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異界の森の王  作者: 唯愛
迷子からの旅立ち再び~王都ミルド~
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第二十二話





 賊連中は商会の護衛二人にお縄になり、いろいろ吐かされている。

 どうやら最初の三人はコソ泥のように金品が目的だったみたいだけど、後から来た二人は金品とついでに人を殺したかったらしい。

 悪趣味だ。


 解放するつもりはないけど、この村に任せるのも頼りない。


 自分たちが無事であったので、頼りないけどこの村に任せるか次の街まで連れて行くか。

 そんな議論を商人達は交わしていた。


「ほう。こりゃ、鎖か」


 賊の処分は商会に丸投げし、俺たちはそのまま休んでいる。

 ちなみにグラレル達のテント前。


 俺が使った武器である鎖を珍しそうに眺めてるグラレル。

 ラッセンは投擲用の短剣を眺めている。


「音がならないように工夫も施されてるのか。随分珍しい武器だな」


「殺生を出来るだけ避けるために特別作ってもらったものだよ。とはいえ、扱いが結構難しくって……」


 うまく思った場所にいかないわ、下手をすれば自分に当たってしまうわ。

 しかも何げに重い。


 だが、いざという時ロープ替わりになったりすることもあるし。


「でも、意外だったなー。案外強いんじゃん」


 ラッセンも短剣をこちらに返しつつ言う。


「まぁ、それなりには鍛えてもらったからね」


 リッツやクィーツの訓練は一般的に見るとわりとキツイ。

 森生活がなかったらなんのイジメだと思うくらいだっただろう。

 もっとも、あの訓練は俺を思ってのもので辛いとも思わなかった。おかしいな、俺って別に体育会系ではなかったはずなんだけど。


「あぁ、いい動きだったな。今まで何をやってたんだ? 魔物討伐なんかも請け負ってたのか?」


「いや、資材運びとか主に力仕事かな」


「へぇ~。見た目は力仕事っぽくないのにな」


 そうかな?

 俺なりに大分筋肉はついているんだけど、やっぱり身長が低いか?

 それとも童顔?

 まぁ、細身といえば細身の部類にはなる、かぁ?

 うーむ、向こうの世界では絶対になることはないと思ってた割れた腹筋を持っているんだけど……


「クロイドでも討伐系の仕事はあっただろう? やらなかったのか?」


「うん。俺って怖がりだからさ、殺伐としたのとか向いてないし」


 森での生活があったとはいえ、積極的に戦場に身を置くほど根性はないですよ。

 だいたい、魔物よけ効果のおかげで遭遇率がめちゃくちゃ下がるし。


「……あれを従えといて怖がり……だと?」


 あー……そっか。

 ロウも強い魔物になるんだよね。


「ロウは小さい時から知ってるから怖くないだけだよ。あと、殺生は好きじゃない」


 生きるために殺すことはあっても、強くなるために殺すことはなかった。

 むこうの世界の常識を引きずっているのもあるだろう。


「討伐系じゃなくても、俺らみたいに探索系でもいい稼ぎになるよ?」


 ラッセンの提案に軽く頷く。


「将来的には有りかなぁと思うけどね。面白そうだし。でも、現時点では無理かな? 知識不足なんだよね」


「あ? もしかして教育を受けてねぇのか?」


「うぅん、受けたというか受けてないというか」


「どっちだ」


「ごめん、ちょっと微妙?」


「はぁ?」


 グラレルの呆れたような声が落ちる。

 ラッセンも眉間にシワを寄せて変な顔になってしまった。


「んー……なんていうかねぇ。街に出たのは最近で、わりと常識知らずだと気づいたかんじ?」


 一般常識がねぇ……

 教えるまでもないことって案外誰も教えてくれないままでさ。そういうのがやっぱり弱いんだよね。


「……ふーん。なんか、シンって変わってるよなぁ」


「うっ……そ、そうだね。でも、だからこそ諸島に行くんだよ。いろんなことを知るためにね」


「あー、そっかぁ。そうだよな、ここじゃちょっと生きにくいか」


 探索者だからか元からの性格からか、ラッセンはデロイドやクロイドについては偏見を持っていないらしい。それはおそらくグラレル達三人も同じだ。

 結局、捕らえた賊は次の街まで連れて行くことに決まったらしく、解散が伝えられる。

 グラレル達にテントへ誘われたが、二人用のテントであったために俺が入れば窮屈であろうと断った。







「へぇ。そんなことがあったのか」


 翌朝、捕らえられている賊の説明に昨日のことを話すと、反応は薄かった。

 日常茶飯事というわけでもないが、特段珍しいことでもないらしい。かくいう俺も、さほど驚かなかったからこんなものなのか。


 荷馬車の方へ賊を入れてあるので、その分入らなくなった荷がいくつか俺たちの乗る馬車へと移され若干窮屈だ。

 だが、今はロウが馬車を降りて自分の足で走っているのでまだ余裕がある。


 ずっと馬車の中だと体が鈍るとグラレルに一緒に走って来いとラッセンも追い出されかけ半泣きになったという一幕もあったり。


「今までやった探索で一番覚えてるのってどんなのだ?」


 ヴィルの質問にサーラが「そうねぇ」と考える。

 その話題には興味があるのか、サステナさんも顔を上げて伺っていた。

 俺も当然興味がある。


「私は癒しの巫女様の薬草かなぁ」


「あぁ、あれな。懐かしいの出してくんな」


「薬草?」


 実に興味深い単語である。

 今の俺は薬草オタクだからね!


