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異界の森の王  作者: 唯愛
迷子からの旅立ち再び~王都ミルド~
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第十一話

少し時間がとびました。

武器を使った戦闘の特訓成果はそのうち。


「ふむ。まずいね」


「がう」


 途方にくれる、一人と一匹。

 はぁ~っと長い溜息が漏れでる。


 本日未明、俺とロウは迷子になりました。

 ちなみにスイは俺の服のポケットで居眠り中です。





 今日は初めて王都ミルドを訪れた。

 フェーレの屋敷があるバルレイクは、この大陸での人の街で最北端に位置し、バルレイクと大陸南側の海との間あたりに位置するのがこの王都ミルドだそうだ。

 ちなみにこの大陸、バルレイクよりも北は砂漠とか険しい山脈とかが続いてて人が暮らせるような場所じゃないとか。

 最果ての森も北の方角……つまり、人の暮らせない場所に該当している。


 フェーレの屋敷に滞在して約半年。

 基本の会話と読み書きは出来るようになり、この世界のこともだいたい把握してきた。


 以前、向こうの世界にいたときは決して優秀とは言えなかった頭脳だけれど、やっぱり死活問題となれば人間出来るようになるものだね。

 こっちに来た当初も、慣れないサバイバル生活も平気になったし。

 いやはや、俺は案外図太い性質だったのかもしれないなぁ。


 それはともかく。


 この半年で知り得た情報は数多くある。

 例えば、デロイドとクロイドという言葉。以前は、町の名前かそれに似たものだと思っていたが全くの見当はずれであった。


 俺は一応、クロイドということになっている。

 というのも、視覚的にクロイドっぽいからだ。基本的に白い肌の人間、それがクロイド。で、褐色の肌の人間がデロイドと呼ばれる。ただし、それは視覚的に見た場合で実質その二つを分けるのは違う箇所だ。


 まずはこの世界の人口割合。クロイドが七割、デロイドが二割。クロイドとデロイドの混血が一割ってところか。


 クロイド……素族とも呼ばれる基本的に白い肌の人種。

 魔素の影響を受けにくく、人間といえば基本的にこちらの人種を指す。


 デロイドは時に魔族とも呼ばれる、基本的には褐色の肌を持つ人種だ。

 魔素の影響を強く受け、クロイドに比べて魔法の才が圧倒的に高い確率が多い。もともとはクロイドの変異体であり、今でもクロイドの両親からデロイドの子が生まれることが極稀にある。ただ、その場合多くのクロイドはその子供は忌み子として捨てるか殺すこともあるそうだ。また、逆に何世代も両親ともデロイドであったとしても先祖返りのようにクロイドが生まれることもある。


 互いに差別意識を持っていて、非常に面倒なことになっている。


 魔族とも呼ばれる由来は、魔物の存在だ。

 魔素の影響を強く受けた獣が魔物となることはよく知られている。同じように、魔素の影響を強く受けるデロイドを魔物のように捉える人たちがいるのだ。

 反対に、デロイドはクロイドを自分たちの劣等種として扱う人がいる。


 ただ、俺が今いるシーディア大陸に住むのはほとんどがデロイドで、クロイドルス大陸という南の方にある大陸にほとんどのクロイドが住んでいるのが現状。戦争等は起こっていないのは幸いだ。それと、二つの大陸に挟まれるように諸島があるんだが、両種族が少数とそのハーフや混血が多く暮らしている。

 もっとも混血とはいえ、先も述べたような状態なので純血というものは特にないわけなのだが。


 とまぁ、そういう事情からも俺がフェーレの屋敷の人に忌避されていたというわけだ。


 そうそう。

 フェーレの身分は思っていたとおり高く、シーディア公国の貴族だということがわかった。

 屋敷のあるバルレイクを含むあの辺り一帯の領主でもあり、国の特務魔術師だとかなんだとか。この辺はまだよくわかってないんだけど、立場的に領主だから王都常駐出来ないけど国の魔術師でもあるってことらしい。


