第三十一話
ロウは相変わらず調子が悪そう。なんか、かわいそうだな。
「よしよし。寝てていいぞ~」
寝そべっているロウをがしがし撫で。
「スイは相変わらず可愛げがないな。悪戯するなよ?」
棚の上でごそごそやってるスイに忠告しておく。言ったところで聞きゃしねぇけどな。
さて、と。
薬作りでもするかな~
今日は薬といっても毒薬の方。ちょっとドキドキ。
え~、まずは害の少ないしびれ薬。はっきり言って電流でしびれさせれば早いんだけど、それは言わぬが花っと。
必要な材料は全て揃っているし、調合開始。
学生時代、別に頭が良かったわけでも実験に興味があったわけでもない。
科学も工学も難しいことはさっぱりで、何かを開発することもできそうにない。機器の使い方はわかっても作り方など知らない。もっと博識なら良かったのにと思ったところでどうすることも出来ない。今は出来ることをしよう。
船にいる間、一人のこともあればヴィルやグラレル達ともたまに一緒に過ごし、たまに暇な時間を持て余しつつも気楽な旅路を楽しんだ。
レナさんともたまに顔を合わせれば話くらいはする。
船内にはデロイドを嫌う人もいればクロイドを嫌う人もいて、揉め事なども多少なりともあったようだが大事にはならず。よくある事なのだそうだ。
この世界のことについてはだいぶ勉強したし分かってきたつもりだ。
それでも全然足りないだろうけど、言葉はほとんど分かるようにはなった。文字に関してはまだ不安が残るが日本語ほど複雑ではない。時々ヴィルに勉強を付き合ってもらいながら歴史の細かい話や伝承を聞いたり。それで気づいたのが、宗教のこと。
各地域などで土地神のようなものはいても、世界中で信仰するような規模の大きい宗教は存在しない。
ただ、神獣や聖獣といった神のような扱いをされる存在や癒しの巫女といった特定の存在を信仰するような傾向はある。
レナさんは癒しの巫女を信仰するサンチュリ信仰の人らしい。
サンチュリというのは、癒しの巫女を信仰する土地の名前だそうだ。ちなみにレナさんは俺が薬師になりたいと言ったからか、非常に友好的である。
彼女は諸島には寄ることなく、そのままクロイドルスへ戻るそうだ。
俺もいずれクロイドルスへ行くことを伝えると、その時には是非家に来いと言ってもらった。社交辞令の可能性もあるけど、ここは素直に受け取っておこうと思う。
ある程度順調に船旅は進み、諸島に到着。レナさんとはここで別れ、俺はヴィルと一緒に彼の実家にまずは行く予定だ。
グラレル達はしばらく諸島にいるらしい。まぁ、その内会うだろうと軽い感じで別れた。それはサステナさんも同じだ。
「さて。じゃ、帰るか」
慣れた足取りで街を歩き出すヴィル。
「観光は後でなー」
きょろきょろしているのが分かったのか、微笑ましいとでもいうような表情で言われた。
うぬぅ、たまに子ども扱いされている気がする。
ヴィルの両親は不在だけど、祖父母と兄弟や従妹がいるらしい。
俺が行ってもいいものなのかと聞いたら、どうやら従妹は宿屋を経営しているらしく。お客さんを連れて行ったら喜ぶとのことだ。さすが、ちゃっかりしているというか。
「そんないい宿ってわけじゃねぇーんだけどよ、それなりに美味いメシと酒がある」
「へぇ。それは楽しみ」
森での野宿生活のおかげか、毛布があるだけで嬉しいという最低限の基準である俺には嬉しい情報である。
船から降りてしばらくはなんだかまだ地面がゆらゆらしている感覚があったけれど、ヴィルの実家に着くころにはそれも落ち着いた。
「ここが実家だ。大したところじゃねぇけどな……おぉーい、たっだいまぁ! 誰かいる!?」
店の裏側に住宅がある作りだ。
店側ではなく住宅側の扉を開けるなり大声で中の人に呼び掛ける。
ヴィルの実家は雑貨屋で、いろんな商品を扱っている。
女性向けの小物から職人しか買わないであろうマニアックなものまで幅広い。まぁ、でもヴィルには向いてそうな商品内容だ。
「はいはいはい、どちらさんかねぇ?」
おっとりとした女性の声だ。
「ばぁちゃん? 俺、ヴィル。帰ってきたぞー」
「おやおやおや、ヴィル坊?」
「そうだけど、坊はやめろよー……」
がくり、と肩を落とすヴィル。
その向こうににこにこと微笑む老婆の姿が見えた。
「あらあらあら、お帰りなさい。久しぶりねぇ?」
「うん、久しぶり。友達も一緒だし、先に隣でご飯食べてくるよ。ここに荷物置いとくから、帰ってきたら片づける」
「そう。行ってらっしゃい」
荷物を玄関先に置くと、ヴィルはそのまま外に戻ってきた。
お婆さんが俺にも手を振ってくれたので、軽く会釈だけしておく。
「シン、こっちが宿屋なんだ」
すぐ隣の建物を指さしながら言うヴィル。
なるほど、こっちが従妹の宿屋か。
今度は正面、店の扉からヴィルが入っていくのに付いていく。
「マーニー! 久しぶり。一部屋頼む」
「え? あれ、ヴィル? うわ、うわー、久しぶりじゃないの!? 帰ってきたんだ、おかえりなさい!!」
入ってすぐ、たまたまか洗濯物を持った女性が入り口前を通りかかり、そこへヴィルが声をかけた。知り合いのようで、女性はヴィルを見ると驚いた顔をする。
そしてすぐに笑みを浮かべる。笑った顔はどことなくヴィルに似ていた。
「おう、たった今な。それで取りあえずご飯食べようと思ってな」
「そうなの、任せて。おいしいの用意するわ!!」
「おう、頼む。でもその前に一部屋よろしく頼みてぇんだが……こいつの分の部屋、用意してくれ」
俺のほうへ視線をよこしたヴィル。マーニーさん? が、追いかけて視線を俺に向けた。
どうやらそれでようやく俺の存在を認識したようだ。
「あら、ごめんなさい!! ヴィルの友達?」
「えぇ、まぁ。よろしく」
「この宿の従業員で、ヴィルの従妹のマーニーです。ごめんなさい、お待たせしてしまいまして。すぐに一部屋用意させていただきますので少々お待ちください……おかーさーん!!」
丁寧に一礼して奥の扉へ走っていった。
なんだか元気だな。少しメリサを思い出す。元気にしてるといいな。
すぐに奥からマーニーの母親だと思われる女性が出てきて部屋に案内してもらう。残念ながら部屋は二階でロウは一緒には入れなかったけれど、一階の庭を使ってもいいと許可をもらった。ロウには我慢ばかりしてもらって申し訳ないな。ひと段落ついたら森のような場所に行って思いっきり遊んであげよう。




