第十三話
王道からちょっと外れると、説明が面倒くさ……いや、わかりにくいですよね。文章力の無さに辟易される方がいるのではとどきどき……
職業で興味を惹かれるものはそれなりにあった。
ただ、自分の目的と状況を考えるとそれなりに絞れてくる。
要は、結果的に『労力』系が手っ取り早く妥当な職業系統になる。
俺が思っていた冒険者的な仕事はほぼ労力に該当。
土木などの力仕事から護衛などの命に関わる仕事まで幅広い。俺は一応クロイドということで、この街では疎まれるため表に出る仕事はあまり向かない。
実績もないことから選べる仕事はごく僅かだ。
その中で選んだのは、一応土木工事関連になるのかな?
「これをお願いしたいのですが?」
示された仕事内容。
それは輸送業だ。王都からほど近い場所から木材を運んだり、石材を運んだりとりったなかなか力のいる嫌われ仕事である。
しかも、道中魔物や凶暴な野生動物と遭遇する危険性がある。
「……ふぅん、これならまぁ……大丈夫だろ。書類を作るから待ってろ」
愛想はないが仕事はする中年おじさんは、さささっと手早く書類を用意する。
問題はないようだ。
あるとすれば、自分の体力の方。
力は大分ついたけど、力持ちってまではいかないんだよね。
「この書類を持って、明日、受注者のところへ行け。詳しい場所は、あそこにある晶石で確認できる。書類にも書いてあるが、支給品は昼食のみ。運搬具は向こうで用意してあるが、あとは自分で用意しろ。水はきっちり持っていけ。怪我の多い仕事だからな、傷薬といったものも持参しておいたほうがいいだろう」
「わ、わかった。ありがとう」
最初の対応が対応だっただけに、書類だけ渡されて終わりかと思ってたよ。
一応親切にアドバイス的なことまで言ってくれて、なんとなく俺は感動したよ、おじさん。
言われたとおり、場所を確認してからフリードを出る。
明日に備えて、その場所を見てから帰ろう。んで、ついでに水と傷薬は買っておくかな。驚きなんだが、俺みたいにただ飲み水を出すだけで魔法を使う人はいないみたいだし。
そういえば、食堂にはロウ達は入れないんだっけ。
じゃ、ロウとスイのご飯も買わなくちゃな。
「ロウ、スイ。何食べたい?」
ずっと大人しくしていたロウとスイを撫でて、もう一度王都を歩き始める。
日が傾きかけてきているのを見て、ちょっと急いだほうがいいかなとか思いながら。
翌日、書類に書かれたとおりに受注者の元を訪れた。
俺のような人たちがそれなりにいるようで、同じように紙を片手に立って待っている人が二十人ほどいる。
荷馬車が五台用意されているのを見ると、一台につき四人か五人ってところか。
今日は木材運びだということで、行きはそれぞれ荷馬車に乗せてもらえるそうだ。
現地にて木材を調達及び積み込みが終われば、乗る場所がないので歩いて帰らなければならない。
早速出発するらしく、手近な荷馬車にそれぞれ乗るように指示が出される。
俺から一番近い場所に乗ったら、たまたま四人だったのでロウも一緒に乗せておいた。
特に文句は言われなかったので構わないだろう。
ゆっくりと動き出す荷馬車。
輸送業と最初に聞いたときは、自分で荷車を押して運ばなくちゃならないのかと思ったがこれならまだ楽だ。
「よぉ。お前、クロイドか?」
一緒に乗っていたお兄さんが話しかけてきた。
赤茶の髪と瞳の色を宿した人で、肌の色は褐色だ。
「……まぁ、そんなところです」
「は? まぁいいや。その犬っころはお前のか?」
俺の微妙な返答に一瞬変な顔をしたが、すぐに切り替えたらしくロウを指差す。
自分のことだとわかったロウはピクリと耳を動かした。
「そうです、ロウっていうんですよ。賢いですよ」
自慢するように言うと、お兄さんは「へぇ」って言って触ろうと手を伸ばした。が、
「うぅ~~~~」
ちょっとだけ警戒しているロウは唸り声を上げる。
いや、本気で警戒している時のロウを知っている俺から見たら可愛い唸り声だったけどね。
それを知らないお兄さんは手を止めて、ロウの様子を眺めるにとどめた。
「あはは。ロウは人懐っこいですから、すぐに慣れて撫でさせてくれますよ。それまでは我慢してください」
