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異界の森の王  作者: 唯愛
迷子からの旅立ち再び~王都ミルド~
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第十五話




 給金は日雇いなので、仕事が終わると順々に支払われた。

 依頼者によって、依頼人から直接の支払いだったりフリード経由だったりとあるようだ。また、仕事の成否もフリードへ報告要と不要がある。今回は不要のもので、給金を受け取れば解散だった。そりゃ、団体さんがフリードの受付に並ぶ自体になるよりはこっちのほうが楽だもんね。


 ヴィルも一旦宿に戻るらしく、あとで合流することになった。

 王都のことはあまり知らないので、宿まで迎えに来てくるそうだ。至れり尽せり?


「それにしても、昼間と夜じゃあ……やっぱり雰囲気が変わるんだな」


 昼間は賑わっていた場所も今は静まり返っている。

 が、昼間はそれほど賑わっていなかった場所が煌々と明かりをつけて賑わっている。

 お客さんを呼び込む声が飛び交い、酒の匂いが漂う一角。いわゆる色町だ。


 ……興味がないといえば嘘になる。


 ただ、どうも違うなって思うんだよね。

 そちらへと踏み出す気にはなれない。嫌悪という感情はないけど、その異様な雰囲気に自分がいるべき場所とは違うと思ってしまうのかもしれない。

 ただ単にお子様なだけだと言われれば反論もできないが、むしろどうでもいいのでさっさと通過してしまう。


 テイクアウトが可能な店が夜の商売の店近くなのは納得できるけど、あんまりウロウロしたくない区域である。

 ま、ロウがいる状態で俺に声をかける奇特な人はいないだろう。


 推察通り、拍子抜けするくらいにあっさりと通過してしまった。

 うぬぅ、これはこれで傷つくような気もする。


 目当てのお店でいくつか注文し、再び戻る。

 

「おにーさん、どう? 興味あるなら寄っていかない?」


 と、まさかのお声が掛かりました!

 余裕が出て、珍しくてきょろきょろしていたから興味があると思われたんだろう。


「……いえ、すみません」


 愛想笑いを貼り付けて断り、早足に通り過ぎる。

 うん。やっぱ俺には無理。苦手だ。


「きゃーん、かわいいー」


「……」


 なんか後ろから聞こえたけど、気のせいだ。

 これは別のルートを探すか、別の店を見つけておかないと遅い時間まで街を出ていれば苦労することになるぞ。ヴィルに相談してみるか。

 そういえば、こっちの世界に来てまともに話した女の人ってリディとメリサくらいなものだもんなぁ。というか、他でまともに話したのはフェーレにリッツ、クィーツにヴィルだけか。なんという交流の無さ……ちょっと愕然だね! 言葉がわからなかったから仕方ないわけだけども。


 あとは徹底的に嫌われていたのか怖がられていたのか、避けられる日々。

 街に出ても視線は痛い。

 ……うん、よく平気で暮らしたものだな、俺。


 しかし、さっきの人もクロイツであろう見た目でも普通に勧誘してきたな。

 金持ちの商人や貴族が来ることもあるんだろう。利益を優先した結果かもしれなけど、こっちの方が差別意識がないだなんて皮肉だね。






 宿に戻り、適当に時間を潰してヴィルが来るまで待つ。

 スイはすでに寝ているし……というか、一日のほとんど寝ている気がする……ロウも眠そうだ。

 お見送りをするつもりはあるようで、なんとか目を開けてはいるけど限界は近いな。


「おーい、シン? いるか?」


「はいはーい。すぐ行く」


 ドンドンっとドアを叩く音とともに今日一日、一番よく聞いた男の声。ヴィルだ。


「じゃ、大人しく寝てろよ?」


 今にも眠ってしまいそうなロウをひと撫でしてから部屋を出た。

 ずっとフェーレのお屋敷でのご飯だったので、この世界のお店に入るのはかなり楽しみだ。


 迷いのない足取りで進むヴィルに遅れないよう付いて歩く。

 表通りなのか、比較的人通りもある道を通っているが、間違って裏通りに入ってしまえば危険な感じがする。日本の治安に慣れた俺には、進んで裏通りに入っていく勇気はないかな。


 そんなことを思いつつも歩いていると、外からでも景気のいい声が漏れ出てくる店にヴィルが入る。

 うん、酒場というよりも大衆食堂のような雰囲気?

 灯りも煌々として、店内は多くの人で賑わっていた。


「おう、あっちの奥にするか」


 目ざとく空席を見つけるヴィル。

 すげー、この一瞬で見つけるとか……大人しく付いていき、ヴィルの対面に腰を下ろす。


 うん。メニューがないね?


「おーい! 酒と水頼む!」


 手を挙げて厨房にいる店員さん? に向かってヴィルが告げると了解の返事があった。

 酒と水って、随分と大雑把な注文だ。


「お前、こういうところは初めてだろ?」


「え、あぁ。うん」


「だろうな。完全に戸惑ってたし?」


「う……そんなに分かりやすいかった?」


 とはいえ、自分でも分かりやすかっただろうという自覚がある。


「ここは安くて美味いんだが、メニューがねぇんだ。ま、希望があるなら言ってみることだ。あるとは限らんねぇけどな」


 な……んだと!?

 メニューがないって……異世界初心者(?)の俺に変な試練が訪れたー!?


 えぇー……

 希望って言われても、そもそもどんな料理が一般的なわけ?

 難問です!


