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異界の森の王  作者: 唯愛
旅立ち~思わぬ障害~
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第四話




 この世界に来てから、俺は変わった。

 生活も考え方も習慣も体力も。様々なものが変わった。


 当然、多少の人格の変化もあったと思う。


 普通に生活していても変化のあるような年頃だしな。


 それでも思うんだけど、俺は本当に気が長くなったと思うんだよ。

 現代は時間に細やかで急かせかしていた感じだったけど、森での生活は非常にゆっくりだった。


 それでも現代のようにご飯が出てくるでもなく、安全なわけでもなく。

 どこまでも過酷ではあったけれど、焦るようなものはあまりなかった。ま、一人だったからというのは大きいね。他を気にしないでいられるから。


 そんなわけで、砂漠を歩いて早十回目の朝。


 今日も見渡す限りの砂漠ですが、まぁのんびり行こうという平静な気持ちを保っていられる。

 随分と気が長くなったと思うのです。


「とはいえ、やっぱりそろそろ終わりが見たいなぁ~」


 眩しい砂の一面。

 野生に戻ったおかげなのか、方向感覚は良い方だ。多分、同じところをぐるぐる回っているような間抜けなことはしていないだろうけど、そろそろ不安にもなる一面の砂漠。

 元の世界なら確実に水不足に陥ってただろうな。


「その辺は魔法って便利だよね」


 ささっと魔法で水を出して顔を洗う。

 ちゃんとしたタオルのような布があればもうちょっと便利なんだけどなぁ。


「がーう」


「きゅきゅきゅ!」


「はいはい」


 二匹が飲み水を要求してくるので、それもささっと出して飲ませる。

 ロウは攻撃に特化した動物なのか、火と氷を操れるけど水は出せないんだよね。

 ちなみにスイは風と雷を操ってくる。そう考えると恐ろしい子達だ。


 そうそう。

 この魔素の影響が大きいんだろうけど、魔法による攻撃にはある程度耐性が付いているみたい。

 元の世界なんかで雷落とされたらほぼ死ぬからね。

 俺は何度か雷くらってるけど、この通り無事だ。自然の雷となると威力がまた違うってリョクから教えられたから、そっちでは死んでしまう可能性もあるな。

 


 ひたすら黙々と歩いて、とうとうこの日。


 日が傾きかけた頃にしてようやく。


「…………あ、あれは……まさか……」


 人工物らしきものが見えた。


「……っしゃー! ロウ、スイ。行くよー!」


 ぐっと小さく拳を握り締め、二匹に声をかけて足を早める。

 間違いない間違いない間違いない!!

 近づくにつれて確信していく。あれは、人工物!! 家っぽい!!


 土を固めたような作りの四角い建物だ。

 結構大きい……入口が大きく開いている。扉らしきものはないなぁ……

 

 …………せめて、今よりもマシな服くらいはほしいんだけど。

 

 近づくにつれてよく見えてくる。


 こうやって近くで見ると、大きさは家の規模じゃ収まらない。

 簡単に入れそうなので失礼ながらお邪魔することにする。人の気配はなし、か。


 入口から大きな通路が続く。

 家というより、寺院とか神殿とか。どっちかというとそういう施設の建物っぽい。

 取りあえず道なりにっと。


 まっすぐ進むと中庭に出た。

 ずっと砂漠が続いていたけど、真ん中に池があって、緑がある。まさしく中庭。あきらかに人工的なものだ。


「でも、人の気配がないんだよねぇ~……」


 ちょっと期待はずれだ。

 

 まぁ、いないものは仕方がない。先を進むとすぐに何個か扉を発見。

 手近な扉を開けてみると、物置っぽかった。


「がう?」


 初めてといってもいい人工的な道具に興味を示すロウ。

 でも警戒してなかなか近づこうとしない。


「うーん……箒にスコップ、バケツ。中庭の道具とかかな?」


 他にも肥料っぽいものやら何に使うかわからない網みたいなものが置かれてる。

 ここは後回しだな。


「次行くよー」


 ここは出て、すぐ隣の扉を開く。

 うーん?

 何この場所?

 …………あ、もしかして厠かな?

 ふぅーん。こうなって、こうやると……なるほど。まさかの水洗技術。あれ、思ったより文明発達してる?


