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異界の森の王  作者: 唯愛
迷子からの旅立ち再び~王都ミルド~
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第十四話



 ズシィ……ン


 木が倒れる音が響く。倒れた際に、細かい枝などは折れたらしく途中バキパキという音も聞こえてきた。

 細かい作業は森を出てからだ。

 慣れているらしい連中がまず最初に一本担ぎ上げた。


「みんな、魔術を使ったりしないんだな……」


「ん? そりゃそうさ。木を切るような強力な魔術を制御出来る奴は限られてくるしなぁ」


「え?」


「ん?」


「……や、なんでもない」


 んん?

 この反応はつまり、細かい制御の出来る魔術を使える人が少ないってことか?


 そういえばフェーレの屋敷で学んだことは、この世界の常識ばかり。

 やっていたことは自分の戦闘スタイルの確立と、詠唱の暗記。この世界の人の強さの基準というものをしっかり把握していなかった。


 だが、考えてみればフェーレはこの世界では屈指の魔術師だとか言っていた気がする。

 てことは、フェーレが最高峰に近い位置と考えるべきだ。

 思っていたよりも魔術はこの世界の常識ではないのかも?


「よぉーし! 運ぶぞ、シン!」


「え、あ、うん」


「お前は真ん中の方を持て」


「えっと……この辺でいいのかな?」


 何本か倒され、その内の一つをヴィルが指し示す。

 指示されたとおり、木の真ん中あたりの配置についた。


「てめぇらいいかぁ? せーので持ち上げっぞ」


 数人がそれぞれ配置についたのを確認し、リーダーらしき人が声を張る。

 いかにも土木建築の人ですと言わんばかりのごつい体型の男だ。両腕の筋肉に圧巻してしまう。


「せーのっ」


 掛け声に合わせて俺も持ち上げる。

 場所的にそれほど負担のかからない場所だからか、思ったより重くはない。


「よっしゃ、進むぞ!?」


 しかし、これを持ったまま出口まで歩くのはなかなか大変だな。

 足を取られて転けたりなんかしたら、周りの人に迷惑をかけるわけだし気を付けよう。





 何度か往復を繰り返し、日が傾きかけてくる頃になった。

 特に怪我をするわけでもなく、アクシデントもない。ただ、慣れないことをしたから明日には筋肉痛になりそうだ。


「さぁって、と。あとはこれをミルドまで運ぶ仕事が残ってるな。体力残ってるか?」


「あー……それがあったか」


 荷車にわんさかと木材を乗せて、今度はそれを押して帰らねばならない。

 労働って大変だぁ。

 体力は余ってるけど、気力が余っていないよ。だからといって放り出したりはしないけどね。


「真っ暗になる前には帰っておきたい。すぐ出発するぞ!」


 言ってるうちに先頭の荷車は動き出す。

 俺たちも配置についてまた動き出す。


「どうだ? いけそうか?」


 ヴィルは聞いてくるけど、木を運ぶ時も気遣って俺があんまり疲れない場所を率先して指示してくれてたんだよなぁ。

 こういう気遣いが出来るのがいい商人ってことだろうか?


「うん、大丈夫。体力はあるからね」


 にこりと笑って答える。

 まだ余裕があるっていうアピールだ。


「でも明日は筋肉痛になりそう」


「はっはっは、そりゃ仕方ねぇな! 若ぇんだ、すぐ治るって」


「だといいですけどねー……」


 ま、久々に森の空気を吸って気分は上々。筋肉痛がきたところでめげたりしないとも。多分。

 そう思うと、森での生活は案外俺に合っていたんだなぁ。

 自分の得意な魔法属性で想像はついていたけどね。


「それにしても今日は運がいい。普段は魔物なり獣なりがもうちょっと出没してくるもんなんだが、今日はほとんど出なかったな」


「ほとんど? ってことは、少しは出たんですか?」


 あれ?

 ヴィルは大抵俺と一緒にいたと思ったけど、どこでそんな情報を仕入れてきたんだ?


「おう、そうらしいぞ。つっても、大したこともなく被害はなかったようだがな」


「へぇ。魔物の方ですか?」


「いや、野生の猪だ」


 猪、ね。俺の想像する猪かどうかは謎だ。

 それにしてもやっぱり魔物が出なかったのは俺の体質が影響しているのかな?


