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異界の森の王  作者: 唯愛
旅立ち~思わぬ障害~
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第十話

魔素についての説明補足などなど。

以前の説明と矛盾がなければいいなぁー(確認しなさい)




 事件です。

 どうやらリョクの知識は人の常識とは違っていたようです。





 この世界に来てからリョクに教わり、使い慣れてきた魔法ではあるけど。

 人が使用する場合、通常は既存の詠唱を使用して魔法を放つそうなのだ。


 この事実を知った時の俺の驚愕がどれほどのものであったか……


 だって。

 だってさ、最初に聞いた気がするんだよ?

 魔法って何かを唱えたり魔方陣書いたりするの? ってさ。


 そりゃね、リョクはこう言っていたと思うよ。

 自分は樹であり、人とはちょっと違うかもしれないって。でもさ、ほら。自然と身につくからっていう感じだったじゃん?


 呼吸と同じで思うままにやれ、みたいな感じだったじゃん?


 で、それを実践したら出来ちゃったからさ。

 そういうものだと思うのは無理もないと思うのですよ。うん。




 それが。


 まさか、ここに来て違うよって回答がくるとは思わなかった。

 えぇえぇ、思うわけねぇだろが。だって、詠唱とかなくても普通に魔法使えんだもんよ。


 おっと。

 あまりのことにやさぐれてしまった。落ち着け、俺。



「シン?」


 現在、魔法の勉強中であることを忘れ心の中で愚痴っていた俺に、話を聞いていないと悟ったリッツが声をかけてきた。


「ん。ごめん。詠唱、ちょっと難しい、から」


 慌てて言い訳を並べる。

 まぁ、日常会話に滅多に出ない単語である詠唱は真実今の俺には難しいので嘘ではない。


 こうなってしまっては、この世界の言葉がわからなかったのは幸いだったのかもしれないとさえ思えてきた。

 フェーレやリッツは俺が多少なりとも魔法を使えることを理解しているようだが、日本語で詠唱を唱えているだけだと思っている。実際は詠唱なんて必要ないのだが、その事実は今のところ隠している。フェーレたちが信用できないわけじゃないが、隠しておいたほうがいいような気がした。


 大分、言葉も文字もわかるようになり、最近はひとりで本を読んで勉強できるまでになった。


 それで、通常魔法は詠唱が必要であることを知ったわけである。

 フェーレ達が勉強内容に魔法を取り入れる前に、面倒がらずに自力でコツコツ勉強しておいてよかったと思ったよ。


 それと、普段の生活において魔法を乱用しなかったのも大きい。

 うん、俺えらい。




 フェーレ達には、俺が森から来たこと、森を救うすべを探していることを話した。

 リョクのことは話していない。

 これは、リョクに言われていたからだ。


 外に世界に出る時があれば、本当に信頼し、この者になら命を預けられると思う者以外には自分のことは話すなと。


 リョクはあの森の主であり、その昔は人も訪れていたそうだ。

 まだその頃は、魔素が濃くともほとんど蝕まれることなく存在していた森には、野生の獣は多くいたが魔物と呼ばれる存在はあまりいなかった。


 余談だが、魔物は魔素に蝕まれた存在のことを指す。

 生き物が魔素に蝕まれ魔物と呼ばれることもあれば、生き物でないものに魔素が一定以上溜まり突如生き物のように動くものも魔物である。

 人がどこまで知っているかはわからないが、リョクによれば魔素といっても何種類かタイプがあるのだそうだ。

 ……魔法の勉強してて思い出した。生きるのに必死で、細かいことは聞き流しててごめんね、リョク。

 えっと、それでこれは魔法と同様で、属性があるらしい。


 ただし、魔素の場合は目に見えてわかるわけでもなく非常にわかりにくい。


 俺なりに解釈したものであるが、分かりやすくまとめるならリョクや森を蝕む魔素が負のイメージ。まぁ、闇とするなら、魔法への耐性など自身を守る要素を含むのが正のイメージで光。