 そう、魔術……と翻訳した。


 実際のところ魔法と魔術に違いはない。単純に俺が分かりやすいように脳内変換しただけだ。

 この世界の人の使う魔法は、詠唱も現象も決まった数しかない。

 といっても、その数は膨大でとてもじゃないけど覚えきれていないけれど……それでも限りが見えている。


 それに比べて、俺がリョクに教わった方法での魔法は限りが見えない。

 詠唱もなければ、現象など無限にあるのではないかというほどの数があるだろう。


 自分の魔法と、この世界の常識の範囲内での魔法に区別をつけるために勝手に決めた。

 それが自分の魔法をそのまま魔法と、この世界の人たちの魔法を魔術と呼ぶことにしてみたのだ。


 ……はっきり言ってそれだけなので、深い意味はない。


「がうぅぅ」


 慣れない人の街に、ロウが情けなく耳と尻尾を垂らす。

 そうだ、俺たちは今迷子なのです。


「うーん、どうしよっか?」


 王都には各国様々な場所から人が集まるため、デロイドが圧倒的に多いとは言えクロイドもちらほら見受けられる。

 もちろんお城や貴族、裕福層の邸宅がある場所ではなく下町と呼ばれる平民街となってくるがバルレイクよりも周りの視線は厳しくない。


 いつまでも屋敷に篭っているわけにも行かないかなってことで、今回フェーレに同行してここまで付いて来たまでは良かったのだが……俺のことをよく思っていない屋敷の人間にハメられてしまったのが迷子の要因だ。


 要は、追い出されたというか、置いていかれた。


 右も左もわからない王都の街に馬車から降ろされ、街の様子に感心しているあいだに馬車はそのまま走り去ったというわけだ。

 うん。

 みなまで言うな、わかっている。

 俺が間抜けだったよ。


 実は、多少ならばお金を持っている。

 リッツに何かあった時のためにと渡されていたからね。


 屋敷の人間が俺のことをよく思っていないのは当然ながら気づいていたと思うから、まぁ想定の範囲内ってやつだと思う。

 

 じゃあ、俺がどう動くのがいいか。

 フェーレやリッツを探し出すことは出来ると思う。屋敷に戻ることも一応可能。


 でも、折角王都に来たんだしね……よし。


「ロウ、取りあえずいろいろ見てまわろっか。ついでにどっかで食べ物でも買おう?」


「がうっ」


 食べ物の言葉に反応したな?

 一気に耳を立て、尻尾を振るロウに思わず苦笑する。


 ま、のんびり行こう。






◇ ■ ◇ ■ ◇ ■ ◇





 市場での買い物はリッツやクィーツと一緒に何度かしたことがあるので勝手はわかっている。

 お金は全て金属だが、手形や小切手のようなものはあるらしい。

 厳密には違うのかもしれないけど、貴族や商人以外にはあまり縁のない代物だということだ。機会があれば本物を見せてくれると言っていたけど、ひとまずの生活には必要なさそう。


 お金は金属と表したのは、すべてがコイン型ではないからだ。

 日本円でいうところの一円が、青銅板貨幣。長方形で板状になったものに細工が施されている。

 ついで、十円が青銅貨幣。これはコイン型。

 百円が銅貨幣、コイン型。銅には板状型がない。

 百円の次は千円になる。これがこっちは、鉄貨幣。コイン型。

 んで、一万円が銀板貨幣。板状型だな。

 五円、五十円、五千円となかったのに、何故か五万円はあるらしく、それが銀貨幣。コイン型となっている。


 で、まだ上があったりする。

 十万円にあたるのが、白銀貨幣。若干小判型になっている。


 で、だ。まだ上ある。


 百万円にあたるのが、金貨弊だ。これがコイン型。

 一千万円にあたるのが、白金貨幣、小判型となる。この白金貨弊ってのが一番の高価貨幣らしい。 

  

 わりと細かいとか思ったけど、向こうの世界は国によって違っていた分、統一されているこっちの世界の方が随分簡単だから我慢だ。ちなみにお金の単位はエルツと呼ばれている。

 



