第二十七話
再開した時のヴィルはこっちが恥ずかしいくらいに無事を喜んでくれた。
それでも、心配してくれたことと無事を喜んでくれたことはすごく嬉しかったけど!!
魔物に襲われたことで馬車が壊れたため、先に護衛一人と商人一人が馬に乗って近くの街まで行き足を確保してもどることになったそうだ。
そのため合流後もしばらくは身動きが取れないでいる。
はぐれた後のことをお互いに話しながら時間を過ごした。
で、俺が結構強いことがバレた。
女性二人は半信半疑であったが、グラレルはどことなくやっぱりな的な視線。
ヴィルは純粋に意外と強いんだなーって感じ。
けど、実際に魔物と戦ったところを見たわけではないので、思ったよりは強い、程度の認識だろう。
……グラレルとラッセンを除いては。
ラッセンにはグラレルくらいには強いよって言っちゃったし、グラレルはなんか野生の勘……もとい、冒険者の勘が働いてそうだ。
「それにしても、ロウにしてもスイにしても賢いなー」
「えぇ、ホントに」
俺たちがはぐれた後、スイがヴィルのところに飛んできたときは驚いたそうだ。
そりゃそうだろう、俺がヴィルなら驚いている。
「どうやって育てたらこんなに賢くなるの?」
「俺は何もしてませんよ。スイは最初から賢くって何度ご飯を横取りされたことか」
「へぇー、そうなんだ。ところで、この子って何種?」
スイに餌付けをしながらファーラが聞いてくる。
確かラクトル種だったはず。だけど、ロウの例もあるので言っていいものか悩む。
するとサーラさんが答えてくれた。
「ラフラじゃないかしら? 風使ってたでしょ。とても珍しい種だからあんまり知られていないけれど、温厚で大人しい子達なのよ。魔術が使える魔物だけど、自身が飛ぶ程度の風だから貴族のペットが多いのよ」
スイは温厚で大人しいわけではないです。
自身が飛ぶ程度の風どころか、雷まで使えて局地的嵐を巻き起こす超危険動物ですよ、なんて言えないっ!
「ふーん……貴族のペット……実はシンっていいところのお坊ちゃんだったりとか?」
「あら、意外と有り得るかもねぇ。シン君って、教養はそれなりにありそうだし」
庶民です!!
そりゃこの世界に来る前にちゃんと教育を受けてましたよ、一般的な。
でも、そのあとは野生児、で、そこからのフェーレ達による勉強諸々……ちょっと庶民と一言で済ますには無理があったかっ!?
「あぁ、そういえばやけに常識がないよな」
うぐ、無知ですいません!
「あはは……残念ながら貴族でもないですよ」
余計なことはなるべく言わないでおこう。
探るような視線は、けれど本当にただの好奇心程度で不快になるほどじゃない。
日本人的曖昧な態度で新しい馬車が来るまでやり過ごした。
あれから港町ボリックまでは問題なく着いた。町に着いて早々に疲れているだろうとさっさと宿の一室に放り込まれてしまったが。
実際のところ、あんまり疲れていないなんて自分でもどうかと思う。だってよく考えればさ、魔物に襲われて崖から落ちて遭難だよ?
「うーん……でも、俺って別にマッチョってほどでもないよねぇ? みんなの心配具合から見ても強そうには見えないんだろうし。というか、リッツって実はすごい強かったんじゃない? 見た目はリッツも細めの執事なのに……グラレルなんて楽勝で勝てる実力だよな」
ほとんどひとりごとだが、一応ロウに向かってお話してます。
「がう」
と、ちゃんと相槌をしてくれるロウ大好きだよっ!!
