第二十八話
レナさんの用事はさくっと終了した。
というのも、お世話になったところへの挨拶回りだったらしい。
数日だけだったらしいのでそれほど人数もおらず、簡単に終わってしまった。
で、今度は俺の用事。
つっても買い物をするだけなんだけど、どこにどんな店があるのかさっぱり知らない俺にとってレナさんの案内は非常に助かった。
まずは雑貨屋。
「何に使うものなんだ?」
隣で商品を見ていたレナさんの質問。
「薬草なんかを保存する容器です。俺、諸島に行ったら薬師を目指そうと思ってて。まだ勉強もロクにしてないんですけど、こっちよりも諸島の方が学びやすそうですしね。乗船中は暇があると思うんで、ちょっと独学で齧ってみようかなと」
「薬師、か。ふぅん」
容器をいくつかと、調合に必要そうなモノを何点か手に取りお会計に。
時間が限られているので、こういうのは悩むよりも直感でぱぱっと買ってしまった方がいい。
「次はどこに行くんだ?」
「本屋さんとかあります?」
「本屋? 一応、あるにはあるが……」
あれ、すごい意外そうな表情。
この世界にはちゃんと本が存在するし、本屋さんもあることは王都にいるときに確認済みである。ただし、かなりお高いが。
「何か問題が?」
「問題というか……本屋を利用するのは貴族か専門職だけだから、シンが利用するとは思わなくてな」
そういえば本として売却されているのは、専門書ばかりになるらしいからなぁ。
フェーレの家に普通に書棚があったし、普通に利用していたけどやっぱり専門書ばかりだったな。漫画はもちろん、娯楽小説的なのも見たことがないな。
そっか、本で勉強というのは庶民のあいだでは一般的とは言い難いのか。
「薬についての専門書とかあればいいな、と思ったんだけど……やっぱ高いかな?」
「少なくとも安くはないな。こっちだ」
とにかく案内はしてくれるようだ。
付いて行った先は、王都よりも随分と小ぢんまりとした店だ。当然ながら、パラパラっと中身を見るくらいなら許されるが、立ち読みレベルは許されない。店に入ったら常に店員の監視の目が付いて来る。特にクロイドの見た目だしな、余計に厳しい視線だ。
薬に関する本、魔法薬に関する本、治癒魔術に関する本。
いくつか気になる本はあったけど、俺が手にした本はこれ。
野草に関する本。
さすがに毎回食べて効能を確かめるような無謀はしたくないし。
絵付き色付きの本はバカ高いけど、特徴、効能やおおよその植生地なんかが書かれているだけの簡単な本にする。船上でパラパラっと読むならこれでいいだろう。本当は絵付きの方がわかりやすいしいいんだろうけどねぇ……あとは単純に、料理に使えるかどうかもわかるし。
ちなみにパラパラっと見ただけだけど、薬に関する本には薬草などの俺が目指すところの薬と魔術要素を加えた薬とが載っていた。
魔術も制限なく使用できるものではない。
魔素が強く関係しており、魔術を行使する者の魔素が一定以上低下すると発動されなくなるようだ。その状態を一般的に魔素切れというらしい。そのまんまやんけー、とかこっそり突っ込みをいれたよ。
ちなみに俺は魔素切れを起こしたことは今までにない。
魔素切れを起こしたとしても生命に別状がない……というわけではない。基本的には問題視されるほどのことではないが、魔素切れの状態だと抵抗力や体力が低下するそうなのだ。魔術が行使できなくなる程度の魔素切れならば少々の休憩を取れば済むが、限界近くまで魔素が無くなってしまうと生命活動に支障が出る。
ここでちょっとした矛盾。
魔術を行使する者の魔素が一定以上低下すると発動されなくなるのに、限界近くまで魔素が無くなってしまうとはどういうことなのか。
本当に魔素が一定以上低下すると発動されなくなるのならば、一定以上低下しないのが普通である。
これはつまり、例外が存在すると言っているようなものであり、実際に例外がある。
この例外。基本的には禁じ手であるが、要は自爆である。
ちなみに自分の命を爆弾のようにして使う方法は魔術として存在する。その他にも、即死には至らずとも命を削り魔素を使う方法もあるらしい。これらの方法は本には記載されていなかったし、俺もフェーレ達から教えてもらっていない。
と、本題から逸れまくりだ。
禁じ手は別として、魔素切れを起こしてもしばらく休んでいればまた魔素が体内に戻ってくる。
それでも戻ってくるのは徐々にであり、すぐに回復するわけではない。
そこで活躍するのが魔術要素を加えた薬のひとつ、エーテル。これには等級があり、六級が一番効果が薄く一級まである。一般的に使われるのは五級エーテルであり、六級は子供用だ。四級、三級は魔術職が使用するような高級薬となってくる。二級、一級となってくると濃度が強すぎて毒となるので人用にはあまり使わない代物となる。ただ、水で薄めるだけで等級が下がるものであるが。
俺としてはこういった薬も非常に興味深いので落ち着いたら作ってみたいと思っているけど。
あんまり立ち読みは出来ないので、買う本をさくっと購入。
もうほとんど言葉も文字もわかるようになったけど、やっぱりちょっと本を読むスピードは落ちるんだよなぁ。
「お待たせしました。一応、買おうと思っていたものはこれで終わりです」
「そうか。なら、もうすぐ昼だ。宿まで付き合おう」
「ありがとうございます」
ここは素直にお礼を言っておく。
下手に分かれてまた奴隷商ズに遭遇しても面倒だしね。
「そういえばクロイドルスには癒しの巫女様って人がいるらしいですね。まだ若い女の人だって聞きましたよ」
「あぁ、そうだ。お前より少し上くらいかな。薬師を目指しているだけあって興味あるのか?」
「多少は」
……あれ、十六歳だとか言ってなかったか?
俺は今十八なんだけど、一体何歳だと思われてるんだろう?
「癒しの巫女様の魔素は特別らしくてな。我々は魔術を使うのに魔素を使うが、巫女様は薬となる草木に魔素を注ぐそうなのだ」
薬ではなく草木に、か。
無機質には効果がないということかな。
「巫女様が魔素を注いだ草木は萎えていたとしても瑞々しく生き生きとなって、生命力が溢れ薬に良い効果を生み出すという。だから巫女様の薬草園の薬草はどれも質が良いが、更に巫女様が調合をすればより高い効果となると聞く」
つまり、癒しの力で草木そのものを癒し、尚且つ調合時にも力を使って更に効果倍増?
「ただ、巫女様は魔素を癒しの力に変えてしまうために魔術を使うことはできない。その為、その御身はいつも危険にさらされる……お労しい事だ。その時世によっては、宮から出ることさえ叶わぬ身となる」
魔術が使えない?
そんな事ってあるのか?
身が危険っていうのはなんとなく分かる。
効果の高い薬を作れるなら味方に引き入れて作ってもらおうとかそんなところだろう。作ってくれないなら、敵方に渡さないために殺してしまおうとか。
守るためであっても閉じ込められるのならばそれは、巫女にとって幸せなのかどうか。それは本人達にしかわからないことだ。
でも、そうか。
癒しの力はあるけど魔術が使えないっていうのが本当なら、俺とはやっぱりちょっと違うのか。
それとも魔術は使えるけど、先入観で使わないだけっていう考えもある。
どの道、力の使い方は気を付けないととんでもない面倒事に巻き込まれてしまうな。
森のことを調べるには権力者とコネがあるのは悪いことではないんだけど、他のことでマイナスが出ちゃうしな。
もう少しこの世界のことを知ってからじゃないと動けないか。