 当然ながら、通常市場に出回るのは白銀貨までが多い。

 屋敷の使用人の平均月収が、白銀貨三枚程度。まぁ、屋敷の使用人の場合住み込みが半数以上だから、普通より少ないと見ていいだろう。

 しかしながら、フェーレの屋敷だし一般から見れば給金がいいはず。


 おそらく、平民の一般月収は二十万から四十万の間。

 白銀貨二枚から四枚程度が妥当だと思っている。


「ふむ」


 手持ちのお金を見る。

 先ほど屋台で焼き鳥を二本買った。一本で青銅貨五枚。二本で銅貨一枚を使ったかたちだ。


 残っているのは、銅貨九枚。

 青銅板、青銅貨、鉄貨、銀板と十枚づつ。それと、銀貨五枚に白銀貨三枚。


「……お小遣いにしては、金額がでかいな……」


 露天からほど近い木にもたれながら、焼き鳥の一本は自分で、もう一本はロウとスイで分けながら食べる。

 フェーレの屋敷で食べていた料理に比べると若干味が劣るか、などと失礼な感想を抱く。

 もっともそれ以前の森生活の食事情があるので決してまずいとは思わない。十分に美味しい。


「むー……」


 日はまだまだ高く、時間はまだある。


 半年間でこっちの常識も大分身に付いた今となっては、このまま俺たちだけで旅に出てもなんとかやっていけるんじゃないかとも思ってる。

 もともとそのつもりだったし。


 このまま旅立つのが正解か、それとも戻る方が正解か……悩むな。

 フェーレは戻ってきて欲しいと思うだろう。

 屋敷の人たちの大半はこのままいなくなって欲しいはずだ。


 リッツとクィーツ判断が難しい。

 俺に対しての興味もあるけど、情もある。この場合、フェーレや屋敷の人達とは逆で……興味が引き止めたい方、情が旅立って欲しい方だろう。

 俺の目的を知っているし、屋敷の状況も把握している。

 好転するのは難しいと思っているだろうからね。






 どちらでも俺の好きなようにしろ、という意味でこの小遣いの量といったところじゃないかな。


「ふむ」


「がう?」


 さっきからうんうん悩んでばかりの俺に、食べ終わったロウが首を傾げる。


「今更ながらに、何をどうしたらいいのかがわかんないんだよなぁ」


「がう?」


「森のことをどう調べて助けたらいいのやら。魔素に詳しい学者とかに話を聞きに行けばいいのか? 俺が理解できるのか?」


「……きゅ?」


「そもそも最果ての森なんてほとんど知られてないっぽいしなぁ……」


 項垂れる俺を励ますように二匹がじゃれついてくる。

 うぅ、癒されはするけど解決にはならない……


 行き当たりばったりになってしまうのは仕方がない部分もあるけれど、いい加減方向性は決めないとな。

 フェーレのところに留まって情報を集めるのもひとつの手だけど。


 折角の機会だから、このまま世界を見て回るのも悪い手じゃないとも思うんだよね。


 もっとも、苦労は多そうだけどさ。


「いつまでも保護者付きじゃ、成長しないってことだよね。うん、よし。決めた!」


 拳を突き上げて宣言。


「旅に出るぞー」

「がぉーん」

「くきゅ!」


 ちなみに、街中なので変に目立たぬよう皆小声の範囲です。

 このあたり、うちの子達は賢いんだよね。


「さて。そうと決まれば早速宿探しだ。確かあっちの通りにそれっぽいのがあったんだよね」


 あ、でも俺の場合動物同伴可でないといけないのか。

 最悪、俺だけ宿でロウ達は外だな。俺も別に外でもいいんだけど……街にいるのに外って不審者っぽいし。

 うーん……ちゃんとしたベットでの宿泊はどっちでもいいと思うあたり、森の生活はとことん俺の根性を鍛えてくれたらしい。人は慣れる生き物というけど、俺ってなかなかの順応力を持っていたんだなぁ。


 まずは俺たちだけで生活力を身につけるのが目標かな?

 屋敷で学んだこと以外の常識をここで確保。

 同時に、お金を稼ぐ方法を確保しつつ情報収集。ひとまずの拠点は、この王都ミルド。


 うまくいかなければフェーレの屋敷へ駆け込む、と。


 我ながら逃げ道を作った状態でのスタートはどうかと思うけど……ま、こんなもんでしょ。





「お客さん、動物は困ります」




 最初の宿屋にはあっさり追い出されて、最初から帰りたくなったのは内緒だ。

 




やっと旅に出ました。

通貨の説明、真剣に覚える必要はないかと。ただ、どれが高級でどれが一般的に使われるものかなんとなく把握してくださればそれで……作者もよく覚えてないくらいなので滅多に出てこない、かも。


お金の単位追加しました。エルツです。


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