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異界の森の王  作者: 唯愛
旅立ち~思わぬ障害~
11/38

幕間 大木と癒しの娘

読まなくても本編に影響は無しです。





「お久しぶりです、森の王」


『久しいな、癒しの娘』


 さわさわと大木の葉は揺れる。

 女性は小さく笑い、そっと大木に触れる。


「もう娘という歳でもないわ。人の寿命は森に比べればとても短いのよ?」


 咎めるような口調だが、当然ながら怒っているわけではない。

 樹に乙女心を理解しろという方が無理な話だと理解しているし、その程度で怒るほどの子供でもない。


「それでも……この森も、随分変わってしまったのではない?」


 寂しそうに言葉をこぼす女性に、大木も寂しそうに返す。


『十数年、たったそれだけの時間。森は焼かれ、民は殺され、随分荒らされてしまったのぉ……森の子らは頑なに外を拒絶するようになってしもうた』


 今にもため息をつきそうなほど沈んだ雰囲気で語る大木。

 さわりさわりと揺らめく葉の音が、泣いているようにも聞こえてくる。


「国も……滅んでしまったわ。夫も子供も死んでしまった。守るべきものはもう……失くなってしまった」


 わずかに声が震えた。

 目から涙が一粒ずつこぼれ落ちる。


「けれど……私はまだ、死ねない。人が、生きてる……まだ、懸命に生きようとする人がいる」


『癒しの娘よ、その力……人のために使うつもりか?』


「勿論。私たちを人は魔族と呼ぶけれど、私たちの内面は人と何ら変わらない。夫のように理解してくれる人もいるわ。いつか、後悔する日が来るかもしれない。それでも、何もせずに見捨てることはできない。森の王……お願い」


『……そなたは強いな。失ってもなおその心は変わらぬ。構わん。我が葉が必要ならば、持ち帰るが良い。そたなたの薬を待っているものがおる』


「ありがとうございます……きっと、これが最後ね」


 彼女は目を細めて、大木を見上げる。

 高く高くそびえる大木。


『我との別れを惜しむか、癒しの娘よ。ほっほ、嬉しいものだの。ならば、折角じゃ。我をひと枝、持っていくといい』


「森の王、何を!?」


『人の手で我が枝を育てるのも良い。この地を離れて育った我が枝葉は随分と効力を失うが、全くなくなるわけではない。気休めであれ、ないよりはマシかもしれんの。持ってゆけ』


 大木の言葉が終わると同時、突如パキンっと小さな弾けるような音をさせて、ひと枝地に落ちる。


「……こんなにしてくれても、私には返せるものがないのに」


 そっと地に落ちた枝を拾い上げる。

 だが、今度はさわさわと揺れる樹からまだ青々とした葉が落ちてくる。


『我の寿命は長い。いずれ人の子に返してもらおうぞ。そなたの意志を受け継ぐ子にな』


「……いるかしら?」


『案ずるな。必ずいる』


 一片の疑いもなく断言する大木に、彼女は笑いをこぼす。

 何の根拠もないのに、けれど思わず納得してしまうほどに力強い。


「そう、ね。きっとこの恩は返す……私の意思を誰かに継いでもらうためにも、頑張らないとね」


『それでこそ癒しの娘よ。自分の信ずる道を歩め』


 薬師としてたくさんのものを癒してきた彼女。

 そして、ほんの僅かな癒しの力を持つ彼女。


 これからも、誰かを癒すことで生きると決めた彼女。




 彼女が大木であるリョクと最後に分かれて何百年とたった。


 そんな約束があったことさえ、忘れてしまうような永い時。




 彼女が自分と話をした最後の人となるのだろうと思い始めていた、そんな時。


 唐突に、目の前に現れた人間。



 癒しの娘と同じ、癒しの力を持つ者。

 まるで、彼女が彼を導いてきたかのように、恩を返すために命尽きかけるリョクの下に現れた。




『癒しの力を持つものよ、何故 我を癒す?』


 

 無知でありながら本能的に感じ取ったモノを、無意識に癒そうとする者。

 あの癒しの娘に似たものを感じ、何故か大木は嬉しさが込み上げてきた。


 理屈ではない。

 

 そんな確たるものなど何一つない。


 それでも、大木は、この最果ての森の王は思った。




 やっと。

 この森は、昔のような穏やかな森に戻れるかもしれぬ、と。

 




 

シンがこの世界に来て割とすぐにリョクに出会ったのは、彼女の導きではないかという説。真実は闇の中~

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