「特にねぇなら、おすすめを適当にって言えば適当に持ってきてくれるけどな?」


 ちょ、適当すぎる。

 なにそのアバウトな感じ。と、思いつつ。


「じゃ、始めだしおすすめにしようかな?」


「おう、量はとりあえず少なめで出てくるから、気に入ったのがあればまた注文するもよし、だ」


 なるほどー

 なんて頷いていると、水とお酒を持ったおっさんが来た。


 しかも置き方が、ドンッ だ。


「料理は?」


 無駄にマッチョな感じのおっさんが聞いてくる。

 く……別に女の子好きってわけでもないけど、折角ならウエイトレスさんが良かった!


「おすすめを適当に二人分よろしく」


 密かに悔しがっている横でヴィルが注文を済ましてしまう。

 それに頷くと、にこりともせずにさっさと厨房へ行ってしまった。


 愛想もねぇな!


 ヴィルは全く気にすることなく、酒を手にするとこっちに掲げてきた。

 お?

 乾杯か?


 俺も水を持ち上げて、同じように掲げるとコツンっとグラスを当てて来た。


「お疲れー」


 飲む前に声をかけると、少しきょとんとしたあと、にやりと笑って同じように「お疲れさん」って言ってくれた。乾杯のやり方は一緒なのに、こっちでは声をかけないものなのかもしれない。ただ、普通に合わせてくれたのは少し嬉しかった。


「バルレイクじゃ、こういう店はあんまりなかったのか?」


「え……どうだろ? 俺は入ったことなかっただけで、もしかしたらあったのかも。外で食べたことはほとんどないんだ」


 ほとんどっていうか、全くなかったですけどね!


「……なぁ、それってクロイドだからとか関係あるのか?」


 結構突っ込んだこと聞くな。

 俺は特に思うことはないけど、気にする人には無神経って怒られちゃうぞ?

 ここは無難に答えておくかな。


「多少はね」


 答えを聞き、ヴィルは少し眉に皺を寄せる。

 どうやらヴィルはクロイドとかデロイドとかの差別が気に入らないようだ。ま、出身がクロイドとデロイドが半々でそれなりに仲良く暮らしている場所ならそうなるだろうな。


「つーかさ、シンは何でこっち側にいるんだ? お前の親も、諸島かクロイドルスに行こうとか思わなかったのか?」


 うむ。どうしよう?

 設定がまったく定まっていないよ?

 流石に正直に話すのはためらわれるけど、まったく嘘だとボロが出るに決まっている。

 嘘は真実を混ぜて話すのが良い、だったよな?


 じゃ、どこまで真実を話すか。


 …………


「……いや、悪ぃ。言いたくねぇことなら無理に聞いたりしねぇから」


 沈黙してたら勘違いされた!

 ちょっと可哀想な子を見る目をしているあたり、可哀想な設定が作り上げられていそうで怖い。

 ここは少しだけ勘違いを正しておかなければ!!


「うぅん、言いたくないってわけじゃないんだ。まぁ、なんていうか……特に事情がないから言い様がないっていう感じ? 深刻な理由なんてないからさ」


「本当か?」


 ……ごめんなさい、嘘です!!

 いや、まぁ……ヴィルが思う深刻な理由はないのは本当ですけどね?


「俺の知り合いがすげー優しくていい人なんだけどさ。あ、その人はデロイドなんだけど。バルレイクではその人にお世話になってたんだよね。ミルドでもお世話をしてくれる気みたいだったけど、世話になりっぱなしってのもなんだから働いてみることにしたんだよ。俺自身は、その知り合いがいたからクロイドだからどうとか、差別がどうとか特に気にせずにいられたんだよね」


「……優しくていい人な知り合い、ねぇ?」


「あ。疑ってる?」


「そりゃー、お前。怪しいだろ? 世話ってなんだ? 奴隷じゃねぇだろうな?」


「……奴隷?」


 え。なにその聞きなれない単語。


「本当は脱走してきたとかじゃ……ねぇよなぁ? いや、一瞬俺も疑ったが、お前にはそんな陰鬱な雰囲気がねぇしなぁ?」


 おぉ、自己完結されましたか。

 俺は奴隷になった覚えはありませんよ?

 三食昼寝付きの勉強付きという高待遇が奴隷だというのなら、俺の常識が通用しないことになるけどね。


「そもそもこっちじゃ奴隷は、一応禁止だからな」


「ん? つまり、場所が変われば奴隷がいると?」


「あ? 知らねぇのか? クロイドルスじゃ普通に奴隷制度があるぞ。あっちじゃ、逆にほとんどのデロイドが奴隷側だがな」


 けっ、と忌々しそうに吐き捨てる。

 奴隷かぁ。現状を見ていないから何とも言えないけど、あまりいい印象はないな。ヴィルの態度を見る限りでは、奴隷への扱いは悪そうだし。


「こっちでも奴隷は禁止ってされちゃいるが、奴隷と大差ない扱いはある。暗黙の了解って感じで、大抵は見過ごされる」


 そう考えると、屋敷の人たちが普通でフェーレが変わり者だったのは確実だね。

 リディは没落してしまった元貴族、リッツとメリサは孤児。

 で、俺は正体不明のクロイドっぽい浮浪者。

 ……よく面倒みてるよね。それでいいのかと、今更ながらフェーレが心配になるよ。


「シンも気をつけておけ。いくら王都とはいえ、裏で人身売買がないってわけじゃねぇ。ヤバイと思ったらとにかく逃げろよ?」


「ん、了解。ありがと」


 ちょうど頷いた時に料理が運ばれてくる。

 おすすめの料理はオードブルっぽい感じだ。それに焼き飯? そんな感じのご飯が二人分でてきた。


「おー、きたきた! じゃ、食おうぜ!!」


 うん、見た目はうまそう。

 お腹もすいたし、早速いただきます!!



 

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