第二十五話
夜も深まり、サステナさんもラッセンもぐっすりと寝入っている。
時折バチッと火が弾ける程度で。
とても静かだ。
静かすぎる。
「……ふぅ」
眠い。暇。眠い。眠い。
気を抜けば瞼を閉じてしまいそうだ。
そういえば野生児生活はしていても睡眠は割としっかりとってたもんなぁ。
うー……こういう時は現代機器を恋しく思うよね。
ロウもしっかり寝ちゃってるもんなぁ。
しゃーない。薬作りの再開、といきますか。ぶっちゃけ眠すぎて飽きてきたんだけどな。
そうそう、俺の作る薬の最大の弱点は消費期限だと判明した。
あと、味。
良薬口に苦しと言うだけあって、基本的に苦い。
個人的にはこの苦味は嫌いじゃないんだけどね。効いてるって雰囲気もあって。
消費期限に関しては、もっと製法に時間をかければある程度改善はするんだろうけどね。
日持ちさせるなら、乾燥させてから使ったりとか?
けど、正しいやり方は自信がない。自分で使う分はいいとして、売るとなればやはり正規の方法を知っておくべきだろう。
薬飲んで食中毒とか笑えない。
塗り薬にしたってどれくらい効果が持続するものなんだろう?
この辺、諸島で勉強できるかな?
うん。
なんとなくこれからの旅のプランが見えてきた。
薬師を目指してることにして、薬草のことを聞くついでに森のことを調べれば不審じゃないよね?
手に職を持つことについてもプラスだし。
これなら世界各国を巡る理由もおかしくないし。
そうなると、あの癒しの巫女、だっけ?
もうちょっと詳しく知っておいたほうがいいのかな。
癒しの力の効果も強すぎるようなら控えたほうがいいだろうし。目立つつもりもないからね。
「……うわ、にがっ」
眠気覚ましにさっき採ってきた草を味見してみたら苦すぎた。
これ、飲み薬は無理だな。
んー?
効能は……毒消しだね。
何の毒消しだろう。
流石にそこまではわからないかなぁ。そもそも草を食べて毒消し効果があると分かるだけでも異常だしな。
もっとも薬になるかただの草かは見ただけで、なんとなくわかってしまうのだけど。あと、毒を食らった際は何を食べれば治るのかはわかるんだよね。あんまり率先したくない方法だ。
この毒消しは葉っぱに効果があるようだから……どうしようかな。
粉末状にしたいところだけど道具もないし。
取りあえず水で綺麗に洗ってー
あー……本当は煎茶みたいなのやってみたいけど、あれって面倒な工程だったよなぁ。やっぱり道具ないし。
えーっと、取りあえず乾かしー
ゆるく風の魔法。
しおれてきたところで、ミニ竜巻にチェンジ。
あー……でもミキサーのほうがいいのか?
この間に草をギリギリ潰してますからね。本来なら揉み込むんだっけ?
ほどよく刻まれたところで、次は発酵?
うーん、ここは自信がないんだよね。
湿度が何パーセントで温度が、とかあったと思うんだけど。
この工程抜かしたらまずいしな。
なんだったかなぁ……温度はそこそこ、湿度は高かったよなぁ。
取りあえず近場の大きな葉っぱを器がわりに刻んだ毒消しを入れて、と。
うん、半分はこのまま乾かして。
半分は適当に発酵させてみるかな。
ま、上手く発酵させたところで紅茶にはならないだろうけどねぇ。まず葉っぱが違うから。
そう。
紅茶の茶葉の作り方を参考にしている。
なんでそんなことを知っているのかと言われれば、学校の調理実習か何かで作ったことがあるからだ。
もっともうろ覚えではあるのだけれど。
それから俺は個人的に紅茶よりも緑茶の方が好きだから、緑茶の作り方なんかを調べたこともある。
紅茶と違って発酵させず、炒るんだよね。
お茶はこの世界にもあるから、一度それで挑戦してみようかな。
そろそろ交代の時間かなっと。
星の動き具合を見てそう判断し、薬類を仕舞う事にする。
ま、手持ちもそれほどないんだけど。
獣たちも別に近づいては来ないし、相変わらず静かなままだ。
少し、不気味なくらいに。
「……不穏な気配は感じないしなぁ……」
もっとも、この世界に来るまでは真っ当に平穏な日常を過ごしていたので、気配察知なんつー特殊スキルを身につけていたわけでもないんだけどね。今は少し分かるようになってきたってんだから、適応能力というものは大したものだよね。
「さて、と。おーい、ラッセン。交代だよ~」
声をかけながら肩をゆさゆさと。
「おーぅ……うー……」
一応、起きたようだが眠いのか瞼が開かない。
うんうん、睡眠時間が少ないって辛いよね。
「ラッセン、口あけてー」
「ん~……あー」
言われるまま口を開けるラッセンに若干呆れる。
警戒心はどうした?
ま、いっか。
俺特製の眠気覚ましを口の中に放り込む。といっても、ミントみたいなスッキリ爽やかな草とぴりっとする実をすり潰して丸めただけのものだが。
「っ!?」
お、一気に目が開いたご様子。
そして吐き出された。何てことしやがるか。
「な、なんだこれっ!?」
「特製目覚まし。一気に目が覚めたでしょ?」
「あ~……そうだけど、納得できない……うぇ」
「そうかなぁ? それなりに味はマシだと思うんだけど……じゃ、口直しにこれあげる」
「なにこれ?」
「さっき拾った木の実だよ。食べてみ?」
味はクルミっぽい。言われたままにポリポリとかじり出すラッセン。
警戒心はもっと持ったほうがいいと思うよ?
「特に異常なしだよ、今のところ。ちょっと静かすぎるのが気になるけど、不穏な感じはないんだよね」
「ふぅん? 何だろうな」
「危険察知能力は俺よりもロウの方が優れてるから、何かあったら起きると思うよ。今はぐっすり寝てるし、多分大丈夫だけどロウが起きたなら俺も起こして。念のためにね」
「りょーかい」
「じゃ、お休み~」
「はいはいっと」
よっしゃー、お待ちかねの睡眠だぞー
久々の完璧な野宿。森にいた頃はあんなにも布団が恋しかったっていうのに、不思議なもので今は直接地面に横たえる体が気持ちいい。
さわりさわりと聞こえる木々の気配、生き物の気配。
それらがたまらなく愛しく、安心できる。
眠りに落ちるのはすぐだった。