 あとは、火、水、風、土、木、雷、氷といった各属性も、各属性の魔素があるからこそ魔法というものが完成する。


 魔素自体はこの世界にとって必要不可欠とも言えるものだ。

 故に、魔素が濃いこと事態は決して悪いことではなかった。むしろ、多いというのは森にとって恩恵ですらあった。

 闇の魔素自体も、一定量ならば生き物にとって生命力を溢れさす必要なものなのだから。



 だが、ここ数百年の間に徐々に闇の魔素だけが異常に増え、魔素のバランスが狂い闇の魔素に蝕まれるものが激増したそうなのだ。



 そして、それは人の中でも起こる。




 人の大半は魔素の影響を受けにくい体質をしていると聞いた。

 だが、それゆえに魔物と化さずに激増した闇の魔素だけの影響を受け歪む者が出た。


 恐ろしいのは、他の魔物と違ってひとつの思考のみ蝕まれたりすることだ。

 それ以外のことは他の人間と何ら変わらないから、蝕まれているということに気づきにくい。


 例えば、好きな人に関してのみの思考を蝕まれたとする。

 その好きな人が絡まなければ、その人はまったく普通に生活をし続けるのだが、好きは人が絡めば狂人と化す。その人を手に入れるために、あらゆる手を使うのか、極端に誘拐や殺人といった突拍子もない行動に出るのかはわからないが……



 過去、リョクの下に訪れた旅人たちの中にひとり。

 蝕まれたものがいたことがあるそうだ。


 リョクの葉は、高い効能を持つと言われていて、その葉を求めてやってきた者たちだった。


 最初は和やかに、数枚だけなら持って行ってもいいということで話が決した。

 彼らは約束通り、十枚程度を手にして森を去ったそうだ。


 しかし。

 数日後、またリョクの下に彼らは訪れた。


 彼らのリーダーらしき人は、人の街で流行っている病を完治させる薬を作るにはもう少し葉が必要だ。

 もう少しだけ、分けてはもらえないかと必死で頼み込んできた。


 リョクはもう少しだけならば、と答えた。


 旅人たちはそれを聞いてお礼を言った。

 いや、途中まで感謝の言葉を述べ……途中で切れた。

 原因は、旅人たちの仲間の一人だった。リーダーが感謝を述べる言葉の途中で、彼を背後から刺したからだった。


 彼の仲間たちは困惑し、彼に言葉をかけた。

 すると、彼は歪んだ笑みをこぼして答えたのだそうだ。


「少しと言わず、その木を切ってもって帰ればいい」


 当然すぐに取り押さえられはしたそうだ。


 彼の子供は流行病に侵され、一刻を争う状況であったのだという。

 仮に今回、数枚の葉を持ち帰ったとしても街の人間全員分あるかと言われれば……おそらく足りない。それゆえの凶行であった。


 

 リョクの葉を狙ってくる、魔素に蝕まれた人間は……その後も何十人といたらしく。


 中には森に火を放ったり、仲間を殺してしまったり。

 詳しくは語らなかったけれど、悲しい出来事が徐々に増え…………森は、リョクを傷つけようとする人をいつしか拒絶するようになった。



 それでもリョクの下に来る人は多少いたそうだ。

 

