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臆病なノラネコの捕まえ方


『下世話な話だがな、アカネは自分の体を売って過ごしてるんだよ』


『それって…』


『一夜限り、夜を過ごすために女から金を受け取り"寝て"いるんだよ』



――……



「はぁっ、はぁっ!まって!キミっ」


幸いなことに彼を見つけるのは簡単だった。

渡り廊下を歩く彼を見つけた私は無我夢中で駆けていた。


「ちょっとキミ!」


私がいくら呼びかけても彼は歩く足を止めず、スタスタと廊下を渡ってしまった。

聞こえないわけが無い。私と彼以外は誰もいないのだから。


「アカネ君!」


「……?」


思わず先生が呼んでいた名前を叫んでしまったが、彼はようやく足を止めてくれた。

ゆっくりと振り向いた彼は不思議そうに首を傾げて私を見ていた。


「はぁっ…はぁっ…キミ、泊まる家が無いん、でしょ?」


「…それが、なに?」


彼は家が無いことを笑われるとでも思ったのか、少し不機嫌な顔になった。


「あ、いや、そのさ…」


「…用が無いならいくよ」


いざ彼を前にすると恥ずかしくなってきて中々言い出せない。

たった一言言えばいいだけじゃない。何を戸惑っているんだ私は。


「と、泊まるところないなら、うちにおいでよっ!」


「…え?」


「あっ、いやっ、嫌なら別にいいんだけどさ!」


「…キミがそういうなら、いいよ」


一瞬何かを考えたかと思うと、無表情のままに答えてくれた。


「あ、別にお金とかはいらないからね?」


「……」


屋上のこともあって釘を刺しておく。

そういえば、この子の名前を聞いておかないと。


「キミの名前は?」


「…宮下(ミヤシタ)(アカネ)


アカネって下の名前だったんだ…。

それにしても茜って名前、男の子にしては珍しい気がする。


「それで…――」


私が口を開いたのと同時に、昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

このチャイムから5分後に授業開始のチャイムが鳴る。

つまるところ早く教室に戻らないといけない訳だ。


「とりあえず、放課後に保健室で話し合おうか」


「ん…」


つもり話は後程ということで、私は彼に別れを告げ、自分の教室へと戻った。






はずだったんだけど…。


「なんだ?珍しく今日は宮下がいるじゃないか」


どうやら茜君と私は同じクラスだったようで。


「保健室に集合とか恥ずかし…」


今まで気づかなかったというより私が周りに無関心だったのが原因なのだけど。

琴音は同じクラスだってことは知っていたらしい。


「つまり、さる者ありとは、の訳はそのような者がいるとは、となる」


時折窓際にいる茜君を見てみるが、茜君はずっと窓の外を眺めてばかり。

たまにあくびをしたかと思うと、ノートに何かを書いていた。


「宮下が珍しいのは分かるがなァ、授業と宮下どっちが大事なんだ岸田ァ?」


「ひゃっ!?す、すみません!」


周りから冷やかしの笑いが木霊する。

私はチラリと茜君を見たが、彼は私を見ることなく窓の外を見つめ続けていた。


ちっともこちらを見ない茜君に、私はだんだん腹が立ってきた。


「ちょっとぐらい見なさいよ…バカ」


私は誰にも聞こえない声で呟いた。否、そのつもりだった。


「?」


しかし茜君は今までの無関心っぷりが嘘であったかのように。

まるで私の文句が聞こえたかのように。


「……」


今度は私の方を見て首をかしげていた。



これ以上怒られるのは嫌なので授業へと頭を切り替えたが、琴音曰く、授業が終わるまでずっと茜君は私の方を見ていたらしい。



なぜ一番前の琴音がそんなことを知っていたかはあえて聞かないでおいた。




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