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異界の森の王  作者: 唯愛
迷子からの旅立ち再び~王都ミルド~
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第十九話





 フリードの近く、そこがヴィルとの待ち合わせ場所だ。

 オープンカフェと言えるほどの洒落た店ではない。屋台と言ったほうが幾分か当てはまるような店。


 外に設置されたテーブルに座ったまま手を上げる男の姿が目に入った。

 言わずもがな、ヴィルである。


「よっ! 犬っころも来たんだな」


 何度か会っているうちに慣れたらしく、ロウはヴィルに撫でられて気持ちよさそうに目を細める。

 ちょっと人懐っこすぎやしないかと心配になるくらいだ。


「すみません、ちょっと遅れましたか?」


「いや? こんなもんだろ。昼飯は?」


「まだです。注文してもいいですか?」


 言いながら俺もヴィルの対面に座り、店員さんを呼ぶ。

 急ぐほどではないけれど、あまりのんびりしすぎる訳にもいかないので手っ取り早くヴィルと同じものを頼んだ。

 すぐに持ってきてくれたホットドックのようなものに齧り付く。

 うん。商人志望だけあってヴィルのセンスは悪くない、と思う。


「まずは王都から出てる馬車で南下し、港町ボリックに行く。そこで諸島行きの船に乗る」


「ふむふむ」


「ここからボリックまで馬車で五日。ボリックからパパルパまでは十日から波の状況によって十五日くらいかかる。船に乗ったことは?」


 ここでいう船とは俺の知っている船と若干違うと思うべきだろう。

 無難に答えておく。

 

「小舟になら何度か。海を渡るような船には乗ったことないよ」


 しかも十日以上。

 馬車は慣れてきたけど、船は船で疲れそうだなぁ。


「まぁ、最初はしんどいかもしれないけどな。慣れるしかねぇからなぁ」


 だろうねぇ。


「俺よりもロウやスイの方が心配だよ。まぁ、海に飛び込むようなことはしないだろうけどさ」


「まぁ、それも我慢してもらうしかねぇからなぁ」


「がう?」


 俺とヴィルの視線を受けて、ロウは首を傾げる。

 取りあえず撫でておいた。

 うぅ、癒される……もふもふもふ


「俺たち以外にも同じように船に乗る連中がいるはずだ。何人かは馬車から一緒になるだろうな」


 ツアー旅行のような感じで、馬車から船まで同じ商会が全て取り仕切るらしい。

 そのため日程は全て決められてしまう。

 ただし、ややこしい手続きもなく格安で手配してくれる。


「さて。んじゃ、そろそろ行くか」


 集合場所まではまだ時間に余裕があるそうだが、遅れれば置いていかれてしまうので余裕を持ってその場所に向かうことにする。

 通信機器はあるが、向こうの世界にある携帯電話のような手軽さまでには至っていないようで、時間内に来なければ来ない方が悪いと確認を取らずに出発されてしまうのだ。


 最低限、旅に必要なものは商会が手配していてすでに馬車に積み込まれているらしいので、俺もヴィルも荷物は対してない。

 まぁ、それでも非常食やら着替え一式といったものは持っているが数十日分の荷物すべてを持参とかじゃなくて助かった。




 集合場所には二台の馬車と数人いた。

 