 けれども徐々にその数は少なくなり、やがて誰も来なくなって数百年。

 おそらく、リョクの存在を人は忘れたのだろうと言った。

 ようやっと、人は自分を忘れてくれたと言ったリョクは少し寂しそうで、嬉しそうだった。

 忘れたままでいてほしいと願う言葉に、頷く以外の方法はとれなかった。





「…………リッツ」


「ん?」


「魔法、だいたいわかる。詠唱は一人でも勉強、出来る。それよりも、教えて欲しいことがある」


「教えて欲しいこと?」


 首をかしげて俺を見るリッツ。

 俺の目が真剣なのがわかったのか、手に持っていた本を閉じて言葉を待ってくれた。


「うん。歴史の本、見たい。昔のこと、書いてある物語とか。それと、戦い方」


「戦い方……!?」


「うん。リッツ、強いから。俺は森では強い、けど、ここでは強くない。魔法使わないで戦う、教えて欲しい」


 リッツはわずかに目を見開くと、しばらくてし顎に手を添えて考え出した。

 フェーレは貴族っぽいし、リッツはその執事みたいな感じだ。だけど、ただの執事ではないことくらいは見ていればわかる。


 向こうの世界にいた頃ならきっと分からなかっただろうけど、知らず知らずのうちに身についた能力か……なんとなく、リッツは強いだろうなということがわかる。

 何を根拠に? って聞かれれば困るわけだけど。組手くらいはしたから余計に分かるんだよね。

 身のこなしがしなやかというか、鮮やかというか。


 あと、フェーレも強いと思う。

 リッツほどじゃないけど、それなりの立ち回りは出来ると思う。でも、フェーレは魔法の方が得意じゃないかなっと。


 クィーツも強いね。

 魔法は得意じゃなさそうだけど。前にちょっと大きめの剣を持ってたことがあって、とても様になっていたな。

 素手の組手もなかなか強い。



 多分、この屋敷でリッツが一番強い。次いでフェーレ。

 使う魔法によってフェーレが勝つ場合もあると思うけど。


 で、三番目がクィーツだと思うんだよね。


 俺がこの屋敷で平穏に過ごせてたのは、リッツとクィーツがそばにいて、何かあれば二人が対処してくれるという安心感があったからだと気づいた。

 そして、逆に屋敷の人間から俺も守られていたということも。


 この世界で初めて出会った人間が、フェーレのような人でとても幸運だと思う。


「……シン。お前はどういう風に教えて欲しい?」


「人としての、戦い方が知りたい。俺の戦い方、獣と同じ。殺す、決めたら容赦しない。殺さない、決めたら逃げる。森ではそれで十分。でも、人の街、それではダメ。違う?」


「なるほど。殺す術じゃなく、倒す術を教えて欲しいってことかな? それなら、了解。いいよ」


「ありがとう!」


 礼を言うと、リッツはふっと柔らかく笑って俺の頭を撫でた。

 うーん、こうやってされる度に思うんだけどね?

 俺、そんなに小さい子みたいに見えるかなぁ?


「シンは武器とか使うの?」


 リッツのその言葉に、俺は少し悩む。

 森で生活していた時にはもちろん、武器らしい武器はなかった。

 だけど、魔物もいるこの世界で生きるには多少なりとも武器は必要になるかなぁと思っていたのは思っていた。


 なので、俺に似合った武器はなんだろうかと考えた。


 正直に言えば、スタンダードに剣が格好いいかなとは思った。

 槍にも興味があったが、長い槍やら棒なんかはとてもじゃないけど森では邪魔になるだけであった。

 弓は命中率を魔法で補って使うのはいいけど、やはり普通に射た時の命中率とか咄嗟の対処に不安があった。

 他にも様々な武器はあるけれど。


 俺なりにたどり着いた答えは、これだ。


「ナイフみたいな、小さな剣がいい。それと…………斧?」


「……おの?」


 ぽかん、とした表情のリッツ。


 うん。だよねぇ。

 俺も予想外の結論だった。


 けど、考えが結果たどり着いたのは斧。


 森で生活していた時にはもちろん斧なんて使ってなかったけど、ハンマーに近い物なら作って使ってた。

 モロ石器時代の住人である。

 そう、木の棒に大きめの石をくくりつけた、アレ。


 けど、ハンマーは相手を殺さずに倒すには向かない気がするんだよね。

 それに、十分な凶器にはなるけど武器って感じは薄いし。


 そうなると、それに似ているのは斧だ。


 斧なら一応、刃があるので脅し用にも持ってこれるし、柄部分で殴れば相手を気絶させるだけに止められる。

 細かい小手先の技とか無理だろうから、こうガツンと一発みたいな方が俺に向いているような気がするしね。


「うーん、斧かぁ……」


 微妙な表情のリッツ。

 俺の体つきはごつくないから、一見向いてないように見えるのかもしれない。


「まぁ、シンが言うなら用意するよ」


「うん」


 まぁ、いろいろ考えたけど実際扱ったことはないからなぁ。

 いろいろ試させてもらえると嬉しい。


 短剣はすぐにでも出せるとのことで、まずはそっちの使い方から教えてもらうことになった。


 


どうしても王道から外したかった。

得意属性、土、木、水の主な武器は斧。森といえばこれでしょう(偏見)

遠距離攻撃は魔法があるので弓ではないんですよ?

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