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異能者戦争

ガタッ


僅かに装甲車が揺れた。・・・・今この鋼鉄の箱車は、何を轢いたのだろう?俺はこの俺は狭い兵員区画でふと思った。

それは何処にでもある石ころか、戦場で捨てられた銃か。はたまた、死んだ人間か。

この場所では、そんなことは当たり前だ。何百という軍人が死に、何千という民が死ぬ。


「・・・おい、若造」


俺はゆっくりと頭を上げ、この小隊の隊長を見る。隊長はこの薄暗い兵員区画の中で愛銃を手入れしながら俺を正面から見据える。その目は執念の火が宿っているかのように輝いていた。


「はい、なんでしょうか隊長」

「覚悟はいいか?バケモノどもを消し去るぞ。一人でも多く、この世から・・・!!!」

「・・・はい」


バケモノとは異能者に対する差別語だ。噂では、隊長は息子を異能者に殺されているらしく、彼は復讐のために正規軍を抜けてこの組織に入ったのだという。

「お前はこの隊の中でも最年少だが、俺達は子ども扱いするつもりはない。気を引き締めろ。バケモノ共

に捕まったらお前みたいなガキでも終わりだぞ」


「・・・はい」


隊長の言うとおり、俺はこの部隊の中で最年少だ。他の隊員にも、若すぎるとよく言われている。だが、そんなことは関係ない。俺は他の隊員と同じく、異能者を殺す、そのためにここにいるのだから。

『もうすぐ戦地に到着する。到着後、各自散開し、敵を撃破しろ。戦闘中この装甲車は小隊指揮車として使用し、各情報は総合指令車からこちらを中継して各自に送る』

運転席から声が聞こえ、俺は装備の最終確認をする。自動小銃、手榴弾(パイナップル)、予備弾倉、防弾ヘルメット、防弾チョッキ。異常なしだ。


「よし、いくぞ・・・!」

「はい・・・」


俺達は愛銃を持ち、いつでも出られるように構える。外から聞こえる銃撃音や爆撃音が大きくなっていく。


ガシャン!!


装甲車が到着と同時に急ブレーキをかける。俺はその慣性に逆らいながら到着と同時に

勢いよく開け放たれた背部ハッチから俺達は次々と戦場へ身を投じていった。



すでに到着した隊員や装甲車が戦闘を行っている。こちらの銃からは火が吹き、敵陣からは雷撃や氷の槍が飛来してくる。

俺は作戦通り散開し、近くの木箱の陰に隠れた。状況把握に、と味方を見ると、ちょうど目が眩むような光と共に飛来した巨大なレーザーのような炎によって、装甲車が一台破壊、いや、融解した。

あんなのに当たったらひとたまりもない。俺は冷や汗をかきながら、木箱から顔を出して引き金を引く。

装弾数60発。その比較的多いはずの弾丸はあっという間にマガジンから消えた。そして陰に隠れてからリロードする。これだけで危険がかなり減ると、訓練で習った。

そしてもう一度顔を出し、撃とうとしたとき――――


車がこちらに飛んできているのが見えた。


俺は反射的に陰から飛び出した。その直後に木箱が押しつぶされる。間一髪だった。


「ッ!念動力(サイコキネシス)か!!」


誰にも聞こえない愚痴をこぼしながら、次に俺は廃墟となったビルの中に逃げて一気に三階へ駆け上がる。戦いでは、敵より高い場所の方が戦術的アドバンテージが大きいのだ。

三階の窓から戦況を確認する。運よくこのビルからは味方陣と敵陣の両方が見えたので、よく状況がわかった。

敵はざっと見て15人。そのうちわかっているのが念動使い(サイコマスター)、火炎使い(パイロマスター)、電撃使い(エレクトロマスター)、氷結使い(フリーズマスター)。どれも大規模な能力を使っていることから、全員かなりの使い手なのだろう。初陣がこんな大所帯とは。まぁ、それでも俺が異能者(バケモノ)共に復讐することには変わりは無いが。

