした。


「……FUUUUUPB……」


 どこか情けない声。

 よく見ると、まだ幼さの残る顔立ちだ。


 ゆっくりと両手を上げ、戦意がないことを示してきた。

 どういう、ことだ?


「BDYIFUEOAOW#DUHB CDPE`<DIEBDU…………」


 何を言っているのか全くわからない。

 ただ、困った顔をさらに情けなくさせた。途方に暮れているような、とでもいうのだろうか。


「敵ではないのか?」


 尋ねてみるが、やはり困った表情のまま。

 捕らえて吐かせるつもりであったが、これでは無理そうだな。

 そもそもそれではメリットがない。捕らえるのも骨が折れそうだし、なにより……


 ふっと息を吐いて目の前の奴を見る。


 まるで、迷子の子供のような顔をしていた。






 黒髪に黒目。

 肌の色はデロイドよりもクロイドに近いな。若干、色が異なるからまた別なのかもしれない。

 しかし、デロイドとクロイド以外の人種など聞いたことがないが……


 それにしても我々の言葉も文字も全くわからないとは。

 一体どこから来たんだ?

 目は知性を宿しているし、所作は問題ない。むしろ、洗練されているほうであろう。


 だが、そうなるとこの格好はどうなんだ?

 獣の皮と、腰紐は……何かの植物の蔓を編んであるのか?

 どんな田舎でもここまでひどい格好はしていない。それも、髪もバサバサ。どうしたものか……?


 考えていると、目の前の奴が突然自分を指差して何かを言った。

 なんだ?


 次に、偽犬を指して「ロウ」と言い、はじめはいる事に気づかなかった小動物を指して「スイ」と言った。

 そうやって次は私に指を向けて、首を傾げる。


「……何なんだ?」


 分からずに思わず聞くと、奴はショックを受けたようにがくりとした。

 いや、わからん。何なんだ?


 困惑していると、さっと立ち直った奴は再び同じように指をさしながら単語を口にし、最後に私に指を向けて首を傾げる。

 む……?

 まさか、名前を言ってるのか?


 試しに答えてみよう。


「……フェーレ」


「フェーレ?」


 ぱっと顔を輝かせて復唱してきた。

 目が発音が合っているのか訪ねているような気がしたので頷いてみる、と


「フェーレ」


 嬉しそうにまた言ってきた。

 もう一度頷く。


 すると、まるで花でも散ったかのような満面の笑みを見せた。

 それを見て、完全に毒気を抜かれる。

 これは参った。こんな真っ直ぐな感情は久しぶりに向けられたなぁ……


 えっと。さっき奴は自分を指してなんて言ったっけ?

 確か……


「フィン?」


「シン。シ、ン」


 うん?

 若干発音が違うのか。ゆっくりと分かりやすいように言い直された。えーっと……


「……フィ……シ? シン?」


 修正して声に出すと、


「DUF!」


 うんうん、っと頷いている。どうやらこれでいいらしい。シン、ね。

 で、あの偽犬はと小動物は確か……


「ロウ……スイ」


 指差して言葉にすると、またにぱぁっと笑って頷いた。

 なんて感情がわかりやすい奴だろう。

 つい面白くて笑ってしまった。そうして、気づいたら手が勝手に奴の頭を撫でていた。


「シン。お前は悪い奴じゃなさそうだからな、しばらくここにいてもいいぞ」


「ENODUF DB`DFUNM」


 俺の言葉がわからなかったのだろう、また困った顔で頭を振った。

 それでも俺は構わずに頭を撫で続ける。

 不思議だな……こんな得体の知れない奴なのに、こんなにも放っておけないと思うなんて。


 ……それにしても。


「ボロボロだな? 着替えさせるか」


 シンの顔に触ってみると肌の具合からしてやはりまだ若いように思える。

 だがこの髪と、無精ひげのようなもののせいもあってどうにも違和感が出る。


 それにこの服。

 上手く利用しているが、加工品としては最低レベルだ。どんな蛮族でももうちょっとマシな品を持っている。

 臭いも多少気になるところだし、それなりに使い古されている。


 まったくもって今までどうやって生活していたんだ?


 はぁ……取りあえず何か服を見繕うか。


 席を立つと、ちょっと不安そうな顔をして見送ってくる。

 だがついて来ずに留まったままだ。やはり、それなりの知性はあると見ていい。


 言葉も話していたし、デロイドとクロイド以外にも人種がいたということか?

