夜の帰り道で
自分の無意識ほど恐ろしいものはない。
仕事を始めて二年が経ち、私は少しずつ何でもこなせるようになった。だがその分、新入社員の頃にはなかったプレッシャーが重くのしかかる。夜、車で帰路につく頃には、心も体も疲れ切っていた。
いつも通り夜の八時過ぎ、片道一時間弱の道を運転していた。慣れた通勤路だった。だが、ふと気付くと見慣れない景色が目の前に広がっていた。普段なら曲がらない交差点を曲がり、知らぬ間に長い坂道を登っていたのだ。
目の前には広い駐車スペース。夜の林に囲まれ、昼間でも薄気味悪いであろう場所だった。慌ててUターンを試みると、車のヘッドライトに照らされたのは無数のお墓。整然と並ぶ墓石が、暗闇の中で無言の視線を向けているように見えた。
心臓が早鐘を打つ。必死にハンドルを切り、アクセルを踏む。墓石に刻まれた名前が次々と照され、バックミラーに不気味な名残を残していった。その日はきっと疲れていたのだろう、帰宅後はお酒を飲んで忘れることにした。
しかし、翌日の帰り道も、気付くと再び同じ坂道を登り、同じ場所に着いてしまう。どうしても抜け出せない。毎回、同じ道に導かれ、同じ林と墓に向かってしまうのだ。
ある夜、車を止めて周囲を見渡す。お墓の間に、私の名前が刻まれた小さな墓が見えたような気がした。思わず目を擦るが、そんなものはない。ただ、背後から微かな足音が近づく。振り返ることはできない。
毎回この場所に導かれるたび、時間感覚も狂う。家に着いたと思っても、時計は数時間飛んでおり、何をしていたのかは覚えていない。ただ確かなのは、あの林と墓の気配が、私の中に深く刻まれていることだった。
そして今も、夜が来るたび、私は知らぬ間にあの坂道へと導かれる。車を動かすのは自分の手だが、行き先は決まってあの林と墓なのだ。闇は深く、静かに、私を待っている。
――誰かが、手を伸ばして。
闇の向こうで、そっと手招きしているような気がして、私はハンドルを握りしめたまま息を呑む。
あなたを待っている