どす黒い復讐の炎が燃え盛り、殺意と戦意が高揚してくる。コンバット・ハイではない。氷のような冷静さは失わなかった。

俺は静かに銃を構え、サイコマスターを狙う。夕焼けで狙いが点け難い。やっとのことで狙いを点け、そして引き金を引こうとしたとき―――――突然誰かが『現れた』。

走ってきたわけでも、飛ばされてきたのでもない。文字通り、瞬間的に現れた。瞬間移動、テレポーターだ。しかも一人ではない。もう一人は戦場にしゃがみこむと、そこから岩の槍が突き出し、槍は何本も生えてどんどん味方に迫っていって遂には味方のバリケードを貫いた。大地を操る能力者、グランドマスターだ。あの能力はかなり厄介だと聞いている。雷撃や氷は障害物である程度防げるが、それでも俺達は大地の上を歩いているのだ。グランドマスターからの逃げ場所は無いに等しい。テレポーターはとんでもないヤツを連れてきたものだ。

すると、突然銃撃音が止んだ。怪しい。そう思ってスコープから顔を上げ—————


頭が驚きと恐怖で真っ白になった。


サイコマスターが、車ほどの大きさの岩を何十個と浮かべ、今まさに投げつけようとしていたからだ。

俺は一刻も早く逃げねばと、飛び降りるように階段を駆け下り、そして1階の入り口から外の様子を見ようとしたとき、戦場に怒声が響き、目の前に次々と隕石のように岩が落ちてきた。サイコマスターの攻撃が始まったのだ。次々と岩が飛んできて、建物や車、そして地面を破壊していく。爆音で全てが塗り潰され、そして廃墟は土煙と静寂に包まれた。


サイコマスターの攻撃が終わっても反撃の銃声は聞こえない。廃墟は静寂に包まれたままだった。

爆音で耳が痛く、そして戦いが終わったことがわかった。部隊がどうなったのがわからない今、迂闊に外に出るのは危険だと判断して、このままビルの中に居ることにした。

「隊長達は無事だろうか?」

ビルの階段を上りながらふと呟く。隊長達が生きていれば撤退できるが、全滅なら、俺の撤退は不可能だ。勝ち目が無いなら増援の可能性も低い。

ビルの四階への階段は岩で崩れていた。俺はこれ以上、上に上がるのを諦めて三階から外を覗く。

外は凄惨な状況だった。バリケードは壊れ、装甲車は歪んで火に包まれ、地面は抉れている。どうやら、俺達は負けたようだ。今回の作戦で投入された兵器は装甲車3台、戦車一台だ。装甲車はどれも火に包まれ、戦車は岩の槍で貫かれて宙に浮いている。移動手段が徒歩しか無い今、完全に撤退は不可能だ。

俺は一階に降りる。さっき一階に倉庫を見つけたので、何か使える物はないか探すためだ。

俺は一階に降り、倉庫に向かう。



幸い、倉庫の中には食糧などがあった。

これで飢えの心配は無い、と安心した時――――――


ジャリ、ジャリ・・・・・カツッ、カツッ――――――――


外から足音が聞こえた。俺はとっさに物陰に隠れ、耳を澄ます。

聞こえてくるのは聞いたことの無い声。つまり敵の可能性が高い。

俺は近接戦闘用のサバイバルナイフを抜き、気配を窺う。


「・・・倉庫?」


・・・・・どうやら敵は俺の居る倉庫に入ってくるようだ。

足音がどんどん大きくなっていく。そして、物陰から敵の爪先が見えた瞬間――――


「ッ!!」


俺は物陰から飛び出して敵に体当たりをしかけて敵を壁に押さえつけ、その首筋にナイフを突き立てた。

そして、改めて忌わしき敵の姿を見た瞬間、俺は唖然とした。


なぜなら敵は――――


俺と同じくらいの歳であろう少女だったからだ。



◇  ◆  ◇



「助、けて・・・」


目の前の少女が涙を流しながら命乞いをしてくる。俺に殺されると思っているのだろう。確かに俺達は敵同士だ。殺せるときに殺す、それが軍、いや戦争の掟だ。見逃せばいずれ仲間や自分がその敵に殺されるかもしれないから。しかし、俺の戦意はもう消えかかっていた。こんな同年代の少女が敵だと思わなかった。

俺の思っていた敵は、両親を殺したクズのような下卑た笑みを浮かべた異能者共だけだと思っていた。異能者とはそんなヤツばかりだと思っていた。しかし、目の前で怯えているのは同年代のか弱い少女。そのギャップに俺は混乱していた。

この少女も他の異能者のように俺達を見下しているのか?開放した途端に本性を現して牙を剥くのではないのか?そもそも彼女は俺達を殺しに来たのではないのか?・・・・・それとも、彼女は違うのか?