スイはとっとと寝てしまったけど。本当に自由なヤツだよ。
「はう~……こんなことでめげるわけにもいかないし。寝ちゃおうか。なんかなぁ~……人付き合いって大変だと改めて思っちゃったよ……」
「がう?」
「ロウもごめんな。いろいろ我慢させちゃってるよな」
気にするなって感じでロウが俺の頬を舐める。
本当に賢くていい子に育ったな。
耳の後ろをがしがしと掻いてやりながら「ありがと」とお礼を言うと気持ちよさそうに目を細めた。尻尾の振り具合も大きいし、喜んでくれてるみたいだ。
ただ、ロウって体格が大きいから物にぶつかりやしないかとちょっと心配になるんだけどな……
やることもないのでもう寝てしまうことにする。
本当は町に出たいのだけど、こうやって部屋に放り込まれていて外に出してもらえない。
明日船が出るのは昼かららしいから、午前中にちょっと回ってみようと思う。
……なんて昨日の夜は思ってました。
いや、実際今日の朝起きて、ひとり朝ごはんを先に食べて町に出たわけだけど。
「ヴィルと一緒に出てくればよかった」
皆俺に対して普通に接してくれるからすっかり忘れてたけど、この大陸で俺みたいな見た目は嫌われるんだよね。うん。
言ってしまうと、俺は今、奴隷商に囲まれちゃってます。てへ。
「おい! ぶつぶつ言ってんじゃねぇよ!! 大人しく付いて来いっ!!」
「ったく、どっから逃げ出したんだか……」
どうやら奴隷が逃げ出したのだと思っているよう。
すごい迷惑。
俺を囲んでいるは五人だけだから脅威は感じないけど、面倒な雰囲気はバシバシと感じる。これは穏便に済ませられそうにないなぁ。
逃げるのが一番いいだろうか。
ロウは宿において来て正解だったかも。
そう思って逃げる隙を伺っていると、奴隷商たちの後ろから声が聞こえてきた。
「おい。私の連れに何用か?」
「あぁ? っと、これはこれは。あなた様のお連れ様で?」
「そうだ。用があるのなら私が聞くが?」
「いえ。見窄らしい格好でしたので、てっきり逃げ出した奴隷だとばかり思っておりました。申し訳ない。あなた様のお連れなら用はございませんので失礼」
おぉう……丁寧な言葉遣いになったけどめっちゃ蔑まれたよね?
綺麗な格好ではないけど、そんなに非道い格好でもないよ?
ちゃんとした服の原型留めてるし。そりゃ日本人感覚なら見窄らしい……かもだけども!
どう見ても忌々しそうな笑顔で去っていく奴隷商。
対照的にほとんど無表情で近づいてくる謎の人。あー……っと、多分女の人。なんだか宝塚を彷彿とさせる凛々しい女の人だ。
そんでもってクロイド。珍しい。この大陸であの態度のクロイドってことは、貴族か何かかな?
「かようなところで何をしている。付いて来い」
「あ、えっと……」
「奴隷になりたいわけではなかろう?」
「うー、いや。でも……」
「いいからひとまず付いて来い」
わぉ。聞く耳持たず。
腕を掴まれて強制連行です。強制ではあるけど無理矢理ではないね。
ここは大人しく付いていくべきなんだろうな。
だって、さっきの奴隷商さんズ。こっち見てるもーん。これはあれだよ。その場しのぎに助けた疑惑が浮上していて、様子を見てるんじゃないかなっと。そうなると、この人とはい、さようなら。ってした瞬間にまた捕まるよね。
「……助けてくれてありがとうございます。で、ですね。俺、昼頃に諸島行きの船に乗らなきゃならないんで遠くに行くのはまずいんですけど」
「諸島行き? そうか、それはいい。私も昼の便で乗る予定だ、安心しろ」
おっと。
少し表情が柔らかくなった。
「はぁ。出来れば買い物したかったんですけど」
「買い物か……私も用があるんだが……付き合ってくれるのならば私もお前の買い物に付き合うがどうだ?」
「時間はかかりますか?」
「いや、昼までに十分買い物をする時間は提供できると思うが?」
ふむ。
このまま一人で回ったらまた面倒なことになるのは必至。
甘えておくのが正解かな。
「では、よろしくお願いします。といっても、宿に行けばミルドからここまで一緒に来た友人とかいるんですけどね。皆普通に接してくれるから油断して、うっかり一人で出歩いちゃって面倒を起こした、て感じです」
「あぁ、なるほど。道理で……」
「道理で?」
「あぁ、いや。デロイドに対しての怯えや嫌悪が見られなかったなと思ってな。私はクロイドロス北部のヒルトンという都市からの使者として仕事でこちらに数日滞在していたのだ。私に何かあれば国同士の争いに発展する可能性になるからな、皆私には手を出さないし、出させない。多分近くに護衛が潜んでいるだろうよ」
おぉ、護衛!
見えないところにいる護衛とかドラマだね!
あれ、そうなるとどこの馬の骨とも知れぬ俺は大丈夫なのか? 聞いてみるか。
「俺は一緒にいて大丈夫、なのかな?」
「ずっと見ていただろうから問題ない。問題があるようならすでに引き離されているだろう。気にするな」
なるほどー
じゃ、お言葉に甘えて気にしないことにしよう。
姿が確認出来なければ気にならないよね。不思議。
「あ、俺はシンといいます。よろしくお願いします。それであなたの名前を聞いても?」
「あ、あぁ。名乗っていなかったか、すまない。私はレナだ。よろしく頼む」
素敵な姉御的微笑みだな、すんごく頼もしい。
じゃあまずはレナさんの用事を済ましちゃいますか。
置いていかれたロウは不貞寝中。
スイもロウもよく寝ているのは気のせいではない(笑)




