第三話
ゲームでいうと、魔物よけの効果がある道具があったりする。
俺はゲーマーでもなかったので、無闇にレベルあげとか楽しんだりせず、わりとそういうアイテムは便利だなぁっと思った記憶がある。
……はっきり言おう。
俺自身がわりと魔物よけ効果がある。
おかげで森を出るまであまり魔素に蝕まれた連中に出会わない。
全く遭遇しないわけじゃない。
魔素の影響を受けにくいタイプか、魔素にかなり蝕まれているかの二種類は魔物よけ効果は発揮されないからね。
それでも、ここが森の中という特殊な状況が俺を無敵にさせる。
…………ごめん、無敵は言いすぎた。
それでも、もともとの適正かリョクのおかげなのか。
名前は関係ないと思うけど、俺って土や木の相性がいいみたい。水もかなりいいね。残念ながら火は相性があまりよくないみたい。
「がうがうっ」
「ん? どした?」
悠々と歩くこと一日程。
森の外に初めて出ることに興奮したロウが俺の周りをぐるぐる回る。
しっぽの揺れ具合から見て、喜んでいるなぁ。
これは出口が近いってことかな?
「森の外かぁ……どんななのか、楽しみだねぇ」
くしゃり、とロウの頭をひと撫でして、少し早歩きになる。
うん、ちょっと空気が変わってきた。
本当は明るい時に、出口から明るい光が……的なものを想像していたんだけどね。
思いながらも、だんだん開けてくる視界に胸が高鳴る。
こっちに来てからというものずっと森の中だったのだ。ちょっとくらい、不謹慎に胸を躍らせてもいいだろう。
「がうっ」
ロウがたまらず先に駆け出す。
まだまだ子供だもんなぁ。
「くきゅ!」
スイもたまらず俺の肩からぴょーんっとうまい具合にロウの背中に飛び乗った。
いつも思うけど、本当に器用な奴だな。
俺以上に好奇心旺盛な二匹を追って俺も駆け出す。
一気に開けた視界。
「おぉ!」
視界の先には…………
砂漠が広がっていた。
「…………嘘でしょ……?」
なんか、結構広大な砂漠ですよ?
「……ちょっと、これは……うーん……前途多難?」
森を抜けたら普通、草原とかさ。
もしかしたら街道があるかもとかさ、期待したんだけど。
「がうがうがうっ!」
「くきゅきゅきゅ~」
がくっと膝をつく俺の目の前、二匹は初めての光景にテンション上がってはしゃぎまくっていた。
見渡す限り、何もないんだよ?
俺も二匹のように無邪気にこの光景にテンション上げたかった。
けどね、無理だよ。
砂漠って……砂漠って…………旅初日からめげそう。
「はぁ…………今日はもう、森の入口で休もう。うん」
◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇
思えば、俺は初めての旅でちょっと浮かれていた。
森を抜けてすぐのところの街道や人の住む街があるのなら、もうちょっと森の中に人の気配とかがあってもいいものなのに、それらは一切なかった。
リョクも人である俺を当初すごく珍しいもののように言っていたし。
そうなるとここから人の住む街って、随分な距離があるんじゃないだろうか?
「…………うわぁ、不安だ……」
俺のひとりごとに、ロウがぴくりと耳を動かす。
けれど伏せったまま。
何だかんだとロウもこんな遠出初めてで疲れたんだろうな。
ちなみにスイはとっくに眠りの世界だ。
俺の荷物に混じってすやすや気持ちよさそうにしてる。ただし、下手に近寄ると寝ぼけながら攻撃をしてくるので危険です。
「早く、人に会いたいなぁ……」
やはり、人恋しい。
ロウやスイが側にいてくれるから寂しさはあまり感じないけれど……それでもふと、恋しくなる。
それから、切実に人としてのプライドというか。
ぶっちゃけると、服とか。身だしなみとか。とても気になります。俺も一応お年頃なので。
森の生活に慣れきってしまえば、まぁある程度は許容できる。
他に人がいないっていうのが大きいんだろうね。
でもね。
裸族にはなれない。それは無理だった。
どうしても気になって何かを身にまとわないと落ち着かない。
とはいえ、現代のような服はない。あるわけがない。作れるわけもない。結果、獣の革や木の蔓を使っているわけだけども。
……どこの野生児だと言いたい格好なのです。
この格好、現代の知り合いに見られたら恥ずかしすぎて死ぬかもしれない。
髪の毛も伸びて、邪魔になれば切っているけどハサミのような器具はなく、ザンバラに切られている状態だ。
どの程度の文化が発達しているのかはわからないけど、今の自分よりはマシだと思いたい。
…………お金とか、どうなってるのかな。
リョクは魔法の知識や世界のことには詳しかったけど、そういう小さな情報は持っていなかった。
まぁ、最悪……合わなければ森に帰るつもりだけど。
「……いいや、もう。今日は寝よう」
旅は、始まったばかりだ。
「…………」
「がぅ?」
うとうと、と。
少し眠っていたのかもしれないくらい。
けれど、ふっと意識が浮上する。
俺も野生児と化し、危険察知能力が上がったかな?
起き上がると、すぐさま荷を手にする。
ロウもむくりと立ち上がり警戒態勢に入った。スイは動かないで様子を見ているようだ。
危険信号は砂漠の方向。
森に行けば安全なのだろうけど……初日で逃げ帰ってたまるかってんだ。
僅かな振動。
砂の中に何かいる?
じっと様子を見ていると、遠くの方で柱が上がる。
「……は?」
どぉんっと。
豪快にね、地面から砂が突き上げられた。十五メートルくらいじゃないかなぁ。
「…………自然現象? 魔物?」
外の世界は初めてなので判別ができない。
なんだろう?
森の中であんな現象見たことないし、砂漠での独特の現象か?
少しづつ近づいてくる。
直進コースではないけど……あ、柱は上がっては崩れるを繰り返しているみたいだ。
もう少しこちらに近くに来て、やっと柱が上がる前に砂の中に異変があることがわかった。
多分、砂の中で生物が移動しているんだ。
砂が上がるのは、クジラが潮をふくのと同じようなものかな?
ってことは、かなりの大きさを誇る生物なんだろう。
問題は、通常の生物なのか魔素に蝕まれた生物なのか。
強さに大きな違いは出ないものの、魔素に蝕まれた生物の場合デタラメに襲いかかってくる可能性がある。
普通の生物ならこのままやり過ごす方がいいんだけど……
じっと動向を見ていると、やがて進路は森に沿うように横に逸れる。
やっぱり砂の中でしか移動できない奴っぽいな。森には入れないわけだ。
「…………ふぅ」
やっぱり旅って大変だな。
体力もそうだけど、慣れない旅に精神も疲れそうだなぁ。
早く人の街につければいいけど……どの方向に行けばいいのかすらも見当がつかない。
「寝よっか?」
緊張を解き、再び眠りにつくことにする。
この世界に来たばかりの頃は夜が怖かったな。側にリョクがいても、動物の気配はいろいろあってなかなか眠れなかった。
今はもう平気だ。
側にロウとスイがいるし、俺自身勘が働くようになった。
……それでも。
布団に入って眠りたいと思うのは、俺が人であるという証のような気がした。
実は野生児と化している主人公。ほぼゼロからスタートなので、家らしいものもない生活でした。何げに生活用品の不足に苦労してきたようです。憐れ。