「とはいえ、早く帰らねぇと、日が暮れちまうとぎりぎりまで接近されていることに気づかないことがあるからな。気を引き締めろ」


 は~い、と返事をしつつ荷車を押す。

 うわ、重っ!

 いい筋力トレーニングになるな。あ、でも動き出したら意外と楽かも。










 ……おぉ!

 王都が見えてきましたよっ!!


 あれからガラガラと。途中、大きめの石を踏んでバランスを崩しそうになって止まったりとかあったものの順調に戻ってきました。

 日はほとんど暮れているので、王都は遠目にぼうっとした灯りが見えるだけだが、それが見えただけでもほっとする。


「あとちょっとですね」


 体力はまだあるけど、精神的に疲れてきていた俺だけど。

 それを見たらまた復活してきました。ヴィルに話しかけると「あぁ」と口角を上げての返事。やっぱり帰ってきたぁーって感じで嬉しくなるよね。


「重労働のあとの酒は格別なんだが、お前は飲める方か?」


「あー……あんまりですねぇ」


 そういえば、この世界の飲酒って何歳からオッケーなんだろうね?

 一応俺は十八歳ってことになるから、日本で言えば未成年でアウトなんだが。


 ちなみに、お酒は前に舐めてみたことがある。

 ワインかな? あれはあんまり美味しいとは思いませんでした!


「そうか。残念だなー、安くてまぁまぁ美味い酒を一緒に飲むのもいいかと思ったんだが……」


「俺はお酒よりも食べ物ですよ」


 味の付いたご飯美味いよー

 あったかいスープとか最高ー


「ははっ、そうかそうか。育ち盛りだもんな」


「そーそー、一応まだ育ってると思うよ?」


 この前、リディに身長がちょっと伸びたねって言われたんだよな。

 服のサイズがちょっとだけ変わったらしい。

 でも流石にもう、そんなに変わることはないだろうなぁ。


「そうなのか? じゃあ、安くてまぁまぁ美味くて量もあるメシ屋に行くか?」


「うん、行く行く!」


 宿は食事なしだ。

 どこで食べても問題はない。今後を考えれば、安くすむ場所は大歓迎だしな。


「あ、でもロウとスイがいるんだった。動物って飲食店はダメだろ?」


「そーだなぁ。それはちょっとダメだろうなぁ……」


 うーん。

 仕方ないか。リードをつけてないとダメってのがない分、まだマシだと思わないとね。


「じゃ、ロウとスイはお留守番よろしくね」


「……うー」


 不満そうな声を出すロウ。

 可哀想だとも思うけど、甘やかし過ぎはよくない。うん。この先のことも考えるとね。


「先にロウとスイのご飯をどっかで買って、宿によってから行っていい?」


「おう。俺は構わんが……いいのか?」


 まだ不満そうにしているロウを見てヴィルは戸惑っていたが、俺はなんでもないように「いいよ」と答えた。


「がう……」


 しゅんっとするロウ。

 人の街なんてこんなものだよ。


「……いい子にしてろ? な?」


「がうー」


 了承はするけどまだ不満そう。うーん、ロウの好物でもあればいいんだけどな。

 その点、普段は可愛げがないけどスイは楽だなぁ。


「しっかし、賢い奴だな? お前の言葉をしっかり理解してるなんざ大したもんだ」


「えぇ、全く大したもんですよ」


 リッツ達に教えてもらったこの世界の言語を普通に話せるようになって久しいが、ロウもスイも理解してくれている。

 もともとの日本語もこの世界の言葉も理解する二匹は俺よりも賢いのかもしれないとさえ思うほどだ。


 だが、厳密には言葉を理解しているというよりも、なんというか……何を言っているのかを理解している感じだ。

 俺がリョクの言葉を理解していたように、言語ではなくその内容を理解しているように思う。ロウとスイとの間にも言語はないが理解し合っているような素振りを見せるし。


 リョクの元に集まる森の動物は、同じように賢い奴が多かった。

 なんとなくリョクの元にいるだけの奴もたくさんいたけど、スイのようにリョクの言葉を理解してる奴も多かった。

 それがリョクがいた森だけに限られるのかどうかまではまだ分からないけど……


 まだまだわからないことだらけだ。

 ねぇ、リョク。世界は広いね。森に戻るのには少し時間がかかりそうだよ。



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