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異界の森の王  作者: 唯愛
迷子からの旅立ち再び~王都ミルド~
21/38

第二十話



 ミルドを出て、それなりに整備された街道を馬車で走る。


 一台目に客全員と商会の人間である御者が一人。

 二台目に荷物が乗せられている。護衛二人はそれぞれ馬に乗って並走している形だ。


 つまり、馬車の中で質問タイムである。


「なぁ、グラレル。あの犬みたいなの、結局何か知ってんのか?」


 例の話題に触れたのは意外にもラッセンという名の青年だ。


「……いや、確証はない」


「でも心当たりはあるんでしょ? そういう言い方されたら気になるよ? 教えてくれたっていいじゃん」


 ファーラが口を尖らせて言う。

 それに対してグラレルはぐっと眉間のシワを濃くした。


 なんだかお父さんとわがまま娘みたいに見えてきたな。年齢的にそれはなさそうだけど。


 ま、それはどうでもいい。


「うーん……会話丸聞こえですよ?」


 一応こそこそと話していたっぽいので伝えておこう。


 ギクリとした表情をしたのは若いラッセンとファーラだけで、グラレルはそのままの渋面でこちらへと視線を向けてきた。

 なかなか油断ならない厳しい視線をありがとうございます。


 さて。

 どうせ遅かれ早かれ、会話はするだろうし。

 ならこんなにギスギスとした空気嫌だし。さっさと語る方が気が楽かな。


「何か質問がありましたら聞きますよ? 答えられるかどうかはわかりませんけど」


「おい、いいのか?」


 こっちから話しかけると、隣にいたヴィルが驚いた顔をした。


「どうせしばらく一緒でしょ? なら変に疑われたりするよりもさくっと話をしちゃうほうがいいかなっと思って。人には会話をするという能力があるんだしね」


 長らく特定の木……ぶっちゃけリョクとしか会話がなかった俺としては、会話をするというのは非常に思うものがあるのですよ!

 言葉と言葉のキャッチボール、これって重要なんだよ!!

 せっかく出会った人と言語が違うってことでうまくしゃべれないなんてショックな経験でもすれば、会話の有り難みをわかるってものですよ!!


 おっと、興奮してしまった。

 深呼吸、深呼吸っと。


「旅は道連れっていいますし。多少の信頼関係は築いておいて損はない、でしょう?」


 にこっと邪気のない笑で言うとヴィルは納得してくれたようだ。

 グラレルたちの警戒心も少し和らいだような気がする。


「……変わった奴だな。ま、クロイドがこんな馬車を利用しているだけで変わっちゃいるが」


 王都にいるクロイドは虐げられる存在か、クロイドルス大陸からの使者や貴族、または大きな商会の偉い人がほとんどだ。

 使者や貴族、それに商会の人間となれば専用の馬車などで移動するのは当然、護衛や世話をするもので周りを固めるのが普通。なので、そういう人たちってのは特定の屋敷や店を行き来するだけで外に出ることはない。


 虐げられる存在は様々だが、簡単に分けると奴隷やそれに近い使用人と、そういった場所から逃げ出したような浮浪者的な人たちだ。

 逃げ出した者たちの中には俺のように単独で稼ぎを得る者もいるし、スラム街に住み着いたりするものとている。

 スラム街に住み着いてしまっては、物乞いか犯罪者かといった人生になるものが多いので余計にクロイドへの差別が酷くなるという悪循環なんだけどね。


「ふん、なら遠慮なく質問させてもらう」


「どうぞー」


 にやりと笑うグラレルにこっちもにやりと笑って返す。


「子供の時に拾ったっつってたな。どこでだ?」


「内緒」


「…………おい?」


 間髪いれず返した言葉に、一瞬唖然とした表情をしたがすぐに目を釣り上げるグラレル。

 いやぁ、だってねぇ。

 最果ての森出身ってのはあんまり言わない方がよさそうなんだもん?


 これはフェーレのところにいる時に思ったことなんだけどね。

 あの森、結構ヤバイ位置にあるのだ。

 森を出てすぐの砂漠にいた魔物はかなり厄介なやつみたいだ。

 砂竜と呼ばれていて、あの砂漠地帯は砂竜の群生地とも呼ばれる。それ以外にも強力な魔物がうようよといるということがわかった。

 魔物よけ効果で、俺自身はちっとも危険な目に合わなかったからわからなかったんだけどね。

 

 森に人が来ない大きな理由が強力な魔物が生息する地域だからだ。


 そんな地域を徒歩で渡ったなんてことはあまり言わない方がよさそう。


 そんなわけで、俺はフェーレの別荘地にほど近い森に暮らしていたことになってる。

 とはいえ、それですら非常識だ。

 その森も危険な地域となっている。


「いやいや、怒らないでくださいよ。答えれるかわからないって言ったでしょ? どういうことが知りたいのか教えていただければ答えれなくはない質問です」


「……まぁいい。じゃ、聞くが……野生か? 魔物市とかの余り物や人の手によって連れられてきたヤツか?」


「…………」


「人の手によって飼育されているなら問題はない。入手経路は気になるが……だが、野生ならどういう状況で連れて行くことになった? 拾った場所が生息圏から離れているようならそれも問題だ。生息圏内なら……親はどうした?」


 なるほど。

 ロウが強い種族だってことは理解している。


 通常の生息地域とは違う場所にいるなら、通常と違う事態が起こっている可能性がある。森の動物が森から出る場合、森で食物を取れないからといった理由が存在する。取れない理由は森野以上を伝える。他にも、魔素の影響で凶暴化した魔物が見境なく暴れまわっているという現象で森から動物がいなくなることもある。そうなると、近隣の街へ魔物が押し寄せ被害が出ることもないわけではないのだ。