 その内の一人、手に小型の晶石を持って荷物の確認をしているのがこの旅を仕切る商会の人ではないだろうか。

 で、その隣で同じように荷物確認している人も商会の人と見た。


「ども。諸島行きの馬車ですよね?」


 ヴィルが晶石を手に持った人に早速話しかける。


「あ、はい。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」


「ヴィル=レスタートと」


「シン=モリノです」


 ちなみにフェーレから貰った証明書プレートに書かれた俺の名前もシン=モリノだ。

 今のところこの世界で俺の本名がシンジュだっていうのはリョクにしか話していないことになる。別に秘密にするつもりもないんだけど、何となく言いそびれた感じだ。


「あぁ、確認できました。ヴィル=レスタート様とシン=モリノ様ですね。ご登録いただいております。出発にはもう少々お待ちくださいますか?」


「あぁ。あそこにいる連中も客かい?」


「そうです。同乗者となります」


「了解。適当に挨拶させてもらっとくぜ」


 もともと早めに来て待つつもりだったので問題ない。

 残りの人たちの元へ俺たちも向かう。


 それにしてもヴィルには人見知りって言葉はないのかな。

 迷いのない足取りで向かって行く。当然、俺はヴィルの後ろで縮こまる、と。


「こんにちわ」


 おぉ、爽やかな挨拶ですか。

 ヴィルがちょこっと猫を被った。いや、まぁ。商人なら当然レベルだけど。


「うん? あんた方も馬車に乗るのか?」


 対応したのは年配の男。

 がっしりした体躯で三十半ばから後半ってところだろうか。当然デロイドらしく、褐色の肌だ。筋肉が素晴らしいです。


「えぇ。しばらくよろしくお願いします。ヴィルといいます」


「俺はグラレルだ。よろしく」


「私はサーラ。こっちがラッセン、あっちがファーラ」


 応対してくれた男がグラレル。

 隣にいた二十後半ほどの女性、サーラが後を引き継ぐように自己紹介と仲間紹介をする。


 ラッセンと呼ばれたのは二十前半と思われる男。

 もうひとりファーラと呼ばれたのは二十前後の女だった。


 ここでもうひとり三十半ばの男がいるんだが、彼の紹介はない。

 と、思っていたら自分で名乗った。


「私はサステナ=コルトーと申します。以後、お見知りおきのほどを」


 前者の四名は服装も雰囲気も冒険者もどきだ。

 傭兵・護衛・探索といった俺的冒険者業を生業にしているのかもしれない。


 それに比べサステナと名乗った男は物腰も柔らかく、身なりもそれなり。

 彼は商人なり役人なりといったところだろう。


 などと憶測していると、そのサステナさんが俺へと目を向けてきた。必然的に目が合う。


「君は?」


「シン、です」


「俺の連れだ。こっちの犬っころと肩に乗ってる小っこいのはシンのペットだ。躾は行き届いているから問題ねぇ。動物が苦手なら言ってくれれば近づかねぇようにさせる」


 名を名乗っただけの俺に補足してくれるヴィル。

 頼もしいことこの上ないよ。


「なるほど。躾が出来ているなら大丈夫です」


 サステナさんがにこやかに頷く。


「犬っころ、ね。尋ねるが、そいつは本当に犬か?」


 グラレルさんがロウを指して聞いてくる。

 顔つきが厳しいな……びくびく。ロウの種族は最果ての森でしか見てないけど、別の場所でも生息しているのかもしれない。どう答えよう。


「……いえ。正確には犬ではありません」


「ほう?」


 迷ったけど、ここは正直に犬ではないとした。

 俺としてはすでに見た目の大きさからして犬の範疇を超えているので、今まで犬とされていたほうが不思議なくらいだった。丁度良いので聞いておくか。


「この子が何種かご存知なんでしょうか?」


「……もしかして知らねぇのか?」


 器用に片眉だけを上げて聞いてくる。

 彼、グラレルさんとサーラさんだけが何かを知っているような表情で、ほかの人は何も知らないのか興味津々な様子だ。


「生まれたての時に拾ったので」


「拾った? それを?」


「問題がありましたか?」


 お?

 グラレルさんもサーラさんも表情が険しい。

 リョクは確かロウをアザルディンの子って言ってたな。本来は知性の高い種族で、彼らが魔素に蝕まれたことはかなりショックを受けてた。

 森を守っていた守護獣のひとつなんだそうだ。


 ということは、結構希少な種族だったりする?


「…………」


 う……重い。重いよ、空気がっ!!


 他の人たちも、このただならぬ二人の雰囲気に息を詰まらせる。


「すいません、お待たせいたしましたぁ!」


 ま、待ちましたとも!!

 待っていましたとも!!


 商会の人が空気を読まず。用意ができたから馬車に乗るように言ってきたので俺はそそくさと馬車の方へ移動する。

 まぁ、どっちにしろ一緒の馬車に乗るんだけどねっ!!


「おい、シン。大丈夫か?」


 冷や汗だらだらものの俺にヴィルが声をかけてくれる。

 俺は曖昧に頷き返すしかできなかった。


 馬車のそばには最初にいた商会の人が二人と、新しい顔ぶれが二人。

 商会の護衛だと簡単な紹介を受けて出発となった。

 さて、逃げ場はなくなったし。どう説明したもんだろうかねぇ……




ロウの好物はクルミという謎の裏設定がありますよ。

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