結局わからなかった。


「いや・・・死に、たくない・・・」

「・・・はぁ」


俺は彼女を殺すのを諦めてため息をつき、異能封じの手錠を掛けてから彼女を解放した。

しかし、開放されても彼女は起き上がらずそのまま倒れたままだった。


「・・・俺はお前を殺せないみたいだ」


俺は諦めた口調で言う。彼女は唖然としていて、信じられないというような顔だ。

「何で?私は、あなたの、敵、なんだよ?私が、あなたを、殺すかも、しれないんだよ?」

彼女は混乱しているのか、一言ずつ言った。その中に警戒や恐れが入っていることは容易にわかった。しかし何故彼女は自分に不利になることを言うのだろうか?俺は不思議に思った。


「・・・あのなぁ、開放したんだから文句言うな。それに、開放されて直ぐ能力を使おうとしなかった時点で俺に敵意はないんだろ?」

「え!?あ、うん・・・」

「じゃあ文句言うな」


俺はナイフをしまってから続ける。


「ま、しばらくは捕虜だがな」

「・・・じゃあ私、あの組織、に、引き渡される、の?」

「恐らくそうだが、今は俺一人だ。だから増援が来るまでここに待機だな」


俺は倉庫を漁りながら言う。


(お、コルト・ガバメントだ。貰っておこう。後――――)

「なんで、私を、助けて、くれたの?」


彼女はおどおどしながら聞いてくる。まぁ、そう簡単に警戒は解かないよな、普通。


「・・・・・わからない。でも、お前は敵だ。助けたわけじゃない」


俺は解放こそしたが、信用はしていない。そう暗に伝える。でも彼女は「そう・・・」と答えた。


「扱いについては心配するな。俺は異能者が嫌いだが、たったそれだけで乱暴したりする気は無い。当然、夜枷もな。ま、最低限の拘束はするが」

「う、うん・・・・・」


彼女は夜枷と聞いてよからぬことを考えたのか、顔を青ざめさせながら言った。戦場では極度の緊張や死の恐怖などで感覚が麻痺し、虐殺や略奪などの横行が頻繁に起きる。これは歴史が証明している。そしてこれが無関係者の被害を拡大させる要因の一つにもなっている。当然、『国際人道法』などによって守られているが、それでも混沌の戦争時だ。完全に守られる保証は無い。

彼女もその事を知っているのか、俺に対する視線が変わったことに俺は気づいた。

俺はクズ共と同類と思われていることに腹が立ち、苛立ちを紛らわせる為に彼女の手を柱に縛って2階へ上がった。



外はもう暗くなっていた。廃墟に電気は届いていないため街灯もない。あるのは未だ燃え続ける装甲車の炎の揺らめきと、何時にも増して輝く月だけだ。

俺は空を見上げる。そこには無数の星が散りばめられ、この血生臭い現実とはかけ離れた世界が広がっていた。

小さいときから星を見るのが好きだった。両親と三人でも、一人でも。

昔と比べて空は随分と汚れてしまった。両親の世代の頃はもっとたくさん見えていたらしい。それでも汚れていたのだが。



しばらく夜空を眺めているうちに何時の間にか落ち着いていたことに気づいた。

俺は彼女がいた部屋に戻ると、彼女は柱に手を縛られたまま眠っていた。


(敵の捕虜で、さらに男と二人きりなのにこんなに安心するとは、コイツ馬鹿か?)