 生息域内で、親から子供を無理矢理連れて行った場合は、親が子供を取り戻しにやってくることがある。

 遠い土地だから大丈夫とタカをくくっていれば、恐ろしいほどの追跡能力で追いかけてきて連れ去った人間を襲う場合があるんだそうだ。


 グラレルが聞きたいのは、そういう危険性だろう。


 聞きたいことがそういうことなら誤魔化すのも良くないな。

 不安は解消しておくに越したことはない。


「聞きたいことはわかった。答えるよ」


 それ以上の質問を口にしようとしたグラレルを制するように言う。

 口を噤んで聞く体制になったのを見て、俺は答える。


「ロウは野生だ。生息圏内で拾った……というか、託された。ロウの母親にね」


「託された? 野生、だったんだろう?」


「うん。魔素で凶暴化する一歩手前だったみたい。凶暴化して我が子を殺してしまわないようにしたかったんじゃないかな……生まれたてで、ロウだけじゃ生きていけないのは明白だったからね。俺なら育てられるって思ったみたい」


「そ……んなこと、が?」


「さぁ? 結局どういう意図があったかまではわからないよ。すぐに姿を消してしまったからね」


 そういう事例が他にもあるのかどうかはわからないが、そう多くはないだろう。

 グラレルをはじめ、皆驚いていた。


「……俺とサーラは、アーディンウルフじゃないかと思っている」


「アーディンウルフ?」


 あれ、アザルディンじゃないんだ?

 微妙に名前が似てるし、同一とみなしていいのかな?


「シーディア大陸の北西にあるエレレド山脈。あのあたりに生息すると言われる狼型の魔物だ。言うまでもなく強力な魔物で、基本四、五匹の家族で群れを作り行動する」


「ほほう」


 頷きながら、内心首を傾げる。

 山脈にいるのがアーディンウルフで、森にいるのがアザルディンって感じかな?


「知能も高いと言われ、魔術すらも行使できる個体が存在するそうだ」


「え!? まじで!?」


 俺が反応するよりも早くラッセンが声を上げる。

 しかし、グラレルはそれを無視して俺を射抜くように見たままで言葉を続けた。


「だが……奴らはエレレド山脈の中腹に住まう。麓まで降りてくることはない。お前は一体、どこで、託されたんだ?」


 サーラをはじめとする面々がはっとしたような顔になる。


「……」


 もともとこのシーディア大陸の魔物は強い。

 それに加え、エレレド山脈に登ればさらに強力な魔物が生息している。


 山の麓ならばまだしも、山の中腹までは入らなければ遭遇しない魔物の子を連れているのは普通では有り得ないことだ。

 と、いうことらしい。


 うん、さっき気軽に生息圏内で拾った的なことを言っちゃったね。

 みんな顔が怖いよ。

 どうしよう?


「…………エレレド山脈以外に生息している可能性は?」


 取りあえず聞いてみておくか。

 この質問にはサーラが答えてくれた。


「可能性はない、とは言い切れないわ。実際シーディア大陸の全貌はまだつかめていないのが現状。昔の地図や伝承・伝記といったものまで揃えて予想するなら最北端のバルレイクよりも北にはまだ土地は広がっているわ。エレレド山脈も頂上を超えた先は未知。そんな状態だもの」


 だが、今現在で確認されているのはエレレド山脈の中腹あたり、ってことか。

 ちなみに山脈の頂上付近は雪に覆われていて超えるのは難しい。

 一説では山の向こうは雪の世界が広がっているとか。

 

「……俺がロウを拾ったのは、まさにそのバルレイクの北だ。山じゃなくて森だったから、もしかしたらちょっと違う種かもしれないけど」


「バルレイクの北って……なんでそんなところに行ったんだ?」


 ヴィルが素朴な疑問をぶつけてくる。

 若干呆れたようなのは気のせいだよね?


「ま、それは成り行きとしか言い様がないかな」


「成り行き、ねぇ? ホント、謎の多い奴だなぁ」


「男はちょっと謎がある方が格好いいって聞いたことがあるからね」


「なんじゃそりゃ? 謎の多い女は興味がそそられるが、謎の多い男なんざ怪しいだけだな」


 そうなのか?

 女はよくて男はだめかぁ……あれ、男は謎じゃなくて影があるほうがモテるんだっけ?


 確かに一見格好いいかもしれないけどさ、その先も見据えて欲しいよね。

 癖が強い影のある男との共同生活なんて疲れる気がする。下手すりゃただの根暗って言われるんだぞ。

 

「ふへぇ。謎の多い女かぁ……私も謎を持てばいいのかぁ」


 ファーラが呟いたが、多分無理じゃないかなっと思う。

 言わないけど。


 俺の答えに納得いかないところもあるものの、ひとまずはグラレル達は引き下がることにしたらしい。

 今のところ、ロウは俺に懐いており驚異に感じないというのが大きいのだと思う。


 ただ、警戒度に変化はあまりないけど……それは仕方ないか。

 俺だって立場が逆なら警戒しているだろうし。


 ラッセンとファーラはともかく、グラレルとサーラは年長組として警戒するのは責任のようなものだ。

 まだ先も長いし、ゆっくり親睦を深めるのもよしだよね。



誤字が凄まじいことになってました。

一応、3月20日に修正してみましたが。まだ残ってたらごめんなさい。

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