 それとも独自の文化をもつどちらかの特性を持った人種、か。

 だが全く違う言語を扱う必要性は見出せない。外部との接触を遮断した一族なのだとしても一から言語を作り出すなど不自然だ。


 考えながら奴が着れそうな服を見繕う。

 着やすくて動きやすい服がいいだろうな。体格は私よりも小さいからサイズは問題はないだろう。

 そうだ、その前に風呂に入れるか。


 ならばタオルだな。

 靴は後で見繕うとしよう。


 戻ると偽犬ことロウと戯れていた。

 ロウも見たことのない種だ。こんな砂漠地方では見なし、シンへの懐きようからみてこの辺を生業としているものじゃないんだろう。

 あの魔法展開といい戦闘能力はかなり高い。本当に、どこから来たんだ?


「お前の服だ、着替えろ」


 わからないだろうな、と思いつつ服を渡してやる。

 シンは受け取って広げて……こちらをじっと見た。


 仕方なく自分の服を摘んでからシンが広げている服を指差す。

 それからシンの珍妙な服を指差した。


 言葉が通じないというのは本当に不便だな。


 理解しているかわからないが、問答無用で風呂には入れるつもりだ。

 別に潔癖症でもないが、シン達をこのまま外に放り出す気はない。とはいえ、そのままの格好でうろつかれれば屋敷の掃除に追われる羽目になる。

 手を取り引っ張るとキョトンとしながらも抵抗せずにすんなりとついて来た。


 若干、素直すぎて心配になるな……


 シンが立ち上がり私についてくる素振りを見せると、動物二匹が素早く寄ってくる。

 よく躾けられているのか、懐かれているのか。まだ判断はつかないな。まぁいい。


 風呂場までの道のり、随分キョロキョロと周りを興味深そうに見ていたが風呂場を見ても同じように興味深そうにしているだけで驚きといったものはなかった。


「……風呂は入ったことあるか?」


「BDYI? DTIEFOGPNDU? EEE$VA……EWD BUDP?」


 片腕を伸ばし、もう一方でそれを洗う動作を見せる。

 うん、なんとなくわかっているのか?

 内心ほっとしつつ、頷く。すると、今にも飛び跳ねそうなくらい嬉しそうにした。


 そのあまりの喜びように驚いたが、感化されたように私も笑ってしまった。


 一応、分かっていないといけないので浴槽に入っているのは湯であること、それから汚れを落とす作用のある清浄石の使い方を教えておく。

 どうやらある程度は分かっているようだ。

 言語はともかく、こんな格好なのはなにかのアクシデントのせいという線も出てきたな……

 アクシデントの内容にもよるだろうが、こちらとしては一から教える必要がない方が有難い。


 大丈夫そうなので、外に出ることにした。

 動物二匹は留まったままだったが、まぁこの二匹はひとまずこのままでもどちらでもいいとしよう。

 少し心配ではあるが……何かあってから駆けつけても問題ないだろう。










 やはり途中、なかなか出てこないので心配になり見に行った。

 だが、杞憂であった。

 犬が情けない声で鳴いていたので洗うのにひと騒動あったのかもしれない。


 しばらくして出てきた奴は、ちゃんと渡した服を着ていた。

 こちらも問題なかったか。

 少々、服のサイズが大きいようだが問題ないだろう。


 もう少し髪などをなんとかしたいのだが、言葉の通じない相手だからなぁ。

 いきなり刃物を持ち出せば下手に警戒されるかもしれないし、それは追々にしておこう。


 まだ濡れたままの髪を、タオルで拭ってやる。

 どこか気恥かしそうにしつつも、シンはされるがままだった。


 私は別に面倒見のいいタイプではなかったのだがなぁ……


「何があったのかは分からんが、この辺りで生きていくなら言葉が分からぬのは不便だ。せめて言葉を覚えるまではここにいろ」


 話しかけるが、困ったような表情をする。

 意味がわからなくて返事できずに困っているのだろう。


 それでいい。


 ぽんぽんっと頭を撫でる。

 ほんのわずかの時間、だがたったそれだけの時間で自分がこんなに警戒を解くなんて思いもしなかった。

 幼子というわけでもないのに、こんなにも純粋な存在は珍しい。


 目には好奇心もあれば相手が何をしようとしているのか判断しようとする意思も見える。

 こういう存在なら、言葉もいずれ覚えていくだろう。

 

 中央の貴族社会に辟易として。人との関わりをしばらく避けたくなってこの地に逃げるようにして来ていたわけだが……

 まさか人を拾うとは思わなかった。


 だが、悪い気はしない。

 こんなにも素直な、屈託のない感情を向けられたのは久しぶりだ。

 そして、自分がこんなにも思惑なく感情で動いたのも……久しぶりな気がした。


 



本編でそのうちちゃんと説明がなされますが、本文中の単語について。

デロイドとクロイドというのは人の種族名。日本人、アメリカ人みたいな。


前回のフェーレの言葉、今回のシンの言葉とも適当に英文字を使っているだけで法則はありませんのであしからず。

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