第十七話
親愛なるフェーレへ
しばらく王都で仕事を見つけたりして過ごしていたけれど、旅に出ることにしました。
まずは、大陸を出てメルトル諸島に行こうと思う。
いずれクロイドルス大陸も巡るつもりでいる。
恩は未だ何一つ返せていないままでどう謝罪するべきかわからないけど、必ずまた戻ってくるよ。
だから、必ず恩は返すと約束しよう。
元気で。
みんなにも伝えてくれると嬉しい。
シン
こんなところか。
書き終えた手紙に封をする。貴族へ送る手紙としては内容が短すぎるけれど、現世でも手紙らしい手紙を書いたこともないので勝手がわからない。
フェーレだって、俺に貴族らしい前置きの長い手紙は求めないだろうし。
そもそも読み書きはできるようになったとは言え、文章はまだ苦手なんだ。長々と書ける自信がない。
シンプル イズ ベスト。うん。
結局、手紙を送る方法として選んだのはスイを使うことだった。
俺やロウなら屋敷に近づけば一発で見つかるだろうけど、スイなら簡単に侵入を果たせるだろう。
風の魔法を使える小動物……考えたら恐ろしい奴だ。
「じゃ、頼むね?」
「きゅ」
手紙を咥え、スイがひと鳴き。
そしてふわりと風と共に舞い上がる。
早々に高く飛び上がったスイは、もとから空を見上げていなければ見つけられないだろう。
森の中では木々に姿が隠れてしまい厄介なことこの上なくなってしまう。そのせいで、悪戯が過ぎるやつではあるけれど……
今はまだ薄闇に包まれた日の出前の時間帯。スイが見つかる可能性は限りなくゼロに近い。
「さて。じゃ、こっちは旅立ちの準備に取り掛かろうか?」
「がう」
向かう先は街の外。
最初に行った森へ向かう。
数日いろんな仕事をした中で、なんと薬草採取というある意味定番な仕事があったのでつい受けたことがある。
まず、薬草の種類を覚える。見分ける。適切な採取方法を知っておく。そういった知識がまず必要であり、そこから森まで行って採って帰ってくるというのは簡単なようでいて難しく、不人気な仕事という現実があった。
その仕事ははっきり言って労力の割に賃金が安い仕事であるが、森生活の長かった俺には実りのいい仕事であった。なんせ、野生の勘とリョクの知識で薬草の種類はある程度把握しているし、見分ける方法も適切な採取方法もすぐにわかったからである。
中には小遣い稼ぎに、自宅の庭で育てている人もいるらしいのでなんとか細々と薬草自体は確保していたらしいが。
それはともかく。
それをきっかけに、ちょっとばかり薬に関しての知識も仕入れてみたのだ。
要約すれば、薬草から簡単な薬を作成できるようになった。
今までの、もしゃもしゃとそのまま食べたり、傷口に塗ってみたりと大雑把に使ってた頃からそれなにの効能は発揮していた。
うん、俺の野生児化は結構進んでいたわけだね……
っと。遠い目をしている場合じゃなかった。
普通に、街中に住む人に売り物として渡せる程度の薬を作成する技術を身につけちゃいました。
旅立とうとする身としては自分で簡単な薬を作成できるって心の安寧に繋がるよね、怪我も病気もするつもりないけど。気分的に。
それに傷薬くらいなら旅の道中、売り歩くことも出来なくもなさそうなので多めに作っておこうと思う。
そんなわけで、材料を採集しに森へと向かっているというわけ。
ちなみにお昼までには街に戻らないといけない。
ヴィルと待ち合わせしているのだ。
俺が諸島に向かうつもりであることを告げると、折角なので一緒に行くと言い出した。
もともと近く向かう予定であったらしい。
一緒に船の手配はしてくれるということなので、それに甘えてみることにした。変に手続きミスっても嫌だし。
時間がないのでロウに乗ってひとっ飛び。
馬なんて目じゃないくらいに早い。鞍なんてないからバランスが難しいんだけど、慣れると楽しいんだよね。
おかげで日の出すぎくらいには森に着いてしまっていた。
「ありがと、ロウ。水飲む?」
「がうっ!」
ぶんぶんっと尻尾を振って水くれアピール。
はいはい、ちょっと待ってねっと。水筒の蓋をコップ替わりにしてロウの口元へ持っていくと勢いよく飲みだした。
ちなみに朝ごはんはしっかりと食べていますよ?
それにしても、やっぱり森はいいね。
ほの暗く湿気た雰囲気は慣れるまで不気味かもしれないけど、土の匂いと緑の濃い空気は好きだ。
大きく深呼吸をして森の空気を堪能する。
「ふぅー……さて、と。じゃ、適当に薬草とか探そうか?」
「がう」
ロウが水を飲み終えているのを確認してから行動に移る。
数時間もあればそれなりの量が確保できることだろう。
会話が少ないなぁ、とか思ったり。
ロウとスイ相手に会話が多くてもおかしいんだけどね。