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異界の森の王  作者: 唯愛
プロローグ~異界の地 最果ての森~
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第一話

残酷描写アリは保険程度。

ダークな内容は予定にないです。基本、のんびり。

 電車から降りて、見上げた空。

 見事な満月。

 黄色に輝くまんまるな月は、今日は大きく見える。


 ふぅと息を吐く。

 ここから家までは歩いて十分もかからない。

 瞬き一つ、それから前を向く。


 


 何故、そうなったのか。

 自分だったのか場所だったのかもわからない。


 けれど。



 それは唐突に――――






 そう、




 唐突に、訪れる。





「あれ?」




 空気が、変わった。


 蒸し暑い夜だったはずだ。

 それが、僅かにひんやりとするほど涼しく……空気が濃くなった。



 最初に気づいた変化がそれだ。



 そして、踏みしめた地面の感覚が柔らかかった。


「……え?」


 アスファルトの硬い地面じゃなく、土と枯葉に覆われた柔らかい地面。


 電気で照らされた道はなく、星あかりだけの真っ暗な木々の中。


「えぇ?」


 くるり、と後ろを振り向いても、道もなく電気の明かりもない。

 さっき通り過ぎたばかりのコンビニも、自動販売機も。

 すれ違った車や、自転車に乗った人すらもなく。


「…………えー……?」


 天を仰げば、先ほどと違う空。

 月のような大きさの星は緑と青の二つ浮かんでいる。


「…………嘘だろ……?」


 呆然と、言葉がこぼれた。







 ■ ◇ ■ ◇ ■





 何の偶然か、唐突に異界に降り立ってしまったと考えるのが妥当なところだろう。


 何かを誰かに依頼されたわけでもお願いされたわけでもない。


 自分が覚えていないだけという可能性は捨てきれないが、前後の記憶からそれはないだろうと思っている。


 手には家に戻ったら食べる予定だったお弁当と、次の日の朝ごはんとして買っていたパン。

 それから、お昼ご飯用のパンと飲み物。

 とりあえずの食料は大丈夫だった。



 今は、どこかの森っぽいところにいる。


 道らしい道はなく、木々の合間から見える空は暗い。

 夜であると考えている。

 今のところ獣の気配はない。ここは大丈夫なんだろうかと一抹の不安がよぎる。


 幸い、目はいいほうだ。

 夜目も効く。


 大きな木を背にして、息を殺す。


 ここは、どこだろうか?

 人里が近ければいいのだが……そもそも、人がいるかどうかも分からない。なんだよ、ここ。


 わからないことばかりで心臓がドクドクと脈打つ。

 どうしてどうしてと焦ってばかりで冷静に考えられない。落ち着け、俺。


「ふぅー……」


 深呼吸を繰り返し、考えを巡らす。

 空気が濃い。

 都会じゃなかなか味わえない。


 とりあえず、息ができる場所でよかった。


「…………今動くのは危険かな?」


 樹を背にしたまま座り込む。どことなく、地面が湿ったように感じられた。

 今の心情は多分、怖い、だ。


 何が起こったんだろう。

 そんなことをぼんやり考えて日が昇るのを待った。




 朝日が見えたときはほっとした。

 その時に、手に汗をかいているのに気づいて自分がかなり動揺していることが分かった。


 賞味期限が近く、密封されていないので匂いがするかもしれないお弁当を先に食べ、宛てもなく歩き出すことにした。

 一応、この場所に目印をつけて。




 歩き出して、どれくらい時間がたったのか。

 日が中天に差し掛かったころではあったが、ここがどこだかわからない以上時間も俺がいた場所と同じなのかも断定できない。


 俺は一際大きな樹を見つけた。


 近所の神社のご神木よりもずっとずっと大きく太い。

 ぽかん、と間抜けに樹を見上げていただろうと思う。


 なんだろう?

 でかくて立派な木なのに、元気がない?


 枯れているわけではない。

 立派な葉をつけて、風に揺られている。


 けど、苦しそうに見えた。


「……」


 なんとなく、そう感じただけ。

 だから深い意味もなく、その樹を撫でたのだ。





 

 


『癒しの力を持つものよ、何故 我を癒す?』






「へ?」




 突然の声。

 いや、これって声?


 えーっと?


 なんていうんだろ、ぼわわーんっと音が響いてそう言ってるように聞こえる。

 けど、人の声みたいにはっきりしない。


 深い深い、森のような声だ。


『質問には答えぬか?』


「ぅえっ? あ、うん。えーっと……え?」


 再び聞こえた音に慌て、そして首を傾げる。

 また聞こえた声は、どこからっ!?


 きょろきょろとあたりを見回す俺が不審に見えたのか……見えるというのもおかしな表現かもしれないけど……更に声が落ちてくる。


『ふむ……? おかしなモノだな……我が分からぬのか? そなたが今触れている樹が我よ』


「……は? え? これ?」


『これ呼ばわりとは……随分じゃの。見たところ人のようじゃが?』


 ……どうやら、このでかい樹が話しかけているようである。

 どうなっている、ここは。


 樹がしゃべるとか、どんなファンタジー世界だ!


『人がこのような最果ての森に来るとは、何かあったのか?』


「さいはての、森?」


『む……ふぅむ。ここが何処であるか知らぬか、人の子よ』


 何が起こっているのかよくわからない。

 よくわからないが。


 とりあえず、樹でもなんでもいい。

 会話できるってことは何か知ってるかもしれない。よし。


「あ、あの。俺……いや、僕はですね。ここと全然違う場所から来まして……それで、えっと。気づいたらここにいたんです。帰り道とか、知りませんか?」


 必死に言葉を並べた。

 並べたつもりで、意味がほとんど通じていなかったのは後で気づくが。


『落ち着け、人の子。すまんが帰り道は知らぬ』


「は、はぁ。そうすか。えぇっと、それでですね、お…僕は、どうしたら?」


 オロオロとする俺にあきれたような声が落ちる。


『落ち着けと言うに。それにしても不思議な子じゃのぉ……のぉ、人の子。ゆっくりと話を聞かせておくれ』


「は、はい。えっと……」


『ほれほれ、落ち着けと何度言うたらわかるのか。まずは座って自己紹介からどうじゃ? 』


 落ちてくる声は、のんびりとしていて。

 焦った心が落ち着いてきた。

 そうだ、ゆっくり。ちゃんと話をしよう。


「俺は、森野。森野深樹」


『モリノシンジュ、か。ワシはただの、果ての森の最古の木。この森の主とも呼ばれることもあるかの』


「俺のことは……シンと呼んでもらえれば。シンジュってのは、なんか女みたいだから好きじゃないんだ」


『ふむ、雄雌の機微はよぉわからんが、そう言うのであればそなたのことはシンと覚えよう』


「じゃ、俺は主様と呼べばいいですか?」


『ほっほ。主様か、悪くないの』


 さわさわっと葉が揺れる。

 まるで笑っているみたいだ。


『ではシン。どうしてこの場所に来たのか、話してくれるか?』


「……うん。といっても、よくわからないんだ……」


 そうやって、俺の身に起こったことを簡潔に話す。

 俺がもし、話を聞く側なら信じられなかっただろう。

 そんな突拍子もないような、馬鹿げているような話を、主様はのんびりと聞いてくれた。








主人公はあんまり慌てた感がないですが、しっかり混乱してます。

混乱すると頭がまず真っ白になるタイプ。

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