「そうなのか?」
「ロウが小さい時から俺が育ててるんで、人にはすぐに慣れるんですよ。あと、見た目は大人ですけどまだまだ子供なのでチョロいもんです」
「ほぉ。チョロいのか」
「チョロいっすよ」
にやり。
同時に悪人顔を創りだす俺たち。
「がう?」
よくわかっていないロウは首をかしげて俺に擦り寄る。
俺の悪人根性が見透かされないうちによしよしと撫でると、よくわかっていないまま伏せった。寝る気らしい。
「お前さん、体力に自信があるのか? あんまり力仕事をするようには見えねぇが……」
「あー……実はこれが初仕事なんですよ」
「最初がこれかぁ……ま、簡単な仕事だからよ。悪くない選択だとは思うが……その細腕で大丈夫かぁ?」
ひょいっと手首を掴みあげられてしまった。
確かに周りの連中に比べれば見劣りするのは認める。
「見た目よりは力があるんですけどね……といっても、自信はありませんから迷惑を掛けないようにはしますが至らない点は手を貸していただけると助かります」
「そりゃ、手は貸してやるがよ。まさか、クロイドだからとかって理由じゃねぇだろうな?」
「……多分違うと思いますよ。自分でこれがいいと選択しましたし、フリードの担当のおじさんは意外にも親切でしたから」
それでもどこか納得のいかない表情のお兄さん。
なんか、いい人だなぁ。
「ふーん。それならいいけど……そだ。俺はヴィルってんだ。お前さんは?」
お? ここで自己紹介ですかっ!?
「俺はシンだよ。よろしくー」
「おう。よろしくな」
にかっと笑うヴィル。笑顔が眩しい……
いい出会いがあったものだ。初仕事、いいものですね!
「初仕事ってことは、ミルドの出か?」
おぉ、まさか出自の話題とは。
どんな設定にするか全然決めてなかった。どうしよ……
「あー……バルレイクの方だよ。知り合いがこっちに来るのに付いてきたんだ。まだミルドの方が俺にとっては環境いいし」
バルレイクの出身とは言っていない。バルレイクの方というのに嘘はない。
どっかの詐欺話に似たようなことを思いながら自分に言い聞かす。
「ヴィルは?」
「俺はメルトル諸島出身。両親が行商人でな、一緒に各国を回ってたんだけど事故でミルドに留まんなきゃならなくなってそのまま。転々といろんな職を回って商人の修行中って感じなんだ。いい商人は現場を知らなきゃならない、とか言ってさ。なかなか商売はさせてくんねぇの」
「へー」
商人にもいろいろあるんだなぁ。
それから他愛もない話を続ける。
今までの仕事経験やミルドでのおすすめの店、知って得する豆知識なんかを教えてもらったりして有意義な時間が過ごせた。
たどり着いたのはちょっとした山の麓。
森林地帯になっている場所で、ところどころ木が切り倒された跡が残っている。
入口側の木ばかりを切るわけにもいかず、多少森の中に入る必要もあるらしい。
あまり奥に行くと大変なので、どうしても浅い場所になってしまうのは仕方ないだろう。
「森には入ったことはあるか?」
なかなかに世話焼きな正確らしいヴィルが訪ねてくる。
まずは木を切り倒す作業に取り掛かることになった俺たちは、早速森の中へと入ることになったのだ。
木を切り倒す人たちが先行し、俺たちは気を運び出すのに必要なロープや手押しの車を準備してから森に入る。
人がよく入る森だからか、ところどころ道が出来ている。
最果ての森に比べれば公園のような気安さが感じられるくらい獣の気配が薄い。
「森には入ったことがあるよ。ここの森は穏やかだね」
さわさわと揺れる木々。
木と木との感覚が広いのか、陽の光が十分に届き明るい。
獣の気配は薄いものの、静かというわけでもないな。鳥の鳴き声は聞こえるし、生き物の息遣いも感じる。
「……穏やか、か。俺は不気味だがねぇ」
ふっと上を見上げるヴィル。
十分に明るいが、森の外に比べれば暗く足場も悪いだろう。
俺は久々の森の空気でテンションが上がり気味なんだけどな。
「感じ方は人それぞれか」
それこそ相性とかがあるのかもしれないな。
しばらくは黙々と進んでいく一行。当然、俺の横にはロウもいる。どうやらロウも俺と同じくテンションは上がっているらしい。
この森には主がいるんだろうか?