俺は呆れて彼女に毛布をかけ、自分も壁にもたれて目を閉じた。







次の日の朝。俺は目を開き立ち上がる。早朝の薄寒い空気が肌を刺す。

彼女はまだすやすやと静かな寝息をたてている。なんて警戒心がないヤツなのだろうか?俺は呆れた。

外を見るために二階へ上がる。一階の窓は覗かれたり進入されたりするのを防ぐために封じてあるためだ。

二階から外を見る。昨日の傷跡が朝日に照らされている。燃えていた装甲車の火は消え、生々しい焦げ跡を晒している。俺は改めて戦場で一夜明かしたことを感じた。


「はぁ。これからどうするか・・・・」


何時までもここにいるわけにはいかない。天罰部隊に見つかっても俺は異能者を殺さなかった事で反逆罪、異能者達に見つかれば真っ先に俺は殺されるだろう。

もうあの部隊には帰れない。そのことに気づいた俺は絶望に押し潰されそうになった。


「まぁ、まずは彼女をどうするか、だな」


俺が一階に降りると、彼女は目を覚ましていた。縛られてない方の手で眠そうに目を擦る。


「おう、起きたか」


俺は彼女を縛っている縄を外す。


「え?」

「縛ったままだったら動きづらいだろ。手錠はかけさせてもらうが」

「何で動くの?」

「移動する。いつまでもここにいれば見つかるかも知れん。お前は異能者達に助けてもらえるかもしれんが、俺はもう天罰部隊に戻れないだろう。だからこんな戦場のど真ん中から移動する。いても意味は無いからな」

「行く場所にあてはあるの?」

「ない。だがこの時代、廃墟とかの隠れ場所は幾等でもある。後、お前に質問だ。・・・お前の能力は何だ?」


俺は脅しを込めた強めの口調で問う。質問ではない、尋問だ。そう暗に伝える。

彼女は突然変わった空気についていけずに慌てたように答えた。


「え!?えーと・・・・・わ、わからないんです」

「はぁ?」


この女には呆れるばかりだ。敵を信頼し、自らの能力も知らない。よくそんなことで戦いに来たものだ。


「じゃあいい。行くぞ」


俺達は必要な物を詰め込んだバッグを背負って移動を開始した。



俺達は廃墟から離れ、ビルから見えた山へ向かった。東ヨーロッパはこの戦争のヨーロッパ地域では主な戦場なので廃墟が多く、一度も人に会うことはなかった。

歩くこと数時間、そうして俺達が見つけたのは山のふもとの森にあった一軒の廃屋だった。


「おい、ここに入るぞ」

「はぁ、はぁ、疲れたぁ・・・」


歩きつかれた彼女は早速廃屋に入っていった。

・・・あのな、中に敵が潜んでる可能性を考えてまずノックするとか銃を持ってる俺を先に行かせるとか、ホントに何も知らないんだな・・・

俺はこれで今日何回目かというため息をつき、自分も廃屋に入る。

廃屋に入ると、彼女が椅子に座ってくつろいでいて、他の人間はいない。


「はぁ、疲れたぁ~!ねぇ、ここにしようよ!!ちょっと掃除すれば使えるよ!!」

「まぁそうだな」


俺は彼女と反対側の椅子に座り、バッグを置いた。


「・・・なんで、戦争なんだろうね・・・」


彼女がボソッと言ったそれは俺を苛立たせるのには十分だった。


バンッ!!


渾身の力で拳をテーブルに叩きつけ、怒鳴りつけた。


「はぁ!?お前ら異能者が俺達を理不尽に虐げたから、俺達は力なき民衆を守るためにお前らと戦っているんだろ!!」


しかし、彼女はいつもとは違って怯えず、きっぱりとした口調で答えた。


「違うよ!!科学者たちが私達異能者を実験台にして次々を道具のように使ったから!!だから私達はそれを止めるために戦うことにしたの!!私のお母さんも残酷な実験で殺されたから!!だから、私は・・・!!」


