第三十三話
おぉ、何か……すっごい丁寧な受付だった。
普通はこんな感じか。
やっぱりあの大陸で俺は差別されていたのかー
というのがフリードでの感想。
なんか、悲しい感想でごめんね。仕事は取りあえず簡単なものをちらっと見ただけで受けてはいない。野生生活経験のせいか金銭は結構ギリギリなのに危機感が出ない。向こうの世界にいたときは常に余裕があるように生活する癖がついていたのに。あれ、ダメ人間になりつつあるのか……?
恐ろしい仮定はこの際忘れて、資料やらを見せてもらった。
閲覧無料っていいよね。
つい読み込んでいたら日が暮れていたっていう。あぁ、確実にロウは怒ってるだろうなぁ。明日は思い切り甘えさせてやらなきゃ。
ま、いろいろ読みあさって勉強してみたりもしたんだけど、特にこれといって発見があったわけではなく。
勿論勉強にはなったけど。うん、歴史ってどの視点から見るかで大分変わるんだなってことはよくわかった。もっとも重要なのかどうかは微妙なところ。
物語風で面白かったけどね。
昔々は大小様々な国家があって、だけど大規模な世界大戦があったらしい。
そうこうしているうちに、魔獣が大暴れして結局シーディア大陸が大打撃をくらったようだ。クロイドルス側の人間は魔獣から逃れるために国へ戻り、シーディア大陸側はなんとか持ち直し、そこから二大国家の出来上がり、と。当たり前だけれど、向こうの世界の歴史と全然違うよね。魔獣なんていう存在自体が異質だよ。
そういえばリョクがちらっと昔はあの森の近くに街があったとか言ってたっけ?
今じゃ何にもないもんなぁ。
あの砂地のところとかもしかして街とかあったりしたんだろうか?
それも調べればおいおい分かるかも。
◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇
「さて、出発~」
「がうっ」
昨日は帰ったらすごい不機嫌だったロウだが、本日はご機嫌である。スイ? あいつはもう、自分勝手だよ。帰ったらいなかったよ。今日の早朝に帰ってきた。く、小動物のくせに朝帰りとかどういうことか。
そういうわけで、現在は俺の上着のポケットで就寝中。
本当に自由ですよねー、ハハハハ。
「がう?」
「あ、あぁ。ごめん、なんでもない。出発しようか」
先に歩き出していたロウが振り返り首をひねる。その仕草可愛すぎだよ、まったく。思わずがしがしと撫でたくなるけど、ここは我慢。いい加減出発しないとな。
街の外に出るといっても近場まで行くだけで日帰りだ。軽くピクニックに行くようなものである。
それでも久々の外。ロウははしゃぎまくりである。
取りあえずこの辺りの薬草を適当に摘んでいこうということで山の方へ。
登る気はないので麓のあたりをあっちにふらふらこっちにふらふら。やー、ロウがはしゃいであちこち走り回るから小動物が逃げていくこと逃げていくこと。驚かせてごめんね?
それにしても、こんなにもうろうろしたっていうのに方向感覚ばっちり。慣れって怖い。
昼頃にお弁当食べて休憩したあとは、またあっちにふらふらこっちにふらふら。魔物も出てこない安全地帯だ。
「こんなに安全なのに俺ら以外いないのか」
これは一応フリードでも調べてわかっているんだけど、どうやらこの辺りでとれるものって大したものがないらしい。
こんなにも薬草が群生しているってのに失礼な話だ。
とはいえ、この辺の薬草って育てやすいみたいだからここまで取りに来るなら庭で育てるって人のほうが多いんだけどね。
「あ、この実甘くて美味しいかも。スイも食べてみ?」
「きゅ」
途中で見つけた実をつまみ食いしてみたり、食べれそうな草をかじってみたり。一頻り散策を楽しんで帰路につくことにする。
やっぱり日が沈む前には街に戻っておかないと。
「そうだ。宿に戻ったらフェーレに手紙でも書いてみようかな~? ヴィルに手紙の配達のこととか聞いてみよっと」
急ぎじゃないから何かのついででの配達とかあるのかな。
料金はやっぱりそれなりにかかるんだろうか。かかるならまだ出せないよな~
というか、しまった。住所知らないや。そもそも、住所とかあるのかな? 大雑把な住所くらいはありそうなものだけど……
「うーん……やっぱりこの辺は向こうの世界の便利さに慣れきってたかな。その分、こっちの世界はゆっくりしているけど」
郵便ポストに入れたら配達してくれる世界じゃないもんね。
そこらは仕方がないと割り切るしかない。
宿に戻り、採取してきた薬草をすり潰したり煎じたりしてその日は休むことにする。
翌日は朝からフリードに出向き、仕事を見つけることにした。
相変わらず多岐にわたる仕事内容だけど、今回受けることにしたのは薬草園の収穫作業の手伝いだ。実に俺向きじゃないかと思ってね。
どうやらかなりの大きさを誇る薬草園のようで、数人の募集をしているらしい。
手続きを終え、支持された区画を支持された方法で収穫していく。ふむ、ここの薬草は山で見たのよりも瑞々しくて元気だなぁ。やっぱ愛情を込めて造ると出来が違うってことかな。土にも工夫があるんだろうなぁ。
籠いっぱいに摘み、それを雇い主さんへと渡す。という作業を幾程か。
ようやっと作業終了の声を聞いてほっと一息つく。なんというか、黙々とみんな作業してたなぁ。手馴れている人も結構いて、最初の方はそういう人たちに教えてもらいつつやってたけど後半はもうみんな無口。俺も熱中してしまってたしね。
給金も受け取り、最期にもしよろしければ、と希望者にだけ薬湯をいただけることになった。
当然希望しましたとも。
「……にが」
正直に感想を漏らすと、それを聞いていた雇い主さんが苦笑した。
でも、効能と作り方を教えてもらえたので良しとしよう。
「この薬草は比較的どの土地にも適応しますから世界中で栽培されているようです。この地域は薬湯として使うのが一般的ですが、場所によっては調理して食事の一品として出てくるとか」
「なるほどー」
薬草をどのように使うかってのは悩みどころだよね。
良薬口に苦しとか言うし、俺はそれほど嫌いじゃないけど子供とかはやっぱ嫌がるだろうしな。
「興味がおありでしたら、知り合いの薬師を紹介しますよ? あそこは年中人手不足ですからね」
半分冗談で告げられたセリフに飛びついてしまったのは言うまでもない。
紹介すると言っといて、彼は変人だからやめたほうがいい的なことを言われましたけどね。どっちだよー?
ともあれ、自分は薬師を目指してるから変人でも奇人でもいいからとお願いして、取りあえずは紹介状をもらうことに成功。
そこから合わなければそれはそれ。
どうやら町外れに暮らしているらしい。定番だな。
むしろロウを連れて行きやすい分有難い。
「じゃ、ありがとうございました」
「あぁ、こちらこそ。その、あいつは本当に変人だから……話ができなくても気落ちするなよ?」
「はぁ。まぁ、行ってみるだけ行ってみます」
そこまで言われると不安になるんだけどな……
今日はもう遅いので宿に戻ることにする。行くのは明日だ。