「このあたりはあまり魔物がいないが、皆無じゃあない。あまりよそ見して歩くな」
きょろきょろとしていたら後ろの人に注意されてしまった。
「魔物に遭遇したとき、どういう対応を取るべきですか?」
戦うか逃げるか。どちらを優先するのか聞いておいたほうがいいだろう。本来なら森に入る前に聞くはずのことだろうけど、今更ながらに確認する。
後ろの人は何を今更、という呆れたような表情をしながらも教えてくれた。
「基本は逃げだな。俺たちの今の仕事は討伐でも捕縛でも護衛でもない。もっとも、状況と場合によって変わるからな。上の連中の指示に従え」
「はぁ、なるほど。わかりました」
逃げるのはわりと得意だ。
無駄な殺生はしたくはない……魔物の大半は子を育てない。生むことも稀だ。
魔素の影響で魔物がいなくなることはないけれど、魔素によりこれ以上予測不能の事態が起こらなければ劇的に増えることもない。
そうしている内に先頭の連中が立ち止まった。
どうやら伐採予定地にたどり着いたようだ。
ここまでは整備は全くされていないものの、それなりに道っぽかった。
だが、立ち止まった先は違う。どうやら道を作る中で邪魔になる木を伐採していっているらしい。
先頭にいる数人の男たちが大きな斧を木に打ち付ける。
「お? 始まったか」
切ろうとしている木はいずれも人が運ぶのにそれほど苦労しない程度の大きさだ。
切り倒されるまで、運搬組はひとまず休憩。
ところで、俺の武器はちゃんと手元にある。
しかし、切り倒し組の持つような斧とは全く質が異なっていた。
まず大きさ。
移動に邪魔にならないよう普段は腰に吊るすか、背中に担ぐ。今は森の中ということもあり背中に担いだ状態だ。
俺の身長は大きいとは言えない。
こちらの世界に来て少し伸びたかもしれないので正確ではないが、百七十届くかどうかといったところだろう。
この世界の平均は知らないが、少なくともこの地方の平均よりは低いだろう。
それでも自分の背にすっぽりと収まる程度の大きさ。
斧としてはかなり小さいほうだ。
刃も通常の斧よりも広い。形状は円に近いが、刃の部分はその三分の二といったところか。
切れ味はさほどとは言え、直接担げば背中が傷だらけになってしまうので、ちゃんと革袋に仕舞ってある。見た目はバックを背負っているような感じだ。
一応、何かあった時にすぐに取り出せるよう柄だけは上を向いて革袋から出てあり、引っ張れば簡単に抜けるような仕組みとなっていた。
刃の部分に関しては戦場ではさほど珍しい形状ではない。
だが、その大きさと、柄の短さは少々珍しいものだったので革袋に入れてある状態では携帯している武器が斧とは一見してはわからない。
あとは短剣を腰に。他にも投擲用は多数忍ばせている。
それと鎖。ジャラジャラと金属音が歩くたびに鳴らぬよう、本来は鞭の材料とされる魔物の皮を表面にコーティングしてある特別製だ。
対人戦を意識した貴金属武器への対応と殺傷能力の低さを兼ねる武器を用意しているあたり、自分はこの世界の人へそれなりの警戒をしているんだと自覚する。
まぁ、それも仕方がない。
日本のようにここは安全ではない。
魔物という驚異は存在しているが、犯罪がないわけではない。
当然盗賊やマフィアのような者だっている。表だっての戦争はなくとも、水面下ではクロイドとデロイドは今もいろいろあるようだ。
街中ならば比較的安全が増すが、こういった場所に来てしまえばどうなるかわからない。
何人も盗賊が紛れ込み、襲われる可能性だって皆無じゃない。
ここは、そういう世界なのだ。
主人公の魔除け体質のせいで、まったく戦闘がないってどういうことでしょうか。とりあえず武器の説明だけって切ない……