「え、反応するのそっち?」


「ん?」


「いやいやいや。今のとこ、反応示すなら普通、癒しの巫女様のほうだろ」


 ヴィルに突っ込まれた。

 いや、そっちもキニナリマシタヨ?


「まぁまぁ。どんな話か聞こうよ?」


「……へぇへぇ。癒しの巫女様ってクロイドルスにいるんだろ?」


「えぇ。私がファーラくらいの年の頃に、向こうの大陸に渡ってやった仕事なんだけどね。あそこはここでは逆で、デロイドに対して扱いがひどくて……全然仕事にありつけなくってね。結局すぐに戻ってきたんだけど、ひとつだけ。その癒しの巫女様の仕事をしたのよ」


「その仕事っつぅのが、薬草採取だったんだがな。結構ひでぇ場所にありやがんだよ」


 サーラの言葉を引き継ぐグラレル。

 苦虫を噛み潰したような表情であることから、それなりに大変だったことが伺える。


「ふふ、苦労したわね。だからこそ、巫女様の依頼だっていうのに受ける人がいなくて私たちに回ってきたんじゃないの」


「まぁなぁ」


 どうやらファーラとラッセンはまだ一緒に活動していなかったらしい。

 そんな二人の話を俺たち同様に聞いていた。


 ちなみにその薬草の群生地は湖の中だったらしい。

 命の危険は薄い分、報酬は低いが採取するのに面倒な場所ということで人気が全くなかったのだとか。


「でもねぇ……採ってきた薬草を届けた時の巫女様がね、とても嬉しそうに笑ったの。クロイドルスではデロイドは忌避されていたのに、関係なくお礼を言ってくれた時の顔が印象深くてね」


「ふーん」


「巫女様って確か十五歳だっけ?」


「いえ、十六歳になられたと思いますが?」


 ヴィルの小声の疑問にサステナさんが答える。

 というか、だ。


「ところで、癒しの巫女ってナニ?」


 そろそろ気になるので教えて欲しい単語である。

 皆知っていて当然みたいな反応だし。


「……え?」


 だが、俺のこの質問に皆驚いた表情をさせて固まってしまった。


「…………あれ? もしかしてやっちゃった?」


 そこまで非常識な質問をしたつもりもない。

 今まで話題に出なかったし、この大陸の人じゃないわけだし……知らない人がいてもおかしくはないネタだと思ったんだけどな。


「あー……うん。大丈夫だ、シン。そうだよな、知らないってこともあるよな」


「なんか皆は常識だって感じなんだけど?」


「まぁ、商人なら常識だな」


「ですね」


 とは商人ズもといヴィルとサステナさん。

 ヴィルが説明を買って出てくれるようである。


「癒しの巫女様っていうのはかなり昔から継がれる称号のようなものでな。女なら巫女、男なら御子。呼び方は一緒だけど単語は若干違う……けど、まぁそれは今はいいか。で、癒しの力っていう希少な力を持ってるんだ」


 ここで叫ばなかった俺を褒めて欲しい。


 ちょ……癒しの力って!

 俺のと一緒!?

 俺以外にもいたんだ、持ってる人!!


 ていうか、話を聞く限りすごく面倒な感じの扱いだけど!!


「クロイドルス大陸にあるサンチュリって国に宮がある。その宮には世界中から集められた薬草園があるらしいんだ。それらの薬草を使って巫女は様々な治療薬を作成するって噂だ」


「つまりは薬師さんってこと?」


「いや、詳しくは知らねぇが不思議な力があるそうだ。その不思議な力ってのはイマイチわからねぇんだが……巫女の作った薬の効能は世界トップクラスであることは間違いねぇな」


 なるほど、俺と同じような力の可能性があるか。

 うん?

 もしそうなら、逆に俺もその巫女と同じような力があるってことだから薬草作ったのは正解か?

 つか、これすごい性能になったりなんてしてない……よな?

 薬草を育てる時か薬を作る時に影響があるのか?


 売る前に販売されているやつと差異がないか確認しておいたほうが良さそう。


「癒しの力は遺伝性が多少あるらしくて、一代前の巫女様は今の巫女様の母親だったらしいぜ。その前はその母親の祖父、だったかな? 多い時は五人くらい居たらしいが、今は当代の巫女様一人だけだ」


「一代前の巫女様は、今の巫女様を生んですぐ亡くなられたそうです」


 ヴィルの説明に補足するサステナさん。

 今現在わかっているのが当代の巫女様だけってだけで、探せば他にもいるかもしれないけど……

 力の見分け方が微妙かなぁ。俺はすぐにリョクが気づいたから知ってるだけで、普通に生活してたらそんな力に気づかないっぽいよね。


 それにしても。


「そっかぁ。小さい時から巫女として頑張ってたんだね、その子」


 同じ力を持つ人がいない中で、自分の役割を果たそうとしたんだろうか。

 なんとなく、自分と同じ力を持つかもしれないその子に会ってみたいと思ってしまう。


 癒しの力、か。


 目に見えて効果が現れるものは少ない。

 それでも確実にこの世界に影響を与える力なのだと言っていた。それも無意識に、無自覚に。


 その宮に行けば、癒しの力について何か知ることができるだろうか?

 リョクも知らない何かを。



サーラとファーラの名前が似ていてややこしいとか、今更な失敗を発見。

サーラが二十代後半のお姉さん、ファーラが言動が少女な二十前後。

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