表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

夜の帰り道で

 自分の無意識ほど恐ろしいものはない。 


 仕事を始めて二年が経ち、私は少しずつ何でもこなせるようになった。だがその分、新入社員の頃にはなかったプレッシャーが重くのしかかる。夜、車で帰路につく頃には、心も体も疲れ切っていた。


 いつも通り夜の八時過ぎ、片道一時間弱の道を運転していた。慣れた通勤路だった。だが、ふと気付くと見慣れない景色が目の前に広がっていた。普段なら曲がらない交差点を曲がり、知らぬ間に長い坂道を登っていたのだ。


 目の前には広い駐車スペース。夜の林に囲まれ、昼間でも薄気味悪いであろう場所だった。慌ててUターンを試みると、車のヘッドライトに照らされたのは無数のお墓。整然と並ぶ墓石が、暗闇の中で無言の視線を向けているように見えた。


 心臓が早鐘を打つ。必死にハンドルを切り、アクセルを踏む。墓石に刻まれた名前が次々と照され、バックミラーに不気味な名残を残していった。その日はきっと疲れていたのだろう、帰宅後はお酒を飲んで忘れることにした。


 しかし、翌日の帰り道も、気付くと再び同じ坂道を登り、同じ場所に着いてしまう。どうしても抜け出せない。毎回、同じ道に導かれ、同じ林と墓に向かってしまうのだ。


 ある夜、車を止めて周囲を見渡す。お墓の間に、私の名前が刻まれた小さな墓が見えたような気がした。思わず目を擦るが、そんなものはない。ただ、背後から微かな足音が近づく。振り返ることはできない。


 毎回この場所に導かれるたび、時間感覚も狂う。家に着いたと思っても、時計は数時間飛んでおり、何をしていたのかは覚えていない。ただ確かなのは、あの林と墓の気配が、私の中に深く刻まれていることだった。


 そして今も、夜が来るたび、私は知らぬ間にあの坂道へと導かれる。車を動かすのは自分の手だが、行き先は決まってあの林と墓なのだ。闇は深く、静かに、私を待っている。


 ――誰かが、手を伸ばして。


 闇の向こうで、そっと手招きしているような気がして、私はハンドルを握りしめたまま息を呑む。

あなたを待っている

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