彼女はそう言ううちに涙を浮かべ始め、とうとう泣き始めた。

そしてそれは俺にとって強烈な衝撃だった。


「何だと・・・?いや、そんなはずは!!」


まさか自分が信じてきた事が嘘だったと、いや、そうかもしれない。今を思えばおかしいと思ったことはあった。でもそれを全て憎しみで押し潰してきた。人の好奇心はとどまることを知らない。その塊である科学者が何をするなんて簡単に想像がつく。異能とはなんなのか、異能者は何故産まれたのか、どうすればなれるのか、どこまで異能は強くなるのか、その限界は何処なのか。上げればきりが無いだろう。

だが、俺の両親を異能者が殺したことには変わりは無い。だが・・・


「・・・俺は、異能者を憎んでいた。俺の両親は異能者に殺されたからだ。でも、お前は違う。同じ異能者だけど、あのクズどもとは違う。俺は、間違っていたのかもしれないな・・・」


彼女は下を向き、涙を流している。母親のことを思い出していまったのだろう。俺は彼女が泣き止むまで黙って座っていた


「落ち着いたか?」


声をかけると、少し頼りないがこくりと頷いたのがわかった。


「俺は間違っていたよ。確証はないけれど、多分お前らの言うことが正しいと思う。人は過ちを繰り返す生き物だからな・・・」

「信じて、くれる?」

「あぁ、だからもうこの服は着ない。ちょうど、黒のダスターコートを見つけた。この家の前の持ち主の物だろうな」

「そう・・・」

「あと、俺はもうあの部隊を抜けた。だからもうお前は捕虜じゃない」

そう言って手錠を外し、鍵を渡す。彼女は赤くなった目を意外そうに開いた。

「え?な、なんで?」

「だから、お前はもう捕虜じゃないから、何処へ行ってもいいぞ。・・・それとも身を守るものが無いと不安か?」

「そ、そういうことじゃないです!私はあなたと行きます!!」

「・・・なんでだ?もう無理に付き合わなくていいぞ。故郷へ帰るのもよし、異能者達の元へ帰るのもよし、好きにしろ」

「いいえ!私もあなた達人間のこと、誤解していたから知りたいの!それと、この戦争を止めたい!」

「・・・そうか、俺も同じだ。この戦争はおかしい。お互いの認識の違い、いや与えられた情報の違いでここまでなるなんて・・・んなことあってたまるか」


俺は彼女の強い意志の篭った目を覗きこみ言った。


「だが、まずは準備が要るな。お前はここの掃除をしてくれ。俺は使えそうなものを探す」

「うん。あ、私はレティシア。レティシア・クレア」

「ん?俺はエレン・ジョシュアだ。じゃあクレア、よろしくな」


軽い自己紹介をして、俺は廃屋の調査を始めた。

廃屋は入ってすぐに俺達がいたリビング、そしてそこから廊下が伸びていて、ドアが三つある。俺はまず一番近い部屋を開けた。

その部屋には様々なものが置いてあったので、物置部屋とわかった。

そのあとも他の部屋を調べると、残り二つは個人部屋だったので、クレアと二人で部屋を分けることにした。


「おーいクレア。部屋が二つあったぞ、これで個別になれるな」


リビングを掃除していたクレアに声をかける。クレアは床を拭いているのを止めて汗を拭った。


「は、はい、よかったです。えっと・・・ジョシュアさん」

「エレンでいい。お前の部屋はリビングから見て左だ」

「はい、わかりました!」

「おう。あ、俺も掃除手伝うぞ。早く生活できる場所にしたいからな」


俺も箒、バケツと雑巾を持って廊下を掃除した。そのお陰か効率よく廃屋全体の掃除が完了したが、もう空は赤くなり始めていた。


「夕日、綺麗ですね・・・」


クレアがうっとりとしたような嘆息する。

それに俺は「あぁ」と答え、さらに続けた。


「これをゆっくり眺められるようにしたいな・・・」


俺たちは沈みゆく夕日を眺めながら、そう呟いた。

まずは、この世界を変えなければならない。それは際限なく困難で、多くの難関が待ち構えていることだろう。

だが、それでもやらなければならない。この憎しみにとらわれて互いを滅ぼしあう戦争を止めなければ、その先には人類の滅亡だ。


世界を変える。その限りなく大きな目標、その第一歩を踏み出した瞬間だった。








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