「まぁ、いいや。ここも後回しっと」


 さらにいくつか奥の扉を開くと、部屋らしきところだった。

 少し狭いが鏡台兼タンスのようなものとベットが置かれている。仮眠室みたいだ。


「……少し埃がたまっているけど、何十年も使ってないってわけじゃなさそうだな」


 ちなみにタンスの中には何も入っていなかった。

 布団はふかふか羽毛というものでもなかったが、なかなか上質な毛布だ。

 タンスの作りも、鏡の写り具合も上質といっていい。かなり技術は高いみたい。これは期待できる。


 似たような部屋や、少し大きめの客室のような部屋が何個か続いたあと、一際大きな扉が見えた。


「期待できるね」


 わくわくしながら扉を開く。


「……おぉ……!?」


 豪華絢爛。

 まさしくその言葉がぴったりだ。


 ふかふかの夢の絨毯、中央に鎮座する高級そうなソファ、壁に飾られた絵画、キラキラシャンデリアっぽい照明。

 テーブルやら家具一式がなんだか気品あふれている……ような気がする。鑑定はできないからあくまで気がするだけだ。


 ほかの部屋と違って、埃っぽさは皆無だ。


 何だか入るのをためらうな。

 日本と違って土足のまんまだし。


「ん?」


 ふと、首の後ろあたりがピリっとした。

 この世界に来てから上昇した危険察知能力なめるなよっ!


 反射的に扉から離れ、部屋の外側に体をずらす。

 直後、顔の横に雷がほとばしった。直前まで俺の首があった場所を通過していったのだ。


「げ!?」


 すぐさま戦闘態勢をとる。

 ロウとスイはすでに体制を整えていて、ロウが牽制のアイスランスを放った。


 その先にいたのは、褐色の肌の人型。


「っ!? GWPBUUDA!」


 人型は瞬時に炎で無効化する。

 早い、それに威力も申し分ない。


「ちょ、ロウ! 待って、もしかしらたここの人かもしれないから!!」


「ぐるるぅ」


 警戒態勢は解かずに、攻撃はストップしてもらう。


「SH*$/YVAA!?」


 人型が何かを言ったが聞き取れなかった。なんだ?


「ここの住人かっ!?」


「R#JYTF?」


「……えーっと……」


 ここに来て、俺はひとつの可能性に思い至る。

 

 ひやり、と汗が流れるがここはまず戦闘意志がないことを示そう。両手を上げて敵意がないことを伝える。

 それからもう一度、口を開く。


「勝手に入って申し訳ない、話をしたいんだけれど…………」


 されど帰ってきた言葉は、


「$GP#ZQRLY?」


 やっぱり何を言っているか聞き取れなかった。




 えー……?


 嘘、だろう?






◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇




 嘘じゃなかった。

 まさかの出来事が起こってしまった。むしろ、あるべくしてある問題に気づいてしまったというべきか?


 言葉が通じない。

 文字がわからない。


 そうだよね、世界が違うんだもんね。

 国が違うだけでも言葉が違うんだ、世界が違えばそのへんも違ってて当たり前だ。


 でもさ、リョクとは普通に話せたんだよ?

 だから失念するじゃないか。というか、世界を超えているんだからそのへんはご都合主義なのかと思うじゃないか。


 俺と言葉が通じないとわかると、向こうも困った顔をした。

 俺も相当困った顔をしていたんだと思う。あれ以上の攻撃はなかったし、何か話しかけてきたあとジェスチャーで多分中に入ってもいいと指示してくれた。


 大人しくついていく俺に、ロウもスイも警戒はしつつ一緒についてくる。


 俺はソファを勧められたので、取りあえず座った状態だ。


 向こうもソファに座って対面している。


「……」


 目の前に座っている人型は、褐色の肌に琥珀色の髪と瞳を持つ多分男性だ。

 品の良さそうな、繊細な作りの顔。

 まるで人形みたいだが、その瞳に宿る生気がそれを否定する。


 あ、着ている服は想定以上に質がいい。

 ……失念してたけど、今の俺って場違いな野生児の格好なんだけど……大丈夫なのかな。


 何度か会話を試みたけど、やはり言葉はわからないし向こうも俺の言葉を理解できないみたいだ。

 筆談はどうだろうかと思ったのか、石版のようなモノに文字を書かれたがやはり見覚えのないもの。首を振って読めないとアピールする。


 しばらく沈黙した後、お互い溜息を付いた。


 えーっと、こういう時はどうするんだっけ。

 ジェスチャーでいろいろ伝えるんだよね……ある程度ジェスチャーは共通でありますように。


 言葉は通じないのに森の動物たちは何となく通じるものがあって今更四苦八苦するのも変な感じだ。

 まずは定番の自己紹介かな。

 俺を指差して「シン」とだけ言葉にする。フルネームをいったところでややこしそうだ。


 その次に、ロウ、スイ、と同じように指をさしながら言葉にした。


 意味、わかったかな?


 本来は失礼になるんだけど、俺はそのまま指を褐色の人に向けて首を傾げた。


「……FAVWUS?」


 おーまいが。

 これさえも何言ってるのか聞き取れん。絶望しそうだよ。


 あれ、でも疑問形だったよね?

 単語もしくは文章だった?

 俺は名前が知りたかったのにっ!?


 俺はもう一度同じ動作を繰り返す。


「シン、ロウ、スイ…………?」


「……フェーレ」


 え!?

 今、フェーレって言った?


「フェーレ?」


 復唱してみます!

 合ってる?


 すると、こくりと頷くではないかっ!?

 やった、初めて会話らしい感じになったぁー


「フェーレ」


 嬉しくてもう一度言ってみると、また頷いてくれた。

 うはぁー、感動する。


「フィン?」


 うん? もしかして今シンって言おうとした?

 おしいっ!


「シン。シ、ン」


 言ってみて、言ってみて~


「……フィ……シ? シン?」


「そう!」


 うんうん、っと頷いてみる。

 で、次はロウとスイ。同じように言葉にしたので俺は大きく頷いた。


 フェーレも優しく笑ってくれた。

 ……その目はどことなく小さな子供を見るような、本当に優しいもので若干のもやもや感があったけど。


「シン。YNDISOD\JN>ODK $D'EYDB D<F*I@RBD&W%$」


「ごめん、わかんないや」


 何か言って、優しく頭を撫でられたけど全然意味がわかんなくて頭を振った。

 けど、フェーレは変わらず俺の頭を撫でて笑った。


「DNBSU? E%DGS」


 しばらくして、俺の顔と服に触る。

 うん?

 眉間にしわを寄せて……はぁっとため息をついた。かと思えば、いきなり立ち上がる。


 な、なに?


 よくわからないまま見ていたけど、フェーレは気にせずにさっさと部屋の奥の方へ行く。

 えぇ~?

 何だろ、ついて行ったほうがいい?

 けど、別について来いって感じでもなかった。何かを取りに行った感じ?


「……なんか、困ったことになっちゃったな」


 心配そうにこちらに鼻を近づけてくるロウを撫でる。

 まさかここに来て言葉が通じないとはなぁ……初っ端から挫きまくりの旅だ。


「がう~」


「よしよし、大丈夫だよ。多分。フェーレもいい人っぽいし」


 なんてしてると、すぐさまフェーレが戻ってきた。

 手になんか一杯持ってる。布かな?


「YESID BSIFLD」


 何か言いながらそれを俺に渡してくる。受け取って広げてみると、服だった。

 え、もしかしてくれるの?


 目線をフェーレに戻すと、自分の服を摘んでから俺が広げている服を指差す。で、そのあとに俺の今着てる服と言えるのかさえ微妙な獣の皮を指差した。

 次に俺の手を取り、立ち上がるように促す。

 促されるままに立ち上がると、俺を引っ張ってどこかに連れて行こうとした。


 移動するの?


 察した俺はロウとスイに合図して歩き出す。

 二匹は心得たとでも言わんばかりに俺についてくる。


 行き先は部屋の奥だ。

 こっちはまだ探ってないんだよね~


 きょろきょろする俺を咎めるわけでもなく、フェーレはまっすぐ進んでいく。

 で、行き着いた先の扉を開けてやっと何がしたいかわかった。


 ここ、お風呂場だ。


「……EVS#DUS%FI?」


「お風呂? 入らせてくれるの? えーっと……こう、かな?」


 体を洗うジェスチャーをしてみる。

 うん、と頷かれて内心ガッツポーズを決めた。


 三年ぶりのお風呂だぁぁぁぁぁぁぁー!!!!


 きっと嬉しさが表情と言わず体全体から溢れ出したんだろう。

 ちょっと驚いた顔をしたあと、やっぱり笑ってくれた。


 フェーレは甲斐甲斐しく、俺を溜まったお湯まで連れてきては手をつけさせてお湯であることを教えてくれたり、石鹸になるのか不思議な薄水色の石をお湯につけて泡を出して、これを体や髪の毛につけるようなジェスチャーをしたあと、手についた泡をお湯で洗い流した。


 最後に何か言って首を傾げたのは、入り方はわかるかってことなのかな?


「うん、多分大丈夫。ありがとう」


 通じないとわかっていても言いたくなるお礼。


 心配そうにしつつもフェーレは外に出た。


 ちなみにロウとスイは不思議そうにしつつも俺の側に残ったままだ。

 ついでだからこの二匹も風呂を体験させてやろう。にししし。




主人公、三年目にして言葉が通じず(笑)


ちなみに土足とは言っても、草履のような簡素なものしか主人公は作れませんでした。ほぼ裸足に近い状態。どこまでもかわいそうな子。

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